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  • 日韓大会の頃、日本が決勝トーナメントで対等に戦えるようになるにはアタッカーだけではなくDFが海外で活躍できようになるまで待たなければならないだろうと思っていたものだ。いまやセリエA、プレミア、ブンデスリーガで戦っているDFを擁すようになり、5月12日発表のブラジル大会代表メンバーでは海外所属の選手がなんと半分以上の12人となった。フランス大会では0人だったことを思い起こせば16年間で驚くべき進歩だ。

    しかしそれでもまだベスト16を楽観視することはできない。この先、日本の指標としてひとつ挙げられるのは、数的不利を苦にしないゴールゲッターの登場だ(実はカメルーン戦解説の山本さんが既にこのことに言及していたことに再放送で気がついた)。1対1で負けないのはもちろんのこと、数的不利のウラのスペースにこそ数的優位がある。数的濃淡のなかをつないでいくことこそがコレクティヴなサッカーだ。常に数的優位をこころがけるサッカーとは、常に守備に人数をかけるということに他ならない。「コレクティヴ」という言葉を「数的優位」という言葉に置き換えている限り、堅守速攻というリアクションサッカーから抜け出せない。

    香川、本田は1mまで寄せられてもボールコントロールができ、数的不利を苦にしないアタッカーの域に入りつつある。アタッキングサードの厳しいチェックにさらされて、舞う香川と突進する本田はさながら牛若丸と弁慶のようであってほしい。

    。。。

    現時点でザッケローニ監督を評価することは時期尚早であることは心得ている。ただ何点か本大会が始まる前に言っておきたい。

    南ア大会パラグァイ戦の戦訓は「失点せずに120分をマネージしたところで、得点できなければ勝ち抜けない」ということだ。自分達が主張するサッカーでゴールを奪っていかなければ決勝トーナメントを勝ち上がっていくことはできない。では日本が主導するサッカーとはなにか?

    オシム監督もそうだったように、案外、外から見たほうが日本のことがよくわかるようだ。日本のストロングポイントが技術・スピード・忠誠心であることを認め、それらをもって攻撃的にゲームを主導しようというのだ。「失点するリスクがあってもそれを上回る得点を日本のスタイルで獲る」というのがザックジャパンの特長。失点を恐れないなんてことは口先では言えても今までの日本サッカーではとても実践する勇気を持てなかった。「日本の攻撃スタイルに高さは必須でない」という潔すぎるコンセプトもトガッている。

    今の日本は過去のように失点してガックリするようなチームではない。「やられたらやり返す」ことを本当にやってのけてしまうチームになった。失点するのはむしろ当たり前なんだから攻めろ、というモチベーションの保ち方をしている。ことさらアジアと欧州で戦い方をアジャストすることもやめた。4年間で日本代表のサッカーをここまで変えたザッケローニ監督には感謝したい。

    繰り返しになるが、フットボールネーションのアイデンティティとはやりたいサッカーと勝てるサッカーが一致していることだ。日韓大会ではハイプレスをかけながらも最終的にはショートカウンターのチーム。南ア大会では勝ちにいくために直前にアンカーを置いて守備的にシフトした。ブラジル大会はいよいよ日本のストロングポイントを前面に押し出し、主導権をとって勝つという日本サッカーのアイデンティティを賭けた挑戦になる。今大会で結果を残せれば、日本はフットボールネーションを自称してよいだろうと私は思っている。

    。。。


    コーボジボアール戦まであと4日

    新たな日本サッカーの姿を世界に問おう

    Forca! Japao!!

  • 決勝トーナメントパラグァイ戦まで中4日。この間の日々というのは、他にたとえようのない気分にさせられる。喜びと緊張が入り混じった実に不思議で幸福な4日間だった。これは病みつきになる。

    日韓大会のの決勝トーナメントでは幾人かの選手が既に消耗しきってきてゲームに出せる状態ではなかった、と聞いている。それに比べればベストメンバーでゲームに臨めたことだけでも日本代表の進歩だ。

    。。。

    グループリーグ突破の経験はあっても決勝トーナメントでは勝ったことがないという戦績は日本にもパラグァイにも共通。両チームとも慎重なゲームの入り方をしていて最終ラインは低めの設定。その分中盤が間延びし、ミドルサードでポゼッションの中からチャンスを探ろうとする。絶対に先に失点したくないという、堅いというか重たいというか、そういう流れが前半だった。

    日本の決定機は21分、GKの流れからこぼれ球を松井が拾ってミドル。クロスバー。
    パラグアイの決定機は2度。19分、日本のスローインから奪われてSHリベロスが密集の中でスルーパス。FWバリオスが反転してウラに抜けシュート。川島ファインセーブ。
    28分、パラグァイのCK、ゴール前にこぼれたボールをWGサンタクルスがフリーでシュート。本田が体を入れ、外れる。

    いうなれば自転車のスプリント競技そっくりだ。両チームとも慎重に相手の出方を伺いながら時計を進ませ、終盤1点をかすめ獲って逃げ切るというゲームプラン。松井以外にも開始直後大久保、3分駒野、54分長友と撃つシュートは全てミドル。PAでのシュートを撃てない。

    パラグァイの方がチャンスが多い。55分、松井から長谷部に戻したボールをSHベラが奪い、右からフリーで入ってくるWGベニテスにスルーパス。左足シュートに中澤が体を張る。58分、スローインの流れでSBモレルがクロス、SHレベロスが阿部の前で合わせたヘッドが川島正面。

    自転車競技でいう”まくり”へ先に入ったのはパラグァイ。パラグァイはモレルが上がって、そこから日本の右サイドに基点を作ってくることが多い。しかしそれまでWGベニテスとの連携が効果的でなく、59分にバルテスへ代える。日本は65分に右SHを松井から岡崎に代えて応戦。二人とも運動量はあるがチームに決定的な形をもたらすことはできない。

    更に、それまでアンカーとして攻守のバランスをとっていたCMFオルテゴサを下げ75分にFWバレットを投入。日本は80分阿部に代えて中村憲剛をトップ下に入れる4-2-3-1。グループリーグでは圧縮した中盤で遠藤・長谷部からアタッキングサードにくさびが入ることで日本の攻撃のスイッチが入っていたが、このゲームではお互いの最終ラインが遠いためにそういう勝負の縦パスを繰り出す機会がなかった。憲剛を入れることによって高い場所で起点をつくる目論見だ。

