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バーナンキの理論対サマーズの実証―長期停滞論めぐり
By GREG IP
2015 年 4 月 8 日 15:46 JST

マクロ経済学の二大巨頭が先週、ブログ上で激しい論戦を交わした。前米連邦準備制度理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏と元米財務長官のラリー・サマーズ氏が、超低金利が続いている理由について議論を闘わせている。

バーナンキ前FRB議長、長期停滞論を批判
サマーズ氏、前FRB議長の長期停滞論批判に反論
 サマーズ氏は1年以上にわたり「長期停滞論」、つまり、慢性的需要不足が原因という説を唱えている。バーナンキ氏はこれに反論し、景気循環と特殊要因が背景にあるとしている。いずれの議論も説得力がある(そして、面白い)。

 「長期停滞」の単一的定義は存在しないが、多くのエコノミストは、低成長と低インフレ、そして低金利の組み合わせが数年以上続くという条件では同意している。重要なのは、名目金利からインフレ率を引いた実質金利だ。実質金利は貯蓄(投資と一致する)の需給調整に必要な形で価格のように上下する。貯蓄が多く投資が少なければ、「均衡」実質金利は押し下げられる。

 事実、サマーズ氏は、望ましい貯蓄と投資を均衡させる実質金利が実際はマイナス水準にあると指摘している。理論的に金利がゼロを下回ることはできず、マイナス金利が存在する可能性は限られる。大半の中央銀行は、危険な金融バブルの発生リスクを伴わなければ、この限界を実現することができない。

 これに対するバーナンキ氏の反論は論理的で力強い。

 「サマーズ氏のおじであるポール・サミュエルソン教授からマサチューセッツ工科大学(MIT)大学院で講義を受けた際、実質金利が永久にマイナスであればほぼ全ての投資で利益が得られる、と教えられた。例えば、ロッキー山脈の急斜面を登る列車や自動車が使うわずかばかりの燃料を節約するために、山脈を切り崩し平らにしても利益となるだろう。従って、長期間にわたり均衡実質金利が本当にマイナスであり得る、というのは疑わしい」という。

 これは、直感的によく分かる。例えば、年間配当率5%の株式の場合、金利が5%を下回っていればこの配当の分だけ証券価値は高くなるため株価は上がる。金利がゼロへ低下すれば株価は無限大だ。金利がマイナスなら株価は、いや、もう考えるのも無意味だろう。

 サマーズ氏の反論もかなり強力だ。量的緩和は実際に効果があるが理論的に破綻している、というバーナンキ氏の警句を言い換え、「マイナスの実質金利は、理論的に必ずしも正しくなくとも、われわれが実際目にしている現象だ。ジェームズ・ハミルトン、イーサン・ハリス、ヤン・ハチウス、ケネス・ウエスト各氏の共著による論文で示されているように、20世紀の米国では少なくとも30%の時期において金利はマイナスだった」としている。

 理論上マイナスにならないはずの金利が、なぜマイナスになるのだろうか。バーナンキ、サマーズの両氏が一致しているのは、中銀の政策金利や「リスクフリー」である国債利回りがマイナスでも、民間の借り手はまだプラスの金利を支払っていることが多い点だ。現在、大半の借り手はそうしているが、最高格付けの企業はこの限りではない。また、投資家がどの事業から資金を引き揚げるか検討している場合、彼らが求めるハードルは一層高いものとなるだろう。景気低迷の中、その事業で得られる収益の伸びが極めて鈍いとみられる場合は特にそうだ。

 理由は他にもある。バーナンキ氏は、実質金利の恒久的マイナス化はないが、一時的ならあり得るということでは合意している。ただ、「長期」は必ずしも恒久的を意味せず、10〜15年を指すこともあり得る。また、サマーズ氏が主張する「長期停滞」を成立させるには実質金利が大幅なマイナスとなっている必要があるが、実際に現状では、多くの市場で金利が大きく低下しているようだ。

 こうした状況はいずれも、1990年代後半以降の日本で見られた。近いうちに米国や欧州でもそうなる可能性は高い。例えば、FRBが政策金利を3%に引き上げ、これ以上の金利ではリセッション(景気後退)に戻ってしまうとの見方から利上げを打ち切った場合、実質金利がプラスだったとしても、米国経済には依然ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)面で何らかの問題があることを示唆することになるだろう。

