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知りたいことの掲示板

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  • 2021/04/18 12:54
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掲示板のコメントはすべて投稿者の個人的な判断を表すものであり、
当社が投資の勧誘を目的としているものではありません。

  • >>61

    投資とは、人々と社会を豊かで幸せにするものです。それは、いくらもうけた、損をしたという、日々の口座の残高やチャートに振り回される短期的なものではありません。「人的資産を考慮し、自分の真の資産を把握する」「海外への金融投資を当たり前の状態にしておく」「お金による社会貢献により、社会と共に豊かさを得る」というマインド・セットが、皆さんの人生100年を明るいものにしていくことでしょう。

    本記事が、皆さんが今よりも心穏やかに長期の投資を続け、より豊かで幸せな人生に近づけることに少しでも貢献できれば幸いです。

    インベスコ グローバル資産形成研究所

  • 貯蓄の時代は終わった…正しい投資を知れば日本人は豊かになる

    人生100年時代、老後の資産形成は、いまや日本人の重要課題といえますが、資産形成の一手法である「投資」に悪印象を抱いている人は少なくありません。インベスコ・アセット・マネジメント株式会社のグローバル資産形成研究所によると、「かつては日本で美徳とされた貯蓄という行動は、過去のように日本社会を豊かにする役割を果たせなくなった」と述べています。よって、日本人は資産形成の一手段である「投資」について理解を深める必要があるのです。今回は、投資に関する新しいマインド・セット(思考様式)について解説していきます。

    長期投資を行ううえで重要な「マインド・セット」
    私たちが、長期で腰を据えて資産形成をしていくために大切なマインド・セットは、大きく分けて以下の3つに整理されると考えています。

    ・自分の真の資産とその配分を把握するマインド・セット
    ・自国以外に向けて投資を行うマインド・セット
    ・金融商品と世のなかのつながりについてのマインド・セット

    これらは、多くの日本人の方が、投資や資産形成を前向きに捉え、末長く付き合っていくために大切なものになることでしょう。

    自らの「人的資産」を含めた資産を把握する必要がある
    「真の資産」を正しく認識する必要がある(画像はイメージです/PIXTA)

    まず、私たちが資産形成を考えるにあたって、自分の真の資産について把握しなければなりません。その際、預金、株式、投資信託などの口座上で確認できる金融資産のみに注目してしまうのは、適切ではないのです。なぜなら、先進国に生まれた多くの人は、「人的資産」という目に見えない、とても大きな資産を保有しているからです。

    そして、この人的資産の大きさと特徴は、健康、働く意思、経験、教育、そして自身がどの労働市場に属しているか、受け取れる年金の種類、などによって変わってきます。資産運用の大事な最初のステップは、自身の人的資産を把握し、人的資産と金融資産を合算した上で資産形成を考えることです。

    具体的には、「自分の人的資産の大きさを理解し、さらに、その中身が国内資産なのか海外資産なのかを考える」ことが大切になります。

    人的資産とは、現役世代では主として将来に受け取る給料の見込み額、退職世代では将来の年金の見込み額に関連し、その額は数千万円~数億円にもなります。また、日本で生まれ、教育を受け、日本国から年金を受け取る多くの方の人的資産は「国内資産である」という気付きは、大変に重要になるのです。

    投資を考えるに当たり、すぐ株や債券、投資信託などを選び始めるのではなく、まず自らの真の資産について、正しく認識することが大切だといえます。

    「海外への金融投資」を当たり前の状態にする
    日本は、治安、おもてなし、健康・長寿、文化、インフラなどの点で、世界と比較して大変素晴らしい国だと思います。ただし、アメリカなど一部の例外を除き、多くの国に住む方々の資産運用の基本的な方向性は、「生活の基盤と、金融資産の投資先を分ける」ことです。動かしにくい人的資産と、身軽な金融資産の投資先を別にしていくことで、資産全体のバランスを整えていくことが可能です。

    「一生、日本に住み続けるので外貨預金や海外への投資は必要ない」という考えをお持ちの方は、かつてのヨーロッパ貴族の知恵に触れてみることが有用でしょう。自分を外国人の立場に置き換えてみると、「たまごを一つのカゴに入れるな」という格言の真意に気づく、よいきっかけになるかもしれません。

    実際、世界経済は密接につながっており、どの国に住んでいようとも、日々の生活には外国から輸入された製品・サービスがあふれています。また、「世のなかは基本的に不安定である」と考え、自分の資産を世界に広く分散させることで、万が一、日本が天災などに襲われた時の備えにもなるでしょう。

    日本人が海外投資をすると、結果的に日本が豊かになる
    令和の日本経済が、昭和に見られたような高成長を望みにくいという現実も、大局感として認識しておくべきでしょう。昭和の時代は、日本人が意図していなかったとしても、人的資産と金融資産を日本へ「超」集中投資をしており、結果的には正解だったといえます。

    しかし、上述したようなポートフォリオは、この令和の時代において適切とはいいがたいものです。また、昭和の時代、海外への投資には手続きや手数料など高いハードルがありましたが、現在は個人が海外資産へ自由にアクセスできる環境が整っています。

    振り返れば、平成の時代の多くの日本人は、資産バランスや経済成長率の両面から海外資産を保有しておくべきでした。そして、今後は海外資産の保有を当たり前の状態にしておくことが望まれています。そのためには「日本人が海外投資をすると、日本が豊かになる」というマインド・セット、つまり、日本人として世界経済と共に歩みながら、世界の大きな富を取り組んでいくという意識が大切になるでしょう。

    また、日本に暮らす一人一人の豊かさの総計が日本の豊かさとなります。かつての日本が鎖国を解き、国際的な貿易で豊かになったことと同様に、「海外への投資から、日本へ富を還流させて、日本を豊かにする」というマインド・セットを持つことが大切と考えます。

    上述した通り、日本は、様々な面で大変に素晴らしい国です。そして、多くの日本人にとっての「海外投資は、人生のリスクを下げる」という点でプラスの効果をもたらします。そして、自身の総資産を日本円だけでなく、米ドルなどの他の通貨でも把握していく習慣が、為替の値動きに一喜一憂せず、真にバランスの良いポートフォリオを維持してくために大切となるでしょう。

    世のなかの仕組みから「投資の本質」を考える
    ・人的資産を社会参加させること(働くこと)

    ・金融資産を社会参加させること(お金の投資)

    上述の社会参加における大きな目的の1つは、自身の生活水準(すなわち購買力)を世界レベルで維持していくことにあります。そのためには、「投資のリターン目標として世界の一人当たりGDPの成長率を目標とする」意識が重要です。過去数十年、そして今後についても、おおむね5%という名目利回りの目標が、長期の資産形成をしていく上でのよい目安となるでしょう。

    また、経済は主として民間企業の活動で成り立っているため、世界の上場企業を通じて世界経済と自身の結びつきを強めておくことが、皆さんの資産形成の大切な柱になるでしょう。民間企業への株式投資においては、その株が上がるか下がるかということ以前に、応援やモニタリングという「株式投資の本質的な意味合い」を知ることが大切です。

    株式投資とは、一個人が世界のトップ人材と長期的に同じ経済的立場に立てるという公平な仕組みであるとの認識が、自身の生活水準(購買力)を維持する助けとなるでしょう。また、パッシブ型の投資信託やETFなどに関連する株価指数についても、「その本質は、誰がどのように作っているかで大きく異なる」ことを理解するのも大切と考えます。

    短期売買のアドバイスに耳を傾けないことが重要
    私たちが投資からの収入を長期で得ることは、社会全体にとっても好ましい活動です。「投資とは、社会を豊かにし、その豊かさの一部を得ること」であり、金融市場で短期売買を繰り返してお金を得る行為は、本質的なものではありません。他人の損を受け取るギャンブル的な投資からは距離をおくこと、つまり「短期売買のアドバイスに耳を傾けないこと」が多くの方にとって大切と考えます。

    コロナ禍でソーシャル・ディスタンスという言葉が広がりましたが、金融市場から適度に距離を置くマーケット・ディスタンスを心掛けることが重要なのです。

    長期に資産形成をしていく上での大切なことは、「他の人が豊かになると、自分も豊かになる」という輪廻(りんね)的な考え方であると思います。

    親が子供に投資をする、企業が社員や新製品開発に投資をする、国が学校や病院や道路などに投資するなど、正しい本来の投資とは「投資→成長→豊かさ」というサイクルに従っています。

    働くことやボランティアなどでの社会参加と同様に、皆さんのお金の社会参加は社会の成長や豊かさにとって必要不可欠なものです。「投資とは、他者の強みを応援することで社会を豊かにする社会貢献である」と捉え、バランスを意識しながら、資産形成に取り込むことが望まれます。

    「投資先」を選ぶ上で忘れてはならないことは…
    お金を社会参加させるべく、実際の投資先を選ぶ上で忘れてはならないのは、「世のなかを豊かにするお金の社会参加の正解は、時代によって大きく異なる」ことです。

    たとえば、基本的なインフラが整っていない新興国では、国債を通じたインフラ整備により豊かさが増すものですが、すでにインフラが揃っている先進国では、新しいアイデアや既存の富の有効活用のモニタリングという株式投資の機能が重要になります。そして、投資の長期のリターンは、金融商品の表面的な特徴ではなく、その先で実際に行われた実投資が、どれだけ社会の豊かさを増やしたかで決まります。

    かつては日本で美徳とされた貯蓄という行動は、過去のように日本社会を豊かにする役割を果たせません(それは、現在の銀行の預金金利によく表れているでしょう)。皆さん自身のお金の社会参加(投資)が、実際に社会の豊かさにどれぐらい貢献するかが、金融商品の選定において真に大切な視点なのです。

  • 金持ちになる人の3つの特徴

    「金持ちになりたい!」というのは、誰もが一度は憧れる夢であります。かくいう筆者も、気づけば28歳のオッサンになって参りましたが、頑張って働いて、金持ちを目指し邁進している一人でもあります。

    筆者に限らず、「金持ちになりたい!」「どうすれば金持ちになれるのだろうか?」と気になる方も多いことでしょう。そこで今回は、金融心理学者のブラッド・クロンツ博士が明かした、金持ちになる人の3つの特徴を共有しましょう。

    金持ちになる人には3つの特徴がある!
    金融心理学者のブラッド・クロンツ博士が2015年に公開した論文(1)によると、大金持ちには3つの特徴があるのだとか。3つの特徴は、以下の通りでした。
    特徴1:金持ちはお金が好き!
    特徴2:金持ちはリスクを厭わない!
    特徴3:金持ちは金融に詳しい!
    よって、金持ちになりたい!と考えている方は、「お金を好きになる!」「リスクを取る!」「金融に詳しくなる!」のが近道だと言えそうですな。

    特徴1:金持ちはお金が好き!
    大金持ちの共通点1つ目は、「金持ちはお金が好き!」という点です。

    昔と比べれば減ったような気がしますが、今でも「お金儲けは悪いこと!」と考えている人は多いようです。

    お金儲け=悪いこと!と考えてしまうのは、「金持ち=ずる賢い」という先入観が大きいかと思います。あるいは、「金持ち=無駄なお金を使っている」というイメージのせいかもしれません。

    しかし、実際のところ、貧困にはデメリットがたくさんありまして。

    「貧乏になると不幸になる! そして、不幸になるほど貧乏になる!」
    「貧乏になると頭が悪くなり、さらに貧乏になる!」
    「貧乏になると人間関係に苦労する!」

    と、悪いことばかりな訳です。それに、「金持ち=良い人!」なんて話もあるみたいですから、むやみにお金を嫌う必要はないと思いますよ。素直にお金を愛している人は、やはり、お金からも好かれるものなのだと言えるでしょう。

    特徴2:金持ちはリスクを厭わない!
    金持ちになる人は、上手にリスクを取ります。それこそ、好景気が来ても、不景気が来ても、どちらの場合も得できるように、上手にお金をやりくりするものです。

    NBERのワーキングペーパー(2)によれば、「金持ちになるなら不労所得を作るのが確実!」ってことが分かっております。

    誰だって、「お金を減らしたくない!」という気持ちは同じです。しかし、小さな損失を抑えるために、大きなチャンスを逃してしまっては意味がありません。資産運用が上手な人は、若いうちから資産運用を始め、着実にお金を増やしていくものです。