    確かに憲剛は42分、81分と攻撃の起点になったが最終的に大久保・岡崎はそれぞれシュートまでいけなかった。ロスタイム遠藤のFKを中澤がヘディングは枠を外れ90分が終わった。

  • ここからが勝負どころ。一転して攻守の切り替えが速くなる。日本がボールを持つとパラグァイは素早く戻り、GKビジャールがボールを持つとすぐさま3トップは前線に走る。1分にカウンターから憲剛がミドル、8分に本田のFKという形はつくるが流れはパラグァイ。

    4、7、10分にいずれも日本の右サイドからくる。
    4分はバルテスのポストプレーからモレルがフリーでクロス。バリオスが遠藤と中澤の間でフリーになってヘッド。
    7分はモレルからバルテスにくさび。同時に反転してウラに抜けるという19分バリオスと同じパターンで決定的なシュート。川島ファインセーブ。
    10分はモレルのクロスに5人がPAに殺到してバレットがシュート。外れる。

    押し返したかった右サイドだったが岡崎も守備に奔走しなければならない状態。延長後半に入って大久保を玉田に代え左から立て直そうとする。20分長友がカットインのドリブルを試みるが潰されてもファウルもらえず。

    日本最後のチャンスは25分。左サイドライン際で本田がタメをつくり、オーバーラップする玉田に出す。そのままドリブルで駆け上がり、ボールコントロールをミスするが結果的にPAに侵入した岡崎とのワンツーとなり、玉田は左サイドを崩して中に出す。しかし、ここへ誰も入って来ず流れる。遠藤が拾いなおしてクロス、岡崎のヘッドはGKファインセーブに、、、その前に本田のファウルを取られた。

    憲剛にくさびを入れて、そこからラストパスを出すという組み立てをできなかったところが残念な点。玉田のキレがわかっていれば延長戦最初から彼でよかった。

  • パラグァイのGKは先に動くという日本にとっては願ってもないクセがあった。2本目までは明らかに川島よりもビジャールの方がナーバスになっていた。駒野はそこに気がつけずドーンと蹴ってしまった。そこだけは観察力を欠いた駒野のミスだ。

    。。。

    遠藤はダブルモーションの反則を考慮していつもより速いタイミングで速いボールを蹴った。しかし、GKが先に動くのが見えていたので自信を持って蹴れていたはず。本田も同じ。

    長谷部も駒野と同じく反応されても手の届かない場所にドーンといったクチ。あそこに決められるんだったら何も文句はない。結果オーライともいえる。

    川島は2本目まではよく我慢して読みも当たっていた。しかし3人目の駒野が外した後、だんだん一発セーブを狙いにいって5本目は完全にヤマ勘で先に動いてしまった。

    パラグァイのキッカーは5人とも素晴らしかった。

    日本が後攻になってイヤな雰囲気を感じつつも、冷静に我慢していけば勝機はあると思っていただけに残念な結果。

    。。。


    予めわかっている対戦国を調べ上げ、綿密にプランを練って270分を戦うということに日本は長けている。しかし決勝トーナメントは各国のサッカーの地力の勝負になる。そしてそこでゴールしなければ上には行けない。その点で日本はまだ力が足りなかった。

  • 勝ち点3同士の日本とデンマークは勝ったほうが勝ち抜け
    オランダ戦で2失点のデンマーク、1失点の日本、引き分けなら日本の勝ちぬけ

    これでいよいよ総力戦だ。

    。。。

    NHKの紹介でデンマークのシステムは4-3-3の表記だが、Cポウルセンとヨルゲンセンがドイスボランチスを組んでベントナーワントップの4-2-3-1に見えた。前線の4人は左右に頻繁にポジションチェンジをおこない日本を撹乱しようとする。日本はオランダ戦ほどの守備的なブロックは感じさせない。4-1-4-1を維持しながら必要に応じて遠藤・長谷部が阿部の横のスペースを埋める4-3-3のような対応。

    6分にSポウルセンのクロスが駒野に当たって流れてCK。次、9分にそのCKからCBクロルルップがシュート。今度は中澤が体に当てる。開始10分頃までのデンマークのポゼッションは63%。日本は開始直後の失点だけはしない、というコンセンサスがとれていた。

    しばらく日本は攻撃への切り替えが遅かったが、徐々に形を作り始める。12分、大久保が左でタメをつくると長友がオーバーラップ。MFロンメダールが長友に釣られる格好になり、大久保はフリーでアーリークロスを入れる。そこへファーから松井が斜めにウラへ走りこんで右足アウトサイドで合わせるシュート。この決定機はGKのファインセーブに阻まれた。更に阿部からのくさびが松井に入って、駒野が右サイドをオーバーラップ。しかしあえてそこを使わず中央で動き出していた長谷部にスルーパス。シュートは外れる。

    応戦するデンマーク、SBSボウルセンは、駒野がSHケーレンベルグのマークに行ったそのウラのスペースに侵入するMFトマソンへスルーパス。トマソンはファーのベントナーは使わず中澤の股間を抜いたシュート。流れて外れる。ここまで両チームともデコイとなる動き、スペースを作る動き、ゾーンを歪ませる動きという質の高いフリーランニングから形をつくっており、どちらが先制してもおかしくない拮抗したゲームになるかのようにみえた。

    しかし16分、劇的に均衡が崩れる。右サイド、ゴールまでの距離38~40mというFK。遠藤と本田がいって、本田が左足を振りぬくとボールはブレて落ちて流れてファーサイドネットに決まった。日本先制。4年前の第3戦で食らったゴールそのまま、ドイツの敵を南アで討った。

    いったんゲームを落ち着かせたい日本だがなかなかポゼッションできない。21分、Cポウルセンから最終ラインウラへ正確な浮き球。フリーで抜け出したトマソンはわずかにボールに届かず。6分、13分、このプレーとトマソンがフリーになる技術が秀逸。日本は彼をまったく捕まえきれていない。

    日本が守る時間が長かったなか、28分、大久保と本田のワンツーのところでファウルをもらう。ゴール正面25m。再び遠藤と本田が並ぶ。デンマークの壁を作った5人は全員187cmの中澤より高い。GKソーレンセンは日本から見て右に壁をつくり、自身はやや左にポジショニングした。本田のシュートのイメージが絶対残っていたはずだ。そこへ遠藤の右から巻いたシュート。ソーレンセンは右に飛ぶが届かないコース。追加点。

