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歓迎 小説掲載

歓迎 小説掲載

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  • 2018/08/15 21:53
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    dream 8月15日 21:53

    宝くじに当たった男

    第7章 浅田美代の正体 2

    今日の美代は普段見慣れない服装をしていた。
    なんと初めて見るジーパン姿だ。
    清楚なお嬢様から何処にでも居る若い女の子に変身していた。
    アキラは相変わらずラフな服装だが長身にピッタリと似合う。
    着こなしも、なかなかのものだった。
    後から見たら均整のとれた男らしく逞しく感じるのだ。ただ後からだが?
    車は湘南バイパスを左に海を見ながら走る。
    アキラは滅多に高速道路は使わない。
    ゆっくり走るとその地方の景色を楽しみたいらしい。
    車の窓を開けると潮風が心地良い。
    六月にしては晴れていて夏を思わせる日差しが強い。
    「アキラさん気持いいわ。やっぱり海は最高ですわね」
    「あっあっそうですね美代さん」

    ーーーうんうん本当に嬉しそうなアキラ。ドジをするなよーーー

    「ねえアキラさん旅館を選ぶとしたら、どんな場所と思っているのですか」
    「そりゃあ海が良いですよ。ただ僕の予算からして廃業した旅館物件を探さないと無理ですかね。ただ廃業した旅館を手入れしてオープンしても以前の悪いイメージが残っているし、折角オープンしても繁栄するのか難しいですよね。かと言って条件の良い場所に新築なんて言ったら規模にもよりますが五億円いや十億円でも駄目でしょうね」

    「まあ、そんなにですか。銀行の融資ではそれなりの担保と実績がないと難しいと思いますわ。私の勤めている銀行も査定が厳しくなりましたから」
    美代は別に落胆するような事を言うつもりはないが、現職の銀行員だ。
    ここでお世辞を言って期待を持たせるような事は返って酷と思ったからだ。
    可愛い美代ちゃんも、融資の話が出た途端に一人の銀行員になっていた。
    「そうですよ。簡単に旅館をやりたいと言っても問題は山ほどありますから でもまだ若いですから一つ一つクリアして行けば楽しいですよ」
    「私もそう思います。例えは良くないですがゲームだと思って難問をクリアして行けば……私もそのゲームに参加出来ますか?」

     ーーー「参加出来ますか」と来たもんだ。その意味するものはナニーーー

    そのアキラの驚きは後にして、車はやがて熱海市内に入った。
    熱海の海岸添えから繁華街に入って坂道を登ると松の木旅館が見えて来た。
    「わあ! 素敵な旅館ですね。落着いた感じで老舗てっ感じがしますわ」
    時々、浅田美代の語尾が上流階級の言葉に聞こえて来るが何故だろう?
    今のアキラは上品な言葉を使う女性だなとしか受け取っていなかった。
    しかし美代自身は幼い時から、そんな言葉使いだったので特別、上品な言葉だとも思っては居なかったのだが。いずれ浅田美代がどんな環境の家で育ったか明らかにされるだろう。

    「さあ美代さん着きましたよ。いま女将さんに挨拶に行ってきます。ちょっと待っていて下さい」
    そう言ってアキラは旅館の裏口の方に入って行った。
    アキラと一緒にオーナーの宮寛一と女将の貞子が笑顔で出て来た。
    「まあ遠い所をお疲れ様です。アキラさんには本当に世話になっているのですよ。さあさあ中に入って下さい」
    女将が美代ににこやかに話かけた。宮寛一も同じくニコニコと話かける。
    「どうもどうもお疲れさまです。どうぞどうぞ中へ入って下さい」
    やっぱり似た者夫婦、言う事が同じだ。

    松の木旅館のオーナーと女将は、浅田美代を心より歓迎してくれている。
    アキラも美代もそれは充分に感じとれた。
    「紹介します。こちらは浅田美代さん東京の方で親しくさせて貰ってます」
    「初めまして浅田美代です。凄い素敵な旅館ですね。山城さんからはこちらの皆様のことを色々伺っております。外国の方ならきっと、こちらの旅館なら日本の文化に触れられる気分になるでしょうね」

    「えっ外国人ですか?」
    女将とオーナーの宮寛一は何か感じるものがあった。
    挨拶の返事も忘れて女将と寛一は顔を見合わせた。
    アキラもそれは同じだ。一瞬、場が静まったことに、美代は何かいけない事を言ったのかと。
    「あの~~私……何か失礼なことを申し上げたのでしょうか?」
    寛一が慌てて否定した。
    「あっいいえ申し訳ありません。我々が考えもしなかった事をお聞きして、正直ハッとしました。いやあ参考になります」
    美代が挨拶に合わせて思ったままの事を言ったのだが。

    アキラも其処までは考えが及ばなかった。それを没頭でズバリと言って退けた。
    美代は、失礼なことでは無さそうだと安堵したが自分の言ったことに、三人は明らかに様子が変わったことは確かだが。
    美代は怪訝な顔でアキラを見る、それにアキラは応えた。
    「美代さんは今、凄いヒントを与えてくれたんだよ。それに宮さんと女将が気づいたと思うよ。ねえ女将さん」
    「ええ、アキラさんの言う通りです。いま熱海は昔のようにお客さんが来てくれません。特に若い方は古い旅館は余り足を向けてくれませんし浅田さんが外国の人ならと言われて正直ドキとしました。そんな事は考えもしなかったわ。なんとかして東京方面のお客に来てもらおうと、日本人を対象にしか考えていませんでした。私達のような日本旅館なら年配の方が喜んでくれるとばかり考えていましたのよ」

