ここから本文です
Yahoo!ファイナンス
投稿一覧に戻る

タカラバイオ(株)【4974】の掲示板 2017/12/17〜2018/02/01



CAR-T細胞療法とは 遺伝子操作、がん攻撃力強化
.


毎日新聞2018年1月11日 東京夕刊

今日の1面


社会


医療


紙面掲載記事


サイエンス

.

. .




CAR-T細胞療法の仕組み




[PR]










 自分の体内から取り出した免疫細胞を遺伝子操作し、がんを攻撃する能力を高め、再び体内に戻す新たな治療法が昨年、一部の白血病を対象に米国で承認された。「キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法」と呼ばれる治療で、国内でも研究に着手している。どのような仕組みでがん細胞を攻撃するのだろう。【庄司哲也】

<がんの中でも最強クラスの難敵 胆管がん> プレミア記事 .
<腫瘍マーカーが高い人はがん?> プレミア記事 .
<梅毒が「急増している」本当の理由> プレミア記事 .
<まぶたのピクピクはストレス警報> プレミア記事 .
<くも膜下出血の小さなサインを見逃すな> プレミア記事 .

患者の多くが完全寛解/集中治療室でのケアも/高額な治療費が課題に

 「腫瘍を発見したら、迷わずに攻撃するT細胞を作り出し、加えて爆発的に増殖するようにも改変する。それが『CAR-T』です」。そう話すのは、国立がん研究センター免疫療法開発分野長の吉村清さんだ。

 T細胞は、リンパ球と呼ばれる細胞の一種で、体を異物から守る免疫の役割を担っている。さまざまな働きをしているが、その中で細菌やがん細胞を攻撃するものを「キラーT細胞」と呼んでいる。

 だが、がん細胞は細菌などのように外部から侵入するのではなく、体内の細胞が変化してできるため、T細胞にとっては異物として認識しにくい。T細胞は、T細胞受容体(TCR)といういわばセンサーで、がんを異物として認識するが、このセンサーががんの目印となる腫瘍抗原に長期間さらされていると、疲弊してしまい弱体化する。

 そこでCAR-T細胞療法では、患者から採取したT細胞に「キメラ抗原受容体」というものを加える遺伝子操作を行い、T細胞受容体によるセンサーとは別の仕組みで腫瘍を認識するようにし、さらにT細胞が増殖するような機能を加える。吉村さんは「例えて言うならば、T細胞にがんを発見する高性能のレーダーを装備させ、さらにT細胞が分身の術を使って増え、がん細胞を攻撃できるように作り替えるのです」と言う。

 米国で昨年8月に世界に先駆けて承認されたのは、スイスの大手製薬会社「ノバルティス」が開発した「キムリア」と名付けた新たな治療法。現在は、リンパ球の「B細胞」ががん化し発症する急性リンパ性白血病で、再発・難治性の25歳以下の患者が対象だ。がん細胞表面にある「CD19」と呼ばれる腫瘍抗原を認識し、標的にするようにT細胞を遺伝子操作する。

 CAR-T細胞療法の効果について、血液の病気や遺伝子治療に詳しい東京大医科学研究所付属病院長の小沢敬也さんが説明する。「これまで再発・難治性の急性リンパ性白血病の場合、治療成績は非常に悪かった。ですが、米国でのCAR-T細胞療法の臨床試験では患者の7~9割が、がん細胞が見えなくなる完全寛解に入りました。これは驚くべき治療効果です」

 近年、免疫を使ってがん細胞を攻撃する治療としては「ニボルマブ」など免疫チェックポイント阻害剤を使う治療法が脚光を浴びた。だが、この治療法は、一部の患者には劇的に効く一方で、7~8割の患者には効果はない。

 CAR-T細胞療法が効果を発揮するのは、T細胞ががん細胞を発見する「レーダー」になるほか、T細胞自体を増殖させる複数の「スイッチ」を備えているからだ。「CAR-T細胞が腫瘍抗原と接触すると、スイッチが入って活性化と同時に増殖反応が起こります。さらに体内で半年、1年と効果がかなりの期間持続する点も特徴的です」(小沢さん)

 高い効果がある一方で、副作用が確認されている。早期に表れるのは、免疫などに関わる細胞の間で情報伝達を担う物質(サイトカイン)が多量に放出され、発熱や呼吸不全、低酸素症などの症状が出る「サイトカイン放出症候群(CRS)」だ。重症化し、集中治療室に入るケースが多いという報告もある。ただ、CRSの治療には関節リウマチや全身型若年性特発性関節炎などの治療に使われる「トシリズマブ(商品名アクテムラ)」が有効だ。

 神経毒性が出現することもある。頭痛や意識障害、せん妄などを引き起こし、まれに脳浮腫による死亡例もある。また、腫瘍の量が多ければ、がん細胞が短時間に大量に死滅することで起こる腫瘍崩壊症候群が起きる恐れがあり、高尿酸血症、高リン酸血症、低カルシウム血症、腎不全などの症状が出ることがある。

 ある程度の時間が経過してから出る副作用には、正常な「B細胞」の減少がある。攻撃の目標となる「CD19」はがん化したB細胞だけでなく、正常なB細胞にも存在しているため、CAR-T細胞の攻撃を受けてしまう。小沢さんは「正常なB細胞が失われるために引き起こされる免疫不全に対しては、免疫グロブリンの補充療法が一定期間、必要となります」と語る。

 米国で承認されたキムリアは治療1回当たり47万5000ドル(約5300万円)と、高額な価格が設定され、その点でも注目を集めた。今のところ患者の血液から免疫細胞を取り出さなければならず、大量生産によるコスト削減が難しいためだ。「CAR-T細胞療法は一般化させた治療ですが、患者の血液を使わなければならない点では、スーツの仕立てなどで言うイージーオーダーのようなものかもしれません」(吉村さん)

 さらに、厳しく管理された細胞加工施設で遺伝子操作や培養をしなければならず、コストが掛かってしまう。このため、米国では治療開始から1カ月後に効果が認められた患者に支払いを求める方式が導入された。血液がんでは効果があったが、今後は、胃がんや大腸がんなどの固形がんにも展開することが課題となっている。

 CAR-T細胞療法は、国内でも開発が進められている。自治医科大はバイオ企業「タカラバイオ」との共同研究講座を設け、小沢さんが研究を総括している。一方、日本法人「ノバルティスファーマ」は「キムリアは国内で今年中の承認申請を目指している」とする。

 手術、抗がん剤投与、放射線投射に続く「第4の柱」の治療法として期待される免疫治療。さらなる研究が期待される。


.