    2得点で楽になった日本はリズムがよくなる。特に松井を起点として、彼自身のドリブルもキレてくる。これまで何人ものドリブラーが日本代表に選ばれてきたが、松井こそが本大会でもっとも存在感を示した日本人ドリブラーだと思う。言い換えればようやく日本にも世界に通用するドリブラーが現れたということだ。

    願ってもない最高のゲーム運びで日本は前半を終えた。

  • 後半に入ってなおデンマークは混乱していた。47分、遠藤が蹴ったFKはソーレンセンがバンザイ。ポスト直撃。50分はベントナーがFKを蹴る。そもそもデンマークはまったくベントナーにハイボールを合わせてこない。なんのためのCFWか、なんのための193cmなのかわからない。

    それでもデンマークは人数だけはかけてくる。
    50分、ロンメダールのクロスにトマソン、ベントナー、ケーレンベルグが飛び込む。
    52分、ヤコブセンのアーリークロスにベントナーが競ったウラ、トマソンがシュート。外れる。
    56分、DFを削ってFWラーセン投入。2トップになる。攻撃時は2バック。
    この時間帯、日本はゴール前でよくハイボールを競り、拾ったボールを丁寧に回した。イライラしたラフプレーのベントナーに警告が出る。

    69分、ロンメダールが左からPAに入ってきてベントナーに出すが空振り。Jポウルセンのシュートには中澤が体を張る。
    79分、デンマークは前線に4人張る。ラーセンが後ろからのボールを胸トラップして振り向きざまシュート。クロスバー。
    なにかの間違いで失点する可能性はあったが、トゥーリオと中澤の集中力はすばらしかった。
    そして80分、長谷部がDFアッガーを倒してPK。トマソンは一度は川島に止められるがリバウンドを押し込む。

    それでもまだ日本は落ち着いて見えた。
    82分、スローインの流れから大久保が中央まで持って入って本田へくさび。本田はトラップでロンメダールをかわし、カバーに来たSポウルセンの逆を取って横に出す。そこを岡崎が左足でトラップして、もう一度素早い振りで押し込む。日本初の本大会3点目。セットプレーからだけではなく、流れの中から崩して得点できたことはたいへん誇らしかったことを憶えている。

    83分、デンマーク陣内で本田が1vs2になりながらもよくキープしてCKをとる
    88分、大久保に代えて今野
    90分、遠藤に代えて稲本

    日本はベンチワークでクロージングに入り、3点獲らなければならないデンマークにプレッシャーをかける。ドイツ大会オーストラリア戦の戦訓はここでも生きていて、CBの集中力もさることながら、はね返した2ndボールへのアプローチを中盤の選手達が怠らない。また、いったんマイボールにすれば確実にボールをまわし、シュートで終わらせる意識が高かった。

    デンマークはロングスロー、CKから攻め立てたが日本はロスタイム4分を使い切ってグループリーグ突破を決めた。

    。。。

    W杯は日韓大会を例外としてほとんどの場合眠い目をこすりながらTVにかじりつくことが常だ。過去の日本人にとって、それはあくまでもサッカーが好きだという博愛主義的なモチベーションでしかなかった。自国のグループリーグ突破をかけて、夜明けに応援することは日本のサッカーの歴史には無かったことであり、また新しい1ページを加えることになった。

  • 私は岡田監督支持派ではあったが、自分のなかではアウェーで1勝が目標だった。その目標が嬉しい誤算で早々に達成されてしまった。次からはいよいよグループリーグ突破のために270分として考えることになる。その点でのオランダ戦、引き分けなら大成功で、0-1まではじゅうぶんだと思っていた。

    。。。

    前年9月のオランダ戦では0-3の敗戦。前半からハイプレスをかけまくるものの後半息切れして自滅したようなゲームだった。リアリストの岡田監督は最終的には結果だけを求めてまとめあげてくる。南ア大会直前のドタバタも試験的な揺れ戻しから収束させる方便だろうぐらいに私は感じていた。同じようなゲームプランは作らないだろうという確信があった。

    日本はまず自陣に引き、オランダが入ってきたところでプレスを開始する。彼らも様子を見ながら後ろで回し、探るようにくさびを入れてくる。試合開始から10分までオランダのポゼッションは75%だったそうだ。

    日本は4-1-4-1でのスタートだが、ボールを失ったときには3ラインの4-4-2ブロックをつくりディフェンディングサードにスペースを全く許さない。たいていの場合松井がワントップ本田と並ぶフォーメーションとなり、状況によっては遠藤・阿部が前に出ることによって4x4ブロックとなっていた。そこで我慢をしながらスキをみてカウンターを仕掛けるというのが日本の戦い方。

    しかし前半のうち日本が形をつくってシュートまでこぎつけられたのは11分の長友と36分の松井ぐらい。一方オランダの方も日本の守備ブロックには手を焼き、ミドルは撃ってくるが、枠に飛んだシュートは9分のカイトと45分のファンデルファールトぐらい。オランダを塩漬けにする流れは日本の思惑通りといってよい。

  • 後半に入り、改めてオランダが攻勢に入る。素早く攻撃に切り替えて日本の4x4ブロックが完成する前に攻め切る意図が明確だ。

    47分、SBファンブロンクホルストが右サイドをタテに駒野を抜いてクロス、ゴール前CFWファンペルシーのヘディングはジャストミートせず川島キャッチ。
    48分、MFファンボメルが日本最終ラインのウラへロングボール。ファンペルシーが抜け出しながらボレーで合わせる。枠外。

    オランダがタテ一本で勝負してくるなんて驚きだったが、それだけむこうを本気にさせていると感じてどこかうれしくなってしまう自分がいた。

    そして53分、右サイドでスナイデルの縦パスを受けたファンブロンクホルストがクロス。トゥーリオがいったんヘッドでクリアーしたところ、セカンドボールをファンペルシーが拾って後ろに戻す。そこをスナイデルが強烈なミドルシュート。川島は触っているにもかかわらずゴールにねじこまれた。

