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  •    戦争の国のアリス

      1章

     アリスは、今は、積み木遊びをして熱心に遊んでいる。彼女は、もう十歳で、そんな遊びをする様な年齢ではないのに……若しかすると、アリスは、わたしへの当てつけの心算でそうしているのだろか? つい、そう疑いたくもなる。彼女、アリスは見た目は可愛らしい少女だが、しかし中味は全くの別物だ……アリス・ポーリーヌ・リデルは、外見とは裏腹のモンスターなのだ。愛らしい、ルックスに騙されてはならない。

    「もう、好い加減に、積み木で遊ぶのは止めたらどう? アリス、嫌味の様に見えるわよ、何だか……わたしなんかより、貴方の方が遥かに頭がいいのに。それより、図書室で本でも借りて読んだら?」わたしが、そう言うと、アリスは遊んでいた手を休めて、上目遣いにこちらの方を見詰めた。何か、わたしに文句を言いたげに……「どうして、あたしが、積み木遊びをしたら駄目なの? メアリー先生? そんなのは、不条理だと思うわ。州の条例には、積み木遊びについての年齢規制があったっけか?」アリスは、まるで湖水の様に薄碧い瞳で、わたしの顔をじっと見据えた。彼女の髪の毛はブロンドで綺麗にウェーブをしている。それに比べ、わたしは赤い縮れ毛で容貌もごく普通だ。ここの施設の男性スタッフ達からも、余り気さくに声を掛けられたりもしない。尤も、ある個人的な事情から、わたしは男性スタッフには特別な感情は抱かないのだが。

    「そんな風に言わなくてもいいでしょ、アリス……そうそう、前々から貴方に頼まれていた、最新の宇宙論の書籍が届いたわよ。図書室で読めば?」そう、わたしが話すと、アリスは少し嬉しそうな顔つきになった。アリスは、普通の平凡な少女の様に喜怒哀楽を露骨に表す事はしない。それは、彼女の羞恥心から来るものなのかどうか、わたしには良く分からないけれど……知能指数が異常に高く、情緒的にも非常に不安定なアリスの心の奥底を見透かすのは、非常に難しいのだ。尤も、それをするのが、このわたしの仕事なのだけれど。わたしは、アリス専門の心理カウンセラーで、彼女のメンタル面のマネジメントを、この施設のオーナーからは任されている。わたしは、大学では、心理学、精神分析学、臨床心理学、心理療法などを主に学んだ……大学卒業後は、ある精神病院に臨床心理士として勤め始めたのだが、そこの病院の患者の取り扱いに対して疑念を抱き、院長にそれを訴えたら彼の機嫌を損ねて解雇をされてしまった。失職をした、わたしは途方に暮れていたが、大学時代の恩師の伝てで誠に幸いにもここの新たな職場に雇って貰う事が出来た。それは、感謝をすべきだろう。失業したままでは、わたしはやがて帰郷せざるを得ない……それだけは、わたしは何とか避けねばならなかった。

