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1.デコイオリゴのパイプラインは、そのほとんどが2005年時点で出揃っていました。
①アトピー性皮膚炎→中等症以上の顔面アトピーに絞り込むもP2曖昧でアルフレッサファーマーが提携解消、のち塩野義製薬と提携し7年後にP3を試みて失敗
②乾癬→成果出ず?
③関節リウマチ→生化学工業と提携したが解消
④変形性関節症→生化学工業と提携したが解消
⑤冠状動脈血管再狭窄予防→グッドマンと提携したが解消

2.その後③④の開発は断念したようで、2013年にターゲットを椎間板腰痛症に変更し日本臓器製薬と提携。翌2014年、製剤化と前臨床試験を1年9ヶ月続けたものの提携を解消。アンジェス社は、臨床開発を米国でやることに決め、手術時の直接塗布で薬効を証明することに方針転換。しかし、提携を望む製薬企業はまだのようです。

3.2012年に経口製剤を開発して潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患をターゲットにした新たなパイプラインに手を付けたものの成果なしと思われます。

4.結局、デコイオリゴは難点(皮膚を透過しない、分解されやすい)をクリアする課題が未解決なため、皮膚投与や経口による全体投与の方法では薬効がまだ期待できないようです。また、キメラデコイ等、改良型デコイの開発を進めてきているように、アンジェス社もデコイオリゴのキレが今一つと認めているようです。

5.どうやら、デコイオリゴのパイプラインで生き残っているのは、局所投与が可能なバルーンカテーテルと椎間板性腰痛症というように理解できます。経口投与でも薬効が働くようになるDDS技術が完成すれば潰瘍性大腸炎にも適用が期待できますが、肝心の薬効があるのかどうか、今試されているのが、バルーンカテーテルということになります。
正確には『透析シャント静脈狭窄病変を有する人工透析患者へのNF-kBデコイオリゴ塗布型PTAバルーンカテーテル治療』といいます。
この臨床試験、および、その解析結果が椎間板性腰痛症への適用可能性を決定づけるかもしれないといわれているわけです。
このパイプラインは、もともとは、冠状動脈血管再狭窄予防(グッドマンと提携)で開発が試みられていたのですが、このあと紹介する実験でもわかるように断念して方向転換したようです。

6.デコイオリゴ塗布型PTAバルーンカテーテルの効果を実証するために、2012年に透析シャント静脈狭窄患者へのピボタル試験をいきなり開始しました(比較対照群は既存のPTAバルーンカテーテル)。したがって、正否を予測する予備的な材料がない状態です。
参考になる臨床データは、ラットの腹部大動脈再狭窄モデルとウサギの腸骨動脈の再狭窄モデルを使った前臨床試験です。
それによるとデコイオリゴ溶出型ステントの安全性と効果をペアメタルステントと比較して検証しています。
その結論部分をあげときます。
①ペアメタルステントの基礎性能が高いため、ラットモデルではデコイオリゴ溶出型ステントの評価は困難であった。
②ウサギ(n=12)を用いた実験ではペアメタルステントでは12足の再狭窄が抑制された。デコイオリゴ溶出型ステントでは12足中7足で狭窄が抑制されたが、2足で閉塞、2足で再狭窄、1足で瘤が観察された。

このようにペアメタルステントに軍配があがっています。

7.では、デコイオリゴはダメなのかというと、今回のピボタル試験はターゲットが違うわけです。
どんなにペアメタルステントが優れていてもシャント静脈狹窄病変を有する透析患者には血管径が細くステントが使用できません。既存のPTAバルーンカテーテルは再狭窄率が高いので、デコイオリゴを塗布したPTAバルーンカテーテルなら再狭窄のトラブルを減らせるのではないかと期待しているわけです。
いかんせん、参考にできるのは動物での実験例しかなく、しかも、静脈での実験例は0です。普通のP3なら成功確率は70%ですが、このピボタル試験の成功確率はP2並みの30~40%でしょう。

それでも、成功ターンのほうが失敗リスクを上回るならば賭けてみる価値はあります。