    先制された日本はここから反撃にでる。
    55分、本田のポストプレーから大久保がドリブル、ミドルシュート。GK正面
    56分、カウンター。本田から遠藤を経由して大久保がまたもミドル。これは外れる。
    57分、トゥーリオが上がる。
    59分、CKが3回続く。
    61分、大久保がCBマタイセンをかわして右サイドのスペースへパス。本田がフリーでクロスを上げるがファーの松井に届かず。

    日本の4-1-4-1はもともと守備的な発想から導入されたシステムのはずだったが、実はアンカーが入ることによって遠藤・長谷部が従来よりも前で攻撃のトリガーを引けるために意外なほど効果的な中盤になっていたことに気がついた。55分の大久保のシュートシーンでは遠藤がオーバーラップしてGKのところまでフリーランニングしている。そういうプレーは私の記憶にない。

    日本が追い付くのであればこの時間帯までだった。63分に中村を入れたのもここが勝負どころだと考えたからだろう。しかし60分を過ぎて再びゲームを決めにきたオランダはボールを奪い合いながらもプレーエリアを挽回する。オランダが日本PAまでボールを運べても日本はオランダ陣内までがやっと。

    76分には更に長谷部から岡崎、大久保から玉田に代えて、阿部・遠藤のドイスボランチ、本田ワントップの4-2-3-1になる。81分にはトゥーリオも上がる。中村はちょっとゲームに入れてなかったかな。

    オランダはやはり強い。
    71分FWエリア
    82分MFアフェライ
    87分FWフンテラール
    を投入して、彼らがとどめを刺そうとする。

    84分、中澤から出たくさびがパスミスでボールを失い、エリアがアフェライにスルーパス。川島と1vs1になるが、前に出て止めるファインセーブ。
    88分、中村が潰されて失ったボールがフンテラール経由でオーバーラップしたアフェライに出る。再び川島と1vs1になって、それでも体に当て中澤がクリヤー。

    53分の失点は川島のミスといえなくもなかったが、この2つのビッグセーブはじゅうぶんお釣りがくる勘定だ。

    日本にとって最初で最後の決定機が90分。右SBに移った長友が右からクロス。トゥーリオがフリックしてウラに落とす。飛び出した岡崎がファーサイドから左足シュート。外れる。

    そしてロスタイム3分の後タイムアップ。最後は相当にスリリングなゲームとなって、グループリーグ突破はデンマーク戦へと持ち越された。

  • ドイツ大会後すぐにイビチャ・オシムの代表監督就任が発表(?)された。ペダンチックな物言いながらもジェフ市原にナビスコ杯をもたらした実績を買われての就任。「考えて走れ」という第三の動きの連鎖を代表に促すが、残念ながら2007年、脳梗塞で倒れて代表監督を辞任する。私が考えるオシムの功績は、日本サッカーのストロングポイントが勤勉さと俊敏さにあることを世界レベルの視点から認めてくれて、その良さを後押ししてくれたことだ。「日本サッカーの形」を自信を持ってイメージできるようになったのはこの頃からだ。

    。。。

    突然のアクシデントから引き継いだのは岡田武史。フランス大会以来2度目の就任。
    ベスト4
    世界を驚かせる
    接近、展開、連続
    蠅がたかるようにチャレンジ
    電通にノセられたのか話題になったキーワードは多かった。

    ハイプレスを90分続けるスタイルを目標としたが、運動量が一段落したときにバイタルエリアのスペースを使われて失点するというパターンが本大会前のテストマッチまで相次いだ。直前になってそのスペースを消すために阿部をアンカーとして起用。そして優れたフィジカルとキープ力を買われて本田がCFWを務める。ワントップの4-1-4-1が南ア大会のフォーマットとなった。

  • 日本は4大会目にして初めての初戦勝利。

    。。。

    海外配信では「日本が唯一のチャンスをモノにした」と報道されたそうだ。スタッツからみるとそうかもしれないが、その唯一のチャンスは周到に準備されたもので、対戦国以上に冷静に得点し、ゲームを終わらせた結果だ。ドイツ大会での戦訓が見事に生かされていた。

    一方のカメルーンチームにはなにやら不協和音が生じていたらしく、右利きのFWエトーが右WGにアサインされてたり、当時アーセナルでバリバリのボランチだったA.ソングが外されていた。ドイツ大会の日本代表についても語られているとおり、ひとつにまとまらなくてはならないことが頭で解っていてもそれができないなんてことがW杯では起こりえる。

    初戦は慎重になるものだが、カメルーンは日本以上にナーバスになっていた。標高1400mのブルーム・フォンテーンのスタジアムでは浮き球が伸びすぎて長いボールをお互いに使いこなせないという点もあった。ロースコアの展開は日本の思うツボだ。

    カメルーンの1stシュートは14分、こぼれ球をボランチのマティプがミドル。これは中澤が体を張る。前半でカメルーンの決定機と言えたのは37分の一度だけ。スローインからの流れでFWシュポモーティングが落としてエノーがシュート。ミートが弱く、川島の正面。左右から阿部と長谷部がコースを切っているので川島にとってはそれほどのピンチではなかったかもしれない。

    日本待望の先取点はその次のプレー。遠藤が右の松井に出して、一度切り返してからの左足クロス。中央の大久保がCBヌクルとSBムビアを引き付けることによってファーで本田がフリー。トラップしたボールが体に当たって左足前に転がるという幸運もあったが、わずかな時間でGKの位置を確認して左足インサイドでニアに流し込んだ。39分という時間帯もすばらしい。

    右SHの松井はここまで16分、32分、34分とクロスを上げている。その全てがシンプルな右足クロスだったが、このアシストのシーンで初めて切り返した。そのプレーこそがカメルーンの守備ブロックを全員ボールウォッチャーにし、本田をフリーにした。松井はそれを確信していたと思う。さらに言えばこの日の松井は69分に下がるまでドリブルがキレキレ。このドリブルがタメをつくる効果を生み、フリーの選手をつくり、日本のポジショニングを整えた。

  • 後半に入るとさすがにカメルーンのエンジンがかかり、プレスが高い位置から始まるようになる。48分のプレーがエトーを右WGに置いた狙いだったのか。スローインの流れからエトーが左サイドをドリブル突破。阿部、遠藤、長友の3人がいっても潰せずクロスを上げられる。3人行ったせいで中央ではシュポモーティングがフリー。右足インサイドで合わせるが枠から外れた。ここが唯一日本が崩された場面で、シュートを外してくれたのは助かった。日本としてはエトーにこのようなプレーを続けられると困ったことになるがさいわいこの一度だけだった。

