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  • 迷える者は幸いである。 きみは、いずれ本当の自分に出会うだろう。
    悩むものは幸いである。 きみは、いつか幸福をえることができるだろう。

    ヨハネによって理性としての言葉が神格化されたとき、デカルトが同定する「我」が
    光と色彩を失った物質構造へ還元されることは予定されていたのだ。

    色彩と〝喜び〟を喪失した世界に、われわれは投げ出され途方にくれている・・・・。

    そこから脱出するすべを教えてくれるのは、あんな言葉ではない。
    言葉なんて、それを表現するための手段でしかないのだ。
    手段をいくら鍛え磨いても目的に届くことはないのだから。

    神経異常がもたらす幻覚ではなく
    魂がみせてくれる〝まぼろし〟に従え!!

    幻視から紡ぎ出される物語で自分自身を照らすがいい。 
    聖なる書を完結するために。 最後の悪魔ベリアルとともに・・・・・

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    ber***** 3月31日 23:09

    ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§42


    黒褐色のドラゴンの姿は、上空から見るとフィギュアのようだ。 ミカエルがそこに居る
    というより暗黒剣がそこにあることは、周囲の異様な空間の歪みによって認識できた。
    「今のおぬしならば、子供の命までをも奪いかねない」
    「余計なことを・・・・悪魔のチビ助ともども屠ってやったものを」
    ミカエルの一切の感情を喪失した機械(machine)の目が嘲笑している。
    「愚かだな、ミカエル・・・・こんなことをしなくとも・・・・」
    ドラゴンが、そう言おうとしたとき、
    盲目の天使の剣が、渾身の力を込めて薙ぎ払われた。【邪霊】の血を吸った衣をはためかせ
    ながら―――
    剣それ自体のもつ斬撃力に加え歪んだ空間の圧力が、その破壊力を無敵なものに高めてい
    るのだった。 ドラゴンの巨木のような胴体が、あたかも彎曲した鏡を通して見ているか
    のように水平方向に引き伸ばされていく。


    「それでも、ドラゴンは・・・・まだ死んでなかったんだ・・・・・!!」
    悲鳴のような叫び声を上げながら、ラファエルの細長い体が、ガブリエルとウリエルの頭
    上で狂ったように回りだした。
    「ドラゴンは・・・・・ドラゴンはねぇ・・・・・・・」
    ラファエルは、なにごとかに異常なほどの恐怖を覚えているかのようだった。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§41


    「ドラゴンを殺すな!! オレが風を起こせば火は強くなるんだ!! 
    だったら文句ねーだろが!!」
    ベリアルは、対峙するドラゴンとミカエルの間に入って声をかぎりに叫んだ。
    必死だった。 必死で止めないと大変なことになるのが少年には直感できたから。
    「くだらない・・・」
    【邪霊】の血を浴びて薄く染まったミカエルの顔が嘲笑にゆがむ。

    暗黒剣がミカエルの両手の中で引力を増している。 空間が捻じ曲がり、ドラゴンとベリ
    アルの双方を、すでに間合いに捉えていた。
    ドラゴンのやさしい目に、今までにない強い光が宿った。 
    その瞬間、長大な竜の尻尾が横殴りに振るわれ、ベリアルを山の頂きから弾き飛ばしてし
    まった。
    あっという間に小さくなっていくベリアルの姿。
    ドラゴ~~~~~~~・・・・・… …  …    …    と、その哀しい声は高山
    に囲まれた谷間に消えていく。


    「で、どうなったんだ、それから・・・」 と、ガブリエルが物憂げな声で言う。
    「・・・・・」 ウリエルは聞いているのかいないのか、巨大なソファーに深々と身を沈
    めて目を閉じたまま人差し指をこめかみに当てている。 
    「ラフたんはさ・・・・ 今まで、あんな残酷な光景を見たことがなかったんだ!
    あんなのは、もう真っ平だ! もう繰り返しちゃいけないんだ!!」
    と、マスコミ報道みたいな口調でラファエルが叫んだ。


    <暗黒剣・屠竜>
    主体の前に立ち塞がる一切の障害を例外なく排除するために編み出された法力。
    「神殺しの剣」とも呼ばれ、幾多の天使の中でミカエルだけが、この奥義を究めている。


    地上三百メートルの高さに居た空飛ぶ深海魚ラファエルは、眼球を望遠レンズのように
    伸縮させることができる。 
    なので、そのとき地上で起こった惨劇を、彼はありありと目撃することができたのだ。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§40


    棒立ちになっているマンゴ(ボニー)に、父の手から<三日月>が手渡された。
    まるで、〝大事にしろ〟 というような動作だった。
    仮面に穿たれた目の奥は闇の中で、まったく表情を読み取れないが、フンという鼻息がし
    て機嫌がよくないことだけは察することができた。
    ヤフー一族の頭領であるマサヨシとは、通訳を介してでなければ誰も直接に話すことはで
    きない。 通訳とは、マサヨシの妻であり、マンゴ(ボニー)の母である。

    マンゴの母は、いわゆる〝毒母〟だった。 おかっぱ頭で背丈は子供並の陰気な市松人形
    みたいな母は、娘にはことのほか厳しかった。
    母の望みは、一人娘のマンゴ(ボニー)に、ヤフー一族を継ぐ立派な後継者と結ばれてく
    れることなのだが、しかし、それはオレ(ベリアル)とではないようだ。
    崇拝するルシファーの紹介だからという理由でオレを推してくれるマサヨシと違い、母的
    には、オレはないということらしかった。 娘の気を重くしてしまう母なのだ。