    女将は途中で話を止めて、美代とアキラにお茶を勧めニコリと微笑む。
    「あらあ? 私本当に失礼な事を申し上げたのかと思いました。私は素人ですから、どうしても客の側から見てしまいますので」
    そこにオーナーの寛一が口を挟んだ。
    「いや一番大事な事は、お客様が何を望んでいるかと言うことです。私達は外国人なんて滅多に泊まってくれませんし、来ても英語か苦手で対応仕切れないから来なくてもと思っていました」
    アキラはその話を聞いていて相槌を打った。
    「美代さんの言った事は俺にもいや僕にもなる程と思ったよ。そうだ宮さん、これからは旅行社に外国の斡旋を頼みましょうよ。それにホームページを作って外国の人にアピールしたら受けるよ」

    「ホームページですか……どうも私たち夫婦は、そちらは苦手です」
    「あのう私で良かったら作ってみましょうか、ただある程度の資料などが必要ですけど。それと英語が苦手でも英語が得意な学生さんならバイトで充分対応出来ると思いますわ」
    初対面だと言うのに、もう美代は話題の中心人物になっていた。
    宮夫妻も、初対面と言うのも忘れて外国人の受け入れに夢中になっていた。
    「それは有り難いです。あっいやいや初対面の方にいきなり失礼ですよね」
    「いいえ、私もそういう事が好きですからお役に立てれば構いませんわ」
    浅田美代はアキラの友達は勿論だが、宮夫妻に気に入れられたようだ。
    そんな、いきさつから意気投合した四人の話が盛り上がった所へ一人の板前が慌てたように部屋に入って来た。

    つづく

  • >>2251

    宝くじに当たった男

    第7章 浅田美代の正体 1

     アキラは久し振りに東京のマンションに戻った。
    東京に戻って一番先にすること……それは男、山城旭決まってます。
    さっそく旅館探しを始めるのか 偉い! 
    ところがドッコイ、最初に電話を掛けたのは美代ちゃんだった。
    まあ当然と言えば当然だ。将来の夢へ絶対に欠かせない人だから。
    「もしもし美代ちゃん……ぼっ僕です。只今帰ってきましたあ~~」
    「……もしもし失礼ですが、お掛けお間違えじゃありませんか」
    「え? あの~~~山城ですが。浅田美代さんではないですか」
    アキラは一瞬、番号を間違えたかと思った。
    しかし携帯電話の番号は間違いなく記憶されている。
    確かに美代ちゃんの声だったような?

    「ハイわたし、浅田美代ですが。あの山城さんって方は存じ上げません」
    「え~~僕ですよ。忘れたのですか?」
    「ハイ忘れました。勝手に一人で旅に出て行った人なんか知りませんわ。ですから山城アキラさんなんて方は存じ上げません」
    「あっいや、別にそんなつもりではゴメン怒らないで」
    「いいえ許しません。私より大事なことがあるんでしょう」
    「いや私の一番大事な人は美代さんです。本当です。怒らないで下さい」
    「じゃあ本当かどうか、食事をご馳走してくれたら考えるわ」

    なんと言う事はない、美代に少し意地悪されただけだった。
    その日の夕方、二人は池袋の東口サンシャイン通りにあるイタリアン系のレストランで待ち合わせした。パスタが美味いと評判の店だ。
    アキラが約束の六時三十分より十分ほど前に窓際に席を取った。
    アキラは確かに旅の間、あまり連絡していなかった。
    考えてみれば、旅に出て居る間は新しく出来た仲間と盛り上がり美代の事はそっちのけ状態になっていた。美代の冗談の中にも本音が潜んでいたことは間違いない。
    さてどうして機嫌をとるか考えていた。

    そして数分して、益々清楚な服装が良く似合う美代が現れた
    「お久し振りアキラさん」
    電話の対応とはまったく違う態度だった。
    思わずアキラは立ち上がって美代の為に椅子を引いてくれた。
    うん? アキラもなかなか女性に対するのマナーも覚えて来たようだ。
    アキラが立ち上がると周りの人は、つい見てしまう。
    天井に頭がぶつかるのじゃないかと思うほどの長身は人の目を引く。
    周りの客達には、アキラ姿がまるで大富豪の令嬢専用ボディガードのように映った。確かにアキラの方は野獣的でボディガードには向いている。
    アキラの風貌をみたら誰も寄ってこない。ただ一見では怖い感じだ。
    しかし外見とは別に中身は素晴らしい好青年であるが他人は知る由もない。

    「ご無沙汰しました美代さん。本当にごめんなさい」
    「うっふふ冗談ですわ。アキラさんどんな顔するか見たかったのよ」
    「良かったぁ機嫌直してくれなかったら、どうしょうかと思いましたよ」
    「でも旅は良いとしても、ちっとも電話くれないですもの」
    「すいません。つい色々とありまして、でも沢山の収穫がありました」
    「その収穫って? アキラさん私には相談してくれないんですもの。聞いたわ。アキラさんの夢を真田さんから。私は聞いてないし淋しかったわ」
    「いや考えたんですけど、美代さんとのデートにそんな話が似合わないと思って、つい言いそびれてしまいました」
    「そんな妙なとこに気を使わないで下さい。恋人同士だったら相手の事をなんでも知りたいものでしょう。だから少し淋しく思ったの」

    アキラは頭の中を蹴られたような衝撃を感じた。
    なんでも話せる相談する。それが恋人と言うものなのか。
    女性との付き合いのないアキラは改めて女心を知った。
    ただ労わるだけじゃなく、自分の心を伝えてこそ本当の愛なのだ。
    やはり美代は素晴らしい人だ。
    「ごめん。これからは何でも相談するよ」
    「ハイその方が嬉しいです。早速ですけどアキラさん旅館をやってみたいのでょ。私も凄く興味があるわ。女性にしか出来ない事もあるでしょ」

    美代が初めて旅館に興味を抱いた。アキラもまさか美代そう思っていてくれるとは想像もして居なかっただけに嬉しかった。
    これでは将来、美代は女将さんになってくれるのかなと、ふっと思った。
    「あら何を考えていらしゃるの? 嬉しそうな顔をしているわ」
    「あっ、いいえ何も」とは言ったが綺麗な瞳に見つめられドキッとする。
    今、思った事を見抜かれたのかとアキラは苦笑いした。

