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ブロックチェーン未来図の掲示板

日経新聞

安全網まだない出直し仮想通貨(4)

2018年6月7日 11:47 

 

    

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「死ぬかと思った」(東京都内の30代男性)。約580億円もの仮想通貨NEM(ネム)消失事件は投資家を震撼(しんかん)させた。最終的には流出元のコインチェック(東京・渋谷)が大部分を返済したが、「取引所」のセキュリティーを担保したり、分別管理を義務付けたりする業界全体の安全網の不在も浮き彫りになった。



急きょ3トップ体制で発足した日本仮想通貨交換業協会(4月23日午後、東京都千代田区)

「相場操縦や風説流布の規制がないなんてとんでもない」。仮想通貨を巡るセミナーで金融庁総括審議官の佐々木清隆(57)は身ぶり手ぶりを交えまくし立てた。証券取引等監視委員会の事務局長だった佐々木の目に映る業界は、秩序とほど遠い。だが、育成を主眼にした「改正資金決済法」で、緩いルールを採用したのは金融庁。「だからこそ自主規制ルールは早く」の思いは業界に通じなかった。

「緊急動議!」。4月23日、仮想通貨交換業16社が結成した「日本仮想通貨交換業協会」の総会で、SBIホールディングスを率いる北尾吉孝(67)の発言に会場が凍った。ネット証券最大手とはいえ仮想通貨では「後発組」。「一体何を……」。関係者は固唾をのんだ。

協会は、反目する日本仮想通貨事業者協会(JCBA)と日本ブロックチェーン協会(JBA)が会長・副会長を分け合い、ようやく発足した。会長はJCBAを率いるマネーパートナーズグループ社長奥山泰全(46)が、副会長はJBA代表でビットフライヤー社長の加納裕三(42)に決まった。

北尾の動議は奥山・加納体制に加え第3の代表を置くこと。指名したのがビットバンク社長、広末紀之(50)だ。「金融業界としてあまりに脆弱」(北尾)との問題意識だが、広末は同じ野村証券出身でもあり「派閥づくり」との警戒が台頭する結果にもなった。

仮想通貨という新しい世界でも組織を動かすのは結局、人。登録・みなし合わせ最大時でも32社しかない業界が、2陣営に分かれていた原因も「トップの不仲」と関係者は口をそろえる。ようやく一本化した業界団体は発足したが、次回会合の日程さえ固まらない。もし今、流出事件が再発したら……。法律にせよ、自主規制にせよ、いまだ張られぬ安全網の上で投資家は取引を続けている。(敬称略)