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  •  「メアリー、貴方、放課後にはいつもこの図書室へ来ているのね」ある日、私が普段通りに授業が終わってから図書室でフロイトの本を読み耽っていると、背後から誰かの声が聞こえた。非常に驚いて、私が振り向くと、そこにはジュリアが静かに佇みながら、此方へじっと視線を注いでいた……「ああ、ええはい。私は、授業の後はここへ来るのが日課なんです」ジュリアは、最近赴任して来た教師なのだったが、彼女が一体どうして急に図書室へ遣って来たのか解からなかった。「フロイト? へえ、随分難しいものを読んでいるのね? 精神分析や、心理学などに貴方は興味があるの?」そう、肩の辺りまで伸ばしたプラチナブロンドの髪の毛を指先で弄びながら、ジュリアは訊いた。若しかすると、彼女は私を冷やかしに来たのだろうか? フィラデルフィアの大学を出たと云う噂の、ジュリアは美しい女性で、学校の男性教師や男子生徒らは忽ち彼女の魅力に捉われてしまった。それに引き替え、私と云う存在は如何に惨めだった事か。内心で、密かに、私はジュリアに対して敵愾心を抱いていた。「フロイトは、精神分析の創始者でしたが、彼を心理学者と呼ぶべきかどうかは非常に難しい問題ですね」それで、私は仏頂面で素っ気の無い返事をした……すると、ジュリアはゆっくりと歩いて来て、私の直ぐ横の椅子に腰を下ろして座った。綺麗な服を着た、彼女の体からは薔薇の花の様な良い香りが漂って来て、美人に対して深いコンプレックスを抱いていた私は、何かどぎまぎとしてしまった。「ジュリア先生、先生はフィラデルフィアの有名大学を出たと皆の噂になっていますけど、それは本当の事なんですか?」どんな話をすべきか迷い、私は彼女に向かって単刀直入な質問を投げ掛けた。この、貧乏たらしい田舎町の住人達に取って、大都会のフィラデルフィアは憧れの的なのだった。「ええ、そうよ……私は、大学では精神分析学や臨床心理学、PTSDなどに就いて学んだの。丁度、貴方と同じ年の頃に、私もフロイトやユングの著作に関心を持って読んでいたのよ」そう、落ち着いて語った、ジュリアの言葉にこの私は驚かされた。「メアリー、貴方を見ていると、昔の自分を思い出して懐かしい気持ちになるわ。この、学校の図書室の、フロイトらの書籍は私が寄贈をしたものなのよ」依然として、まるで湖水の様なブルーの瞳で此方を眺めながら、穏やかな口調でジュリアは言った……

  •  今から、14年前の、2001年9月11日。その日を、私を含むアメリカ人達は決して忘れ去る事はないだろう……当時、私は合衆国北東部、カナダ国境に近い五大湖地方、ペンシルバニア州の片田舎の町に住むティーンエイジャーだった。その頃の私は、ハイスクールに通っていた垢抜けない娘で、クラスの口さがない男子達から《トウモロコシ頭》と侮蔑的な綽名で呼ばれていた。私は容姿に自信が持てず、クラスメイトらから好かれていないと云うコンプレックスに打ち拉がれ、辛い毎日を送っていたのだった。『私は、一体何の為に生まれて来たのだろう? 美人でもないし、これと云った特別な才能にも恵まれていない』そう思いながら、私は、嫌な現実から逃避をする為に本を読み耽った。学校には、図書室があり、放課後になると私は直ぐにそこへ飛んで行った……ある時、フロイトの《精神分析入門》と云う書籍を偶々見付け、私はそれに惹かれて夢中になった。19世紀、1856年にオーストリアのユダヤ教徒アシュケナジムとして生を享けた、ジークムント・フロイトは精神医学や臨床心理学の礎を築いた巨人である。若しも、彼の著作と出会わなければ、その後の私の人生は全く違ったものになっていただろう。毎日、授業が終わると、私は図書室へと足を運びフロイトが書き残した様々な著作に没頭をした。(それらは、或る卒業生が学校に寄贈をしたものだった)フロイトは、元々は神経病理学者であったが後に精神科医となり、神経症に就いての研究、心的外傷論(PTSD)研究、自由連想法、人間の無意識の研究、更に精神分析の創始を行った。彼は、緻密な症例の報告を数多く残し、後世のアートや広義の人間理解に迄も影響を及ぼした偉大な心理学者だった。(フロイトを、心理学者と見做すか否かは論議の別れるところであろうが……)我々、人間が普段は意識をする事のない、深く広大な無意識に光を当てた彼の精神分析は重要なものであり、謂わば無意識の哲学である。実際、フロイトは英国の哲学に関心を寄せ、シェークスピア等の古典的な文学も愛好し、彼自身理解が難しい事柄を平易に書きこなす美文家であったそうだ。三十歳になった時、フロイトは留学先のパリからウィーンへと帰郷、催眠に依る神経症の治療を実践し自由連想法に辿り着いた。それを、患者に毎日施す事で総てを思い出させる手法を精神分析(Psychoanalyse)と命名した……