    マサヨシは、クルリと背を向けて悠然と歩き去っていく。
    そして、数歩いったかとおもうと、突然その場から姿を消した。
    歩きながら消えたのだ。
    つまり、マサヨシも、オレ(ベリアル)と同じように自分自身を透明化できる悪魔なので
    ある。
    ちなみに、マンゴには、この能力は無い。
    悪魔の中で透明になれる者となれない者がいるのは何故なのか・・・その理由は今のとこ
    ろ不明である。

    あたりに静寂が戻った。 阿鼻叫喚を発した【邪霊】たちの声も今はもう聞こえない。
    ボニーは、勇猛果敢で誰よりも戦闘能力に優れ、ルシファーに絶対の忠誠を捧げる父が嫌
    いではなかった。 むしろ、誇りに思うことさえある。
    しかし、一族の中で虐げられる女性の立場を省みようともしない棟梁としてのマサヨシを
    許すことができなかったのだ・・・・・。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§39


    実に1000本以上の鋼鉄の矢によって内臓をズタズタにされた大蛇は即死だった。
    あたりに居た「毒蛇」の群れにも、熱感知センサーのついたミサイルのような《万呪魔矢》
    が確実にヒットしていく。
    恐るべきことに、射殺された【邪霊】にはことごとく二本の矢が刺さっており、そのうち
    の一本が致命傷になっていたのである。
    プレデター〝マサヨシ〟から逃れられる【邪霊】など皆無なのだ。

    「かしら(頭)・・・」
    【邪霊】である毒蛇の夥しい死骸の中に立つマサヨシを、呆然と見ているマンゴ。
    思わず、自分の手から<三日月>を落としてしまう。
    亡き祖父から譲られた宝弓が、むなしく地面に横たわった。
    異様に巨大な仮面をつけたまま、マサヨシが部下である娘に近づいてきた。
    まったく言葉を発しない。いかなる感情の状態にあるのかも全然分からなかった。
    父マサヨシは、女性としては長身なマンゴが見上げるような上背があり、手足も何もかも
    がとにかくデカイ。 恐ろしく危険な未開の野蛮な戦士をおもわせる風貌だった。

    マサヨシは、足元に落ちている<三日月>を拾い上げ、しばしそれとマンゴとを見比べる
    ようにしていた。 
    マンゴは、生きた心地がしなかった。
    自分の失態を、すべて見透かされている・・・・。
    〝ベリアルに気を取られ、部族からの離反を煽る言葉に心を動かされてしまったことを
    ・・・・・でも、元はと言えば、ベリアルとの結婚を望んで、彼の護衛にあたしを就か
    せたのは、あなたではないか・・・・あたしは、イヤだったのに・・・・〟
    任務を全うできなかった者には、たとえ親子兄弟であろうとも重罰が下される。それが、
    ヤフー一族の掟だった。 
    自分にやさしかった祖父を殺したのは、マサヨシだという噂もあったのだ・・・・。
    もう、ここで死んでしまうのかと哀しくなる彼女の脳裏には、なぜかベリアルの面影が浮
    かんでくるのだった。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§38


    今まさに、洞穴のような大蛇の口がマンゴを呑み込もうとしていた・・・    その時、
    彼女の背後で、何者かの屈強な腕が、その巨大な上顎を押しとどめたのだ。 
    ハッとして振り返るマンゴが見たものは、大蛇の両顎を自らの全身で閉じさせまいとする
    彼女の父でありヤフー一族の頭領〝マサヨシ〟だった。
    マサヨシは、まるで映画に登場する「プレデター」のような姿をしていた。
    全身に黒い鎖帷子のような防具を纏い、腰には狩り取った【邪霊】の首級を五つぶら下げ
    ている。そして、その剛腕には、ボウガン(bowgun)に似た、もう一つの<三日月>が装
    着されているのだった。
    そう・・・魔界には二つの月が出ているのだ。宝弓<三日月>も二機、存在するのである。

    ヤフー一族は代々、魔界の「秘密警察」を拝命する家柄なのだった。
    その職務内容は、天界、魔界、人間界における情報収集および破壊工作、要人ならぬ要魔
    の警護、【邪霊】の駆逐などである。
    匿名捜査員マンゴの上司は、この父であるマサヨシに他ならない。

    呪術師が被るようなもの恐ろしげなマスクをしたマサヨシを見て蛇たちは、一瞬でパニッ
    クに陥った。 それほど、マサヨシは【邪霊】にとって圧倒的な暴力的権威だったのであ
    る。さっきまで饒舌だったコブラも、金縛りにあったように動けない。
     
    マサヨシの左腕の<三日月>が大蛇の口腔内に向けて、ゆっくりとした動作で持ち上げら
    れた。
    何の警告も予告もなかった。ボウガンに装填された直径3ミリほどの朱色の矢が、驚異的
    な魔力を帯びて一斉に解き放たれた。

    《万呪魔矢》
    ヤフー一族に伝わる宝弓<三日月>によって射出される矢は、魔力によって数万本の矢と
    なり同時にすべての敵を二度以上貫くことができる。
    祖父亡き後、この必殺の弓術を使える者はマサヨシだけになっていた。
    マンゴ(ボニー)が、これを体得することによって一族からの独立を果たそうとしているの
    は周知の通りである。 しかし、マンゴが唯一習得している秘技《千矢一矢(せんやい
    ちや)》とは桁違いのこの究極奥義を、彼女にマスターできる日が来るのかどうか定かでは
    なかった。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§37