    やりくり上手は、インデックス投資やファクター投資といった方法を使うことで、年率5~10%くらいのスピードでお金を増やしています。短期間で見れば大した違いではないかもしれません。しかし、長期で見ると無視できない差になりますから、「必要なリスクは取る!」ことを意識する必要があるでしょう。

    特徴3:金持ちは金融に詳しい!
    3つ目は、「金持ちは金融に詳しい!」という点です。

    お金を持ちたいなら、お金についてたっぷり研究したほうがよいです。インデックス投資やファクター投資といった、お金を増やす方法については、もちろん勉強したほうがよいでしょう。

    それと同時に、家計管理の基本や、節税の手段を知っておくことも大切です。特に、金融資産をあまり持っていない人は、「資産運用」よりも、「家計の改善」のほうが即効性が高く、短期間で大幅な貯金につなげることができます。

    やりくり上手なら、「ストレスをかけずに節約し、しかもその節約してできたお金を貯めて節税し、節税できたお金をさらに投資に回す!」なんていうように、財形貯蓄制度を使いながら、上手にお金を貯めて、なおかつ増やすことができます。

    お金持ちを目指すなら、これくらい、したたかに制度を活かすくらいでちょうどよいと思うのです。

    まとめ
    最後に、少し余談になりますが、一部では「お金を増やすならFX!」とか、「お金を増やすなら仮想通貨!」とか、怪しげな広告も出回っておりますが。基本的に、FXやら仮想通貨は、投機(マイナスサムゲーム)なので、素人が手を出して勝てるものではありません。実需がない限りは手を出すと危険です。

    手堅くお金を増やすなら、インデックス投資やファクター投資など、投資(プラスサムゲーム)を目指すと良いでしょう。

    「お金を好きになる!」
    「リスクを厭わない!」
    「金融に詳しくなる!」

    あなたが金持ちを目指しているのであれば、上記の3点から実践してみると効果的だと思います。ぜひ、暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。

    ●参考文献
    論文:Bradley T. Klontz, Paul Sullivan, Martin C. Seay, and Anthogy Canale, 2015, "The Wealthy: A Financial Psychological Profile", Consulting Psychology Journal: Practive and Research, 67(2), pp. 127-143
    ワーキングペーパー:Jesse Rothstein, 2018, "Inequality of Educational Opportunity? Schools as Mediators of the Intergenerational Transmission of Income", NBER Working Paper, 24537

  • >>58

    そもそも自分が気にしている「世間」の正体とは何か?たとえば職場の同僚や上司部下、近隣住民、家族や親戚……。いったい誰に見栄を張ろうとしているのでしょうか。

    そもそも「世間」とは、「凡人」の集まりであり、「大衆」です。たとえば知人や近所の人にヒソヒソうわさ話をされたとしても、彼らはあなたの成功には何ら貢献しない人たちです。そんな人たちに張る価値のある見栄とは、いったい何でしょうか。

    一流の人というのは、他人の不利な状況を見てバカにする、という発想はありません。なぜなら、彼らはたいてい浮き沈みのある人生を経験していて、現時点の状況だけを見て他人がどうこう言うのは、愚かな振る舞いだと本能的にわかっているからです。

    さらに当然ながら、彼らは失敗の経験こそ貴重な財産だということを知っています。アメリカでは、失敗したことのない人は、経験不足で逆境や挫折にも弱いということで、一度でも会社を潰したことのある起業家に優先して投資する個人投資家もいるほどです。

    つまり、あなたのことを笑う人がいても、そんな人はどう考えても大成しないのですから、どうでもいい存在ということ。どうでもいい人の目を気にして、「恥ずかしい」などと感じる必要などないのです。だから、「自分が良ければそれでいい」くらいに考えて、気軽に挑戦することです。

    参考)
    「1つずつ自分を変えていく 捨てるべき40の悪い習慣」(日本実業出版社)

    「やりたくないことはやらずに働き続ける武器の作り方~だれでも人生を複線化できるお金と時間の仕組み」(徳間書店)

  • 金持ちになれた私は「失敗」をこう考える

    「失敗」を恐れる意識を捨てる
    「起業しよう」とか「挑戦しよう」というと、周囲から「失敗したらどうするの?」という反応が返ってくることがあります。

    私は投資で3000万円ほど損したことがありますし、会社は2社も潰しています。従業員の集団退職に遭ったり、裁判で訴えられるといった経験もしました。もちろん今でも失敗の連続です。

    しかし、私はまったく気になりません。むしろそれを通じて、次の意思決定がますます素速く適切にできるようになっているからです。うまくいっているときは自分の行動の検証なんてしないですから、失敗した時のほうが得られるものが大きいと実感します。だから私は、失敗すればするほど、自分が成長するチャンスだと思っています。

    そのため失敗したときは、「おっ!ラッキー!これでまたひとつ賢くなった」と思えるようになりました。

    「失敗とは、成功に続く単なる試行錯誤のひとつの結果」、という「ただのプロセスに過ぎない」と考えれば、失敗を単なる失敗とは認識しなくなります。「こっちがダメならあっちを試す」と、まるでスポーツの練習をしているかのごとく、淡々と次の方法へ移ることができます。

    その経験と試行錯誤の蓄積によって、決断のスピードが上がり、適切な判断が即決でできるようになります。さらに最近は書く仕事も増えたため、失敗もしんどい経験も、すべてネタとして収益になります。

    「そうは言ってもやっぱり失敗は怖い」と感じている人に提案が2つあります。1つは、「何をもって失敗と言うのか?」。2つ目は、「失敗して何が困るのか?」です。

    それって本当に失敗なの?
    失敗の基準は人それぞれかもしれませんが、失敗の本質とは「狙いや思惑とのズレ」であり、「次の課題が明確になるチャンス」のはずです。

    失敗とは、「最初はこうなると思ってやってみたけど、実際はそうならなかった」ということであり、その結果「なぜ思っていたことと違ったのか、次はどうすれば思惑通りにいくか」、を認識できる場面というわけです。

    ですから繰り返しになりますが、失敗とは本来、極めて重要な学びのチャンスです。逆に言うと、失敗しないということは、次のうちのどれかにあてはまります。

    1、「思惑どおりうまくいった」
    2、「特に狙いを持たずにやっている」
    3、「そもそも何も挑戦してない」

    もちろん1が理想です。しかし2や3では、自分が学べるチャンスとはならないでしょう。特に3。失敗を恐れて何も挑戦しなかったり、今の自分の能力の範囲内でできることしかやらなかったりすると、自分が進化することはありません。ただそこに留まり続けるしかない、ということになりかねないのです。

    自分が絶対に避けたい「失敗」とは
    そこで、自分にとって本気で困る失敗を定義してみるのです。たとえば「こういう事態は絶対に避けたい」「こうなったら再起不能」「物理的にも精神的に立ち直れない」というものです。ちなみに、私の「失敗」の定義は次の3つです。

    ・自分や自分の大切な人が死ぬこと
    ・他人を死に追いやること
    ・10年以上の禁錮刑に処されること

    自分が死んだらすべて終わりです。再起も何もできない。でも、生きていれば必ずいいことがあるし、やり直しも逆転もできる。だから私は、自分が命を落とす可能性がある行為、たとえばスカイダイビングや雪山の登山、暴力団との取引などは絶対にしないと決めています。

    他人を死なせることも私にとっての失敗です。心の傷が大きく、トラウマとなり、精神的にも再起が困難であろうと想像できるからです。だから自分や家族の命を守るため以外では、自分からは絶対に暴力をふるわないと決めています。クルマの運転も、今では「超」がつくくらい安全運転です。

    3つ目は、やはり人生の無駄遣い感に心が折れそうだからです。10年あればできることの重さを考えれば、やはりしんどい。だから私は「ごめんね」では済まされない違法性の高いことには手を出しませんし、時間があれば法律書を読み、トラブルに巻き込まれないように意識しています。

    そして、これ以外は私にとっては失敗ではありません。なぜなら、これ以外の結果は、いくらでもやり直せるからです。心が復活できるからです。私がほとんどのことに挑戦できる理由がおわかりいただけると思います。

    もちろんこれは私の基準であって、あなたは違うでしょう。真似しましょうと言っても「無理だろ!」という声が返ってきそうです。しかし自分にとっての「これだけは避けたい」レベルを定義しておくと、チャレンジできる幅が広がるはずです。

    その失敗でいったい何が困るの?
    次に、挑戦して失敗した結果、何がどの程度困るのかを具体的にイメージしてみましょう。たとえば「お金を失う」というのは、もっとも普通の人が恐れる失敗ではないでしょうか。起業してうまくいかず、生活費が底をつく。投資をして損失を出す、というのは典型例かもしれません。

    しかし、たとえば起業して失敗し、生活費が底をついたら、またサラリーマンに戻ればいいだけです。収入は減るかもしれませんが、家賃の安い住居に引っ越せばいい。就職できなかったら、アルバイトで食いつなげばいい。

    それでも無理な場合は、生活保護を申請すればいい。生活保護を受けると、さらに家賃の安いところを紹介してもらえるし、医療費はタダ、公共交通機関も割引価格で利用することができます。

    借金まみれになって返済が苦しいことは失敗でしょうか?いいえ、「自己破産」すればいいだけです。自己破産は法律で認められた救済制度であり、生活や人生が破壊されるわけではありません。普通に銀行口座も開けますし、学校も会社も海外旅行だって行ける。

    破産後7年間は、ローンを組むとかクレジットカードを作るとか、経済的信用力を要する行為は制限されます。しかし7年経てば、個人信用情報データベースから自己破産の情報も消え、ローンも組めるしクレジットカードも作れるようになります。弁護士費用はかかりますが、分割払いができますから、それほど負担感はないでしょう。

    そして、生活保護を受けていても、自己破産しても、新しく事業を立ち上げたり、どこかに就職して働くことは何の問題もありません。まったく自由です。そう考えると、「お金の失敗」というのは、さほど気にならないことだとわかります。

    それって本当に恥ずかしいの?
    そう言うと、「何言ってんだ!生活保護や自己破産は大問題だろう!」という反論があるかもしれません。確かに多少の不便はありますが、でもその程度です。生活保護も自己破産も、国が定めた、れっきとした制度なのですから、必要性を感じるなら、活用しない理由はないでしょう。

    それで騒ぐ人は肝っ玉が小さいのです。

    ではなぜ肝っ玉が小さくなるか?ひとつの理由は「ぜいたく病」にかかっていること。もうひとつの理由は「自意識過剰」。

    ぜいたく病にかかった人は、家賃の安い賃貸に引っ越すこと、外食ができない、新しい服を買えないことといった、生活レベルを落とすことができなくなります。不便な環境が許せないし、そんな自分を受け入れることができないのです。しかし現在40代以上の人は、思い出せばわかると思いますが、子供の頃は何もなかったはずです。

    私の実家もそうでしたが、エアコンも水洗トイレもありませんでした。風呂は五右衛門風呂で、シャワーもない。毎日両親が薪をたいてお風呂の湯をわかしていました。

    また、現在のように高気密・高断熱の技術はありませんでしたから、家では冬は寒く、夏は暑い。もちろん携帯電話もパソコンもありません。だからといってあの環境に戻りたいとは思いませんが、そういう時代を知っていると、多少の不便にはすぐに慣れ、気にならなくなります。

    だから、もし貧しくなったらボロアパートに引っ越せばいい、と気軽に考えることができます。

    他人はあなたのことには興味がない
    また、他人は自分が思うほど、自分のことは見ていませんし、興味もありません。自分の失敗なんて、他人はほとんど気にしていない。一瞬は気にしても、すぐに忘れるものです。

    私自身、親戚が自己破産した、知人が起業したけど失敗してサラリーマンに戻った、東京ビッグサイトを借りきって巨大なイベントを企画したけど人が集まらなくて大赤字だった……という情報を耳にすることがあります。

    もちろん、本人にとってはとても苦しい経験だったと思います。それでもやはり、「へー」という感じで、それ以上でもそれ以下でもありません。あの著名な与沢翼氏を見ると、むしろ「あの若さですごく貴重な経験ができたな」と感じるほどです。

    失敗を恐れるのは、「恥ずかしい」という世間体です。バイトで食いつなぐこと、生活保護を受けること、倒産や自己破産することを「そんなのムリ」と感じる人は、人の目を気にしすぎる「自意識過剰」なのです。