  •  だが、その時不意に「ねえ、メアリー先生、あたし凄く喉が乾いちゃった。バレンシアオレンジのジュースが飲みたいな」と、アリスは悪戯っぽい微笑を湛えながら、飲み物を要求した。「そうなの? アリス……じゃあ、私も丁度コーヒーが欲しかったから厨房に行って来るわね」そう答え、私は大事なデータが保存されているパソコンを、一旦スリープ状態にしてから自分の席を立った。そして、遠く離れた厨房へ行き、コーヒーとオレンジジュースを持って仕事部屋へと戻ると、私のデスクの前にアリスが座りパソコンの画面を一心に見詰めていた。「貴方、一体何をしているの? アリス、私専用のパソコンを勝手に触っては駄目よ。パスワードはどうして分かったの?」そう、ややきつく詰問調で訊くと、アリスは、ふふんと小憎らしく鼻で笑った。「先生が、考えそうなパスワードの文字列なんか、簡単に推測出来るわ。オレンジジュースをどうも有り難う……」一向に、悪びれた風もなく、アリスはごく淡々とした口調でそう語り、私は思わず苦笑いをした……「だけど、私のパソコンで何を熱心に見ているの? それには、この施設の患者達の個人情報が入っているのよ。極秘のね……」そう尋ねると、アリスはこちらの方を振り向こうともせずに「今は、イスラム国の事を調べているの。患者用のパソコンは、危険なサイトを濾過するプログラムがインストールされているでしょ? だから、先生のを借りただけよ。他の、患者の子供達の個人的なデータなんかに、興味はないわ」と、如何にも素っ気無く、全く身も蓋も無い様な返事を寄こした。それで、流石に、この私も些か癇に障ってしまった……「イスラム国? 貴方、そんなものに関心があるの? イスラム国は、国家と云うよりは寧ろ宗教的な過激派、テロ集団の砦の様なものなのよ。それを、インターネットのサイトであれこれ調べても、貴方の為になるとは私には思えないけど」私が、そう忠告しても、アリスは全然聞く耳を持たない様子で、相変わらず一心不乱にパソコンの画面に向かって視線を注いでいた。ところが、やがて「2001年には、ニューヨークの国際貿易センタービルがテロ攻撃を受けたんでしょ? ハイジャックをされた航空機が突然ビルに突っ込んで来て。当時、あたしはまだ生まれてもいなかったけどね。その頃、先生はどこで何をしていたの?」アリスは、唐突に、私に対してそんな質問を投げ掛けた……