    「・・・私が、ここへ来た理由・・・わかるな、ドラゴン?」
    地の底から響いてくるような声だった。 
    「正気か・・・・」 
    ミカエルの全身から放たれる妖気を帯びた殺気に、ドラゴンが呻いた。

    「おまえの炎の源となっているドラゴンの剣を私の姉が欲しがっている」

    「儂の体内にあるドラゴン・スレイヤー (dragon_ slayer)を奪って、なんとする?」
    「おまえの弱々しい火では、もう人間を救えない。 
    天界に、メガ・エントロピー・システム(巨大エネルギー装置)を創造するためだ」
    「アストレアが、そう言ったのか・・・・」
    「いかにも」

    ≪ドラゴン・スレイヤー (dragon_ slayer)≫
    数万年以上に及び人々から神と崇められた人喰い竜(ドラゴン)の体内に存在する伝説の
    剣。 数多くの勇者たちの挑戦を退け、その剣を喰い尽くしたドラゴンの体内に結晶化し
    た剣であるとされ、それはドラゴンのエネルギー源となっている。
    このことから、「ドラゴン・スレイヤー(竜伐の剣)ではドラゴンは倒せない」と
    いう当時の哲学者たちを苦しめたパラドックスを生じさせることともなった。
    ドラゴン・スレイヤーから発するエネルギーは凄まじく、かつてアラビア半島に栄
    えた大都市を一夜のうちに焼き尽くしたとも伝えられている。


    ドラゴンは覚悟を決めたように天を仰いだ。

    「ドラゴンの火は弱々しくなんかないぞ! オレが手伝えば、いくでも大きな炎になるん
    だからな!」
    不穏な空気を察したベリアルが、泣きそうな声で叫んだ。
    「その首、貰い受ける」
    ミカエルが、暗黒剣を抜いた。 ぬらりとした漆黒の刀身が、強大な引力すら感じさせる。
    その剣の前では、斬られる者は落下する物体のように自由意志を失うという。 おのれが
    斬られることを回避できる可能性は限りなくゼロに近かった。
    見上げるような巨大な竜を、たった一本の剣で倒すことに何の躊躇もない。
    これが、いずれ天界の全天使を束ねることになる大天使ミカエルの初陣だった。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§36


    その日、ラフたん(ラファエル)の深海魚みたいな銀色の体が、ドラゴンとベリアルのい
    る山頂のはるか上空を舞っていた。
    空の碧色の中に、まるでそこが海であるかのように光を反射する物体が泳いでいる。

    まるで散歩しているかのようにフラリと現れたミカエルの様子は、あまりにも異様だった。
    白い着衣の夥しい血の痕跡により、【邪霊】に堕ちた悪魔、【邪霊】と化した天使を斬りに
    斬ったことが一目瞭然である。
    無血生物である悪魔は、【邪霊】に堕ちると「赤黒い血」をもつようになり、もともと白い
    血が流れている天使が【邪霊】と化した場合、それは「薄紅色の血」に変化するのだ。
    今、ミカエルの全身は「赤黒い返り血」と「薄紅色の返り血」が渾然一体となった現代ア
    ートのカンバスのように見える。
    一体どれだけの【邪霊】(悪魔or天使)を斬ってきたのか想像もつかなかった。

    「なにをしに来た、おぬし・・・・」
    ベリアルを肩に乗せて遊ばせていたドラゴンが、明らかに不愉快な顔を見せて言った。
    暗黒剣を背負った盲目の剣士は、不気味な沈黙のまま立ち尽くしている。
    「だれだい、こいつ?」
    ベリアルは、ミカエルをまだ知らなかった。 その当時まだ、ルシファーから聞かされて
    いなかったのだ。
    「ミカエルという天使様だよ。 きみの師匠のお兄さんなんだ」
    「へ~、ルシファーの?」
    ベリアル少年は、ドラゴンの肩から飛び降りて、ミカエルの前に立った。
    「ミカエルさん、なんでそんな恰好してるの? すっごく汚れてるけど・・・」

    長身のミカエルは、小さな悪魔が目に入らぬかのように勝手にしゃべりだした。
    眉間に縦じわを刻んだ表情を浮かべながら、
    「ここには、人間が焼ける臭いしかせぬ・・・・しかも、その火力が弱いゆえ、焼け切ら
    ぬ肉と体液がおそろしく不快な気を発し続けておるような・・・・・・」
    「・・・・? ミカエルさん、目が見えないのかい?」 怪訝な顔をするベリアル。
    ミカエルは、その目を閉じたまま言葉を続けた。
    いずれにしても、この男にはベリアルなど眼中にないのだ。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§35


    アマツバメのようにすばしっこい小さな悪魔ベリアルの魔力《ウインド・コール》によっ
    て、一箇所に過ぎなかった火葬の炎は、瞬く間にあちこちに飛び火した。
    大量の物言わぬ人体が燃え立つ火の中に呑み込まれていく。 形あるものは、こうして灰
    となり土に還るのだ。 一見すると凄惨な光景ともとれるのだが、その様子に不思議な安
    らぎを覚えるのも事実だった。
    「おお・・・・素晴らしい・・・・・」
    ドラゴンの炎の照り返しに赤く染まった痘痕だらけの顔が、感極まるように歪む。
    ベリアルは、得意げに鼻の下を人差し指でこすりながら、
    「へへん! こんなのお茶の子さいさいだよ。 オレ、ベリアルっていうんだ。 これか
    ら、オレがドラゴンおじさんを手伝うから。 いいだろ?」
    「ああ、いいとも。 よろしくな、ベリアル」
    ドラゴンは、大歓迎の気持ちをベリアルに伝えた。