    「美代さん。僕の旅も無駄じゃなかったような気がします。その旅でね、熱海で旅館を経営している人と知り合って、懇意にして貰っているんですよ。以前話した、その旅館は松の木旅館と言うのですが、そこの主人と親しくなりまして今ではその家族と旅館の従業員の人達も親しく付合いさせて貰い暫く旅館の手伝いをしていたんです。今度一緒に行って見ませんか」
    「もうアキラさん。その話は何度も聞きましたわよ。でもちっとも紹介して下さらないから行きそびれたでしょ。でも優しいから誰にでも好かれし人徳ですよねアキニさんは」
    「あれ~~そうでしたっけ? 今度は間違いなく紹介しますから」
    ―――アキラぁボケたかあーーー
     
    でも優しいと言った。たが知らない人はアキラの優しさを知らない。
    優しさを知るまでは、その怖い外見をクリアしないと誰も分からない。
    「えっ? 優しいんですか俺が、いや僕が」
    「ええ、とっても優しいわよ」
    「それは誉め過ぎですよ。あの~都合が良い時で結構ですけど」
    「熱海ですか、熱海は行った事はありませんが西伊豆なら何度も行っていますわ。アキラさんの都合は? 私は来週の土曜日なら宜しいですよ」
    「本当ですか。あっあの旅館の人達に紹介するだけですからハッハハ」
    アキラは思わず照れ笑いをした。
    二人で温泉に行こうなんて言えば誤解を招きかねない。

    その辺は美代も心得ていた。アキラなら紳士だと信じているからと。
    「でも私なんか行って、ご迷惑をかけないかしら」
    「とんでもないですよ。みんな歓迎してくれますよ」
    「ハイじゃあ楽しみにしていますわ。その松の木旅館さんでアキラさん評判を聞くのも楽しみだわ。ふふっ」
    「美代さん意地悪だなあ、でも少なくても子供には好かれていると思いますよ」
    「子供さんって? その旅館のお子さんですか」
    「ええ子供と言っても中学生で男の子と女の子なのですが、とても可愛いんですよ。そうだお土産を忘れないようにしないと、どんなの買って行こうかな」
    「あら子供さんのお土産? アキラさん今から一緒に買いに行きません」
    二人は食事を終えて、お土産を買うにデパートに繰り出した。
    その二人のうしろ姿は幸せに満ちていた。
    日曜日の朝、アキラの愛車ランドクルーザーに美代を乗せて熱海に出発した。

    つづく

  • >>2250

    宝くじに当たった男

    第6章  能登編 終

     彼ら釣り人達は明朝も釣りに行くと言う。アキラは毎日釣り三昧と言う訳にも行かず、今夜の宴会と言っても船宿ではイマイチ盛り上がらない。
    そこでアキラは近くのスナックでカラオケに行こうと誘い出した。
    前日からの付き合いで、意気投合した釣り仲間達は嫌と言う訳がない
    アキラを含めて六人は船宿からほど近いスナック「ビーナス」へ出向いた。
    夜の七時を過ぎていたが、スナックビーナスには客が居なかった。
    「いらぁしぁいま~~せぇ」と店のママがビーナスを思わせる美声で出迎えた。
    少し薄暗い店内から厚化粧で美人かそれとも、それなりか?
    やはり男にとってどうせ飲みに行くなら、美人がいいに決まっている。
    美人だから美人でないからと、飲み代の料金は変わらない筈なのだが。
    海の好きなものは女も好きだ。いや男なら誰でもだが。
    海の男達には遠洋に出ると半年以上も海の上で暮らし其処にあるのは大海原と太陽のみ、船の中は男の世界と仕事だけ。それだけに陸にあがった時の喜びはひとしおだろう。
    独身の男なら、それは陸でホステスなどに囲まれて飲む酒は旨いだろう。
    とまぁ、その海の男とはまったく違うが、釣り好きな男たちだ。
    ビーナスにはママともう一人の女性がいた。
    なにせ薄暗くて厚化粧だ。美人なのか年増なのかさえ分からない。

    やがてカラオケを宏が唄い始めていた。続いて繁さんの番だ。
    そこで隣にマイクを持ってママが一緒に唄い始めた。
    その甘い声は男心をそそる、スポットライトを浴びたビーナスその甘い声からさぞかし、と思いきや甘い声とは裏腹にかなり年配のママで、その化粧は外壁のような厚さで覆われていた。どこまでが本人の顔なのか見分けがつかない程だった。
    京都の舞妓さんならまだ分かるが、その外見から判断しても、はや七十歳過ぎていると思われそうで、途端にカラオケで盛り上がったのに愕然とする。
    ♪しらけ鳥~~~南の空へ~~~そんな古い歌を思い出すほどだ。
    しかし若いアキラ達と違って繁さん達はそれでも盛り上がった。
    そのビーナスで盛り上がり釣り宿に戻ったのは夜の十時だった。
    前田秀樹はアキラのことが気にいったらしい。
    どうせ自分も暇な身だとアキラに一緒に旅に連れて行ってくれと頼んだ。
    しかし今までのアキラの旅はいつも危険と隣り合わせ。そう簡単にOKは出せない。
    喧嘩好きならともかく、そうにも見えない。
    あの山崎恭介とは訳が違う。彼は不幸のどん底だったから助けた。
    それに男同士で旅をしても面白くない、とあのヤクザの妻、松野由紀を思い出した。浜松から四国までの珍道中が懐かしい。
    まぁそんな事言ったら、浅田美代に嫌われてしまうが。
    翌日朝早く、前田惣五郎達と別れてアキラも早朝に前田秀樹を乗せて能登半島の和倉温泉へと向かった。