  •  ナチスドイツに依る、ユダヤ人の大量虐殺、ホロコーストは言う迄もなく20世紀に於ける最大の悲劇だった。大量虐殺と云う呼び方は、犠牲者達を数値化しているけれど……犠牲となったユダヤ人達は、一人一人がそれぞれ異なるパーソナリティーを具え持った生身の人間だったのだ。以前に、私は、戦争を惹き起こす人間心理に就いての学術論文を専門誌で読んだ事があった。それは、犯罪者等の異常心理学を専門とする、英国オックスフォードの権威ある学者が発表したものだったのだが……戦争を企てる人間は、政治家や軍人、或いは宗教者であれ、人間と云う個々の存在を抽象化して捉える。(それは、例えばマルキシズム等のイデオロギーもそうだが)フランスで生まれた、天才的な軍略家であり、一時は皇帝の座に上り詰めたナポレオンは、フランス軍の兵士達を恰もチェスの駒の様に捉えて自由自在に操った。しかし、そのナポレオンもロシアの冬の寒さには勝てず敗退、セントヘレナ島に幽閉され孤独で惨めな死を迎えた……(若い頃の、ナポレオンのノートには、奇しくもセントヘレナ島と書き綴られていたそうだが……)アドルフ・ヒトラーは、政治家となる以前、青年の頃には画家を目指していたアーティスティックな感性を具えた人物だったが(その、ヒトラーが描いた絵画を、私も見た事があるが、それは非常に美しい風景画で異常性は微塵も感じられなかった)その後、政治家へと転身、ナチス党のカリスマとなり人々を実に巧みな弁舌で陶酔熱狂させ、ドイツをファシズムへと導いた。(或る学者に依れば、ヒトラーの側近のゲッペルスの声の波長は、ビートルズのヴォーカリストだったジョン・レノンと酷似をしていたそうだ)ヒトラーが、英雄視されドイツを率いる政治家・軍人となる事が出来たのは、まるで吟遊詩人の様に巧みな彼の演説に依るものだった。彼は、プロパガンダ、宣伝が民衆に及ぼす影響の大きさを良く承知しており(例えば、サブリミナルパーセプション効果の様に)その力を最大限に利用したのだ。ヒトラーは、ゲルマン民族の優秀性を主張し、彼独自の選民思想に基づいて強引な対ユダヤ人政策を執り行った。ユダヤ人達は、強制収容所へと送られ、過酷な労働を課せられる事で絶滅を図られた。また、絶滅収容所では銃撃の的にされたり、まるでモルモットの様に人体実験にも供され、シャワーを浴びさせてやるからと偽られてガス室送りにされた……

  •  アリスが、欲しいから買ってくれと強請ったのは、最新の宇宙論、応用物理学、高等数学等、マサチューセッツ工科大学の生徒が好みそうなものや、その他にも、古代バビロニアでの法律に関する論文、紀元前500年頃に、インドで存在していた仏陀の心の葛藤である《悪魔との対話》の英訳本、ヒンドゥスターン語の辞書、形而上主義の画家、ジョルジォ・デ・キリコの《エブドメロス》等々、頭痛を催しそうなものばかりだった。しかし、その中に、ルイス・キャロルの《不思議の国のアリス》と、ナチスドイツの犠牲となったユダヤ人少女、アンネ・フランクが書いた《アンネの日記》があるのを知り、私はホッと安堵をして救われた気持ちになった。「ねえ、アリス……貴方でも、普通の子供の様な童話本も読みたがるのね? それに、アンネ・フランクにも興味があるの? 両方共、思春期の頃に、私も熱心に読み耽ったものだけど」そう尋ねると、アリスは美しいブロンドの髪を掻き上げる様な仕草をしながら生欠伸をしたが、彼女は照れているのか、それとも本当に眠たくなり始めたのかは、私には良く解からなかった。「うーん、まあ、そうねえ。《不思議の国のアリス》は、作者のルイス・キャロル、本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンだけど、彼の少女趣味に興味があるのよね。彼は、本業は数学者だったんでしょ?  その、数学の仕事の傍らに、知り合いの少女のアリスに即興で語って聞かせてあげたのが《不思議の国のアリス》なのよね?」欠伸を噛み締めながら、アリスは酷く退屈そうな口調でそう話した。確かに、彼女の言う通りにルイス・キャロルは数学者であり、彼が特殊な性的嗜好の持ち主、所謂ロリータ・コンプレックスであったと云うのは、今では通説になっている。ルイス・キャロルは、やがてアリスと云う少女に求婚をしたのだが、彼女の両親に素気無く断られてしまったらしい……「《アンネの日記》を書いた、アンネ・フランクは、オランダの民家で匿われていたんでしょ? ナチスドイツの目を免れて……前に、テレビのドキュメンタリーで見たのよね。それで、少し興味を持って、インターネットの色んなサイトで調べてみたのよ。アンネは、同じ隠れ家で同居をしていた一家の男の子に恋をして……でも、結局見つかり、強制収容所へと遣られて、そこで腸チフスで無惨に死んでしまった」アリスは、声のトーンを低く落としてそんな風に語った……