    その日から、神が棲むという山頂では、ドラゴンとベリアルの姿が、しばしば目撃された。 両者の様子は、まるでお祖父さんと孫が遊んでいるようにも見えたという。

    そんなある日のこと――― 
    長剣を背負った青白い顔の男が、山頂を目指して歩いている姿があった。
    盲目の天使ミカエルが、いかなる故あってか、刺客として送り込まれてきたのだ。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§34


    ドラゴンの意気消沈とした様子に、ベリアル少年は何か意外なものを感じ取っていた。
    「・・・・きみは誤解している。儂が人間の遺体を焼いているのは人間のためなんだ。 
    そうしないと恐ろしい病気が人間界にひろがってしまうからね。 それから、儂が人間に
    生け贄を求めたことは一度もないよ。 たぶん、それは、儂のためというより人間自身の
    ためにしていることなんだろう・・・・・」
    ドラゴンは、そう言って大きな岩のような顔を、小さな悪魔に近づけてきた。
    自分の背丈と同じくらいあるその顔面の迫力に、アマツバメみたいな黒と白のカラダをし
    ているベリアルは圧倒されてしまう。 

    「ほんとか、それ・・・・?」
    「ああ、ほんとだとも」 
    ドラゴンは、皺だらけの顔を綻ばせて笑った。人間でいうと80歳以上に相当するような
    かなり年老いた風貌である。
    「人間が人間を生け贄にするなんて絶対にしてはいけないことだ」
    「うん」
    ベリアル少年は、ドラゴンは嘘を吐いていないなと思ったみたいだった。
    「この死体を全部焼かないと、人間たちは恐ろしい病気になるのか?」
    「そうだよ。 でもね・・・儂ももうこの年で、すっかり炎が弱くなってしまった。
    昔なら、千体の屍でもあっという間に骨にしてやれたんだが・・・・・」

    たしかに見ると、まだ数多くの死体が折り重なった状態で残っている。
    ゴホゴホと咳き込むドラゴン。 肺を病んでるのか、かなり辛そうである。
    「オレは、風の魔力を使えるんだ。 炎を勢いづかせるのは得意なんだぜ。
    あんたの仕事、手伝ってやるよ!」
    「おお、そうかい。 それは有り難い」 と、目を細めて喜ぶドラゴン。
    ベリアルは、覚えたばかりの魔力=ウインド・コール(wind_choir) を発動し、山頂に一陣
    の風を起こした。

    《ウインド・コール(wind_choir)》
    風の悪魔が最初に身につける魔力(必修)。悪魔学校の義務教育課程で習得させられるが、
    ベリアルのように入学以前から独習している悪魔も多い。
    心の中のモヤモヤした思いを燃え立たせる力がある。 
    人間界でデモ隊が用いるシュプレヒコール(Sprechchor)は、この魔力が元になっている
    と云われているが定かではない。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§33


    「かつて神と崇められていた人喰い竜(ドラゴン)を討ったという話かい・・・。 私は
    単なる噂だと思っているんだが」と、なぜか否定意見を述べるウリエル。
    「噂じゃないよお! ラフたんはこの目で見たんだもんね――♪ ミカエルが、ドラゴン
    をやっつけるとこをさあwww」 ラファエルが、空中で得意げに細長い胴体をくね
    らせた。 自分のことを〝ラフたん〟と呼んでいる。
    「ほんとに見たのか、おまえ?」 と、ガブリエルが太い首を回し上を向いて聞く。
    「ほんとさ。 聞きたい、その話?w」
    「ああ、聞きてえな」
    「きみも聞きたい?w」 と、ウリエルのほうを見るラファエル。
    「話してごらんな。 聞いてあげるから」
    と、ウリエルは、さほど興味もなさそうな様子である。

    かつて人々に神と崇められ畏敬された人喰い竜(ドラゴン)は、人間の足で登ることに非
    常な困難を伴う険しい山の頂きに棲んでいた。
    太古の大型肉食恐竜に似た身体には蝙蝠のような翼が生えている。 その痘痕(あばた)
    だらけの顔がゆっくりと口を開くと、工事現場のコーンのような巨大な牙がゾロリと並ん
    でいるのがわかった。
    ドラゴンの足元には、全裸の人間の遺体が折り重なっている。
    それが、一ヶ所ではないのだ。 あっちにもこっちにも誰かが運んできたであろう死者の
    骸が横たわっているのである。
    まるで、ホロコースト(大量虐殺)の現場のようだ・・・・
    ドラゴンの口から、おびただしい火炎が放射された。
    死体を焼いているようだった。

    グオ―――ッというドラゴンの雄叫びと、メラメラと燃え上がる「火葬」の光景が、一種
    荘厳な印象を現出している。
    「ドラゴン!! なんで、オレの友達を焼いたんだ!!」
    そこに幼少の頃のベリアルがいた。 ドラゴンの前に立って相手を睨みつけている。
    「オレの友達を返せ、この野郎!!!」
    小さなベリアルは泣きながら、神と恐れられる人喰い竜に抗議しているのだった。
    ドラゴンは、もの珍しげにベリアルを見た。
    「きみは人間じゃないね。 悪魔の子かい?」
    「そうだ! オレの人間の友達のイサクが、おまえの生け贄のために殺されたんだ!!
    イサクをなぜ殺した!! おまえが命令したのか!!」
    「・・・・・」
    哀しげに目をしばたたくドラゴン。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§32


