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>『真ん中の子どもたち』
【「私は日本人であり、台湾人でもある」真ん中で生きるということ——芥川賞候補作家・温又柔の告白】
野嶋 剛
[2017.09.23] h ttp://www.nippon.com/ja/column/g00436/?pnum=1
台湾文化センター(東京・虎ノ門)で8月10日、作家・温又柔さんの講演が行われ、会場は100人の聴衆で埋め尽くされた。温さんは芥川賞候補となった新作『真ん中の子どもたち』の創作への思いや、台湾生まれ、日本育ちとして日本語の文学を書く作家となった心の変遷、普段われわれが気づかない「日本人」や「日本語」という固定観念に対する違和感を存分に語り、「日本語とは何か」「日本人とは何か」といった本質的な問題を、改めてわれわれに深く突きつける意義深い内容となっている。講演会ではnippon.comのシニアエディターである野嶋剛がコーディネーターを務め、講演内容の一部を収録した本記事の整理・構成は野嶋と編集部・高橋郁文が担当した。
芥川賞候補になるまで
『真ん中の子どもたち』は、今年3月に文芸誌『すばる』に発表し、集英社からこのほど出版されました。デビュー以来、書き続けてきた言語とアイデンティティーをめぐる「テーマ」を、現段階では最も満足いく形で書くことができた作品だと思っています。
芥川賞へのノミネートは、こんな経緯でした。
5月末のある日、『すばる』の編集長から「もうすぐ大事な電話がくるから、ちゃんと出てくださいね」とメールが来て、どんな恐ろしいことが起きるかとドキドキしながら電話を待ちました。ちょうど渋谷にいて、ジュンク堂という本屋さんでスマホを握りしめながらそわそわしていました。やっとかかってきた電話に出ると「ノミネートしたいのですが、引き受けていただけますか」と。自分は芥川賞には縁がないと思っていたのでとても驚きました。実はここで辞退も可能なのです。でも、ノミネートされればニュースになり、自分の作品がばーっと知られます。受賞するかしないかに関わらず、確実にそうなる。そうなったら、私が自分の本をぜひとも読んでほしいと願う人たちの目に触れる可能性もぐっと増える。こちらも、読まれたいから書いているのであって、読まれる可能性が高くなるのは大変ありがたいことなので、「もちろん喜んで」とすぐに返事をしました。
候補作が発表されたのは6月20日でしたが、その前日は、いよいよ後戻りできないと緊張しました。私は普段、夜中から朝方にかけて原稿を書いています。その日も寝ようと思って布団に入ったときに、電話がかかってきました。新潟に住む夫のお父さんからでした。「NHKの朝のニュースを見ていたら、又ちゃんの名前が聞こえてきた」と言ってました。芥川賞のノミネート作品はそうやって大々的に報道されるということを思い知らされ、「ああ、始まったな」と背筋が伸びました。その日は、他にもたくさんの方から祝福と応援の連絡をもらい、胸がいっぱいになりました。
選考会はその約1か月後の7月19日でした。新宿・歌舞伎町にある台湾料理の「青葉」というレストランで、いわゆる「待ち会」をやりました。一人で待つのはとても耐えられそうにないので、『すばる』の編集長や担当者をはじめ、候補作に関わってくださった集英社の方々や、『台湾生まれ 日本語育ち』を作ってくれた白水社の方や、別の出版社の私の担当者さんたち、ここ数年さまざまな活動を共にしてきた仲間などにも声をかけて、みんなでおいしく食べて過ごしました。ちょうど『真ん中の子どもたち』の単行本が刷り上がった日で、書籍を担当してくださった編集者さんができたての本を持ってきてくれました。数年越しで書き上げた作品が、すごくすてきな装丁で一冊の本として完成し、1週間後には書店に並ぶと思ったら感慨深く、とっても幸せな気持ちになりました。
私の受賞を願った皆さんには申し訳ない結果になりましたが、賞を取るか取らないかに関わらず、小説を自分が書き続けることは変わらないし、むしろ私の受賞を願ってくれる人たちがこんなにいるということがよく分かって、申し訳ないというよりはありがたいなあと思いました。ただひたすら「ありがとうございます、ありがとうございます」とその夜はいっぱい言っていた気がします。
(以下略)