    また、189cmのシュポモーティングに対してアジリティのあるエトーとウェボが中央でポストプレーのコンビネーションを使ってこられるのが怖かったが、そういう戦術をとってこなかったのも助かった。

    63分、ボランチのマティプをFWエマナに代え、4-3-3から前線4枚の4-2-3-1に変更。
    69分、松井に代えて岡崎投入。この時間帯、日本の攻守の切り替えが遅くなってきて、オープンな展開になりかけていた。
    75分、FWシュポモーティングからFWイドリス、更にMFマクンからDFジェレミに交代。
    81分、大久保に代えて矢野投入。中盤サイドをフレッシュにしてフォアチェックを徹底させる。

    85分ごろからカメルーンはパワープレーに入る。ドイツ大会の悪夢がよぎる。そしてすぐにムビアのミドルシュートがクロスバー直撃。4年前のケーヒルのシュートにくらべて10cmだけ外れていた幸運。

    91分のFKは川島がキャッチ。合わせるボールのようだったが、ゴール前のヌクルを稲本が、イドリスを中澤がスクリーンアウトしており川島としては問題なかったはず。

    92分、ハイボールを集められた後、左でフリーになっているジェレミに出して、再びフリーでクロス。ウェボが右足で合わすが川島が止めるファインセーブ、そして駒野がクリアー。ただしここはクロスが入ったところでファウルをとってもらった。そう、それまでも後半カメルーンの攻勢が強まるなか、ポルトガルのベンケレンサ主審はよくカメルーンのファウルをとってくれた。

    そうしてロスタイム4分を逃げ切って日本は勝ち点3をもぎとった。

    。。。

    当時はかなりハラハラさせられていたが、改めて見直してみると日本は守備ブロックを維持しながらよくボールホルダーに圧力をかけている。この点はオーストラリア戦からしっかりと進歩していると言えよう。しかしチェックが甘ければすぐに85分のように強烈なミドルが来る。ブラジル大会でもきっと同じようなシーンが訪れるはずなのでしっかり対応してもらいたい。

  • 累積警告で宮本が出場停止。日本は初めて夜のゲーム。ブラジルにとってはジーコの率いるチームが自国と戦うという象徴的な一戦。しかし日本にとっては2点差以上の勝利が大前提という悠長なことは言っていられない状態。

    。。。

    日本はウラを狙ってロングボール。自陣でスペースを消すゲームの入り方。
    ブラジルは日本のプレスを試すかのようなボールまわし。そして日本がビルドアップするときはブラジルもしっかり引いて対応する。

    7分、ロナウジーニョからロナウドへくさびが入り反転。軽やかなステップでシュート。
    10分、ロビーニョが持って入ると、簡単に横にずらしてシュート。
    いずれも川口正面だったが「こちらはいつでもいけるぞ」というブラジルのファイティングポーズ。

    続けて15分、ロナウジーニョが起点になりくさびをカカへ、ワンタッチで横にずらしてロビーニョが坪井をかわしてシュート。これは川口がはじく。今日も川口は好調だ。かたや日本は14分に中村がブラジル陣内でタメをつくり加地に戻す。グラウンダーのクロスを稲本が左足シュート。こちらは大きく外れる。

    足元の確かさ、速さ、柔らかさ、冷静さが今までの相手とは別格だ。7分、19分とロナウドが坪井を翻弄するステップ。またもや川口が左手一本のファインセーブ。31分の時点でブラジルのポゼッションが60%。

    しかし33分に日本が反撃に出る。稲本から左奥にダイアゴナルのフィード。そのボールをアレックスが中に入りながらノールックでDFラインのウラに出す。そこへ斜めに玉田が走りこむ。薄い角度だがこれぞ玉田アングル。ジーダのニアハイを打ち抜いてゴール。既にクロアチア先制の報が届いており日本は大いに盛り上がった。

    日本はコンパクトによく守ってボールをつなぐ。なんとかこのまま前半を終わらせたかったがロスタイムにあっさりやられる。ロナウジーニョが右から左へ柔らかい浮き球。SBシシーニョが頭で折り返すときには全員がボールウォッチャー。ファーサイド中澤のウラでフリーだったロナウドがヘッドで決める。同点。

  • 後半に入ってブラジルは両SBが上がって本気で来る。ロナウドがロナウジーニョへ坪井の股間を抜くスルーパス、更にヒールで戻すワンツーでロナウドがフリーで抜け出て決定的なシュート。外れる。

    更に52分、ゴールライン際でクロスを上げられた直後、日本の守備ブロックが完全に下がっていたところでMFジュニーニョペルナンブカーノがフリーで強烈な右足ミドル。逆転。川口の正面だったがセーブできずにゴール。私は画面に向かって「おい、なんでそれを弾き出せないんだよ」と突っ込んだが、これこそが公式球チームガイストならではの無回転シュートの軌道。川口は「僕の技術ではあのシュートは止められない」と述懐していた。

    追って55分、ジーコは小笠原を下げ中田浩を入れて中田英を一列上げる。この日トップ下で2トップをサポートしつつ起点になり続けていたのは小笠原だった。攻撃に絡めず、攻守の切り替えも緩慢な10番を下げなかった選択はまさしくセレソン10番の矜持だったのだろう。同時にそれは10番との心中でもあった。とたんに日本はタテに行けなくなる。

    直後58分、ハーフライン上のロナウジーニョから右サイドウラへスルーパス。SBジウベルトに通り、PA角まで持って入られて左足シュート。3点目。グラウンダーなのに回転していかないという、これまた強烈なシュートがファーサイドネットに決まった。決勝トーナメントにはここから4点獲らなければならない現実!