    「グランド・キャノンでベリアルを倒せなかったのかい? それは聞き捨てならないねぇ」
    大天使ウリエルが、冗談まじりな口調で、そう言った。
    ハリウッド女優みたいなブロンドの天使(ウリエル)は、天界一の美貌の持ち主である。
    彼女の操る武器(鞭)=ニューロ・リゾーム(Neuro_Rhizome)は、相手の神経を完全に
    コントロールすることができるという。 
    ウリエルの振るう鞭のスピードは音速を軽く超え光の速度に限りなく近い。
    その際に発生する特殊なクラッキング音は、それを聞いた者の神経活動を一瞬で支配して
    しまうのだ。
    かつて、神の前で1000年に一度開催される「大演武会」において、ウリエルは、そこ
    に集った10万の天兵たちを、このニューロ・リゾームの一振りで意のままに操ったと伝
    えられている。
    彼女の美しいグリーンの瞳は、今は室内の暗さゆえ、ほとんど色を失っていた。

    「まあ、そう責めるな。 やつのジェット・ストリ-ムという技を見たかったんだが、あ
    やつ、自分の魔力を使う前に逃げちまいやがった」 と、苦笑いを浮かべるガブリエル。
    この暗さでは、ダイヤモンドの輝きをもつ顔も、ただの透明感のある〝石頭〟にしか見え
    ない。
    「ワシは何事にも研究熱心でね」
    「ミカエルが聞いたら、さぞやご立腹でしょうね」 
    と、醒めた顔でガブリエルを眺めるウリエル。
    「ミカエルには内緒だ。 絶対に言わんでくれよ」
    「おや~~~?w ガブリエルは、ミカエルがコワイのかい?www」
    と、ラファエルが突っ込むと、
    「ああ、ワシはミカエルが怖いよ」
    ガブリエルが、真顔になってそう言った。
    ラファエルの深海魚の目が、ギョロリと動いた。
    「暗黒剣・・・あんなもので斬られたらたまったもんじゃない。 なんせ、神を殺した剣
    だからな」 と、クリスタルで無骨な顔を曇らせるガブルエル。 
    プロレスラーみたいな巨大な体躯が、心なしか萎縮しているようにも見えた。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§31


    神と人間との仲介役を果たすとされる天使という存在が、どのような場所に居るのかに
    ついては今だに、はっきりしたことは分かっていない。
    おそらくは、神が全能の支配者として対象化されていた時代には、エベレストの頂上の
    ような人間界を見下ろす高みにでも居たのであろう。また、神が人間の思いの中に普遍
    的に宿ると信じられている時代には、それは人間の神経回路の中で忙しく動き回ってい
    るのかもしれない。

    神のありかによって、天使の居場所は変わってくるのだ。
    そして、
    ミカエルという大天使が、その大いなる野望を人間界に向けていたとき、天使たちの集
    う場所はこう呼ばれていたのである。   
    〔天国の要塞〕
    まるで「未来都市」のような風景だった。
    空間に浮かぶ心臓や肺に似た大規模な居住スペースを繋ぐのは、四方に張り巡らされた
    血管とも言える複雑な回廊である。
    臙脂色のドーム型の建物・・・・一枚岩のような黒いビル・・・・すべての建造物に共通
    しているのは「窓」がないということだ。

    そして、最上部に位置するのは灰色の多層構造をもった巨大な構築物である。
    30の階層に分けられた、その最上階のフロアー(Angel_ Labs)に、大天使ガブリエルと
    ラファエル、そしてウリエルがいた。
    部屋の中は、かなり暗い。 なぜか陰鬱な空気に満たされている。
    まるで極端に照明を落とした酒場のような感じだ。 

    「ガブリエルは、なぜ、ベリアルを仕留めなかったんだ?」
    巨大な革張りの一人掛け用ソファーに座るガブリエル。 その頭上に浮かびながら、
    まるで新聞の見出しのような言葉を発しているのは、大天使ラファエルである。
    ラファエルの容姿は大天使たちの中でもとりわけ変わっていて、見た目は〝深海魚〟その
    ものだった。 リュウグウノツカイ(竜宮の使い)みたいな姿をしている。
    外光の下では、その異様に長い胴体は虹色の輝きを帯び神秘的なのだが、この暗すぎる部
    屋の中では、そのキンキン響く声だけが耳障りだった。
    ラファエルは、天使の軍楽隊の指揮者であり作曲家でもある。 
    彼の楽曲{天使よ永遠なれ(Angel_ forever)}は、天兵の士気を10倍に上げ、敵のやる気
    を10分の1に低下させる効力があるのだった。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§30

    マンゴの秀麗な相貌に凄まじい殺気が漲った。
    「一匹も生かしておかない・・・!!」
    ギリギリ・・・と、全身の筋肉を緊張させ<三日月>を引き絞る。
    彼女は、この奥義を身につけるため一日も欠かさず過酷なウエイトトレーニングを続けて
    きたのだ。 折れそうなほど細かった身体も、今や十分な筋肉と適度な皮下脂肪の層によ
    って美と屈強さを兼ね備えた体型に変わっている。
    もちろん、男性のような筋骨隆々とした肉体になったわけではない。それは、いくらなん
    でも彼女の美意識が許さないからだった。女性らしい優美さを保持したままで強くなる。 
    それがマンゴ(ボニー)の譲れない部分なのだ。 
    彼女は、極端な男性社会である一族の中で、男性を乗り越えてその頂点に立とうと思って
    いるわけではなかった。彼女の目指すところ、それは虐げられてきた女性の地位の男性社
    会からの独立だったのである。