  • 【戦争の国のアリス   1…】
       戦争の国のアリス

      1章

     アリスは、さっきからずっと積み木遊びをしている。もう、そんな年齢ではないというのに……それは、若しかすると、この私への当てつけの心算なのだろうか? つい、そんな風に勘繰りたくもなる。彼女は、もう直ぐに十歳の誕生日を迎えようとしているが、生理はまだ始まっていないのだろうか? アリスの、身の周りの世話はキャスリンがしているので、私にはそうした事は余り良く分からないのだが。キャシーは、恰幅の良いアフリカ系女性で、アリスは私よりも寧ろ彼女の方に懐いている。ここの施設の中では、キャシーは謂わばアリスの母親の様な役割りを果たしており、だから、アリスが私や他のスタッフよりキャシーに対して親しみを覚えて懐くのは当然の話だっただろう。『人間、働かざれば喜びもなし』というのが、キャシーの常日頃の口癖で金科玉条としているらしく、実際彼女は素晴らしい働き者の女性だった。キャシーは、アリスの世話の他にも施設内での賄い一切を任されていて、私達スタッフは毎日否応なしに彼女が作った昔風の素朴な手料理を食べさせられた。キャシーは、母親からそれらの作り方を教わったらしいのだが……「アリス、好い加減にそんな積み木遊びは止したらどう?  何だか嫌味に感じるわよ。貴方の様に、特別な才能に恵まれた子が、まるで、普通の幼い子供みたいに積み木遊びなんかをしていると」私が、そう苦言を呈すると、アリスは子猫が良くそうする様に、あーッと思い切り伸びをしてから青い双眸でこちらを一瞥した……「それって、一体どういう意味? メアリー先生? あたしは、普通の子供達と同じ事をする権利がないみたいに聞こえたけど。この、あたしの耳の聞き間違いかしら?」アリスは、実に憎たらしい口調で、私に向かってそんな風に話した。私は、思わず溜め息を吐き、パソコンにデータ入力をしていた手を休めて、アリスを見詰めた。「そんなに退屈をしてるんだったら、図書室にでも行ってみたらどう? きっと、こんな寒々しい私の仕事部屋にいるよりは、その方が遥かに充実した時間が過ごせると思うんだけど」私は、指先で苛々とデスクの上を叩きながら、彼女にそう忠告した。すると、アリスは鼻をくすんと鳴らし、「図書室ねえ……まあ、それも決して悪くはないけれど、でも、あたしが注文した書籍がまだ届いて来ないのよね」と、そう、ぶつぶつと文句を言った……

  •  口の状態が、極めて悪い……決して、大袈裟ではなく、この儘では私は死んでしまい兼ねない。『アリス』は、もう一度、冒頭から改めて書き直そうと思う。宗教・民族・国家……扱うテーマが大き過ぎて、頭の中で纏まりが付かないのだけれど……私の中には、矢張り、ものを書きたいと云う欲求が意外と根深くあるらしい。イスラム国では、邦人二人が拉致され、どう云う結末を迎えてしまったかは周知の通りである。ロシアと、EU、ヨーロッパ諸国は米ソ以来の冷戦状態にあるらしい……パレスチナは、永遠の泥沼状態を続けている……我々は、何故、神や宗教等の名の下に殺戮をし合う事を止めようとはしないのだろう? それが、この小説のテーマである。先日、アウシュビッツで生き延びた、ユダヤ人女性に纏わるNHKのドキュメンタリー番組を見た。ナチスドイツに依るホロコーストは、言う迄もなく、20世紀最大の悲劇だった……実に、800万人もの犠牲者がいたとの事。『人間よ、考えるのだ』と、神は言っていると、その強制収容所ではオーケストラの一員だったと云う女性は語っていた。『シアンスとパシアンス、韻を踏むならそう云う事だ……』とは、ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー(Jean-Nicolas-Arthur-Rimbaud)の《地獄の季節》の一節である……我々、人間は考え続けねばならない……私は、そう思う……掲示板で、不適切かもしれませんが、大変に申し訳有りません。