  • 金持ちになれる人は「リスク」よりも「チャンス」を見る

    ◆年収300万円の人はリスクを背負うことから逃げる

    年収が300万円の人は、自分にはなかなかチャンスが回ってこない、と嘆きます。しかし年収1億円の人は、世の中チャンスだらけと考えています。この差は何でしょうか。

    まず年収300万円の人は、何かあるとすぐにリスクを探し、リスクを見つけるのが非常にうまい。できない理由を探すのも天才的に上手です。

    そして、リスクがあるものはイヤだ、苦労するものはイヤだ、面倒くさいものはイヤだ……。そんな発想を持っています。

    宝物は探しに行かなければ見つかりません。そもそも簡単に見つかるところにあるなら、とっくに誰かが掘り当てているはずだからです。

    ジャングルの奥地や海底深くといった難易度の高い場所にあるからこそ、誰も探しに行かないし、すぐには見つからない。

    だからまだ宝物が眠っている。つまりチャンスとは、リスクや困難というお面をかぶってやってくる。責任やプレッシャーというリュックを背負ってやってくるのです。

    ◆年収が1億円の人は乗り越える度胸がある

    しかし、チャンスがないという人は、無意識にそういう機会から逃げています。あるいは周囲の人の様子を見ています。

    それがチャンスだとわかったときは、他の大勢の人も殺到しているから、もうチャンスではなくなっています。そして、「自分はチャンスに恵まれない」ということになるわけです。

    マネー雑誌の取材を受けたときに聞いたのですが、株価が低迷しているときは雑誌は売れず、株価が高くなると売れ始めるのだそうです。多くの人が「投資のセオリー」とはまったく逆の行動をしていることがわかる瞬間です。

    年収が1億円の人は、発想が逆で、まずリターンを見ます。リスクがあっても、それをひとつひとつ解決する方法を考える。あるいは乗り越える度胸がある。

    だからみんなが躊躇しているマーケットにいち早く飛び込める。投資では安いときに買えるし、ビジネスなら競合が少ないタイミングで参入できるから、大きく刈り取ることができるというわけです。

  • >>55

    名ばかり管理職
     ブラック企業の特徴の一つに「精神論の押し付け」がある。「夢は必ずかなう」「会社は家族」「感謝を忘れない」などのパワーワードを連呼して、個人が死ぬ気で頑張れば、どんなむちゃな目標も実現できるという洗脳を施して、過重労働や長時間労働を「自分の意思で行う」ように仕向ける。

     また「名ばかり管理職」のように、責任感があるような肩書きを与えることで、「そんなことじゃ信頼されるリーダーになれないぞ」と尻を叩いて、精神論の押し付けを「下」の人間にまで波及させる。

     実はこれも日本社会あるあるで、苦しくなればなるほどこのように「精神論の押し付け」によって、面倒な問題を個人に丸投げする動きが活性化するのだ。その最たるものが、東京都が新たな感染対策として打ち出した「コロナ対策リーダー」だ。

     これは、都内の飲食店の店長や店員の中からeラーニングで感染対策のポイントを学び、率先して感染防止策に取り組む「コロナ対策リーダー」を登録してもらうというものだ。

     「飲食店の感染を抑えるためにも必要な取り組みじゃないか」と感じる方も多いかもしれないが、「リーダー」になったところで何かの権限を与えられるわけではない。マスク会食しない客に対して「私、コロナ対策リーダーなんで」とステッカーを見せびらかしても「だからなに?」とあしらわれるのが関の山だ。

     では、どんな効果があるのかというと、居酒屋側に責任感を押し付けて、自分から進んで客に「マスクをしてください」と注意するように仕向けることだ。実際、夕方のニュースを見ていたら、コロナ対策リーダーに登録したという居酒屋店主が「やる気が出てきました、命を預かっているという自覚がでた」と述べていた。

     ここまで言えばもうお分かりだろう、「コロナ対策リーダー」とはブラック企業でいうところの「名ばかり管理職」と同じなのだ。

     肩書きと責任を与えるだけで権限や見返りは一切与えない。そんな丸腰の個人を戦いの最前線に立たせて、難局を乗り切ろうという戦い方を日本の為政者はよく好む。「頑張れ」「今こそ一つに」と音頭を取ってさえいれば、根本的な対策やシステムの改革などに手をつけなくていい。つまり、個人に問題を丸投げすることで「現状維持」ができるのだ。

     実際、居酒屋の間からはこの制度について、「正直、仕組みに違和感がある。店舗ごとの取り組みでいいのではないか。国の対策としてしっかりやってくれたほうがいい。こういったもの一つ一つの負担が現場には重い」(TOKYO MX 3月22日)という疑問の声も少なくない。

    日本人の根性が足りない
     コロナ禍になってから、日本社会は前にも増して「根性」や「気合い」が語られるようになった。

     欧米よりも感染者数が少ないのは、「日本人が自粛を頑張ったから」。逆に、ちょっとでも感染者が増えると「若者の気がゆるんでいる」。ワンチームで一生懸命取り組めばコロナはきっと撃退できる。そんな高校球児のようなムードがそこかしこに漂っているので、首相の演説も具体的な対策より、「全力で取り組みます」という気合をいかにアピールするかに終始している。

     日本人が追いつめられるほど精神主義に傾倒するのは、動かし難い歴史の教訓だ。そのうち、「GDPがちっとも成長しないのは、最近の日本人の根性が足りないからだ」とか言い出す日もそう遠くないのではないか。

  • こんなに頑張っているのに、なぜ日本だけGDPが回復しないのか

     春だというのに暗い気分になりそうな、景気の悪い話が聞こえてきた。

     早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏の「弱いGDP回復力、コロナで日本の国際的地位は低下する」(ダイヤモンドオンライン 4月1日)によれば、IMF(国際通過基金)の推計をもとに中国、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ、日本の2019年から21年へのGDP増加率を比較したところ、日本が0.46%と最低だった。

     中国(14.5%)を筆頭に、ドイツ(11.8%)、フランス(7.4%)などほとんど国が2%以上成長をしている。1日ウン万人という新規感染者が出て、いまだにロックダウンを繰り返し失業者も大量にあふれている国でさえ、着々と経済が回復しているにもかかわらず、日本だけがパッとしないのである。

     このような状況に対して、「日本経済の回復が遅いのは、経済活動より感染封じ込めを重視しているからだ」とコロナを言い訳にする人たちもいるが、実はコロナのはるか以前から、日本のGDP成長率は先進国の中でダントツに低かった。

     要するに、もともとパッとしていなかったところ、周りの国々がコロナ危機の中でもたくましく成長をしてしまったものだから、パッとしなさ具合がさらに際立ち、結果、諸外国から完全に置いてけぼりをくらってしまったような形なのだ。

     なんてことを指摘すると、「日本の強さはGDPだけでは測れない!」「日本だけがこんな低いのはおかしい、IMFの推計が間違っているのだ!」などと現実逃避をしたくなる方もいらっしゃるだろう。筆者もそのお気持ちは痛いほど分かるし、心情的にはこんなデータはまったく納得がいっていない。というか、怒りさえ感じる。

     日本人はこの1年間、みんなで手を取り合って日常を取り戻すために必死で頑張ってきた。にもかかわらず、よその国よりも経済回復していないなんて、なぜこんな理不尽な話が許されるのかと強い憤りを感じるのだ。

    結果が伴わないシステム
     客が来なくても店を開ける。売れなくても売り場に立つ。多くの日本人がそんな心がポキンと折れそうなつらい戦いを続けたのが、この1年だった。

     ようやく経済活動が復活できそうな明るい兆しが見えた途端、新規感染者がドカンと増えることの繰り返しに、「このままじゃコロナの前に死んでしまうだろ!」と不満を言いたいところをみなグッと抑え込んだ。「医療従事者の皆さんはもっと大変だ」と自分に言い聞かせながら、身も心もボロボロになりながら働き続けた人が職種を問わず、たくさんいらっしゃるはずだ。

     それがうかがえるようなデータもある。3月に米マイクロソフトが発表した「Work Trend Index」によれば、コロナ禍で疲れを感じている社員がグローバルでは39%、アジア全体では36%のところ、なんと日本では48%と突出して高くなっている。ストレスについても同様で日本の社員は45%で、グローバルの42%、アジアの39%を上回っている。

     こんなにも、よその国よりもストレスを抱えて疲弊するほど頑張っていたのだから、ある程度はその努力が報われていてもおかしくはない。しかし、現実はケタ違いに感染者があふれ、ロックダウンで失業者があふれていたような国よりも経済は冷え込んでいる。神も仏もないのか、と嘆きたくなるシビアな結果だ。

     では、なぜこうなってしまうのか。頑張りが足りなかった、サボって足を引っ張るような連中がいた、などいろいろなご意見はあろうが、筆者はシンプルに日本社会のシステムが、ブラック企業のそれと根本的なところで同じだからではないか、と考えている。

     お勤めした経験のある方ならばよく分かると思うが、ブラック企業というのは社員がどんなに不眠不休で働いても、気合と根性で仕事を取り続けても、会社の成長に結び付かない。瞬間風速的に売り上げは立つが、人力に100%依存したビジネスモデルなのでどこかで必ず限界に達する。競合にあっさり敗れるか、労務問題やパワハラ問題などで火を吹く。つまり、「個人が命をすり減らしながら頑張っても、結果が伴わないシステム」なのだ。

     そして実はこれはブラック企業だけに限った話ではない。日本の善良な労働者の多くは、そういう意識がないだろうが、日本経済は「個人の労働力」に徹底的に依存して、それを骨までしゃぶるシステムで成り立っているわりに、命をすり減らすほど頑張った個人への見返りが異常に少ない。

     その証左が、今や日本名物ともなった「低賃金重労働」だ。

    「実質的失業者」問題
     日本人労働者の賃金が先進国の中で際立って低いことは、さまざまな客観的なデータが示す事実であり、最近ではいよいよ韓国にまで抜かれてしまったと話題になった。

     しかも、責任感からタダで働く、いわゆるサービス残業がまん延しているようにハードな働きぶりで知られている。有給取得率も低いし、精神的にもかなり追い込まれる。NHKも参加している国際比較調査グループ(ISSP)によれば、日本のパワハラ比率は25.3%と世界37カ国中第4位であり、主要先進国の中で際立って高い。

     ちなみに、このような日本のブラック企業化は、外国人犯罪も増やしていく。

     「低賃金重労働」がデフォルトなので当然、若者は少しでも条件がいい企業にわっと押し寄せて、重労働のわりに賃金が低い業者には誰も寄り付かなくなる。そこで言葉巧みに中国やベトナムから安価でこき使える、いわゆる「外国人労働者」を大量に迎え入れたわけだが、それらの国でも経済成長著しく賃金が急速に上がっている。そうなれば当然、「なんで安い給料でこんなにコキ使われるのだ」と不満が募るので、職場から逃げ出して不法滞在状態になる外国人も増えていく。その中には、犯罪に流れる者も出てくる。

     21年2月、群馬県警が20年中に摘発した在日外国人(永住者、特別永住者などを除く)が433人と過去10年で2番目に多く、このうちベトナム人が212人と国籍別で最多になったというニュースがあったが、こういう話が全国で雪だるま式に増えていくのだ。

     「確かに、日本の低賃金や長時間労働は問題だが、だからといって、それをブラック企業と重ねるなんて話が飛躍しすぎる」というご意見もあろうが、ほかにも共通点は山ほどあるのだ。

     例えば、ブラック企業のブラックたるゆえんの一つに、バイトや派遣労働者という雇用が不安定な人たちの弱さにつけ込んで、徹底的に使い倒すという卑劣な手法があることが知られているが、実はこれは日本経済の根幹をなすシステムでもある。

     それを象徴するのが、「実質的失業者」だ。

     これは野村総合研究所が、パート・アルバイトのうち、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」人たちのことを定義したもので、統計的な「失業者」「休業者」は含まれない。

     分かりやすく言えば、雇い主から「ごめんね、コロナで厳しいから今月はシフト半分で」なんてことを言われながらも本来もらえるはずの休業手当ももらえず、給料半額でしのいでいるパートやアルバイトの方たちのことだ。

    労働搾取の構図
     そんな気の毒の人たちがいるなんて、と驚く正社員の方たちも多いかもしれないが今、飲食店、ホテルなどサービス業の現場にはこの「実質的失業者」が山ほどいる。野村総合研究所が2月に、全国20~59歳のパート・アルバイト就業者6万4943人を対象に調査をした結果と、総務省の労働力調査を用いて推計したところ、21年2月時点で、全国の「実質的失業者」は、女性で103.1万人、男性で43.4万人にのぼったという。

     では、なぜこのおよそ150万人もの方たちは、こんな常軌を逸したブラック労働に甘んじているのかというと、立場が弱いからだ。「シフトを減らすなら休業手当くださいよ」「それじゃ食ってけないから、ほかのバイトと掛け持ちします」などと不満を言って、雇い主の機嫌を損ねたら、もっとシフトが減らされてしまうかもしれないし最悪、クビになってしまうかもしれない。だから、どんなに理不尽なことを言われても、それに従うしかないのだ。

     この労働搾取の構図は、ブラック企業で異常な働き方を命じられても、ただただ従うしかない派遣やバイトの方たちとまったく同じである。

     このように弱い立場の人をこき使わなければ成立しない産業が残念ながら、日本の中にはたくさんある。良い悪いという話ではなく、これが偽らざる日本の姿なのだ。

     もちろん、このように言われたところで「はい、そうですか」とすんなりと受け入れられない人がほとんどだろう。ブラック企業のような悪い連中はほんのひと握りであって、ほとんどの日本人は搾取だなんだとは無縁だ。そう思う方が圧倒的に多いはずだ。

     ただ、日本のシステムがブラック企業のそれと同じだということの動かぬ証は、実はわれわれのすぐ身近にある。それは、「精神論」だ。

  • モノの値段が下がるデフレはなぜ危険なのか?

