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ギリアド・サイエンシズ【GILD】の掲示板 〜2020/04/29

薬価下げに泣いたギリアド「それでも日本で稼ぐ」

2018/8/30 6:30日本経済新聞 電子版

薬価下げに泣いたギリアド「それでも日本で稼ぐ」

2018/8/30 6:30日本経済新聞 電子版
NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞
 米製薬大手ギリアド・サイエンシズの日本法人(東京・千代田)は抗エイズウイルス(HIV)薬の自社販売に乗り出す。2003年から製造販売を委託してきた日本たばこ産業(JT)と、このほど提携解消に向けて協議を始めた。日本法人設立から6年が経過。蓄積した営業力を基に、いかに新たな成長の柱を打ち立てるか。ルーク・ハーマンス社長に狙いと展望を聞いた。

Luc Hermans 1988年サンド薬品入社。96年にノバルティスファーマに移りメキシコ法人医薬品担当最高執行責任者(COO)や感染症・移植・免疫領域における欧州地域担当ヘッドなどを歴任。2012年にギリアド入社。18年1月から現職。58歳
Luc Hermans 1988年サンド薬品入社。96年にノバルティスファーマに移りメキシコ法人医薬品担当最高執行責任者(COO)や感染症・移植・免疫領域における欧州地域担当ヘッドなどを歴任。2012年にギリアド入社。18年1月から現職。58歳
 ――これまで抗HIV薬は、JT子会社の鳥居薬品に販売を委託してきました。

 「彼らの過去15年間の努力には感謝している。だが抗HIV薬は我々の大きな事業の柱であり、歴史も長い。我々は12年に日本法人を立ち上げ、15年にC型肝炎治療薬の『ハーボニー』などを発売して営業力を蓄えてきた。長期的な視野に立つと、これから抗HIV薬も自社販売するのがギリアドにとって今後の成功に必要と判断した」

 ――なぜこのタイミングなのですか。

 「海外で成功している新薬の投入が理由だ。19年初頭に抗HIV新薬の『ビクタービ』を発売できそうだ。従来の抗HIV薬よりも安全性と有効性が高い。従来の薬は他の薬との飲み合わせが悪かったり、内臓に異常があると使いにくいなどの問題点があった。今はそれらの問題は解消され、ほとんどの患者が服用可能になったとみられている。米国では発売直後だが、18年4~6月期に1億8300万ドル(203億円)売れた」

 「新たに30人程度の抗HIV薬専門チームを立ち上げる。肝炎領域は医薬情報担当者(MR)が160人くらいいるが抗HIV薬の担当は20人ほどだろう。新規に人員を雇用して組織したい」

 ――日本の抗HIV薬のマーケットは欧米ほど大きくありません。

 「確かに米国や欧州に比べると小さい。しかし長期的な視点で当社が成功を収めるには様々な領域のビジネスを手がけていかなくてはならない。抗HIV薬はその足がかりとなる重要な領域だと認識している」

 「我々は肝炎やHIV感染症に限らず、関節リウマチなどの炎症性疾患や、がんの領域など様々な領域で新薬を開発している。当然日本での発売も視野に入れており今後領域を拡大していく必要があると考えている」

 ――日本は薬価抑制の圧力が厳しいです。16年4月の薬価改定では、販売額が大きい薬の価格を下げるルールが急きょ作られ、ハーボニーは3割値下げされました。

 「薬価についてはここ3年でたくさん学び、薬価に詳しい優秀なチームを築いて知識も蓄えた。薬の費用対効果を薬価に盛り込む動きについては、今後も目を光らせていきたい」

 ――ハーボニーは売り上げが大幅に減っています。営業部隊はだぶつきませんか。

 「C型肝炎ではハーボニーより優れた新たな薬『エプクルーサ』を19年初頭に投入する。今まで肝臓の状態が悪く投与できなかった患者にも使える。また20年後半には、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の薬剤も発売になる。肝炎の営業部隊がさらに活躍するだろう」

■新チームで日本に本格参入

 ギリアドは日本の薬価制度に最も翻弄された外資系製薬と言っていい。大成功したC型肝炎治療薬「ハーボニー」の需要一巡で売り上げが大幅に減っており、次の一手に注目が集まっていた。日本は薬価抑制の圧力が強い。市場としての魅力が下がっていると指摘されるなか、ギリアドが出した答えは日本市場への「本格的な参入」だった。

米ギリアドのC型肝炎治療薬「ハーボニー」の薬価は16年に3割引き下げられ1錠5万5000円となった(ギリアド社提供)
米ギリアドのC型肝炎治療薬「ハーボニー」の薬価は16年に3割引き下げられ1錠5万5000円となった(ギリアド社提供)
 ハーボニーはC型肝炎を98%以上の確率で完治させる画期的な薬で、効果の高さを評価した政府はハーボニーに対して患者1人当たり670万円の薬価を設定した。

 ところが、あまりに効く薬だったことがあだとなった。前評判が高すぎて病院からの注文が殺到した。15年9月の発売後、16年1~3月には日本の医薬品史上最高となる1500億円(薬価ベース)を記録、前例のないスピードでハーボニーは浸透した。

 急激な医療費の増加に慌てた政府は、16年4月の薬価改定で急きょ「売れ過ぎた薬の値段は下げる」という特別ルールを作り、30%超の引き下げを敢行した。ハーボニーの薬価は1人当たり460万円とした。画期性を評価してつけたはずの薬価が吹き飛んでしまった。

 そのうえ、売り上げのピークアウトも早かった。発売直後は注文が急増したが、16年4~6月からは売れ行きに急ブレーキがかかる。現時点の売り上げはピーク時の30分の1にすぎない50億円前後まで減っている。

 通常よりも極端な売れ方をしたばかりに、本来の薬の価値と関係なしに薬価が引き下げられたわけだ。ハーボニーは場当たり的な薬価政策を象徴する存在となり、政府がなりふり構わず強行した薬価改定は、製薬業界に大きな衝撃と危機感をもたらした。

 そんなギリアドだが、日本をまだ稼げる市場と見ているようだ。今回の自社販売への方針転換でそれが見えてきた。

 12年に日本法人を設立した目的はハーボニーを自前で売るためだった。3年で5000億円を売り上げ、その目的は達成した。店じまいしてもいいタイミングで新たに抗HIV薬を自前販売するのは、実入りがいいからに他ならない。

 HIV感染症患者は薬の服用を続ければ健常者と同じくらい生きられる。安定的に収益が上がる領域だ。鳥居薬品が販売しているギリアドの抗HIV薬の売り上げは200億円程度。これを20人程度の営業でカバーできれば、高い利益率を確保できる。

 もっとも、これは足がかりにすぎない。日本の抗HIV薬市場は480億円で、欧州の10分の1、米国の30分の1程度にとどまる。血液やがんの領域など、今後も投入される新薬の方が市場は大きいため、ギリアドは現段階で準備を始めた方がよいと判断した。

 自社販売体制で利益最大化を図りつつ、ハーボニーで培った薬価交渉力を維持する。ギリアドの抗HIV薬自販は、日本市場での基盤強化に向けた一歩といえそうだ。

(企業報道部 野村和博)

[日経産業新聞 2018年8月29日付]