    富山湾を右手に見て国道八号線を走る。
    まだ夜明け前の国道は車もまばらで気持ち良い快適なドライブだ。
    秀樹はアキラに東京の事を聞いて来た。
    「山城さんは東京生まれで東京育ちですよね。いいなぁ」
    「東京生まれがそんなにいいかい? 俺はなんにも良いことないよ。前田さんのように温泉があり海があって、こっちが羨ましいよ」
    隣の芝生は青いと云うが、まぁそんな物かも知れない。
    人間は自分ない物が他人には良く見えるのだ。
    無い物ねだりと言うのか、この欲望が無かったら人は無気力で物を作ろうとかしなかっただろう。
    それは良い事ばかりではないが、人の物が欲しくなると力で奪いたくなる。
    動物だって野生は逆肉強食だ。人間も所詮は野生動物かも知れない。
    詐欺、強盗、殺人やがては戦争だ。地球に生命が誕生してからこの繰り返しだ。それでも辛うじて理性が優先しているから人類は発展した。
    人間が人間の為の法律を作ったが、法律を守れれば平和な筈なのだが。
    またまた話は逸れたが、アキラの理論から言わせれば多少の揉め事はストレスの解消になると思っている節があるのだ。
    なんたって、アキラは野生的なゴリラそのものだからか。
    しかし、アキラは強いが大いなる夢と優しさも秘めていた。
    そして人を退屈させない何かを持っている。それがアキラの魅力だ。
    アキラは前田秀樹を乗せて一路、八尾市から和倉温泉をめざして走っていた。
    秀樹が言う自慢の露天風呂にアキラは興味を寄せていた。
    今はやはり小さな旅館をやるにしても露天風呂は絶対条件だ。

    「山城さんは将来、旅館を経営するんですか?」
    「経営なんてカッコいいもんじゃないけど夢はあるんだが、それでいろんな温泉宿いや温泉とは限らないが和風旅館をやってみたいんだ」
    その旅館に着いたアキラは、秀樹の経営する両親に紹介され早速その露天風呂に入った。流石は自慢するだけあって素晴らしい。
    なんと目の前が海だ。水平線が見える。夕暮れとあって太陽が水平線に吸い込まれて行く。アキラは思わず叫んだ「凄い最高だあ」
    日本海なら夕日、太平洋なら朝日、太陽と露天風呂? アキラは閃いた。
    「露天風呂に太陽かぁ、これだな」思わず呟く。
    アキラの旅は終わった。なんとなく旅館の構想が見えてきた
    果たして夢で終わるか、夢が花開くかは全てアキラの次第なのだ。
    「秀樹さん本当に良いものを見せて貰った。また更に旅館へ興味が増して来たよ。短い間に沢山の友人も出来たし今回は本当に良い旅になりましたよ。旅館経営の夢が覚めないうちに一旦東京に帰ろうかと思っています」
    「え~もう帰るのかね。せっかく知り合えたのに。じゃ何時の日か訊ねて行ってもいいですか。おまえ誰だ? なんて言わないで下さいよ」
    「そんな事する訳ないでしょう。僕は知り合った人を大事にするのが流儀です。だからいつでも来て下さいよ」
    翌日の早朝、またあの釣り宿に寄った。繁さん達が釣りに行くというのでアキラもそれに合わせて向った。
    時間ギリギリだが間に合った。みんな釣り道具を乗せて出航する寸前だった。
    「あれ山城さんじゃないですか。一緒に釣りに行くのかい」
    「いいえ、東京に帰るので皆さんにお別れの挨拶しょうと思ってね」
    「そうかい朝早いのに義理堅い人だ。淋しくなるが山城さんの夢を応援しますからね」
    「まだ先の話ですが、もし旅館を開く事になったら、いい魚を提供して下さいよ」
    「勿論だ。本当にアンタの夢が実現する事を祈ってるよ」
    アキラの釣り仲間と再会を約束し、能登を旅立ったアキラだった。


    第6章  能登編  終

  • 宝くじに当たった男

    第6章  能登編  4

    そして記念すべき人生初めての釣り揚げた魚はクロダイだ。
    網に入れて舟に引き上げたクロダイはピンピンと勢い良く弾む。
    あの悪夢の船酔いから一転して、大黒様にでもなったような気分だ。
    アキラは貴重な体験をする事が出来た喜びで又ひとつ楽しみが増えた。
    再び船宿に戻って来たアキラと釣り仲間達。
    早速アキラが釣った記念すべき第一号を魚拓にしてプレゼントされた。
    それから刺身にして宿の方で出してくれた。
    なんと言っても自分で釣った魚だ。不味い筈がない。
    とっ盛り上がった所で誰かが言った。
    「そう言えば、兄さんの名前聞いてなかったなぁ、もっともこっちも釣りや、なんやかんやで自己紹介もしてないがな」
    「おうそうそう俺は佐伯繁って言うんだ。昨夜は世話になったが元々は漁師でな、今は長男に任せて小さいけど魚屋もやっている。俺のとこの魚は新鮮で評判は最高だ。兄さんならいつでも分けてやるぜ」
    「俺は前田総五郎で釣り暦三十年だ。宜しく」
    「俺は亀田孝之アンタの仲裁で繁さんとも、わだかまりなくて助かったよ」
    「俺は前田宏で惣五郎とはいとこだ。宜しく」
    「俺は前田秀樹だが、同じ前田でも親戚ないが幼馴染です」
    次々と自己紹介されてはアキラも挨拶しない訳に行かない。
    「これは皆さん。ご丁寧に今日は思わぬ体験が出来てありがとう御座います。生まれは東京で山城旭です。今は訳があって仕事していませんが車での一人旅の途中です。こうして皆さんと出会えて又これからも、このような出会いと沢山の旅館を見て勉強中の旅です」
    旅館の勉強と聞いて前田惣五郎はアキラに聞いた。
    「ほう山城さんは、旅館の若旦那か何かで修行中と言う事ですか?」
    「いや別にそんな大層な身分じゃ有りませんよ。ちょっと知り合いが熱海で旅館をしていて、今そこで時々手伝いをしています。もし出来るなら旅館業が出来るならと思っての勉強中ですがね」