     「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」という疑問にこの連載ではいろんな角度から答えを示していきます。お金持ちなら誰でも知っている秘密を明かしていきます。
    その疑問の答えにたどり着くには「お金」「経済」「投資」「複利」、そして「価値」について知っておく必要があります。少し難しい話も出てきますが、今は完全にわからなくても大丈夫です。
    資本主義の仕組みについても、詳しく解説していきます。なぜなら、資本主義の世界では、資本主義をよく知っている人が勝つに決まっているからです。
    今後の答えのない時代において、どのように考えながら生きていけばいいのか、ということもお話ししていきたいと思います。さあ、始めましょう!
    (もっと詳しく知りたい人は、3月9日発売の『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)を読んでください)

    ● 1000円の価値は 1000円のままではない

     世界が順調に成長しているのに日本の成長が止まっているため、相対的に日本の経済的地位は落ちています。でもこの事実を見ても、「いいじゃん、今のレベルの暮らしが続くなら大丈夫」と思っている人も多いはずです。この人たちは、お金の価値、とりわけ円の価値が相対的に変わらないと信じているおめでたい人たちだと思いますよ。

     今、皆さんのお財布には1000円札が入っていますか?このお札は1000円のモノと交換できるということで、1000円の価値があるとみなされています。皆さんは、1000円の値札が付いているモノは、ずっと1000円で買えると思っているのではないでしょうか。

     ところが、1000円のモノは常に1000円で買えるわけではないというのが、リアルな経済の世界なのです。お金の価値は相対的な信用で成り立っています。お金の価値、とりわけ君たちが持っている円の価値を奪うものに2つの要因があります。一つはインフレーション、もう一つは円安です。通貨はその信用が大事です。通貨(円)に対する信用が落ちると、同じ1000円を持っていても買えるモノが少なくなってしまうのです。

    ● インフレーションとデフレーション

     インフレーション(インフレ)とは、物価が継続的に上昇する状態で、通貨の価値は下がります。たとえば、極端なケースでは、今日は100円でりんご2個買えたのに、翌日には1個しか買えないという状況です。景気が良くなると、インフレが起こりやすくなります。インフレ時には、企業の売上が増加し、従業員の給料が増え、モノを買おうとする意欲が生まれる、という循環が生まれます。

     一方、デフレーション(デフレ)とは、物価が継続的に下落する状態を言い、通貨の価値が上がります。皆さんも何となく聞いたことがあると思いますが、これまで日本は長年に渡って「デフレ」を経験してきました。

     理由はいろいろあります。1990年代に入ってバブル経済が崩壊し、景気が悪化したこと。経済のグローバル化が進み、中国など人件費の安いところから輸入されるモノが増え、安い商品が増えたこと。そもそもモノが余っていること。お給料が増えないため少しでも貯めようという意識から消費が抑制されていること。老後の不安からお金を使わなくなっていること。挙げればきりがないのですが、日本経済はバブルが崩壊してから30年も経つのに、物価はほとんど上がらず、状況によっては下がるというデフレを経験してきました。

     物価が下がると、相対的にお金の価値は上がります。同じ1000円で買えるモノの数量が増えるからです。バブル経済が崩壊してからの30年間、日本人はただ現金を握りしめているだけで、相対的にお金の価値は上がっていたのです。

     「先生、モノの値段が下がることはいいことじゃないんですか」

     そう思いますよね。そう思って当然だと思います。でも、モノの値段が下がるということは、企業の売上が減るということです。それはお父さんお母さんの給料も減るということにつながっていきます。モノの値段が下がる以上に、給料が減ってしまったら、結局貧乏になってしまいますね。だから政府は、公共投資を増やしたり(財政政策)、世の中に出回るお金の量を増やしたり(金融政策)することで、人々のインフレ期待を高め、デフレ脱却を図る政策を採っていますが、いまのところ成功しているとは言えない状況です。

     このままこのような政策を採り続け、国の借金が増え続けると、スタグフレーション、すなわち景気が悪いのにインフレが起こってしまうという最悪のシナリオになりかねません。これは給料が下がる中で物価が上がり、買えるモノが少なくなってしまうという現象です。

     これを防ぐには、経済を健全に拡大することが必要です。財政政策や金融政策に頼ることなく、企業活動を自律的に活発化することで、経済のパイそのものを大きくしていくしかありません。現状維持などと呑気なことを言っていると、いずれインフレで現状維持すらかなわなくなるのです。

     参考記事
    資本主義の世界で、「現状維持」は
    落ちていくのと同じである
    “GoTo”に群がるさもしい人々

  • こんなにも違う!ビットコインと株式の確定申告

    2021年の確定申告も、新型コロナウイルスの影響で申告期限が1カ月延び、4月15日までとなりました。事業所得がある人はもちろんのこと、不動産などの譲渡所得がある人や医療費控除を受ける人などが確定申告の対象者となりますが、投資によって収益があった人も確定申告をしなければなりません。

    株式投資やビットコインはどちらも“投資”ですから収益があった場合は確定申告をしなければなりませんが、同じ“投資”であるにもかかわらず、実はこの2つに対する税金の捉え方や計算方法はまったく違います。

    そこで本日は、投資の代表ともいえる株式投資と最近話題になっているビットコインについて、それぞれの確定申告や税金の計算方法の違いを解説していきます。

    そもそも「所得税」とは

    所得税とは、以下に挙げる10種類の所得があった場合に課税される税金のことをいいます。

    利子所得・・・預貯金や公社債の利子などの所得配当所得・・・株式などの配当金所得不動産所得・・・土地や建物を貸し付けることにより得られる所得事業所得・・・さまざまな事業を行うことにより得られる所得給与所得・・・勤務先から受ける給料や賞与退職所得・・・勤務先などから退職時に受ける一時金山林所得・・・山林を伐採して譲渡した場合などの所得譲渡所得・・・土地・建物・ゴルフ会員権などを譲渡することによって生じる所得一時所得・・・上記8つの所得に該当しない競馬の払戻金や生命保険の満期返戻金などの一時的な所得雑所得・・・上記のすべてに該当しない所得

    株式の売買とビットコインの売買は所得の種類が違う
    株式の売買もビットコインの売買もどちらも同じようなものと思われるかもしれませんが、実は所得の種類が違います。

    株式の売買によって得られる所得は「譲渡所得」、そしてビットコインの売買によって得られる所得は「雑所得」と定められています。

    総合課税と分離課税
    会社員として給与をもらいながら副業をしているなど複数種類の所得を得ている場合は、それらの所得を合算します。

    しかし、10種類すべてを合算するのではなく、実際には合算するものと合算しないものがあります。所得を合算するものを「総合課税」といい、合算しないものを「分離課税」といいます。

    総合課税・・・不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得(ゴルフ会員権の売買など)、一時所得、雑所得分離課税・・・配当所得、退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物・株式などの譲渡による所得)、雑所得(株式の譲渡や先物取引による所得)

    ご覧のように、土地・建物や株式などの譲渡所得だけは、同じ譲渡所得でもゴルフ会員権などとは区別して、分離課税で計算するように定められています。

    所得税は累進課税?
    課税対象となる価額が増えるとそれに応じて税率が増えていく課税制度のことを、累進課税といいます。「所得税は累進課税」と言われていますが、実はこれは総合課税の部分のみを指しています。

    総合課税の対象となる所得については合算し、累進的な税率で課税されます。したがって所得が増えれば増えるほど税率そのものも高くなります。

    それに対して分離課税の対象となる所得については他の所得と合算しないで、その所得だけに独自の税率をかけて所得税が計算されます。

    株式投資の税率とビットコインの税率の違い
    株式の売却益や配当金にかかる税率は以下のように定められています。

    株式投資にかかる税率・・・所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%

    株式投資に関する税金は分離課税で計算されるため、どれだけ株式投資で利益を上げたとしてもその税率は20.315%と一定です。したがって、仮に株式の売買で100億円を儲けたとしても税率は20.315%で済むわけです。

    いっぽうビットコインは総合課税で計算されるため、合算した所得の金額に応じて下記の所得税率が適用されます。

    ご覧のように所得税率は最高で45%と定められており、それにしたがい復興特別所得税は0.945%、住民税は一律10%となるため、ビットコインの売却益と他の所得の合計が4000万円以上になると、税率は合計で何と55.945%にもなります。

    ※総合課税の場合は他の所得と合算後の所得金額に応じて税率が決まるため、ビットコインの売却益とは関係なく他の所得(たとえば給料など)が多ければ、税率も当然高くなります。

    ですから、たとえば年収1億円くらいある人の場合は、ビットコインであげた収益が少額でも、その収益全体にかかる税率は55.945%になってしまいます。

    ここまでのまとめ
    ここまでの内容を簡単にまとめておきます。

    株式売買の所得とビットコイン売買の所得は、税法上の区分が異なる株式の所得は譲渡所得、ビットコインの所得は雑所得に分類される株式の譲渡所得は分離課税、ビットコインの所得は総合課税で税額計算をする分離課税の税率は所得金額に関わらず同じであるが、総合課税の税率は金額に応じて累進的に上がっていく

    これらの基礎知識を踏まえた上で、次は株式とビットコインの確定申告についてそれぞれ見てみましょう。

    株式売買の確定申告

    上場している株式を売買するためには、証券会社で口座を開設しなければなりません。口座には、以下の3つの種類があります。

    NISA(非課税)口座特定口座一般口座

    NISA(非課税)口座
    NISA(非課税)口座では、新規投資額は毎年120万円まで、投資枠最大600万円(120万円×5年)までの株式について、その譲渡益が非課税となります。したがって株式の売却益に対して上述の20.315%が課税されませんし、確定申告の必要もありません。

    特定口座
    特定口座とは、本来なら株式の譲渡益を確定申告しなければならないところを、本人に代わって証券会社が損益の計算を行い、「特定口座年間取引報告書」を交付する口座のことをいいます。

    特定口座には「簡易申告口座」と「源泉徴収口座」の2つがあり、簡易申告口座を選択した場合は株式の譲渡益に対して譲渡益税が源泉徴収されないため、自分で確定申告をしなければなりません。いっぽう「源泉徴収口座」は、譲渡益税が源泉徴収されるため確定申告の必要がありません。

    株式の譲渡益が年間20万円以下の場合であれば申告・納税の義務はありませんが、源泉徴収口座を選択していると問答無用で税金を徴収されてしまいます。簡易申告口座を選択しておくとそのようなことは起こりませんが、その代わりに年間の譲渡益が20万円を超える場合は確定申告をしなければなりません。

    また、株式の取引により損失が出た場合は、どちらの口座を選択していても確定申告を行えば配当金と損益通算して源泉徴収されている税金が戻ってきたり、それでも引ききれなかった損失に関しては、翌年より3年間繰り越すことができます。

