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私と経済の掲示板

 米アップルが23日発表した2013年1~3月期決算は、同社が直面する厳しい現実を浮き彫りにした。収益の水準自体は依然高いとはいえ、投資家にとって「アップル」が持つ意味は特別だ。独創的な商品を武器に消費者を魅了する唯一無二の存在としての地位が揺らぎ、株式市場での輝きを失いつつある。

 アップルが逆風にさらされている。主力製品のiPhone(アイフォーン)は、1~3月期の販売が前年同期比7%増の3743万台止まり。3300万~3700万台程度が目立った市場予想の上限で着地したとはいえ、最低でも30%程度の伸びをみせていた屋台骨の揺らぎが鮮明になった。

 アイフォーンの輝きは色あせたのだろうか。UBSの試算が厳しい現実を突きつける。米国でのアイフォーン購入事例500件の調査結果によると、最新型の「5」が占める割合は3月時点で53%と割安な旧型とほぼ同じ。最新機種が7割強を占めていた約1年前とは様変わりした。

 同社の担当アナリスト、スティーブン・ミルノビッチ氏は「消費者が新型機を購入するための追加支出に効果を感じていないことを示唆している」と指摘する。アップルは商品力向上のために最新技術をアイフォーン5に投入したが、消費者は追加費用を負担するほどの魅力を感じていないというわけだ。

 「利益率が株価を決める」「利益率予想こそ重要な判断基準だ」――。投資家の評価基準も変わってきた。同社を分析するアナリストリポートに目立つようになった言葉がある。売上高総利益率だ。収益性を測る材料として古くから用いられる指標だけに通常は珍しいことではないが、アップルが対象となると話は違う。

 消費者が想像もしなかった商品を「発明」し、製品市場ごと作り出すのがアップルの真骨頂だったはず。投資家が求めていたのは、まさに開拓者の姿だ。ほんの半年前までは採算という一般の投資尺度とは無縁の存在だっただけに、昨今の風潮を感慨深く受け止める市場参加者は多い。

 その採算の悪化が止まらない。1~3月期の売上高総利益率は37.5%と前年同期から9.9ポイント低下し、12年10~12月期からも落ち込んだ。市場には「37.5~38%を下回れば、株価に悪影響を与える可能性がある」(バーンスタイン・リサーチのトニー・サッコナギ氏)との見方があっただけに、24日の株式市場では採算が重視される「普通の会社」としても厳しい評価にさらされる公算が大きい。

 決算に併せて総額10兆円にも及ぶ自社株買いや増配を発表したにもかかわらず、同社株は23日夕の時間外取引で伸び悩んでいる。買いの勢いの乏しさは、投資家が本当に求めているのは増配ではないことを裏付ける。アップルが躍進の原動力となった創業者のスティーブ・ジョブズ氏を失って、はや1年半が過ぎ去った。その間に「発明」した製品はない。既存製品の改良による成長には限界があると、市場は示唆している。