    「それは、お若いのに大きな夢を持っていて羨ましいですなぁ」
    「いやいや夢だけは持っていますが資金も全く足りまん。ただ僕に色々と面倒見てくれる人の援護が受けられればの話ですが」
    「それなら山城さん、旅館には新鮮な魚が絶対条件だ。あんたが新鮮な魚が欲しいと言ったら、いつでも送ってやるぜ。市場より安く新鮮な奴を」
    「へえ~そりゃあ有り難いな。その時は是非ともお願いしますよ」
    互いに儀礼的な会話だったが、これが後に現実となるのだった。
    アキラは援護と言ったが、確約が取れるかどうかも夢の中だ。
    でも頭に浮かぶのは西部警備の社長 相田剛志や松の木旅館の宮寛一、真田小次郎など普段深く交流している人達のことであった。
    アキラの旅は無駄の連続のように思えたが、しかしその出会いの芽は着実にアキラの人柄に惚れ、近い将来に多大な力となって行くのだった。
    アキラの旅館経営の夢は絶対成功出来ると言うシナリオでなければならない。
    そして銀行から融資して貰うにも、融資して貰える資料を揃えなければならない。
    その時に西部警備の社長、相田剛志に保証人として後ろ盾になって貰わなければならない。だが保証人に心配させられない。ましや経営失敗なんて絶対に赦されない一発勝負なのだ。
    勿論、その経営計画の資料を見せて相田社長や真田小次郎に太鼓判を押して貰えるだけの物でなければならない。
    相田社長とて、いくらアキラに目を掛けてやっても金をドブに捨てるような保証人にはならないだろう。それが今日まで警備会社を一流企業までのし上げた経営者の目だろう。

    佐伯繁が言った「秀樹の親父さんは和倉温泉で旅館やってるんだよなぁ」
    「旅館やっていると言っても俺は次男だし兄貴が後を継ぐから」
    「でもよう親父さんももう年だし、秀樹の兄貴は身体が弱いから継ぐの難しいじゃないか」
    控えめな秀樹に前田宏が言った。
    「まあその時は兄貴を助けてやればいいんじゃないか」
    「ほう秀樹さん所は旅館やっているんですか一度泊まらせて貰おうかな」
    「あっ是非とも泊まって行って下さい。海が目の前で眺めはいいですよ」
    「和倉温泉って言うと、どの辺になるのかなぁ能登半島」
    「ええ能登の七尾市の和倉ですが、露天風呂もありますよ」
    「露天風呂かぁ、海が見えて露天風呂かなぁ」
    「そうです。旅館は小さくて古いけど風呂と眺めと魚が自慢ですから」
    「いや俺には有り難いことで、その露天風呂に是非入ってみたいですよ」

    つづく

  • >>2248

    宝くじに当たった男

    第6章  能登編  3

     玄関の入り口には旅館の主人やら板前、他の泊まり客七~八名が何事かと、その喧嘩した相手や仲間達、アキラを含めた六人を遠巻きに心配そうに見ていた。アキラは旅館の主人に言った。
    「なぁに心配しないで下さい。すぐ仲直りさせますから」と囁いた。
    釣り宿とあって玄関を出れば目の前が海だ。小さな釣り舟が並べられている。
    ちょうど良くその隣には空地があった。アキラがまたまた言った。
    だんだんとアキラのペースになって来た。もっとも楽しんでいるのはアキラだけだが。
    「おい、この空地なら迷惑にならないなぁ、どうだ。此処で」
    なにか力士が土俵に上がるのを楽しむかのようにアキラは案内した。
    どうぞ、どうぞとばかりアキラは手を空地に向けてニコニコしている。
    刃物を持って眼が血走った男が、横綱の土表入りでもするかのようにアキラの前を横切ろうとした。
    その時だった。アキラはニコニコ顔から一転、野獣の目になるやいなや、刃物を持った男の手の甲を手刀で思いっきり下に叩きつけた。
    その刃物が地面に落ちた次の瞬間、アキラは足で刃物を遠くに蹴り飛ばした。

    「な! 何をしやがる」
    と驚いた男は怒鳴った。
    「なんだと! 喧嘩に刃物だぁ? どう言う神経してんだぁ~」
    逆にアキラが怒鳴った。
    その男も体格がいい。見たところ身長百八十の体重九十キロ近い巨漢だ。
    普通なら相手は度肝を抜かれたかも知れないが、しかし上には上が居るものでアキラは百九十八センチ、百五キロもある。その釣り仲間達が唖然として見ていた。
    「あんたは釣りに来たんじゃないのか? それも仲間と。なのになんで刃物まで出さなきゃあならないのか、俺には分からんがねぇ」
    刃物を失っても体力には自信があった男だが、目の前に現れた百九十八センチの大男。百キロを超えるゴリラの化身のような大男に一括されて男は怯んだ。
    「繁さん……酒の上の事じゃないか、もういいだろうが」
    他の三人の仲間が遠慮気味に、その繁さんなる男に声を掛けた。
    酔いが冷めて来たのかアキラに水を刺された事も幸いしてか、やっと大人しくなった。喧嘩相手や仲間にペコリと頭を下げたのだった。
    しかし、そう簡単に収まったのじゃアキラが困るのだ。
    いや、それは分からないが次のアキラの行動は奇怪な動きをみせた。
    なんとその繁さんなる男を、いきなりアキラは引っ叩いてしまった。
    パシッと頬を張った。その乾いた音が響く。
    やっと収まったと思ったのにアキラ一体どうしたのだ?
    「なっ何をするんだ!」
    いきなり叩かれて繁さんなる男が怒鳴った。
    他の仲間や喧嘩相手の男も、アキラをポカンと口を開けて見守った。
    「何をするんだ、だと! アンタはが刃物を振り回した責任が残っているだろうが! 物の弾みで殺しましたでは遅いんだよ。たとえなぁ、冗談のつもりでも刃物を向けられた相手は必死だ。殺さなければ殺されると思えば相手も必死で余裕がないんだ。ハイ私が悪う御座いましたでチョンという訳に行かないんだよ。それと相手の気持ちはどうなるんだ。俺が収めたからきれいさっぱり忘れられるだろうか。このままじゃシコリが残ってしまうだろうが」
    アキラはこう言う時の理屈が凄い。また言い分にも非はない。
    頭に血が昇った連中は精神安定の注射を打たれたような気分になる。