    一般口座
    一般口座とは、NISA口座や特定口座で管理されていない上場株式等を管理する口座のことをいいます。一般口座を使って株取引を行う場合は、特定口座のように取引報告書を証券会社が作成してくれないため、年間の譲渡損益を自分で計算して確定申告をしなければなりません。

    ビットコインの確定申告

    ビットコインの確定申告は、株式の場合と比べるとずっとシンプルです。会社員の場合であれば、年間の利益が20万円を超えると確定申告をしなければなりません。その場合は、給与所得と雑所得を合算し、税金を計算します。上述のように、税率は累進的に上がるため、最高で利益の55.945%が課税されることになります。

    ちなみに、ビットコインの取引で出た「損失」は他の所得と損益通算ができないため、確定申告をする必要はありませんし、また、確定申告をして税金が還付されることもありません。もちろん翌年以降に損失を持ち越すこともできません。

    税制面から考えるとビットコインは投資には向いていない
    株式投資は、給与所得などの他の所得の有無に関わらず、また、どれだけ収益を上げたかにも関わらず、常に税率が20.315%と一定です。しかも、損失が出た場合は、翌年より最大3年間は損失を持ち越すことができます。

    それに比べるとビットコインの場合は、ビットコインの所得が他の所得と合算されるだけでなく、税率そのものも累進課税が適用されているため最大で55.945%もの高い税率が適用されてしまいます。

    これでは、どう考えてもビットコインに勝ち目はありません。あえて言うなら、余剰資金のごくごく一部を、勉強もかねてビットコインに投資する程度にとどめておく方が賢明でしょう。

    まとめ
    ビットコインも株式も、どちらも投資であることには変わりありませんが、税制上の扱いにはかなりの違いがあります。株式投資はビットコインほど値動きが激しくないためパフォーマンスが劣るように見えるかもしれませんが、税率はかなり低く抑えられており、また特定口座などの制度も充実しています。

    一方、ビットコインの場合は合算した所得に応じて税率が累進的に上がるため、見た目の値動きと比べ税引き後のパフォーマンスは思った程にならない可能性が高いと言えます。

    どちらに投資を行うにしても、このような税制上の違いを十分に理解した上で投資判断を行うようにした方が良いでしょう。

  • 投資アプリで大混乱の米株式市場 結局、損をしたのは

    ■いちからわかる!

     Q 米国の株式市場で個人投資家の「反乱」が話題になったの?

     A ゲームストップというゲーム販売店の株式をめぐる騒動だね。SNSでつながった若者らが一斉に同社の株を買い、年初に20ドル以下だった株価は1月末に一時400ドルを超えた。株価下落に賭けて同社の株を「空売り」していたヘッジファンドは大損を出した。若者たちは、様々な手法でもうけているファンドを「力を悪用している」と敵視し、ねらいうちにした。

     Q 「空売り」って何?

     A ほかの投資家から株を借りてきて市場で売り、一定期間後に買い戻して株を返す取引だ。株価が下がれば差額がもうかるが、上がると損が膨らむ。手元になかった株を売りに出すことから「空売り」という。

     Q 株ってそんなに簡単に取引できるの?

     A 米国では「ロビンフッド」という日本にはない投資アプリが人気で、1千万人以上が使っている。売買手数料が無料なこともあり、スマホでゲームを楽しむ感覚で、株やビットコインを売買できる。コロナ禍による「巣ごもり生活」で、時間を持て余した若者らが引きつけられたんだ。

     Q 問題はないの?

     A ロビンフッドは新たに投資を始める人を増やした一方、知識も経験も不十分な人々を呼びこんで市場の「カジノ化」を進めてしまった面もある。ゲームストップ株の取引高が、アップルなど有名な銘柄を超えた日もあったんだ。

     Q 結局、個人投資家はもうかったの?

     A 取引過熱を受けて、ロビンフッドはゲームストップ株の取引を制限し、株価は約40ドルに急落した。その後、再び200ドルを超えるなどいまだ乱高下しており、この間、損をした投資家も大勢いる。米国の規制当局は、この騒動で相場を操るなどの違法行為がなかったかを調べている。(ニューヨーク=江渕崇)

  • これからインフレになるの? 物価連動国債ってなに?

    これから日本はインフレになるのか。インフレは、いわずもがな、インフレーションのことですが、物価が上昇するという意味です。

    私たちは、なんとなく、インフレ=悪のような印象を持っていますが、例えば、オイルショックの頃のハイパーインフレの話題がいまだに語られるため、このようなイメージを持ってしまっているのかもしれません。

    ハイパーインフレというのは、日本語では狂乱物価などと訳されます。日銀が超大規模に金融緩和政策を実施している以上、ハイパーインフレになる可能性は極端に低いといえますが、程よいインフレーションが実現される可能性はあります。

    このようなことから、コロナショック後の日本経済において、物価が上昇するかどうかが話題になっているようです。そこで注目されているのが「物価連動国債」という債券ですが、これについて仕組みを見ていきたいと思います。

    物価連動国債の概要
    その前に、物価が上がるかどうかは、金融緩和政策の行方次第で決まるわけですが、日銀の基本方針として、年率2.0%の物価上昇率が安定的に持続するまで金融緩和政策を維持するとしているため、この水準まで物価が上がるとするならば、という視点で話を進めていきます。

    本来なら、物価が上昇しにくいだろうと予測できる要因がいくつかありますが、これについてはここでは言及しないため、その点はご留意ください。財務省のホームページで物価連動国債の商品設計が紹介されています。

    物価連動国債のイメージ
    ※出典:財務省 「物価連動国債の商品設計」

    物価連動国債の特徴は、元金額が物価の動向に連動して増減する点です。つまり、物価が上昇すると、元金額が増え、反対に物価が下落すると、元金額が減るという仕組みです。そして、国債であるため利率、つまり、金利が付与されています。償還時は、金利に係る利息分と償還時の元金額が手元に戻ってくるという商品設計になっています。

    上の図では、物価の変動に合わせて増減する元金を想定元金額と表現しています。また、利率(金利)については表面利率と表現されています。このため、上の図を見ながら、言葉を読み替えてみると、概要が理解しやすくなると思います。

    物価連動国債には元本保証がある
    ただ、注意しておく必要があるのは、物価が下落した場合、想定元金額も目減りするという点です。「えっ、損しちゃうの?」と思うかもしれませんが、元本保証だけはされるようになっています。この仕組みを説明しているのが次の図です。

    元本保証(フロア)のイメージ
    ※出典:財務省 「物価連動国債の商品設計」

    少し解説すると、ポイントは「償還時の連動係数が1を下回る場合、額面金額で償還される」という点です。

    要するに、償還時に物価が下落していても、元金だけは保証されるよって話です。すごくざっくりとお伝えしましたが、全ては連動係数次第というのが物価連動国債のポイントになります。上の図を見ながら、財務省のホームページに掲載されている運用上のポイントについて見ていきましょう。

    (1)連動係数が1を下回る場合、期中の想定元金額は額面を割り込みます。
    (2)償還時の連動係数が1以上の場合、そのまま想定元金額を算出し、元金・利息が支払われます。
    (3)償還時の連動係数が1を下回る場合、額面金額にて償還します。

    ということなので、償還時の連動係数が1以上か、1を下回るかで結果が分かれるという点は押さえておきましょう。

    ちなみに、物価連動国債は、文字通り物価に連動する国債であるため、消費者物価指数がベンチマークになっています。この値を基準に連動係数が算出されているため、運用を検討する際は、傾向を探るため、過去の物価動向と連動係数の時系列データを確認する必要があります。

    気になる場合は、財務省のホームページ「物価連動国債(10年)の適用指数及び連動係数」(※)を参考にグラフ化して確認するといいかもしれません。

    まとめ
    経済が回復していくと物価が上昇していくのは必然的な流れです。

    ただ、日本の場合、物価の上昇率が極めて低いという構造的な問題があるため、インフレという言葉の響きに期待する程の物価上昇は見込みにくいというのが現実的かもしれません。

    物価連動国債は、資産運用をする上では、物価の上昇と連動する債券であるため、景気が良くなるとプラスに働きますが、株式投資などのリスクオン投資と似たような動きをしていく可能性が高いことから、リスクヘッジの効果は限定的になります。

    分散投資の効果がないとは言い切れませんが、この点は注意しておきましょう。

    出典
    財務省 物価連動国債の商品設計
    (※)財務省 物価連動国債(10年)の適用指数及び連動係数

  • 米で景気過熱予想が台頭 金融引き締め警戒、市場に潮目

     【ワシントン=塩原永久】バイデン米政権が1兆9千億ドル(約200兆円)規模の経済対策を実現させるのは、新型コロナウイルスの打撃を受けた景気の正常化を急ぐためだ。ただ、空前の財政出動による景気過熱を見越し、米長期金利が急伸している。金融緩和による超低金利に慣れ切った投資家は、金融引き締めに向けた潮目の変化が近づいたと警戒を強めている。

     バイデン氏は「米国救済プラン」と呼ぶ対策について「コロナ制圧に道を開くものだ」と説明してきた。コロナ禍では低所得層ほど失業率が高く、格差が広がった。巨額対策で高めの経済成長を生み出し、雇用市場への「傷痕を長引かせない」(イエレン財務長官)ようにする狙いもある。

     一方、財政出動の規模が過剰だとして、経済学者からは「予想インフレの急伸リスクがある」(サマーズ元米財務長官)、「経済をひどく過熱させかねない」(ブランチャード元国際通貨基金チーフエコノミスト)との懸念が出ている。

     米シカゴ大の調査では昨年春の現金給付1200ドルは給付から10日間で約3割が消費に回った。今回の1400ドルも消費拡大を力強く牽引(けんいん)しそうだ。ワクチンの普及も経済正常化を後押しし、米金融大手ゴールドマン・サックスは2021年末に失業率が4・1%に改善すると予想。コロナ禍前の水準に近づき、物価上昇圧力になるとみられる。

     日米欧の中央銀行による強力な金融緩和で、超低金利の市場環境が続いてきたが、米景気が急回復するとの観測を反映し、米10年債利回りが半年前の0・6%台から、1・5%台まで上昇(債券価格は下落)している。

     米金利上昇が進めば、巨額の「緩和マネー」の流れが急変しかねない。13年5月、米連邦準備制度理事会(FRB)首脳が量的金融緩和策の縮小を示唆して米長期金利が急上昇し、世界の金融市場が大混乱に陥った「テーパー・タントラム」(市場のかんしゃく)再来を警戒する見方もくすぶっている。

  • 金利上昇ではじまったマネーの変調 「低金利」「株高」併存の終焉か

    長期金利上昇で揺れ動く市場

    世界の金融市場で動揺が続いている。

    混乱の発端は、「経済の体温計」とされる長期金利がアメリカで急上昇したことだ。

    指標となる10年物国債の利回りは、2月25日、およそ1年ぶりの水準となる1.61%にまで上がった。これが引き金となって、株価は急落、ダウ平均が500ドル以上値下がりし、26日の日経平均も1200円を超える下落幅となった。

    金融市場では警戒感が広がり、株式と債券は不安定な値動きを続けている。

    長期金利が跳ね上がるまでのマーケットは、感染拡大という非常事態のもとで、業績期待による株価上昇と、債券市場での利回り低下が続き、「株高」と「低金利」が併存する状況が続いていた。

    一般的に、景気がいい状態が続くときは、リスクをとって株式市場にお金が流れ込みやすくなる反面、債券は売られやすく、金利は上がりやすい。

    一方で、景気が悪くなっていくときは、株価は下がる反面、相対的にリスクが低いとされる債券が買われやすくなり、金利は下がりやすくなる。

    このように、株式と債券の価格は、逆の相関関係で動くことが多いとされているが、新型コロナの感染が広がるなかで、株高と債券高が並び立つ事態となり、金利が下がるとともに、株価が上がっていく様相となっていた。

    「株高」と「低金利」の併存
    こうした状態が生み出されたのは、経済のダメージをやわらげるために、各国政府が大規模な財政出動を行うとともに、それぞれの中央銀行が量的緩和や利下げを行って大量のお金を市場に供給し、景気の下支えを図ったためだ。