  • >>6

    【戦争の国のアリス】
     「ねえ、先生、今から一緒にロールシャッハテストをしてみない? そうすれば、きっと面白いと思うんだけどなあ……ねえねえ、駄目? お願いよ」その時、アリスは急に眼を輝かせて、何故かそんな事を言い出した。だが、ロールシャッハテストを行うとは一体どういう事なのだろう? アリスは、偶に突拍子も無い事を提案して、わたしを困らせるのが好きなのだった……それは、アリスが自分自身でそのテストを受けたいという事なのか、或いは、このわたしに受けさせたいという意味なのか良く分からなかったけれど……アリスに関して言えば、彼女は施設への入所時に既にその心理テストを受けていた。(かなり、古い時代に考案されたロールシャッハテストの信憑性に就いては、わたしは正直に言って疑問を抱いているけれど。そのテストは、スイス・チューリヒ出身の精神科医であった、ヘルマン・ロールシャッハに依り嘗て20世紀に考え出された、投影法に分類される性格検査の代表的な物の一つである。彼は、フロイト派に属する精神分析家だった。サルバドール・ダリ等のアーティスト達にも影響を及ぼした、フロイトの名前を知らない者は一般人でも少ないだろう)

  • >>5

    【戦争の国のアリス】
     「読書、そんなもの今はどうでもいいわ……最新の宇宙論がどうだろうと、あたしや、先生の日常生活には全然関係がないしね。それに、メアリー先生のプライベートな問題にも無関係だし。そうじゃない?」そう話し、アリスはわたしに向かって片眼を瞑ってウィンクをして見せた。彼女に対して、隠し事をするのは非常に難しい……この施設で、わたしの秘密を知っているのはアリス一人だけだった。本来なら、彼女が患者の様なもので、わたしがそれをケアをする立場にある訳なのだが、これでは話があべこべだった。「アリス、そんな事を言って、わたしが困った顔をするのが貴方には面白いの? だったら、それは軽蔑に値すると思うけど。誰にだって弱みはあるでしょう? 先生だって、その例外じゃないわ」わたしは、机に向かってパソコンにデータ入力をしていた手を休めて、アリスに向かってそう低い声で問い質した。深く溜め息を吐き出しながら……わたしは、最近ストレスが溜まり、ややノイローゼ気味なのは自分自身でも分かってはいた。パソコンで、インターネットで国際ニュースを見れば暗い嫌な話題ばかりだ。オバマ大統領が率いる、アメリカ合衆国は今後は一体どうなってゆくのだろう? それを知る者は、恐らくこの地上には存在しないだろうが……《神のみぞ知る》という訳だ。しかし《神》の存在を、わたしは、残念ながら信じ切れないけれど。若しも《神》が、本当に存在しているのなら、自分が創造した世界をこんな風に放置しないだろう。それ程、この地上の世界は太古から戦争ばかりに明け暮れ、ありとあらゆる災いに満ちている。ここは、戦争の世界なのだ……