    しかしアキラの話は尚つづく、しつこく本当にしつこい。
    傍から見ればおかしな光景だ。説教するのは二十代の若者で、説教されているのは中年のおじさん達なのだから。
    「万が一だ。ちょっとでも怪我でもさせようものならアンタ、刃物で相手を傷つければ傷害罪ヘタすれば殺人未遂事件だ。それだけじゃないアンタの仲間とはもう修復出来ない溝が出来るんだ。オマケに奥さんや子供、親族から信頼を失う。そうなったらアンタの人生は、お先真っ暗だぜ。だから俺が目を覚ましてやったんだ。分かるかぁアァ~~~」
    と、まあ延々とアキラの説教が続くが、なにせ言っている事が、見事に当て嵌まっている。誰一人として不服を言い出す持つ者がいない。

     繁さんなる男はアキラに、見事に自分の愚かさを指摘されて下を向いたまま腕を震わせて身体がワナワナの震えているではないか。
    突然その繁さんが喧嘩相手と釣仲間の前に土下座した。
    「すっすまん。この人の言う通りだ。亀さん俺が悪かった許してくれ。決してアンタを刺すとかなんて気持ちがないんだ。つい勢いで刃物を出しなんて本当申し訳ない。皆も許してくれ」
    そんな姿を見て、亀さんと言われた男が繁さんの前に座って言った。
    「繁さん、もういいよ。顔を上げてくれ。俺だって悪いんだから」

    それを見た他の釣り仲間が二人を労わってやった。
    その釣り仲間が誰となく言った。
    「いやあ中途半端な仲裁だと後々にシコリが残って気まずいが兄さんが見事な仲裁を入れてくれたんだ。だから繁さんも亀さんも後腐れなく仲直り出来るんじゃないか、なぁみんな」
    (おう~久々に見事なアキラの大岡裁きではないか)

    それからと言うもの、いつものお決まりコースになるのは自然の法則?
    その釣り宿の夜は飲めや歌えの大宴会と相成った。
    釣りと言えば朝が早いのが当たり前だ。
    なんと言っても今回の事件の功労者アキラをほって置く訳がない。
    釣り人は釣りの心得が備わっていて酒を身体に残さないのが鉄則だ。

    翌朝になって昨日の釣り人にアキラは誘われた。お礼に釣りの楽しさを教えるという。なんとまぁ、アキラが釣り舟に乗る事になったのだ。
    釣りなんてアキラは、このかた一度もやったことがない。
    子供の頃、両親に連れられて縁日の金魚すくいぐらいのものだった。
    釣り宿の主人が勿論この舟の船長だ。昨日の釣り仲間五人はアキラにお礼にと、釣りに借り出されるとは夢にも思わなかった。
     お礼は有り難いのだが、アキラの嫌な予感が的中したのは沖に出てまもなくの事だった。それは経験した事のない恐ろしいものだった。
    桃太郎ではないが舟はドンブラコ、ドンブラコと上に下に横へと揺れる。
    アキラにして見ればもう天と地が逆さまになったような気分だ。
    まもななくアキラはオェ~~と吐き出した。
    アキラは釣りどころか、地獄の底に居るような気分だ。
    苦しみながらアキラは考えた。
    お礼と言いながら、あの繁さんは、やたらに釣りに誘ったが、あれはお礼の名の元に酔うのを知っていての仕返しではないかとアキラは思ったが証拠は何もない。

    その復讐男? 繁さんがアキラの側に依って来た。
    あぁ~なんと言うことか。みんなに逆恨みされて海に放り込まれていたら流石のアキラも一貫の終わりだ。もはやアキラの運命もこれまでか。
    そこまで考えたかは定かではないが繁さんが言った。
    「いゃあ兄さん申し訳ない。俺達は釣りに馴れしているので誘ったがどうやら船酔いさせてしまったらしい。いゃあ~すまない本当は酔う波ではないんだがねぇ、この薬と一緒に飲んで見てくれよ。ひょっとしたら気分が良くなるかも知れないからさ」
    そう言って、なにやら妙に濁った酒を飲ませてくれた。
    それと黒い飴玉のような薬をくれた。毒??
    アキラはまさかと思ったが人間そこまで悪くないと信じて飲んだ。
    アキラも酒は強い方だが なんと飲んだ瞬間に頭から突き抜けるような強烈に強い酒だった。やっぱりアキラは嵌められたかと思ったが飴玉のような薬も飲んだ。
    なんとなんとアキラは、今にでも死ぬのではないかと言うほど船酔いしていたが、またたくまに目が輝きだしたではないか

    その舟の揺れは地獄のような苦しみだったのに、今は回転木馬に乗っているような気分だった。しっかり元気を取り戻したアキラは生まれて初めて体験する海釣りをする事になった。
    繁さんはじめ皆が餌をつけてくれ何から何まで教えてくれた。
    そして嬉しい体験をする事になった。急に竿が重くなった。
    竿が海に引き込まれてそうだ慌ててアキラはリールを巻くなんと言っても初めてだ。この引きはなんだ? なんとも言えない手に伝わる。その引きは今までにない感動を覚えた。一緒に舟に乗った仲間達が手取り足取り教えてくれる。