    財政政策と金融政策の両面で、未曽有の緊急対策を打ち出し、家計消費や設備投資に効き目を及ぼして、経済正常化への道筋を支えようとしたことが金融市場に色濃く影響した。

    景気は上向き、企業業績も回復していくだろうという期待が膨らみ、金余りによる株式市場への投資マネーの流入効果もプラスされて、株価が持ち上げられた。その一方で、利下げと緩和作用により、金利は抑えられる。

    こうした結果、株高と低金利が並び立つ状況が作り出されたわけだ。

    バイデン経済対策で景気過熱か
    しかし、このような相場環境はそう長くは続かないだろうという懸念が顕在化したのが、今回の長期金利の急上昇だ。

    背景には、アメリカのバイデン政権の巨額の財政出動の実現が近づいてきたことがある。

    ホワイトハウスと上下両院を民主党が制する「ブルースイーブ」が達成された結果、民主党の意向に沿った経済対策が遂行されやすくなった。

    追加経済対策の法案は、2月27日の下院に続いて、3月6日には一部修正のうえ上院で可決され、近く成立する見通しだ。家計支援として1人あたり最大1400ドルの追加支給を盛り込むなどしていて、総額は1.9兆ドルにのぼる。

    一方で、2021年1-3月期の総需要と供給力の差にあたる需給ギャップは、アメリカ議会予算局(CBO)の試算で0.5兆ドルであり、サマーズ元財務長官などからは「過大でインフレのリスクがある」との指摘が出てきている。

    長期金利には、景気の見通しや金融政策の先行きについて、市場関係者が考えた結果が反映される。バイデン政権の大型の景気刺激策に加えて、ワクチン接種の進展という後押しもあり、アメリカの景気は過熱してインフレが進むのではないかという観測が強まった。

    さらに、そうなれば、FRB=連邦準備制度理事会は、早めにいまの金融緩和を手じまいして、利上げに転じ、景気にブレーキをかけようとするのではないかーこうした市場の見方が金利上昇の圧力を高めたのだ。

    8年前のFRBの苦い経験
    FRBには、8年前に起きた「テーパータントラム(Taper tantrum)」という苦い経験がある。

    この造語は「テーパリング(Tapering)」(緩和の縮小)と「テンパータントラム(Temper tantrum)」(癇癪)を組み合わせたもので「金融緩和縮小による市場の癇癪」を示す。

    2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が量的緩和の縮小を示唆したところ、長期金利が急騰し、新興国から資金が流出するなど、金融市場に大きな波乱をもたらした。

    政策転換に向けて地ならしするはずの発言が、かえって緩和縮小を遠のかせる結果を招いてしまったことはFRBの記憶に教訓として刻まれているはずだ。

    このところ、市場には、「パウエルプット」という言葉が浸透している。金融相場が値下がりしたときに、損失を限定する「プット・オプション」取引になぞらえたもので、相場が急変しても、パウエル議長が自らの発言などを通じて、市場を助けてくれるというものだ。

    株価や金利がこれ以上まずいという状況になったら、世界の中央銀行であるFRBが、きっと何とかしてくれる、サポートの手を差し伸べてくれるはずだという市場の期待が込められたものだが、4日のパウエル議長の講演内容は、そうした期待から外れるものだと受け止められた。

    パウエル議長は、金利上昇について、市場の混乱が起きれば懸念材料になるとして牽制したものの、対応の必要性や具体策には踏み込まなかった。

    このためアメリカの長期金利は再び上昇して、3月4日の10年物国債の利回りは前日比0.1%近い上げ幅となり、ダウ平均は一時700ドルを超えて下落した。

    市場では、米国債売りでFRBの対応を試すような動きが繰り返されている。

    ジレンマを抱えたFRBの舵取りは
    景気がよくなりすぎる局面で、金利を過度に抑え込むと、物価上昇や資産価格の高騰を勢いづかせ、バブルの懸念が強まる。

    とはいえ、急激に金利を上向かせてしまうと、市場が混乱し、景気回復の道筋を妨げてしまう。

    FRBはこうしたジレンマを抱えながら、隘路を進むことになる。

    「低金利」と「株高」の軟着陸に向け、急激な金利上昇がもたらす株価下落リスクを回避しながら、金融緩和の出口に向けて歩んでいくことができるのか。市場との対話が難易度を増すなかで、世界経済に目配りする役目を課せられたFRBは、非常に難しい舵取りを迫られている。

  • 住宅ローンにも影響は甚大…「米国の金利上昇&円安ドル高」はどこまで進む? その答え

    米国株価の調整

     2月14日の当コラムでは、日経平均株価が3万円の大台に迫りバブルの声が聞かれる中で、米国を中心に世界的な株高が続いていることを取り上げた。そして、米国の株式市場の中には局所的にはバブルの兆しもあるが、全体で見てみれば2021年に予想される経済成長加速や企業業績の改善で説明できる株高であるとの私見を述べた。

    日本株市場、スガノミクスでめちゃくちゃ稼ぎそうな「トップ30銘柄」を全実名公開

     米国の主要株価指数(S&P500)は2月半ばが一旦のピークとなり、3月に入りやや調整して株高は一服しているが、最近の株安の主たる要因は米国の金利上昇である。先月指摘した米株市場の「局所的なバブル」は、予想される企業業績対比でかなり株価が上昇したいわゆる「成長株」の値動きであるが、金利上昇がこれらの株価の調整を招き、ナスダック指数は3月8日には2月中旬の高値から一時10%超下落した。

     最近の動きは、金利上昇で米株市場の「局所的なバブル」が和らいだ、と筆者は捉えている。そして、株式市場、債券市場を俯瞰して考える筆者から見れば、株式市場で懸念されている金利上昇は、経済状況と金融財政政策の観点からは、ほぼ想定できる値動きと冷静に考えている。

     トランプ前政権は新型コロナ対応で大規模かつ迅速な財政政策を発動したが、大統領選挙で勝利した民主党バイデン政権にとっての最重視政策は、新型コロナ克服と経済正常化である。

     2021年初にジョージア州の上院補欠選挙で民主党が勝利してギリギリで上下院で民主党が多数派となったが、バイデン政権が掲げた1.9兆ドル(GDP約9%に相当)規模の米国救済法案が、2月以降の民主党の議員内の調整を経て、3月10日に議会で可決して、12日にも成立する見通しである。米国救済法案の半分程度が可決すると筆者は想定していたが、追加財政政策が膨らんだ分、筆者の想定よりも2021年の米国の経済成長率は上振れる。

     結局、昨年民主党が提唱していた3兆ドル規模の新型コロナ対応の財政政策が、大統領選挙を経てほぼ実現することになる。すでに新型コロナのワクチン接種は人口対比18%まで順調に進み、年央にはサービス業などの活動再開が始まるとみられ、ほぼ同じタイミングで米国救済法案の中の第3弾の現金給付(1400ドル)が実現する。4-6月の米国経済再加速に伴い、2021年の米国の経済成長率は約6%と、戦後もっとも高い成長率になる可能性が高まった。

     こうした中で、株式市場がバイデン勝利以降に一足早く織り込んだ2021年の経済成長加速を、債券市場の投資家が遅れて認識したことが、最近の金利上昇をもたらした。一方、債券市場は、FRB(連邦準備制度理事会)高官の発言などを手かがりに金利上昇がいつ止まるかを探ろうとしている。ただ、米国10年物金利が1.5%を下回っていた期間は、リーマンショック後の2010年代に長期化した経済停滞期においてもわずかしかなく、1.5%の長期金利水準は依然として極めて低い。

     先に述べたような財政政策によって経済成長率が大きく加速する経済状況ならば、1.5%前後の長期金利が高過ぎるとFRBは考えないだろう。むしろ、コロナによる経済危機にもかかわらず、日本やユーロ圏のように、長期停滞とゼロインフレに至らずに、インフレ期待を2%付近に保つことに成功しつつあることを、長期金利上昇は意味している。このため、FRBの主要メンバーはむしろ安心しているのではないか。

    円安ドル高が進行中
     最近の米国の長期金利上昇は、米国の成長期待の高まりが相応に織り込まれたことによって起きた。そして、多くの債券市場投資家によって予想外だったかもしれない長期金利上昇にやや遅れて、為替市場では2020年末まで続いたドル安が2021年2月から明確にドル高に転じた。

     ドル円は1月末の1ドル104円台から、3月8日には一時109円台まで1ヶ月余りで約5円円安が進んだ。コロナ危機発生直後に金融市場が大混乱となった2020年3月を除けば、2018年3月後半(104円円台)から同年5月中旬(109円台)にみられた以来のドル高円安の動きである。

     一方、トランプ政権が始動した2017年以降、ドル円はおおむね103円から117円のレンジで変動率が極めて小さくなり、危機時を除けば総じて安定推移が続いた。こうした中で、2020年のFRBの金融緩和強化を受けて、2020年にはドル安が進み、ドル円相場は110円前後から103円までジリジリと円高が続いていた。

     2021年にもFRBの金融緩和を徹底する姿勢は変わっていないが、先述したとおり先進国の中でもっとも大規模の財政政策発動を続けていることで経済正常化期待が高まり、長期金利上昇をもたらした。これは、金融緩和効果の低下を意味するのでドル高要因である。

     年初に多くの市場コメンテーターが指摘していた「100円割れの円高」のリスクについて筆者は限定的とみていたが、当面は緩やかなドル安が続くと想定していた。急ピッチな長期金利上昇とドル高への転換は、やや意外である。ただ、現在起きている長期金利上昇が、筆者が考えているとおり経済正常化を阻害しない程度で起きているなら、足元のドル高は正当化される。

    トランプ政権とバイデン政権の異同
     ところで、ドル円の安定推移が始まった2017年以前にドル円相場が大きく動いた場面までさかのぼると、2016年末のトランプ氏の大統領勝利をきっかけに、100円台から117円台までの大幅なドル高円安がある。トランプ大統領の予想外の勝利によって、大規模財政政策の発動で経済成長率が高まり、FRBの利上げを後押しするとの期待がドル高をもたらした。

     大統領選挙直後に政治的な不確実性が薄れるとともに、トランプ氏もバイデン氏も財政政策を強化した結果、米国の経済成長率そして米国金利と為替市場に影響を及ぼした。つまり、共和党政権から民主党政権へ移行したが、トランプ政権とバイデン政権の始動期には共通する部分が多い。

     さらに、2016年末は日本銀行が導入したYCC(イールドカーブコントロール)で金融緩和が強化され、それをきっかけに日銀がデフレ阻止のために、FRBよりも強力な金融緩和を徹底するとの期待がビルトインされた。このため、米国の長期金利上昇が為替市場でのドル高円安をもたらす経路は強まった。現在の日本銀行に関しては、3月の「点検会合」を控える中で思惑は様々ではあるが、2016年から日銀の姿勢は大きくは変わっていないと筆者はみている。

     これらの共通点を踏まえると、2016年末にみられた大幅なドル高円安が、バイデン政権が始動した2021年に起こるシナリオも考えられるだろう。為替市場特有のバンドワゴン効果(「流行に乗り遅れたくない」という心理の効果)が今後強まり、チャーティストが多い為替市場関係者からは一段の円安を予想する声も聞かれ始めた。

     ただ、2017年当時はFRBは利上げを始めており、トランプ政権の拡張財政発動がFRBによる連続利上げを後押しした。一方、FRBは少なくとも2021年内は現在の量的金融緩和を継続するだろう。そして、2%の目標に対してインフレ率を上振れさせる政策姿勢を明示する中にあって、ハーバード大学のサマーズ教授がリスクと指摘しているインフレの行き過ぎによって、FRBが早期利上げに迫られる可能性は低いと見込む。

    増税のリスク
     今後のバイデン政権の財政政策に左右されるため不確実性はなお高いが、民主党のプログレッシブ派が主張する所得分配のための増税政策が始まり、財政政策の経済成長押し上げ効果が2022年から大きく剥落するリスクがある。このため、2022年までにFRBが目指す完全雇用と2%インフレの上振れを実現するハードルはかなり高く、FRBによる利上げ開始は2023年以降に後ずれすると予想する。

     つまり、トランプ政権とバイデン政権の初期時点で似ている部分があるが、経済状況やFRBの金融政策に関しては異なる部分も多い。2016年末に起きた大幅なドル高円安が、2021年に起きる可能性は高くないだろう。このため、110円に迫りつつある円安ドル高は「いいところ」まで来ていると考えている。

  • 長期金利の急上昇で株価が下落!そもそも金利が上昇すると何がいけないの?