    いつの間にか、歯を食いしばって弓を引く彼女の周辺には無数の毒蛇が忍び寄っていた。
    賢しい目をしたコブラは、なぜか余裕でマンゴに話しかける。
    「マンゴ・・・・きみは、こんなところで死んではいけない。 きみは、ベリアルという
    悪魔が好きなんだろう? あの、わからずやの父を捨て、自分の部族をベリアルとともに
    立ち上げればいいじゃないか・・・・自分たちがその手引きをしてやってもいいんだよ?」
    マンゴのことなら何でも知っているような口ぶりである。
    実際、蛇族の情報収集能力は、CIAなど人間界の諜報機関のそれをはるかに凌ぐ。そうい
    う意味で【邪霊】に憑依された蛇族ほど怖い敵はいないのである。
    オレ(ベリアル)の名を出された彼女は不覚にも動揺してしまったようだった。
    「あたしの部族を・・・・彼(ベリアル)と・・・・?」
    弓を引く手が止まった・・・。

    「ベリアルの気持ちを、きみのほうに向けることぐらい簡単なことなんだ・・・・どうだ
    い? わるい話しじゃないだろう?」
    マンゴの背後で、巨大な倒木がゆっくりと動き出していた。〝それ〟は、樹木ではなかった。 
    信じられぬほどのスケールをもった大蛇(オロチ)だったのである。
    ドラム缶を繋げたような胴体が気配を消したまま、静かに狩人へ忍び寄ってきた。
    長弓を構えたままの彼女の背後で、カパァッと洞穴のような大蛇の口が開く。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§29


    生あたたかい湿った空気が身体にまとわりついてくる。 谷底に下り立つと、そこには
    動物の血のにおいが立ち込めていた。
    【邪霊】に憑依されている動物の血か、それとも・・・。
    干上がった川床には灰色の岩肌が剥き出しになっている。
    なぜか、二抱えほどもある巨大な倒木が、月光の届かぬ岩陰に黒々と呪わしい姿を横たえ
    ていた。 誰が何の目的で、それをそこに運んできたのかは不明だ。

    「ヤフー一族の娘・・・・なんの用だ?」
    ハッとして、声のするほうへ弓を構えるマンゴ。すでに鉄弓<三日月>を手にしている。
    <三日月>は、ふつうの長弓が8キロ~15キロの弓力によって動作するのに対し、実に
    その10倍の力をもって引かねばならないほどの剛弓なのだ。
    いかに屈強な戦士であろうと、これを使いこなすのは至難の業と言える。

    闇の中に不気味な目を光らせた一匹のコブラが、鎌首をもたげてこっちを見ていた。 
    言葉を発したのは、そいつだった。
    イエローオーカーの斑色の腹を見せて立ち上がった頭部までの高さは、一メートルを軽く
    超えている。
    「なにをしに来た、マンゴ? まさか、きのう村人を襲って44名を喰った我々のことを
    成敗する気ではあるまいな?」 ククク、とコブラは笑った。
    コブラの胴体が、一部分だけ異常に盛り上がっている。 どうやら呑み込んだ人間を消化
    しているようだ。 濃灰色の鱗が月光をあびて妖しくヌメ光っていた。
    「この腹の中には、人間の子供の身体が三つ入っている。 旨いよなぁ・・・人間は!」
    口から血を滴らせながらコブラは笑った。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§28


    大蛇の双眼に似た妖しい二つの月が、〝死の谷〟をグレーな陰影の中に浮かび上がらせて
    いた。 〝死の谷〟は、ヤフー一族の暮らす場所からは山一つ越えた地点に存在している。
    そこには、大小様々な無数の毒蛇が群れ集まり棲息しているのだった。

    深夜の〝死の谷〟には、悪魔さえも近づかない。 そこにいる毒蛇とは、いわゆる【邪霊】
    の化身だからだ。 悪魔は、【邪霊】を嫌う。 あそこまでは堕ちたくないと思ってしまう。 
    【邪霊】に憑かれた者は、つねに殺し合い、その毒牙を他者に向け続けることでしか生き
    ていけないのだ。

    その〝死の谷〟を見下ろす崖の上に、宝塚の男役を想わせる背の高い狩人が立っていた。
    彼女の手には、<三日月>と呼ばれるヤフー一族に伝わる宝弓が握られている。
    <三日月>は強大無比な鉄弓であり、一族に伝承される最終奥義{万呪魔矢}を発動させ
    るための唯一のアイテムだ。

    彼女(マンゴ)は、死んだ祖父から、その宝弓を譲り受けていた。
    その脳裏に、あのときのことが甦ってくる・・・・・。

    家長(マサヨシ)の命令が絶対である部族の〝しきたり〟に反発して、祖父に部族からの
    独立を願い出たマンゴ。 成功しなかったが、オレ(ベリアル)との結婚を強く推奨した
    のはマサヨシで、気の毒な彼女はオレの護衛の任を命ぜられてしまったのだ。
    祖父は、彼女を〝死の谷〟に連れてきて、こう言ったのだった。
    「おのれの力で生きたくば、この奥義を究めよ」と・・・・
    彼女の腕では一匹も仕留めることが出来なかった、襲来する毒蛇の群れ。
    それを祖父は、へし折れるほどに引き絞られた<三日月>から繰り出される(万呪魔矢)
    によって見事全滅させたのである。

    『・・・・あのときは、まだ自分は無力だった・・・・』

    荒涼たる岩だらけの谷底を静かに見つめているマンゴの双眸に、決意の光が宿っていた。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§27