  • >>4

    【戦争の国のアリス】
    「そんな風に言わなくてもいいでしょ、アリス……そうそう、前々から貴方に頼まれていた、最新の宇宙論の書籍が届いたわよ。図書室で読めば?」そう、わたしが話すと、アリスは少し嬉しそうな顔つきになった。アリスは、普通の平凡な少女の様に、喜怒哀楽を露骨に表す事はしない。それは、彼女の羞恥心から来るものなのかどうか、わたしには良く分からないけれど……知能指数が異常に高く、情緒的にも非常に不安定な、アリスの心の奥底を見透かすのは、非常に難しいのだ。尤も、それをするのが、この、わたしの仕事なのだけれど。わたしは、アリスの心理カウンセラーで、彼女のメンタルのマネジメントを、この施設のオーナーからは任されている。わたしは、大学では心理学、精神分析学、臨床心理学、心理療法などを主に学んだ……大学卒業後は、ある精神病院に臨床心理士として勤め始めたが、そこの病院の患者の取り扱いに疑念を抱き、院長にそれを訴えたら彼の機嫌を損ねて解雇をされてしまった。失職をした、わたしは途方に暮れていたが、大学時代の恩師の伝てで幸いにもここの新たな職場に雇って貰う事が出来た。それは、多分、感謝をすべき事なのだろう……今は、大学を修了したての若い女性でも、企業に正規な雇用をして貰えずダイナーでメイドとして毎日働いている様な時代だ。アメリカンドリームなど何処にも転がっていない。古き良きアメリカ、それはもう映画や小説の中にしか存在はしていない。

  • >>3

    【戦争の国のアリス】
     「もう、好い加減に、積み木で遊ぶのは止めたらどう? アリス、嫌味の様に見えるわよ、何だか……わたしなんかより、貴方の方が遥かに頭がいいのに。それより、図書室で本でも借りて読んだら?」わたしが、そう言うと、アリスは遊んでいた手を休めて、上目遣いにこちらの方を見詰めた。何か、わたしに文句を言いたげに……「どうして、あたしが、積み木遊びをしたら駄目なの? メアリー先生? そんなの不条理だと思うわ。州の条例に、積み木遊びについての年齢規制があったっけ?」
     アリスは、まるで湖水の様に美しい薄碧い瞳でわたしの顔をじっと見据えた。彼女の髪の毛は、ブロンドで綺麗にウェーブをしている。それに比べて、わたしは、赤い縮れ毛で容貌もごく普通だ。ここの施設の男性スタッフ達からも、余り気さくに声を掛けられたりもしない。尤も、個人的な事情から、わたしは男性スタッフに対しては特別な感情は抱かないが。それは、飽く迄も、わたしのプライバシーの問題だ。人間には、それぞれの秘匿をして置きたい事情があるものだろう。違うのだろうか?……わたしは、自分の秘密を誰かに漏らす事を極端に恐れて生き続けて来た。勿論、ここのスタッフに対しても、それを打ち明ける心算は毛頭ない。そんな下手な事をして、また、失職してしまうのは御免なのだ。路頭に迷うのは、誰だって当然嫌だろう。

  • >>2

    【戦争の国のアリス】

       戦争の国のアリス

      1章

     アリスは、今は、積み木遊びをして熱心に遊んでいる。彼女はもう十歳で、そんな遊びをする様な年齢ではないのに……若しかすると、アリスは、わたしへの当てつけの心算でそうしているのだろか? つい、そう疑いたくもなる。彼女、アリスは見た目は可愛らしい少女なのだが、しかし中味は全くの別物だ……アリス・ポーリーヌ・リデルは、外見とは裏腹のモンスターなのだ。彼女の、愛らしい、ルックスに騙されてはならない。わたしの前任者は、それで、アリスの人格を誤認してしまった。その為に、彼はやがて、辞表を出しこの施設を去って行った。わたしは、その、二の舞を踏む訳にはいかない……アリスの取り扱いには、本当に、細心の注意を要する……

  • 【戦争の国のアリス】

       戦争の国のアリス

      1章

     アリスは、今は、積み木遊びをして熱心に遊んでいる。彼女はもう十歳で、そんな遊びをする様な年齢ではないのに……若しかすると、アリスは、わたしへの当てつけの心算でそうしているのだろか? つい、そう疑いたくもなる。彼女、アリスは見た目は可愛らしい少女なのだが、しかし中味は全くの別物だ……アリス・ポーリーヌ・リデルは、外見とは裏腹のモンスターなのだ。彼女の、愛らしい、ルックスに騙されてはならない。わたしの前任者は、それで、アリスの人格を誤認してしまった。

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