    日本時間の2月25日から26日にかけて、アメリカの金融市場において10年国債(10年間で償還する米国債)の利回りが約10ベーシス(0.1%)上昇し、それに伴い株価が下落しました。なぜ金利が上がると、株価が下落するのでしょうか。

    今回は、長期金利と株価の関係についてご紹介します。

    金利には大きく分けて短期金利と長期金利がある
    日本でも実施されている金利政策。

    金利には「短期金利」と「長期金利」のふたつがあり、短期金利は国の中央銀行がコントロールしていますが、長期金利はコントロールしきれないという特徴があります。まずは、それぞれの金利の決まり方をご紹介します。

    ◆短期金利の決まり方
    アメリカや日本の中央銀行は、1年未満の短期市場(短期間お金を借りられる市場)における金利を動かし、経済が安定し成長し続けられるように促しています。このような政策を金融政策と言います。

    現在、新型コロナウィルスによる経済への打撃を最小限にするため、アメリカや日本、欧州などが短期金利を低く抑える「ゼロ金利政策」あるいは「マイナス金利政策」を行っています。

    ◆長期金利の決まり方
    借入期間が1年以上の長期金利は、物価の変動や短期金利の推移(上記で述べた金融政策)などの長期的な予想により変動します。つまり、政府による金融政策では操作しきれないのが長期金利です。長期金利は“経済における基礎体温”と言われることがあり、景気が悪くなると金利が低く、景気が良くなると金利が高くなる場合が多いとされています。

    長期金利はなぜ株価に影響する?
    今回は長期金利の上昇によって株価が大幅に下落しましたが、金利が上がると何が良くないのでしょうか。それは企業や個人が借入をするのが難しくなり、投資を行って事業の規模を拡大したり、より良い商品を開発したりするのを制限してしまうと考えられるためです。

    今月24日、アメリカFRBのパウエル議長は「2024年以降もゼロ金利政策を続ける可能性がある」と発表。これはつまり政府が短期金利をこれからも設定し、全体的な金利の上昇を抑え、経済活動を活発化させていくというメッセージです。それでも今回のように金利が急激に上昇するとなると、将来的に経済活動が縮小されるのではないかという推測のもと、株が売られて価格が下落してしまいます。

    アメリカの景気は日本の景気にも影響する
    グローバル化が進んでいる現在においては、アメリカや中国の景気と日本の景気は切っても切り離せない関係となっています。そのため、今回のようにアメリカをはじめとする国々の長期金利が上がると日本の長期金利も上昇し、日経平均株価にも影響が出てきます。

    世界中で長期金利が上昇することにより、これまで低金利を前提として上昇してきた株価が下落するリスクが高まっているといえます。実際に、2月26日には日経平均株価が1,202円安くなっており、4年8か月ぶりの下げ幅となりました。

    株式投資をするなら長期金利もチェック
    世界的な金利上昇が顕著になっている今は、特にチェックしたいポイントです。

    企業の業績を反映し、企業の業績は金利により変化する「株価」。 株式の価格と金利水準は切っても切り離せない関係です。

    今後、株式投資を行う場合には金利動向もぜひチェックしてみてください。これまでは低金利を前提とした株価上昇が続いてきましたが、今後は少しずつ状況が変化していくかもしれませんよ。

  • 価値をどう保蔵するか?
    一方、投資家、あるいは将来に備えたい生活者の立場からすると、お金の3機能の中で重要性が大きいのは、価値の保蔵だろう。お金を持っていることが、果たして将来への備えになるか。また、どのような形で資産を持つことが、よりよい備えになるか。

    こうした立場から見ると、「コロナバブル」「金余り」という状況は、お金の価値が低下する方向に力が働いているのだから、長期的には安心でない。現在は、一般消費財に対する物価は安定していて、むしろ「インフレ率が足りない」ことが問題なのだが、株式などの「資産」に対しては、お金の価値の低下が進行している。

    資産家は資産価格の上昇から富を拡大し、資産家でない人々の富は拡大しないので、富の格差が広がっている。富裕層にお金が集まると、彼らは消費性向が小さいので、富の拡大の割には消費財の需要が増えないので、一般物価は上昇しにくい、という分析もある。

    しかし、富の格差の拡大は「富≒お金=人を動かす力」の格差が広がるということなので、富裕でない庶民の不満は相当に高まっているはずだ。お金持ちあるいは経済学者が「庶民は必要な消費財が買えないほど貧乏ではないので、不満はあるまい」と理解しているとすれば、それは間違いだろう。

    では、庶民の側はどうするか。通貨も、株式も、債券も、金も、暗号資産も、不動産も、どれも「絶対に大丈夫」と言えるものはない。大まかに言うと、複数の資産に分散して財産を持っておくといいのだが、「価格形成時にリスクプレミアムが含まれる資産」(主に株式)が有利で、同時に資産の流動性(換金性)を意識しておくといい、といったあたりが一般論になる。

    内外の株式への幅広い分散投資と、安全性があって使い勝手のいい現金性の金融資産とを持って、じっとしているのがいいだろう。

  • コロナバブルでお金の本当の価値は減っている
    大切な資産を守るためにはどうすれば良いのか

    先日、ある媒体で株価のバブルをテーマにした座談会に参加した。

    コロナバブルの原因とは?
    「株価はバブルであり、バブルの最終局面にある」とする弱気派の論者と、「一流企業は健全であり、各国の金融財政政策も現状が継続するはずだから今の株価がバブルだとは思わない」と考える強気派の論者の間に挟まり、筆者は「株価形成はバブル的だが、たちの悪いバブルなので、まだ続く。株価水準として日経平均株価3万円は『黄信号点灯』くらいの水準だ」という両者の中間くらいのポジショニングだった。

    この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら
    3者で意見の対立が大いにあるかと思ったところ、現在の株高については、「コロナを背景として、金融緩和に加えて大規模な財政支出が行われて、お金がだぶついていて、株価が上がっている」という点で一致していて、ほとんど議論が起こらなかった。一言でまとめると「金(カネ)余りによる株高説」だ。

    「金余り」という言葉を頻繁に聞くようになったのは、1980年代後半の日本のバブル時代だった。語感が下品で好きにはなれないが、金融緩和を背景に起こる資産価格の上昇は、この言葉で説明するのが一番しっくりくるという点で厄介な表現だ。使いたくないと思いながら、つい使ってしまう。

    現在の状況は原因と結果をくっつけて「コロナバブル」と呼んでよかろうと思うが、コロナバブルは一面では、株式や暗号資産のような資産に対して、「お金」の価値が低下している現象だと見ることができる。この際、「お金」とは何だということを、改めて考えておきたい。

    投資についてのセミナーや書籍の中で、「お金」というものをどう定義するかが、しばしば問題になる。「お金が好きだ!」と無条件に思っている人たち同士が集まっている場合には特段問題はないのだが(そういう集まりもある)、筆者の観察するところ、平均的な人はお金がそれほど好きではない。

    お金が欲しいのは、なければ困るからだというのが一面の理由であり、お金を巡るシステムは便利ではあるけれども、必要悪的な存在だ、というくらいに思っている人が割合多いのではないか。

    お金が「汚いもの」だと思っている人も少なくない。特に教育関係者の一部にこうした意識があることは、学校での金銭教育、投資教育が進まないことの要因の一つだろう。

    筆者は、「お金は自由を拡大する手段だ」と説明することにしている。

    例えば、以下のような調子だ。「ひとことで言うと、お金は自由を拡大する手段です。お金があれば、欲しい物が手に入ったり、行きたいところに行けたり、必用な情報が手に入ったり、他人からサービス受けたりすることができるし、助けたいと思う人を助けるためにも役に立ちます。お金があれば、できることの範囲が広がると言えるでしょう」という。

    さらに「お金があるだけで幸せになれるわけではありませんが、お金で避けられる不幸は数多くあります。備えとしてのお金がある状態には、お金がない状態よりも安心な面があります。ただし、お金はあくまでも手段であって、目的ではありません。手段として合理的に扱うことが大切です」と続ける。

    説明上の工夫は、お金が拡大する自由のリストの中に、「助けたい人を助ける自由」を必ず付け加えることだ。「自分のための自由」のリストを並べた後に、利他的な行為も拡大できるのだと強調すると、聞き手の中の数人に一人くらいの割合で、ほっとしたように表情が緩んだり、頷いたりする人がいるのがわかる。

    お金の実質的意味とは?
    「自由を拡大する手段」というのは、個人の立場から見たお金の機能だが、社会全体の中でお金はどのような機能を持っていると考えるべきなのか。

    包括的に定義するとすれば、お金は「他人を動かす力を数値化したものだ」と言えるだろう。「他人を動かす力」とは、何やら物騒な響きで、投資教育の導入段階には不向きだ。お金でモノを買うという行為は、モノの持ち主をそのモノの所有権を譲るように動かす行為なので、お金をモノと交換するのと同時に、お金は人を動かしている。

    人間は「社会的動物」と呼ばれるくらいで、他人のために動いたり、他人の協力を得たりして暮らしている。その際に、他人に動いて貰う権利を数値化し、それをやりとりできるようにしたものがお金だ。「お金(数値)=人を動かす力」と考えると、価値(使用価値でなく交換価値のほうの価値)を労働が反映したものだと考える労働価値説を抵抗なく「まあ、そんなものだろう」と受け入れることができる(あまりにも気楽な理解なので、かのカール・マルクスは不満に思うかもしれないが)。

    ちなみに、一つのコミュニティーの中で、「あいつはいい奴だ」と思われて好かれていたり、「あいつは信用できる」と思われていたりすると、他人は自分のために動いてくれるし、場合によっては、お金を融通してくれたりもするだろうから、自分でお金を貯め込んでおかなくても生活し活動できる。「お金がなくても、信用があればいい」というのも一面の真理だ。

    さて、お金の機能として、教科書的には(1)交換(決済)機能(2)価値尺度(3)価値の保蔵機能の3つがあげられることが多い。どれがより重要で本質的なのかは、文脈によって変化する。

    お金がお金として通用することは「それをお金として受け取ってくれる人がいること」に支えられていることを思うと、交換性を持つことが決定的に重要になる。硬貨や紙幣がお金でありうるのは、その物自体の価値によるのではなく、それを受け取ってくれる人がいることによって支えられている。この場合、通用が法的に保証されている法定通貨は有利だが、金でも貝殻でも暗号資産でも、受け取ってくれる人が多数いて、今後もいるだろうと信用されれば十分「お金」になりえる。

    最近ビットコインでイメージするもの
    ビットコインでも、それ以外のナントカ・コインでも、受け取ってくれる人が十分いるなら、かなりの程度「お金」だ。

    ビットコインの急騰も「金余り」のせいだというところまでは大方の意見が一致するが、ビットコインには、かなりの数の「アンチ」がいて、さまざまな批判がある。代表的なのは(1)お金として使うには価値が不安定だ(2)もっぱら投機の対象でしかない(3)採掘に掛かる電力が大量で自然に優しくない(4)決済に必要な電力コストが高くてお金としてコスパが悪い、といったものだろうか。

    確かに、価値が不安定であり交換(買い物)や決済に不便だというのは大きな欠点だし、電力コストの問題は前々から不評であった。

    しかし、ビットコインの価格が安定したらどうだろうか。ビットコインそのもののシステムで取引と決済を行わなくても、ビットコインを単位として取引を行う仕組みがあればいい。筆者がビットコインでイメージするのは、かつては金(ゴールド)だったが、最近はかつてヤップ島で使われていたという巨大な石貨だ。

    ヤップ島の人々は、石貨を取引の都度移動するのではなく、その権利を移転していたのだと聞いたことがあるが、ビットコインでも同様のことが可能ではないか。仮に「20××年は、1ビットコイン=テスラの新車2台」というくらいの関係が安定してくれば、通貨の3機能を総合的に満たす「お金」として広く使われるようになる可能性があるのではないか。

    筆者としては、市中銀行を使わずに支払い・送金・決済ができる中央銀行のデジタル通貨を早く立ち上げてほしいと思っている。ATMで小口の送金を行った時の手数料を見るたびに、強くそう思う。

