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 短期金利の上昇など中国市場に変調の兆しが出ている。過剰な投資の反動による景気の先行き不安もぬぐえない。世界経済のけん引役だった中国はどこに向かうのか。数年前から同国の信用バブルを警告してきた米著名投資家ジム・チェイノス氏に話を聞いた。

 ――かねて中国景気に警鐘を鳴らしてきました。

 「中国の最大の問題はゆがんだ金融システムにある。(銀行融資やシャドーバンキング=影の銀行で)毎年のように、国内総生産(GDP)の4~5割に相当する信用が新たに創造されてきた」

 「だが信用バブルに裏打ちされた投資依存の経済モデルは限界に来ている。個人消費に望みをつなぐ向きもあるが、経済全体を支える力強さはない。どこかの局面で中国の信用バブルが崩壊に向かうリスクがある。今後18カ月以内に何が起きるかを注視している」

 ――それでもGDPは年率7%台の成長を維持しています。

 「GDPが映し出すのは中国経済の表層にすぎない。我々が重視する電力使用量、石炭消費、最終消費などで見た実体経済の伸びはGDPの成長率をはるかに下回る。米連邦準備理事会(FRB)も昨年のリポートで同じ問題を指摘した」

 「中国当局はGDPの数字を重視するあまり、理にかなわない過剰投資に傾斜してきた。今でも中国政府には難局を打開する力があるとの楽観論もあるが、もはや打てる手は限られる」

 「中国企業の収益の伸びも鈍化が目立つ。気になるのは、多くの企業で回収の見込みのない売掛債権が増えている現実だ。結果として現金収支(キャッシュフロー)が悪化し、銀行からの追加融資に頼らざるを得ない状況だ」

 ――中国企業を巡っては、米建設機械大手キャタピラーが昨年買収した中国の工業機械メーカーで減損処理を迫られました。

 「巨額の損失は、買収先の不正会計問題がきっかけだ。マクロ景気にも増して、中国の個別企業には問題がある。どの企業のバランスシートを見ても、どこかにふに落ちない点がある。利益やキャッシュフローを一体どこから得ているのか。投資家には見極めが必要だ」

 ――中国の不動産市場をどうみていますか。

 「中国政府はバブルの抑制に動いてきたが、十分な成果を上げていない。大量の居住用アパートの建設が今なお続き、投機マネーが流れ込む。金融機関はますます融資に手を染め、本業が振るわない中国企業も不動産に資金を投じているありさまだ」

 「不動産バブルに沸いた1980年代後半の日本と状況は酷似している。我々の試算では、建設コストで見た中国の住宅市場の価値はGDPの300~400%。ちなみに89年の日本はこの数値が約375%だった」

 「内陸の地方都市を含め、中国ではいたるところに住み手のいないマンション群が林立している。中国の住宅バブルが歴史に名を残す規模であるのは疑いようがない。いずれ実体経済や金融システムに深刻な打撃を与えるだろう」

 ――中国政府は短期金融市場への資金供給を絞りました。

 「不動産などの価格高騰を抑えつつ、バブルの崩壊も防ぐという政策運営は困難を極める。さしずめ『前門の虎、後門の狼(おおかみ)』といったところか。当局が投資の抑制にかじを切れば、多くの人々が職を失い、都市部でも緊張が高まるはずだ。信用バブルの収縮を計る局面で、実体経済にも深刻な痛みが生じるのは避けられない」

 ――以前から中国株を空売りしてきました。

 「2009年末に中国の信用バブルを初めて警告したとき、正気ではないといわれた。だが、中国本土の企業が上場する香港のH株市場で空売りをし、着実に投資収益を上げてきた。景気は堅調と言われていた時期から、すでに中国株は下がり続けてきた」

 「今も中国の金融や建設、不動産株に弱気の姿勢を変えていない。中国の需要減で、投資家は資源国への投資も慎重になるべきだろう。特に豪州やブラジルの鉄鉱石メーカーなどは要注意だ」

 ――日本についても教えてください。アベノミクスで海外勢の注目が集まりました。日本株には投資していますか。

 「まったくしていない。アジアではずっと中国を注視しており、日本にまで関心が向かない。日銀の異次元の金融緩和が成功するかどうかの判断は難しい。ただ大量の緩和マネーが演出する(株式などの)リスク資産の上昇で恩恵を受けるのはごく少数だ。一般の国民にはほとんど実感がないのではないか。政府や日銀は富裕層が豊かになれば、大衆にも恩恵が及ぶ『トリクルダウン』効果を狙っているが、その成否はまだわからない」

 ――米国株市場をどうみてますか。

 「緩和マネーへの期待で米国株は上昇してきた。問題は、これまでの過剰流動性の影響で個別企業の投資指標(バリエーション)が思うように機能していないことにある。空売り投資家としては愉快とはいえない状況だ。ただ過去30年以上にわたる投資歴で、こうした局面は6、7回ほどあった。我々には難局を乗り切れる経験がある」

 ――空売りする銘柄はどう決めているのですか。

 「経営陣らが自社の保有株を売っている企業は投資の候補になる。それも1人ではなく、複数の幹部が売っている場合は何かが起きていると考えるべきだろう」

 「企業の不正を発見し、その場で正すのが空売り投資家の役割だ。08年に米国で発覚した史上最大のネズミ講詐欺のマドフ事件も、もし問題のファンドが上場していれば、被害が広がる前に市場が犯罪行為を暴いてはずだ。空売りは冷たい視線を浴びることも多い。だが、金融市場において(不正を発見する)『探偵』の役割を果たしている事実を過小評価すべきではない」

 ――近年は空売り投資家の存在感が低下しているようにも映ります。

 「ヘッジファンドの多くが買いのポジションを積み上げてきたのは事実だ。株高に歩調を合わせ、ファンドも強気の姿勢を維持してきた。気になるのは、同じ現象が(米住宅バブル崩壊直前の)06~07年にも起きていたということ。これが何を意味しているのか。(ここ数年の株高で)投資家の多くがバックミラーを見て運転している。だが米住宅市場の割安感も薄れており、今後の市場動向を注意深く見ていく必要がある」

 ジム・チェイノス氏 1985年にニューヨーク拠点のヘッジファンド、キニコス・アソシエイツを創業。米国を代表する空売り投資家。2001年に経営破綻した米エネルギー大手エンロンの不正会計を見抜くなど投資実績は豊富で、母校である米イェール大の教壇にも立つ。55歳。