 これは次の論点につながる。バーナンキ氏は、サマーズ氏が国際情勢を軽視していると批判した。米国で利益の得られる投資機会が不足していれば、過剰貯蓄はより良い投資機会を求め海外に流出するはずだ。資本が国境を越え容易に移動できる限り、どの国であれ異常な低金利に直面することはないだろう。バーナンキ氏は、サマーズ氏が長期停滞の根拠としている2002年から06年の低調な景気回復について、実際は「世界的過剰貯蓄」が背景にあったと考えている。中国など大幅な貿易黒字国が投資以上の貯蓄を抱え、米国に輸出を行ったせいだという。米国の成長率が低下したのは投資不足のためでなく、この海外からの輸入が国内生産を圧迫したためだという。中国の経常黒字はその後縮小したが、欧州では拡大した。ただ、バーナンキ氏はこうした問題は循環的、一時的なものとみている。

 経済学者のポール・クルーグマン氏は、資本市場が開放されているため、ある国で投資不足が発生しても実質金利は低下しない、というバーナンキ氏の説が正しいとすれば、なぜ日本はそうならなかったのかと疑問を呈している。クルーグマン氏の答えは、実際にはある程度だが、そうなっていたというものだ。日本の金利は言うまでもなく最低水準だった。だが、デフレのため実質金利は上昇し、米国の水準近くに迫っていた。同氏はサマーズ氏と同様、当時の日本の、そして現在の欧米の問題は、中銀が金利を十分にマイナス化できないため、需要が不足していることだとみている。

 筆者は、バーナンキ氏がこの事実を過小評価していると考える。大半の先進国は長期停滞の症状を示している。どの国も成長率と実質金利が低迷している。資本移動は確かに影響を与えており、国境をまたいで実質利回りを圧迫している。ただ、貯蓄と投資の不均衡に加え、バーナンキ氏とサマーズ氏がともに見逃している要因がもう一つある。それは、金融政策そのものの影響だ。

 バーナンキ氏が以前のブログで指摘したように、現在の実質金利の低下の主因は、中銀の政策でなくファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)だ。だが、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のウェブサイト、アルファビルでマット・クライン氏も指摘しているように、中銀の政策、特に量的緩和(QE)は確実に一定の影響を持っている。欧州中央銀行(ECB)によるQE実施決定を受け、世界的に実質金利は低下した。これは、かつてFRBのQEが世界的な金利低下をもたらしたのと同じだ。

 両氏の議論から抜け落ちていると筆者が考えるのは、経済の供給サイドの役割だ。バーナンキ氏自身、「長期停滞論は、総供給ではなく総需要の不足についての議論だ」と述べている。ただ、長期停滞を示す兆候の多くは、需要低迷だけでなく、供給の弱さ、つまり、労働力と生産性の両方の伸びが鈍化していることを示している。

 先進国と新興国の双方で人口の伸びが減速していることについては、議論はほとんどない。この減速は、直接的には労働力供給の減少という形で、間接的には投資の抑制(労働力の減少で機械や設備も少なくて済むため)という形で、経済成長を圧迫する。また、退職者による耐久財消費は相対的に少ない上、年配の労働者は退職後に備えて貯蓄を増やすため、需要が圧迫される(筆者はこれを、サプライサイド効果ならぬ、デマンドサイド効果と呼んでも構わないと考える)。

 生産性の伸びもほとんどの国で鈍化している。これは、金融危機が資本支出に与えた影響も一因となっている。ただ、こうした影響はいずれ消えるだろう。しかし、こうした状況の中には、技術革新の低下も反映されている。企業は、新しい技術がこれまでほどペイしないと考え、投資を削減している可能性がある。このほか、ロバート・ゴードン氏が指摘するように、教育の普及がすでに拡大していないこともあり、成長は足元で低迷しており、また今後もこうした状況が続く可能性は高い。

 結局、こうした理論はいずれも全体の一部にすぎない可能性が高い。長期停滞とは一つの病気というより、むしろ原因を一つに特定できない症候群のようなものなのだ。

原文(英語):On Secular Stagnation, Ben Bernanke’s Theory Meets Larry Summers’s