    60分に巻に替えて高原
    61分にCBファンと交錯して高原が負傷するアクシデント
    65分に高原に替えて大黒

    70分を過ぎて日本は足が止まる。当然ボールはとれない。

    80分、ファンが中盤でボールを奪ってそのままドリブル。ロナウドと2回の連続ワンツーの末、ロナウドが4点目。この二人に対して日本は4人のDFと2人のDHが揃っていたにもかかわらずプロフェッショナルファウルでさえも潰せなかった。

    80分を過ぎて日本はマイボールでも前に出せない。
    加地は深く切り返せずフェイントにならないフェイントでボールを失う。
    中村は足がもつれて転ぶ。

    まさに投了。


    。。。


    ここまで誰もが右肩上がりで強くなっていく日本代表を信じていた。そこでの挫折。直前テストマッチのドイツ戦では高原がキレていて、日韓大会以上にイケるんじゃないかと色めきたったものだが、本戦は甘くなかった。ベストの準備をしたつもりでもそれがピークがずれていれば役に立たない。

    オーストラリア戦でも触れたが、2004年アジア杯の決勝トーナメントを戦った日本代表には理屈で説明できない気持ちの強さがあった。最後まで勝負をあきらめないメンタリティというものは口で言うことはたやすくても、それを選手たちに具現化させることは簡単ではない。ジーコの可能性というのはそういうところにあったはずなのに、本大会の幕切れはあまりにも残酷だった。

  • 2月中にこのスレッドを終わらせようと思っていたのに間に合いませんでした。Jリーグ始まっちゃったし、ずるずる時間がかかりそうな予感。。。

    。。。

    クロアチアも初戦は黒星。グループリーグ突破のためには両者とも勝ち点3が欲しい。日本は加地の復帰とともに満を持してアレックス-中澤-宮本-加地の4バック。左SHに小笠原。

    翌日6月19日のロイター電によればフランケンシュタディオンの気温は27℃。ピッチ上は相当に暑かったようだ。テレビ放送に時間を合わせた午後3時キックオフにジーコは不満を述べたという。ハイプレスにはいきにくい天候で、両チームともDFラインからビルドアップもしくはカウンターを交互に繰り出す展開になる。

    。。。


    日本から見ると20分に川口がPKを止め、50分の加地のクロスを柳沢が決めさえすれば、という結果になった。一方クロアチアから見ればPK失敗を除いたとしても27分、30分、39分、42分、53分、少なく見積もって5つあった決定機のひとつでも決めていれば、ということになろう。彼らにとっては勝つべきゲームだった。第三国から見れば、、、このゲームはW杯本大会と思えないレベルの低さに映ったのではないだろうか?決めるべきところで決められない両チーム、運動量が低下して緩慢な攻守の切り替えの後半。

    いま見返すと、このゲームの意味は日本代表が初めて本大会で4バックシステムを実践したことだと思う。これは4バックシステムがそれまでの3バックシステムより高等だと言っているのではない。世界と戦うために常に数的優位を意識してきた日本代表であったが、ここで初めて2トップに対して2CBで対応する挑戦をしたのだ。数的優位で戦うことは正論だが、守備と攻撃において同時に数的優位をつくることはできない。ゴール前を1対1で守るというオプションを持つことは攻撃に切り替わったときに数的優位をつくるための世界常識だ。

    中澤や福西が前に出てかわされることが前半に計3回。58分には宮本・中澤の両CBがFWプルショに右サイドへ釣り出される。点を獲りたかったせいもあって、DHが参加する守備ブロックはほとんど機能していない。局所的に拙い対応が数多くあったが、それでも4バックシステムでまがりなりにも無失点で抑えたことが日本代表の進歩だ。ドイツ大会後、イビチャ・オシムは選手たちに「責任を全うしろ」と言う。サッカーの基本は1対1であるという方向に日本代表が舵を切ったのはこのゲームからだと思っている。

  • >>5

    >2点目のケーヒルには、福西が食いつかないと。

    そう、この試合における福西のスペース管理のやり方が(好みの問題として)気に食わない。バイタルが薄くなるのはわかっているのだからもう少しアンカーとしての意識を持ってほしかったと思います。

    トルシエの3バックが機能した理由として戸田が徹底してバイタルエリアのスペースを管理していたことが挙げられます。

  • ボールサイドのSBが上がったらファーサイドのSBは下がるつるべの動き
    最終ラインは必ず1枚余る
    白い神様は当たり前のことを当たり前にやれと言う。
    日韓大会で増殖した戦術ヲタクにとって、トルシエがあまりにもトガッていたせいでジーコの説明はあまりにも新味に欠けていた。

    それでもジーコが主張したのはセレソンとしてのメンタリティ。我々オーディエンスはあくまでもプレーの結果でしかサッカーを語れない。Jリーグウォッチャーは誰しも鹿島アントラーズの勝利への執着心を知っており、同様に日本代表が世界に通用するメンタリティを植え付けてくれるならそれは価値あることだと自分を納得させていた。実際2004年アジア杯では神懸かり的なメンタルの強さを発揮し、トルシエ時代とは異なる日本の強さを見せてくれた。

    ドイツ大会における最大公約数的な評価はウィキペディアの”2006年FIFAワールドカップ日本代表”に詳しい。

    。。。

    この日のチームはとにかくコンディションがおかしかった。運動量が上がらずプレスが効かないのは言わずもがな。63分に坪井が脚のけいれんによって動けなくなる前から、22分のFKがプレゼントパスになってしまったり、31分のカウンターで急ぎたいのにドリブル中のボールが脚に絡まったり。75分には高原がCBチッパーフィールドからボールを奪い2vs1の決定的な場面。フリーの柳沢へラストパスが前のスペースに出せず、背後に出してしまう痛恨のパスミス。

    そういう中で25分、俊輔の右からのアーリークロスがそのままゴールに吸い込まれる。オーストラリアはゴール前をマンツーマンで守っていて、クロスに反応した柳沢・高原がGKシューウォ-ツァーの前でCBニール・CBムーアと交錯する隙に決まってしまったもの。ファウルかどうか微妙なところだったが、そもそもGKがボールの落下地点を見誤っており、高原がGKに接触するのはボールがGK頭上を通過してからである。認められるゴールになってもおかしくはない。

    ヒディングは日本の弱点をフィジカルの弱さにあると考えていたはずだ。日本3-5-2のサイドに起点をつくり、188cm97kgのFWビドゥカを176cm宮本の前にぶつける。そのため日本のラインは5バックとなったまま下げさせられる時間が多い。13分に5本立て続けに左右からクロスを入れられて以来日本は基本的に守勢だ。最終ラインに5枚割いていることもあり、セカンドボールを拾えない。バイタルでボールをコントロールされるということが増える。