    つづく

  • 宝くじに当たった男

    第6章  能登編  2

     翌日の早朝、アキラは関越自動車道を走っていた。
    今回は高速と気が向いたら一般道を走るもりだ。夕刻までには宿を取りたいので午後四時には日本海を走っていた。
    枕崎を過ぎて糸魚川市に入って来た。JR線が海側を走っている。
    その糸魚川の先に青海町がある。そこには変った地名があった。
    親不知、子不知(親知らず、子知らず)と読むらしい。
    その親不知の海岸を通り過ぎて時間を見たら もう旅館の予約を取らないと夕食にあり付けなくなると適当な駐車場を見つけて停車した。
    こんな時になって、浅田美代の顔を思い浮かべて有難いと思った。
    幸いバーガーショップでネット回線が繋がるようだ。
    さっそくノートパソコンを取り出してネットに繋いで、適当な旅館を調べて携帯電話で予約を取る事が出来た。場所は富山県の魚津市付近。特に宿の質に拘る事もない。予約した旅館は海の側の民宿旅館らしい。

     富山湾には、もう日が落ちかけて海面が夕日で赤くそして黒く染まりつつある。その民宿は海が目の前にあった。民宿の玄関は一般の家庭のようなそんな感じで、宿主は元漁師が経営していると言った雰囲気だ。年は五十後半と言った処か、いかにも漁師を思わせる感じの男が応対した。
    「お疲れさんです。え~と予約のお客さんですか」と尋ねた。
    「ハイ、先ほど電話を入れた山城と言う者だけど」
    「あぁ、それはどうもお疲れさんです。どうぞ二階の方に部屋を準備させて頂きます。お客さんは釣り客? じゃなさそうですね」
    どうやら此処は釣り宿のようだ。多分民宿で用意した釣舟で富山湾に朝早く出るのではないかとアキラは思った。
    「いや生憎ですが、車で旅を続けている者なんです」
    「あっそれは失礼、ウチは釣に来る人が殆んどなものでねぇ、お客さん東京から? それにして大きな方ですなぁ、いやいや余計なことを失礼しました」
    その大きいは、もうアキラは耳にタコが出来る程聞いた言葉だ。
    初めて会った人からは挨拶代わりに言われる。
    勿論、逆に背の低い人なら「小さい方ですねぇ」とは言わない。
    アキラも分かっている。誉め言葉と受け止めて置こうと。
    小学生六年生の時には百七十五センチの身長があった。
    母も百七十センチの長身だ。その血が受け継がれている。
    小学生の頃から大きいと呼ばれて来ているのから慣れっこだった。

    案内された部屋は、なんと六畳とかなり狭かったが仕方がない。
    ある程度は予想していた事だ。一泊二食付きで五千円だ。
    アキラが板橋で借りていたアパートと殆んど変わらないが外には海が見えるだけマシと言うものだ。
    船宿には泊まった事はないが食事は海の幸を豪勢に出してくれるので安いくらいかも知れない。
    両隣の部屋からは、釣仲間達だろうか釣談義が聞こえてくる。
    アキラは多少うるさく感じたが盛り上がっている所へ水を射すつもりはない。
    ところが盛り上がり過ぎたのか罵声が聞こえて来た。
    どうやら数人で酒を飲みながら釣の自慢大会となったのか?
    酒の勢いか? 勢い余って口論なのか何やらドスンドスン、バシッっと厳しい罵声と一緒にアキラの部屋まで振動が伝わって来た。
    こう言う時のアキラは敏感だ(ほう~始まったな)とニヤリと微笑んだ。
    どうやらアキラが現れると何か騒動が起きる。またまたアキラの大岡越前なみの裁きが今回も始まるのか。 
    持って生まれた巡り合わせと言うのかアキラの運命かアキラの人生に欠かせない揉め事騒動は、大好きな御馳走なのである。
    その御馳走が? 今アキラの据膳にどうぞ、とばかり出されようとしていた。
    いよいよ激しくなって更にアキラの部屋に音と振動が響き罵声が凄くなった。
    アキラも折角のご馳走だ。主役は出番のタイミングが重要だ。
    ここぞっと、ばかりアキラの登場と相成った。
    もう毎度馴染みのパターンである。

    アキラは隣の部屋をノックすると同時に、その襖を開けた。
    その部屋には五人が居た。みんな釣り仲間なのだろうか。
    なんと喧嘩をしている二人のうち一人は刃物を持って殺気が漲っていた。
    他の三人はなんとか止めようとしているが、刃物を持っていて近づけない。
    一方の喧嘩相手は、刃物まで持ち出しとは思わなかったのかオロオロと相手の出方を伺っている所だった。
    その三人は部屋に大男が入ってきて少し驚いて『なんとかしてくれ』とアキラを見る。その眼が刃物を持っている男の方へ視線を送った。
    アキラはあの時の事が頭に過ぎった。それは銀行の警備員をしている時の事だった。
    あの時は、アキラは動揺して醜態を晒したが今回は違う。経験を積んだから?
    何よりも経験は人を成長させる。それにその失敗を繰り返さない為に空手道場に通って、護身術やら刃物を持った相手対処する方法も習っていた。
    だからと言って絶対的な自信を持って居る訳ではないが取り敢えず以前に比べれば余裕があった。そう失敗経験者である。
    「オイオイ! 刃物を持つとは穏やかじゃないなぁ、それに旅館や他の客に迷惑なるじゃないの、外でやったらどうだ」
    なんとアキラは止めろとは言わなかった。それとも止められたら困るのか。
    「なっなんだ。オメィは勝手に人の部屋に入ってゴチャゴチャと」
    その刃物を持った男は完全に理性を無くしているのか威勢よく吠えた。
    「ほう、そりゃあ悪かったなぁ。でもよ、あっちこっち壊したら後で弁償が大変だぜ。それに営業妨害となれば百万はくだらないなぁ、いや待てよ、死人でも出れば、もう商売は出来ないから五千万いや億単位の弁償かもなぁ、いや刃物で相手を刺したとあっては傷害罪、軽くて一年、重症また死んだら三十年は務所暮らしかもな」
    それを聞いた男はギョッとなった。務所暮らしとか弁償代が五千万とか億と聞いて、気になったらしい。
    「よ~~し外でカタを付けてやる来い」
    喧嘩相手に威勢よく呼びかけた。渋々相手の男や他の仲間も外に出た。

    つづく

  • おはようございます!