    〝ミカエルが、イエスを利用して遂げようとしている目的とは何なんだ?〟
    ルシファーの狼の息吹に似た声がした。 荒々しい中に哀愁を漂わせるトーンだ。
    エンマの顔が、緊張に引き締まった。しかし、腕の中のネコは、なにも知らずに眠ってい
    るようだ。
    「おそらくは・・・・三位一体像の聖霊の座におのれの姿を刻み付けるためでしょう」
    慎重に言葉を選びながらそう言う。
    〝おまえの完全予知能力(リーマン・ビジョン)では、どう出ているんだ? その計画、
    ミカエルは成功するのか? 失敗するのか?〟
    「大天使ミカエルは、〝光は曲がらないもの〟として将来を予見しイエス降誕の計画を立
    てました。 しかし、ボクのリーマン・ヴィジョンは〝光は曲がるもの〟であることを大
    前提にして予知します。 ミカエルは〝人間の弱さ〟というものがわかっていない・・・」

    エンマの上空から振り注ぐ強い太陽光線が、彼の足元に小さな影をつくっていた。
    まるで、透明な空間に存在しているルシファーが、彼を照らしているかのようだった。

    〝光は曲がらない=人間の強さ・・・・光は曲がるもの=人間の弱さ・・・・か 〟
    光の中からルシファーの声がした。

    「そうです。 ミカエルの計画は失敗に終わるでしょう」
    と、エンマは確信を込めて言った。
    〝おれは、ミカエルと決着をつける・・・それは、いつだ?〟
    「あの化け物のように強いミカエルとまみえる前に、あなたにはやっていただきたいこと
    があります」
    〝・・・・・〟
    「天界の〔メガ・エントロピー・システム(mega_entropy_system)〕を破壊してください」
    〝天使どものエネルギー供給源を断つのか〟
    「そのとおりです」
    〝おもしろい・・・・〟

    ルシファーの巨大な気配が唐突に消えた。 そしてそこから、もうひとつ別の(透明な)
    気配が、その大型の猛禽類を想わせる空気を残しつつ無言で何処かへ去っていった。  
    この魔界からは、はるか上空にのぞまれる天界の定かならぬ世界が、風雲急を告げるが如
    く不気味な音をたてながら急速に流動しはじめている。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§26


    〝だって言ったよね、イエス(キャロ)を助けてやれって。だったら、母親に話つけとい
    たほうがいいんじゃねーかと思うんだけど?〟
    「バカだな、きみは・・・マリアは天使じゃないんだ。 もとからただの人間じゃないか。
    われわれの話なんかマトモに聞くはずがないだろう」
    言われてみれば、そのとおりだ。
    〝おまえまで、バカっていうなよ!!〟
    人間界でマリアにバカにされ、魔界でエンマにバカにされ・・・・なんナンだよったく`Д´

    「人間が、歴史的に悪魔を神に敵対する概念として認識しはじめたのは、そんなに古い話
    じゃない。
    それまでは、われわれは神に仕える(現在の天使と)まったく同格の者だったのさ
    われわれを堕天使と呼んで神との関係を断とうと目論んだのは、天使の中の特定の集団だ
    ったんだ。 その集団のトップが、あの大天使ミカエル・・・われらが頭領ルシファー
    の実兄というわけ」
    〝そのへんの事情は、バカのオレでも知ってるけどね ̄ー ̄ でもさ、なんで、ミカエルは
    そんな意地の悪いことしたんだ?〟
    「人間を支配するのには、悪魔がいないほうがいいからだよ・・・・」
    〝自分らのやり方だけで人間を支配したかったってことか・・・・反吐が出るような話だ
    な。 道理でマリアは、ガブリエルの野郎を信じるわけだ〟
    「現時点では、天使と人間の強固な繋がりを断つことは限りなく不可能に近い。今のわれ
    われに出来ることは、天使の〝謀略の道具〟にされようとしているあの者を助けてやるこ
    とだけなんだ」

    〝よし、わかった!! やってやろうじゃねーか!!〟
    「がんばれよ、ベリアル。 おまえを尊敬してる太郎くんのためにも」
    〝え? 太郎って、あのベヒーモスの親父の・・・?〟
    「さっき自殺したらしい。 もうすぐ魔界ニュースに出るだろう」
    〝うそ・・・・〟
    「学校でのイジメが原因らしいよ」
    〝・・・・じゃあ、あの親父・・・・大丈夫なのか?〟
    「ボクも、それを心配してる。 しかし、なぜかボクのヴィジョンには良いイメージしか
    浮かんでこないんだ」
    〝そっか・・・・・〟
    南国の陽光が溢れる花畑の上空を一陣の風が吹き過ぎて、オレがそこを去ったことがエン
    マにはわかった。 そして、そこに透明な別の来訪者が来たことも・・・。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§25


    「みんな、ぼくのことを〝うすらばか〟〝うすらばか〟って・・・・でもそれは当たって
    ると思います・・・・だって、ぼくは自分がなにをしていいかもわからない〝うすのろ〟
    の〝うすらばか〟だから・・・・・教えてくださいエンマ様・・・・・ぼくは、これから
    どこへ行けばいいんですか?」
    太郎の振り絞るような苦悩の声に、まわりの悪魔の死霊たちも思わず目頭を押さえている。
    「では、レヴィンの断崖へ行きたまえ。 運が良ければ魔界に戻れるかもしれない」
    「・・・・もう魔界には戻りたくありません」
    「今はそう思うのも無理はない。 しかし、これだけは覚えておきなさい。 レヴィンの
    断崖というところは、きみの尊敬するベリアル・アルフレッドが小さな頃を過ごした場所
    なんだ」
    「え!? あのベリアルさんが・・・・?」
    「そうだよ」
    フニャ~と、エンマの腕の中にいる白と茶のトラネコが大きな欠伸をした。
    オレの名前を聞いた太郎の目が、さっきとは明らかに違っている。
    死んだような瞳の色が生き返ったようだった。
    「行きます、そこへ。 そこで、ぼくは何をすればいいんですか?」
    「そこですべきことは、そこへ行けばわかるよ」
    花の冠を頭にのっけたエンマが、太郎にそう言った。
    「・・・・はい!」