    さらに60分には194cmのFWケネディを投入。中澤がケネディ、坪井に代わった茂庭がビドゥカに付く。前線はプレスバックできず中盤のポゼッションもままならない。それによってキューウェルと52分から入ったMFケーヒルにサイドとバイタルを使われる。それを見てヒディングは更にシャドーストライカーのFWアロイージを74分に投入。ワントップ・ツーシャドウからツインタワー・ワンシャドウに切り替えてきた。

    それに対し日本は78分に柳沢を小野に代えて中田英をトップに上げる。これが史上最も難解な交代だった。小野をそのままトップに入れるならまだしも、ボランチに入れてわざわざ中田英を上げるのは求めるものが変化なのか維持なのか、攻めるのか守るのかがわからない。75分の決定的なカウンター失敗を取り返すつもりだったらここでウラを盗ることに長けた大黒だったろう。

    この試合ずっとコンディションを保っていたのは川口。5分のビドゥカ、23分ブレシアーノ、69分と83分の壁を抜けてくる低いFK。いずれもファインセーブで日本を救っていた。それだけ調子が良かった川口に魔が差した。84分、右からのロングスローに飛び出したものの触れられず。空けてしまったゴールへ混戦からケーヒルに押し込まれた。

    運動量で負けていた日本にとって同点に追いつかれたことはこのうえなく痛い。89分バイタルのアロイージがくさびをケーヒルに戻したとき、ケーヒルに詰める脚が日本に残っていなかった。フリーのミドルシュートはポスト直撃でゴール。あのコースでは川口はどうしようもない。逆転。

    ジーコは慌てて茂庭を下げ、大黒を入れて2バックにするもカウンターからアロイージが1vs1の駒野をかわしてゴール。これで万事休す。半身でディレイをかけた駒野だったが、背中側を狙われて突破を許してしまった。

    。。。

    悪夢のような悔しい敗戦。試合中の采配だけが監督の仕事ではない、とは言われるが、この試合に限っては監督の力量差が出たと思う。後半投入した選手が3点を獲り、戦術的にもコントロールしきった。ヒディングにとっては監督冥利に尽きるゲームだったろう。

  • 12年ぶりに見た。
    雨の宮城スタジアム。
    このゲームだけを見れば疑問点が多く残るゲームで、ジーコが「自分が監督ならば勝てた」と言ったらしいがそれも不思議ではない。

    当時柳沢はオーバーワークで使える状態にはなかったらしく、鈴木もコンディションが悪かったらしい。柳沢の代わりにアレックス、鈴木の代わりに西沢が起用された。私自身もなぜチュニジア戦でキレの良さを見せた森島ではなかったのだろうかと今でも思っているクチだ。

    グループリーグ突破というノルマの重圧から解放された燃え尽き症候群といえば簡単だが、我々の想像を遙かに超えてそれは重かったようだ。日韓大会後、森岡、松田、森島などはJリーグでも深刻なスランプに陥ることになる。トルシエ自身もこのトルコ戦において判断力の疲弊が見てとれた。

    。。。

    まず10分に中田浩が不用意な横パスをカットされ、慌てて取り返そうとするもCKに逃げたのが精いっぱい。そしてそのCK12分、ゴール前のハイボールに対し、ゾーンで守っていたのにも関わらず誰も競りにいかずウミトダバラにどフリーでヘディングを叩かれる。ゴール。ゾーン守備であそこをフリーにさせるのは根本的にあり得ないミスだ。その後セットプレーでマンツーマンに切り替えたり、ゾーンと併用したりとこの期に及んで試行錯誤に苦しんでいる。

    そして前半のアレックス。セカンドストライカーとして彼は再三トルコ最終ラインのウラを狙い続けた。またそれに合わすようにボールも供給されていた。実際トルコはアレックスのスピードに手を焼いている。グループリーグではいなかった左足のプレースキッカーとして41分にはクロスバーに当てるFKも蹴っている。つまりアレックスは起用に応えて彼個人の良さは出せていたと言える。トルシエの誤算としては、本来の彼の主戦場である左サイドに流れがちでPAに入ってシュートを撃ったのが20分の一度だけだったこと、周囲からのボールの供給が単調になってしまったこと、更にはゴール前が西沢1枚になって攻撃の厚みが出せなかったことが挙げられよう。

    トルシエはアレックスがアタッカー陣にとっていわゆるオートマティズムのトリガーになっていないと判断したようだ。後半からアレックスに代えて鈴木、右WBに市川を入れての明神をDHに下げる。小野・市川というクロッサーに対してターゲットを2枚にする目論みだ。市川は60分にこのゲーム最大の決定機であった西沢へのドンピシャのクロスボールを上げており、市川自身の良さは発揮している。

    手を替え品を替えても結果が出なかったといえなくもないが、なにしろ森島を起用する以上は85分の投入は遅すぎる。後半から出した市川を引っ込めるというのもゲームプランの脆弱さを物語っている。ロスタイムを合わせて残り8分、森島をアタッキングサードで使うことがほとんどできなかった。

    日本はグループリーグでこそ致命的な凡ミスはなかったが(オフサイドトラップの逆を突かれたベルギー戦の失点パターンは戦術上のリスクであって凡ミスではないと私は思っている)、トルコ戦ではやらかしてしまった。実はフランス大会でも気が付いていない味方選手にパスを出したり(アルゼンチン戦32分)、バックパスをさらわれる(クロアチア戦38分・76分)ような凡ミスを繰り返している。4年後のドイツ大会前に中田が「わかりきっていることでも必ず声をかけろ」と言ったそうだがそれは彼の2大会の貴重な戦訓に基づいている。

  • トルコは4-3-3。中盤の底とサイドで数的優位を作りやすく、4-4-2以上にピッチをワイドに使える。しかしトルコはサイドからの攻撃に積極的ではなかった。中盤のポゼッション争いでは3-5-2の日本が枚数が多い点を利して制したかったところだ。宮本は慎重を期したせいか全般的に低めのライン設定で、フラットラインにもそれほど固執していない。相手ボールのときには自身が余る形でラインを後退させることも多く、また判断によっては躊躇なく単独で前に出た。このライン設定の運用がどの程度チーム内に共有されていたかがまず不明で、特に点を獲りにいきたい後半からは前線の思惑と乖離して中盤に大きなスペースを与えてしまうことになった。ひいてはこれが終盤のパワープレーの実効力の無さにつながったと思う。ゴール前にどんどんボールを入れるべき状況になってもボールの取りどころが低すぎた。

