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メディシンバ応援の掲示板

(多発性硬化症の)原因は、脳内の通信回路がショートすることにある。感覚器官から発せられたインパルスは脳に届かず、脳からの指令は、筋肉へと伸びる神経軸索の絶縁が途切れた場所を通過できなくなっている。電子機器に短絡(ショート)回路が発生する場合と同じように、多発性硬化症の機能不全も広範囲に生じる。(中略)多発性硬化症患者の三人に一人は、認知障害や精神障害を経験する。そうなると、記憶力が衰え、予測や計画のような重要な生活能力が減退する。ときには、人格変化や情緒不安定を起こす場合もある。脳回路のどの部分が損傷したかによって、現れる症状は千差万別だ。
この病気が致命的になることはまれだが、この進行性障害の最も悲惨な点は、寛解を繰り返すという特性にある。病状が一時的に改善し、苦しみはすべて悪夢だったかのように思われる時がある。網膜の斑点は消え去り、外界に鮮やかな色彩が蘇る。障害がもたらす試練を受けていた最中に感じていた自己憐憫や恐怖が、何だかばかばかしく思えてくる。ところがそんなとき、また不意に病魔が襲ってきて、あなたの脳や肉体、能力、そして外界とのつながりをまた少し蝕むのだ。
(第2部 第8章 神経変性疾患)