    原色に彩られたお花畑の向こうに太郎は歩いていった。
    感慨深げに、その後姿を見送っているエンマ。
    「あんなやさしい子をイジメるなんて、とんでもない悪魔もいたもんだ」と、呟く。
    そのとき・・・  〝エンマくん、ちょっといい?〟
    オレの声が、風に乗って聞こえてきた。
    「なんだ、ベリアル、もう帰ってきたのか?」
    エンマが両手を大きく広げて、ゾロゾロと続いている悪魔の死霊たちの列に、
    45分間の休憩を宣言した。
    〝マリアという女が、こっち(悪魔側)になびくとは思えねーんだけど・・・〟
    「ボクはきみに、マリアと関われなんて一言もいってないぞ」
    エンマの、満足してるときのネコみたいな細い目が、透明なオレを見据えている。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§24


    原色の花が咲き乱れる南国を思わせる風景の中に、ポツンと朝礼台のようなものが置かれ
    ていて、そこにパタリロ似のエンマが立っている。
    炎天下に、エンマの前には長蛇の列ができていて、どうやら皆が順番にエンマから何かを
    聞かされているようだった。
    今日のエンマは、いつもの黄色い軍服ではなく、判事が着る制服のような形の色はとても
    カラフルな模様が入ったものを着用している。
    エンマは小太りだけど、黒っぽい色の着物がキライだった。 いかなる意味でも他者を欺
    くことは許されないというのが、魔界の司法長官としての彼の信念だったのだ。

    そのエンマの前に、ある少年がトボトボとした足取りでやってきた。
    顔は、海に生息するオサガメに似ている。薄汚れた紺色の学生服を着ていた。
    「太郎といいます・・・・よろしくお願いします」と、少年は礼儀正しく頭を垂れた。
    「きみは、ベヒーモスの息子の太郎君じゃないか」
    「はい、そうです」
    ベヒーモスというのは、魔界で10番目ぐらいに強い悪魔で、その身体の大きさは動物の
    サイを10倍くらいにした程もある。
    身体の大きさに比例するように態度もデカイので、魔界ではあまり好かれていないのだ。
    オレも、ベヒーモスのオッサンは、どっちかというと苦手なタイプだった。
    無口で凶暴で何を考えてるかわからないところがある悪魔だったから。

    「なぜ、きみがこんなところに?」
    エンマが驚くのも無理はない。 〝ここ〟にいるということは、魔界で一度死んでいると
    いうことだからだ。 
    「ぼくは・・・・(魔界の)学校で同級生たちにイジメられて自殺したんです」
    太郎はそう言うと、オサガメのような目から涙をポロポロと流した。
    「そんなことがあったのか・・・・」
    エンマは、眉を顰めて考え込んだ。 彼が危惧するのは太郎のことではなく、この事実を
    知ったベヒーモスがどんなことを仕出かすかについてだった。
    『う~ん・・・・なるほど・・・・・』 ネコの頭を撫でながら思案するエンマ。
    エンマの完全予知能力(リーマン・ヴィジョン)が何かを告げているようだ。

  • ■■■聖なる書の完結□□□最後の悪魔■■■ベリアル物語§23


    大小の聖典の形をした部品が数千個集って出来たグランド・キャノンというロケット砲型
    の武器を、ガブリエルは片手で構えたまま不動の体勢をとっている。

    オレの身体の肩の部分に直径3センチほどのトンネルのような穴があいた。
    痛みは不思議なくらい無い。
    そこから、焦げ臭いニオイがする。 出血は、なかった。
    レーザー状の光線が傷口を焼き固めたからというより、もともと
    天使には白い血液が流れているが、悪魔は〝無血生物〟だからである。  

    よく、ひどい仕打ちをした相手に対して「血も涙もない」と言い方をするが、悪魔には
    本当に血も涙もないのだ。この言葉は大抵の場合、天使の側から悪魔を批判する場合に
    用いられるのだが、残念ながら意味のある言明にはなっていない。
    なぜなら、血と涙があれば他の素晴らしい結果を帰結するのだということを、けして証明
    できないからだ。(屁理屈かもしれないけどw)  
    悪魔には「血」も「涙」も無いかわりに何が有るのかを、この物語がフィナーレを迎える
    までに気付いていただければ幸いである。

    オレは一瞬で(今は)勝てないことを悟った。
    さすが、天界において≪最強のガブリエル≫と謳われるだけのことはある。
    マリアの前でいい恰好見せようとしたオレがバカだった・・・・
    3流のアマゾンなんかと較べること自体間違ってたんだ。
    グランド・キャノン(Grand_Canon)か・・・・・とんでもねぇ・・・・・

    オレの姿は、マリアの夢の中から唐突に消えた。
    マリアが、オレよりガブリエルの言うことを信じるのも今はわかる気がする。
    ここは出直すしかないようだ・・・・
    その後、彼女とガブリエルが、その恍惚とした脳内活動において、いかなる蜜月を過ごし
    たかは、オレの知るところではない。(フンだ!`´)

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