    結果論になるが、それはラインの低さを単純に嘆いているのではなく、フラット3運用の限界点がこのベスト16あたりにあったということだと思っている。宮本自身、W杯直前のテストマッチではラインの高さを試したり、ブレイクを早めにしたりとかなり試行錯誤しながら失点リスクを下げようと努力してきたのだ。TPOを見誤ればベルギー戦・ロシア戦のように決定的なピンチを招く。フランス大会で組織的な攻撃の形がつくれなかった日本代表にとってフラット3という方便は大きな武器になりえた。しかしフットボールネーションの一角に食い込むには力不足だった、というのが現在の感想だ。ちなみに2005年と2013年のオフサイドルール解釈の変更によって、トルシエ・ジャポンのようなフラット3を採用するチームはもう現れることはないだろう。

  • グループH最終戦を前にして日本は勝ち点4のグループトップ。1点差負け以上で決勝トーナメントが決まる。チュニジアは勝ち点1でグループ最下位だが、日本に2点差で勝てば逆転で決勝トーナメントに行ける。日本はロシア戦と同じスターティングメンバーで3-5-2。チュニジアはアヤックスの右サイド、トラベルシを擁して4-2-3-1。マッチアップではサイドにおける数的優位を作りやすいのでサイドアタックに要注意。右WBが明神でスタートしたのもそういうリスクを勘案してのことだろう。

    。。。

    チュニジアは前半4-2-3-1のフォーメーションを頑なに守って自陣に引いている。ミドルサードでもボールを取りに来ない。SHがもっとフラット3のストッパーに圧力をかけてくるものと予想していていたのにすっかり拍子抜けだ。SHが来ないので松田・中田浩が自由にボールを持てて、そこからの展開が可能。

    また、チュニジアの最終ラインが低く、相手陣内でスペースを見つけやすい。
    29分左から稲本のクロスがGKへ。柳沢が飛び込むがGKキャッチ。
    33分中央で戸田から縦パスがバイタルの柳沢に収まる。プレスに来ないのでシュート、しかし外れる。
    34分バイタルで小野・柳沢のコンビネーションプレー
    と形を作り続ける。

    一方チュニジアは
    23分のカウンターでもボールをつないで時間をかけてくれる
    35分に初めてSBトラベルシ・SHメルキのコンビネーションで中田浩の外側に起点をつくってクロス
    38分FWジャジリがようやく最初のシュート
    45分メルキが中田浩の外側からドリブルでPAに侵入するが戸田が潰す

    35分を過ぎてようやくチュニジアは攻めてくるようになったが、2点差をつけなければならないチュニジアにしては素人目にもゲームプランがおかしい。消極的で、前線の動きなおしも無く、シュートも1本。ポゼッションは60%以上日本だ。引き分け十分の日本に対して貴重な45分を塩漬けにしてくる意味がわからない。

  • 後半の出だしから、稲本を市川に代え、柳沢を森島に代えた。予想に反してサイド、特に右サイドは攻め込まれないので市川を投入して攻撃を活性化させると同時にバイタルのスペース管理は明神にしっかりやってもらう。また、チュニジアの方のバイタルエリアにはスペースがあるので、そこで細かい動きができる森島の投入。理にかなった交代だと思った。また既にイエローを一枚もらっている稲本ではあったが、グループリーグのラッキーボーイを下げてしまう思い切りのよさに驚いた。

    後半、この交代がいきなり機能する。

    48分、中田英とのワンツーで鈴木が右サイドを突破。DHブアジジをかわしてバイタルに入るがSBブーザイエンがスライディングタックル。なんとこのボールがゴール前方向に転がる。SBのスライディングと同時に動きだしていた森島はバイタルを右に移動しながらフリーになり、ダイレクトで右足を振り抜く。ファーストタッチがゴール。ミスを見逃さない決定力はフランス大会のバティストゥータ級だったと言える。セレッソのバンディエラとして長居でのゴールはおおいに盛り上がった。

    更に52分、右サイドで鈴木が潰れながら市川に出して、市川にタテにドリブル後えぐってクロス。森島がダイビングヘッド。ファーポスト直撃。チュニジアDFラインは森島を全く捕まえられない。

    60分を過ぎても
    日本のボール回しを刈りに来ないチュニジアに対し
    63分、中田浩が左サイドをえぐってクロス
    64分、FKのサインプレーから小野がフリーでヘッド、GKファインセーブ
    65分、明神がミドルシュートと日本のやりたい放題

    そして74分、中央戸田から右に展開したボールを市川がPA角まで突っかける。このドリブルでチュニジア最終ラインをボールウォッチャーにさせておいてクロス。これが中田英の頭にドンピシャ、ゴール。中田英はここまで強い体幹で厳しいエリアのボールを捌きながらも得点にからむアタッカーとしての仕事ができずにいた。ワールドクラスのプレーヤーとして面目躍如のゴールだった。

    そしてもう一人冴えていたのが宮本。ゲーム終盤にかかりさすがにチュニジアの攻勢が厳しくなるなか、無理にフラットラインを保とうとせず、早めの判断でラインブレイクしてピンチを未然に潰した。

    チュニジアの最初で最後の決定機は82分。左のジャジリから入ったクロスボールを素早く振り抜いたFWジトゥーニのシュートがクロスバーに当たったのみ。

    開催国特権でいわゆるシード国が割り振られないグループではあったが、2勝1分の1位通過は立派だ。開催国ノルマの決勝トーナメント進出を果たしてこれまでやってきたことが実を結んだ達成感が強かった。これでブラジルとの対戦を避け、トルコと激突。

    チュニジア戦は日本が初めて能動的にコントロールできた試合。私はこの試合の森島の機動力こそが「日本のサッカーとはなにか」という問いの答えを与えたと思っている。奇しくも解説の早野さんが「日本の攻撃の将来が見えるかもしれない」と既に放送中に言及している。日本のサッカーを語るときにAgilityという言葉が使われ始めるのは本大会の後である。

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