    一方、お金の3機能は、利用者側から見たときに前記の通りだが、現代のお金には「情報の器」とでも呼ぶべき、もう一つの機能がある。誰から誰にお金が、いつ、いくら動いたかの流れを追うことができると、情報上大きな価値がある。信用の判断にも使えるし、ビジネス上も広い利用価値がある。この情報は、かつて銀行が独占していて、銀行業の強みとなっていたが、彼らが十分利用しきらないうちに(金融商品販売などにフルに利用されると困りものなのではあるが)、彼らの手からこぼれ出ようとしているように見える。

  • 財務省は全否定「現代貨幣理論=MMT」は劇薬なのか

    ◇現代貨幣理論(MMT)を考える

     日本の財政赤字(長期債務残高)は政府だけで1000兆円、地方も含めると1200兆円を超える。先進国では最悪の水準だ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う支援策の拡充と国内経済の低迷で、財政赤字の増大は避けられない情勢だ。【毎日新聞経済プレミア・赤間清広】

     日本の財政は大丈夫か――。そう心配していたら「財政赤字なんて気にする必要はない。まだまだ借金は可能だ」という主張を耳にした。現代貨幣理論(MMT)と呼ばれる米国発の新しい経済理論だ。

     MMTは日本を救う特効薬となるのか、はたまた日本経済・財政をさらなる危機に追い込む劇薬に過ぎないのか。関係者を訪ね歩き、その実情を探った。

     ◇野党議員と財務官僚が論争

     今年に入ってMMTが再び注目を浴びることになったのは、高井崇志衆院議員(国民民主・無所属クラブ)が2月6日にアップしたブログがきっかけだ。

     タイトルは「『MMT』に対する財務省のあきれた見解」。そこにはMMTをめぐる高井氏と、財務省の角田隆主計局次長の電話でのやり取りがつづられていた。

     高井氏「財務省はMMTについてどのように考えているのか?」

     角田氏「財務省はMMTをまともな理論だとは思っていない。『実験的にやってみて失敗した』では済まない」

     MMTを全否定する財務省の主張に、ネット上では賛成派・反対派双方の声が渦巻いた。議論が過熱したのは、MMTの理論そのものが、現在常識となっている従来の経済・財政学と真っ向から対立するためだ。

     現在主流の経済・財政学では、政府の財政赤字は好ましくなく、歳入(税収)と歳出は可能な限り均衡すべきだと考える。

     財政赤字は「将来世代への借金のつけ回し」に過ぎず、過剰債務を放置すれば政府の財政はいずれ破綻する。そして消費や投資の減退、通貨の暴落、ハイパーインフレなど経済の大混乱を招きかねない、というものだ。

     財務省はじめ政府が財政健全化目標を掲げ、時には激しい国民の批判を承知で消費増税など財源確保に躍起になっているのも上記のような事態を防ぐためだ。

     ◇政府には拒否反応強く

     これに対しMMTは、日本のように自国通貨で国債を発行している国が財政破綻することはなく、巨額の財政赤字を抱えていても問題ないと主張する。本当であれば日本のように巨額赤字を掲げる国にとって魅力的な議論だ。

     米国ではMMTの提唱者の一人とされるニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が米大統領選でバイデン氏と民主党候補を争ったバーニー・サンダース氏のアドバイザーを務めたことで話題を集めた。

     日本でも「消費税を廃止しても問題ない」「政府はどんどん借金して経済を刺激すべきだ」など過激な論説の根拠にMMTの理論が使われることも少なくない。

     ただ、現時点で日本の政策にMMTが反映される可能性は極めて低い。

     MMTは政府の財政健全化の取り組みを全否定することにつながりかねず、当局のMMTへの対応は「拒否反応」と言えるほど強い。

     「こういった話は常識的にはインフレが起こると思う。財政規律を緩めるのは極めて危険だ。日本をその実験場にするという考え方を私どもはもっていない」

     麻生太郎財務相は国会答弁でMMTをこう切り捨てた。

     日銀の黒田東彦総裁も「財政赤字や債務残高を考慮しないという考え方は極端な主張であり、なかなか受け入れられない」と全否定している。

     ◇古くて新しい問題

     厳しさを増す日本の財政をどう支えるのか、増税以外に財政健全化を進める方法はないのかという課題は、古くて新しい問題だ。

     「改革なくして成長なし」を掲げた小泉政権では、規制緩和や構造改革を通じて成長率を上げれば、税収が増えて国民に負担増を求めなくても財政再建ができるという「上げ潮派」が幅をきかせた。

     しかし、格差の拡大など構造改革の弊害は大きく、小泉政権退陣後、消費増税など従来の財政政策に逆戻りしたのは周知の通りだ。

     政府の特別会計の剰余金や積立金を活用すべきだとした「霞が関埋蔵金」も近年、注目を集めた理論の一つだ。自公政権に加え、埋蔵金の掘り起こしを公約に政権交代を実現した民主党政権も事業仕分けなど「発掘作業」を進めたが、期待したほどの財源捻出効果はなかった。

     MMTもまた「絵に描いた餅」に過ぎないのか。次回はMMT推進論者と慎重論者の双方の声を聞いてみよう。

  • クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは何か?その機能と特徴、市場の現状

     新型コロナウィルスのパンデミックが続くなか世界各国の経済が困難に直面し、多くの企業が業績の低迷を余儀なくされている。そうした中、企業などへのクレジットリスクをヘッジするCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)に改めて注目が集まっている。本記事では、「CDSとは何か」「どのような仕組みなのか」「CDSの歴史」なども含めてCDSの基本をまとめた。

    ●クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは?

     クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap)とは、ローンや債券など債務の発行体の信用リスクに対するデリバティブまたはコントラクトのことだ。従来、国や企業などのクレジットリスクは担保や保証などでヘッジされてきた。

     このクレジットリスクそのものを流通可能にし、金融商品化したものがCDSである。債権を移転することなく信用リスクだけを移転させるのが特徴で、デフォルトやリスケジューリングなどの発行体のクレジットイベントに対する保険のような機能を有している。

    ●CDSの歴史
     まず、CDSの歴史を簡単に説明しよう。CDSは、1994年にJPモルガンの女性バンカー、ブライス・マスターズが発案したとされる。学生時代からインターンとしてJPモルガンで勤務していたマスターズは、そのままJPモルガンに入社、クレジット・デリバティブ商品開発部に配属となる。なお、マスターズはその後28歳でマネージングディレクターに就任、JPモルガンの史上最も若い女性マネージングディレクターとなった。

     1994年当時、JPモルガンは石油大手エクソンに48億ドルのクレジットラインを設定している。しかし、エクソンは石油タンカー・エクソンバルディーズ号原油流出事故により50億ドルの損害賠償請求を受け、経営破綻のリスクに直面していた。エクソンのデフォルトリスクに備える引当金の現金を温存。自らのバランスシートを保つことを目的に、マスターズ率いるJPモルガンのチームは欧州復興開発銀行に、プロテクションとしてエクソンのクレジットラインのクレジットリスクを売却した。これが世界初のCDSとなったとされている。当時は、まだCDSという名前すら付けられていなかった。

     その後、JPモルガンは複数のクレジットリスクをまとめて証券化して投資家に販売する仕組に発展させ、現在のCDSの原型を編み出すことになった。やがて他の金融機関も同様にCDSの取り扱いを開始し、CDS市場は21世紀を迎えるころまでに相当の規模に拡大した。


    ●CDSの仕組み
     なお、CDSは多くの場合、主に金融機関同士の相対取引として行われている。例えば、金融機関Aが企業Xに10億円を貸し付けている場合、そのクレジットリスクに対するプロテクションを金融機関Bから購入するといったイメージだ。

     つまり、金融機関Aは企業Xのクレジットリスクに対するプロテクションの買い手となり、金融機関Bはプロテクションの売り手となる。CDSの契約期間中、金融機関Aは金融機関Bに対し、一定のフィー(プレミアムと呼ばれる)を支払う。

     企業Xが金融機関Aに対し正常に弁済を続け、無事完済すると契約終了となる。しかし、企業Xが何らかのクレジットイベント(破産、債務不履行、債務の条件変更など)を起こした場合、金融機関Bから金融機関Aに対し、損失額の支払いが行われるのだ。

     そして、金融機関Aの企業Xに対する債権は金融機関Bに引き渡される。

    ●CDSの機能

     CDSの機能だが、クレジットリスクのヘッジに加えて、クレジットリスクへの投資およびトレーディングも挙げられる。日本では、1990年後半から個別銘柄のCDSの取引が開始され、主に機関投資家がプロテクションの売り手となり売買されている。一般的な社債などよりも利回りが高いとされ、投資先としてはかなり魅力的なようだ。

    ●他のリスクヘッジ手段との違い

    ところで、CDSと債権譲渡、保証、損失補てんなどの他のリスクヘッジ手段とはどう違うのだろうか。

    ●債権譲渡との違い
     債権譲渡は債権や社債などの原資産を第三者へ移転する必要があるが、CDSの場合は原資産を移転することなくクレジットリスクだけをヘッジできる。債権譲渡には手間と時間と費用がかかり手続きとしては煩雑だが、CDSであればそうした手続きをする必要がない。

    ●保証との違い
     保証の場合は参照企業によるリストラクチャリング(返済条件の変更)が生じた場合、該当事案となるケースはまずない。しかし、CDSの場合はクレジットイベントとなり、損失額の支払いが行われる。さらに、CDSは保証と違い、プロテクションの売り手が参照債務を負っていない。

    ●損失補償との違い
     保証の違いと同様に、参照企業によるリストラクチャリングが生じた場合は該当事案とならない。しかしCDSの場合は、クレジットイベントとなり損失額の支払いが行われる。また、CDSではプロテクションの売り手が参照債務を負っていない。

    ●CDSと保険との違い
     一般に、「CDSは保険なのか」という議論がなされている。一見したところ両者は似ているが、違いはあるのだろうか。両者ともにプレミアム(プレミアムという英語には「保険料」という意味もある)を支払い、事故が発生したときにお金が支払われる点も同じだ。

     ニューヨーク州保険監督局は、2008年9月に広報において、「プロテクションの買い手が参照資産を保有している場合、CDSは保険であり保険業の免許を有する者でなければ販売してはならない」とする規制を導入することを提案している。しかし、その後同局は今後の動向を見守るとして提案を撤回している。

     多くのCDSでは、プロテクションの買い手が参照資産を保有していない。そのため、保険業法を適用できないと判断したものと思われる。現在のところ、CDSを保険として規制する動きは筆者が確認したところ存在していない。

    ●日本におけるCDS

     最後に、日本におけるCDS取引および市場の現状、世界のCDS市場の現状を見ていこう。

    ●日本のCDS市場
     日本におけるCDSの現状はどうなっているだろうか。三菱UFJ信託銀行がまとめたレポートによると、2012年末時点における全世界のCDSの市場規模は約25兆ドルで、日本の市場規模は1兆ドルとなっている。

     世界全体のわずか4%で規模としては大きくない。世界的には2005年6月時点で約10兆ドルだった市場規模が、2007年には約60兆ドル近くまでに急増。リーマンショックを境目に右肩下がりで減少している。日本もほぼ同様のトレンドで減少。

     なお、日本のCDS取引は、1990年代後半から本格的に行われるようになったとされる。当時、日本の多くの銀行の経営が悪化し、最低自己資本比率の達成が必須となったため、その手段としてCDSが多用されるようになった。

     2003年、メガバンクに公的資金が投入されると日本企業全般にクレジットリスクをとるトレンドが広がり、リーマンショックが発生する2008年まで市場が拡大した。

    ●今後の展望

     国際決済銀行のデータによると、2007年に61兆2,000億ドル規模に達した全世界のCDS市場は、2017年末には9兆4,000億ドルにまで縮小したという。1994年に自己資金を温存するためにJPモルガンが生み出したCDSは、その後世界の金融市場を大きく動かす巨大な金融商品に成長した。

     そして、リーマンブラザーズを参照企業とする膨大な額のCDSを売っていたAIGを経営破綻寸前まで追い込み、アメリカ政府による救済という異常事態を迎えさせたのだ。AIGが経営危機を迎えた大きな原因の一つがCDSであることは明らかである。

     エクソンバルディーズ号原油流出事故によって生じたデフォルトリスクに対応するために生まれたCDSは、今日までに金融の世界において一定のポジションを獲得したと言っていいだろう。新型コロナウィルスのパンデミックにより世界経済が未曽有の金融危機に直面しつつあるが、CDSが改めてその存在感を示すことになる可能性が高い。コロナ禍でのCDSに注目したい。

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