    お盆休みに入り帰省に旅行に正月に続き民族大移動といったところですか。
    えっ? こういうとはジッと我慢して動きません。
    民族大移動が収まった頃、のそのそと出かけたいものです。

    暑い夏にちょっと涼しい風景を。

    歓迎 小説掲載 おはようございます!  お盆休みに入り帰省に旅行に正月に続き民族大移動といったところですか。 えっ?

  • >>2245

    宝くじに当たった男

    これまでのあらすじ

    山城旭(やましろ あきら)26歳
    身長198センチ 体重98センチ (105キロ)
    巨漢であり見た目は少し怖い、しかし温厚な性格。
    ただ怒ると性格は一変しゴリラのように変貌する。

    大手企業で働いていたがリストラにあって無職になる。
    仕事もなく暇を持て余し競艇場に行くが舟券の買い方も知らない。
    運試し3枚を購入も果たして当たったのかも分からず傍に居たおじさんに聞く
    そのおじさん眞田小次郎(占い師)と知り合い意気投合。生涯の友にとなる。
    もしかしたらまだ運があるのかも知れないと儲けた金でジャンボ宝くじを購入、なんとこれが3億円が当たった。その金で親孝行しようとお袋に大金を渡したが悪い事をして得た金と誤解され、親にまで信用されないとキレてしまい、せっかく勤めていた警備会社も辞め自分探しの旅に出る。

    その警備会社に勤めていた時に拾ってくれたのが相田社長。
    いずれ何かと面倒くれる不思議な人物。その警備会社に勤めていた時に銀行強盗と遭遇、その時に体を張って助けたのが、のちの恋人、浅田美代。
    旅に出たのは良いが途中怪しげな女とと知り合い珍道中が始まる。その女を狙う謎の集団はなんとヤクザ。そのヤクザの妾と知るが謎の女を助け高知まで行き、坂本竜馬の末裔というテキヤ集団を束ねる。女とも知り合う。
    その途中で有馬温泉街で飲みに出かけると中で喧嘩の真っ最中にも関わらず中に入りママに頼まれ喧嘩を収める。その時に名刺を貰ったのが熱海で旅館を経営する宮寛一だった。この男とは縁があるようで銀行に融資に来た所で再会。ところが融資を断られ、このままだと倒産すると宮は途方にくれる。顏は怖いが人情に厚い、なんと会うのが二度目だというのにポンと5千万円も貸してしまう。
    仕事がないアキラはその旅館を手伝っているうちに旅館の面白さに気付く。

    そして二度目の旅は東北一周のつもりが途中で自殺しようとした男を助ける。
    名は山嵜恭介、アキラより二歳年下だった。事情を聞くと旭川で板前をしていたが美人局にあい脅され2百万を脅しとられ更に金を要求され逃げて来た。事情を知ったアキラはまたまたま人助けと旭川に乗り込み脅したチンピラ集団を蹴散らし金を奪い返した。アキラを兄貴と慕う恭介は東京まで着いて来た。そこで宮寛一経営する熱海の松の木旅館で働けるように手配した。
    いまではすっかり恋人同士となった浅田美代とデートを重ねて行く。

    とこが旅の面白さを知ったのか旅館の視察と称して今度は能登方面に向う。

  • 第6章  能登編  1

    その翌日に正真正銘の恋人、浅田美代子と逢っていた。
    なぜ正真証明かと言えば、あの料亭での愛の告白までアキラは「友達でいましょう」なんて言われる懸念があったからだ。
    だが浅田美代はアキラの想像の域を超えた返事をくれた。
    真田と相田社長公認で将来を誓いあった仲なのである。
    いわば婚約者に近い。いまや最愛の人、浅田美代だ。
    そんなアキラの顔は、厳めしい顔と巨大な体格に似合わない笑顔で美代と談笑していた。
    「え~~? アキラさんまた旅に出るのぉ」
    「ゴメンどうしても沢山の旅館や施設や環境など見ておきたいんだ」 
    美代は少し拗ねた顔をして言った。
    「アキラさん、私はどうなるの置いて行くきなのね」
    「いや、あの~~出来れば一緒に……でも美代ちゃん会社もあるし、それに美代ちゃんが両親になんて説明するのかと考えたら誘いにくいし」
    アキラは美代に迫られて焦ったが、こんな宛てのない旅に美代を誘えない。
    「冗談よ。アキラさんらしいわ。真面目なのね。普通の男の人だったら相手の都合より自分の都合に合せたがるのに、そんな処が好きよ」
    「なっなんだぁビックリしたなぁ怒ったかと思ったよ」
    「え、私が怒ると怖いの?」
    「そりゃあ怖いよ。美代ちゃんが怒るのが、この世で一番怖いよ」
    「でもアキラさん。私もう子供じゃないわ。会社をどうするかや両親を心配させないくらいの行動は心得ているわよ」
    アキラは、これからの計画と夢を美代に熱く語った。
    この旅が終わったら、その夢を実現の為に美代に協力して欲しいと、つまり将来は美代に旅館の女将になって欲しいと告げたのだった。
    美代も心得ていた。それほどアキラの心が読めるようになったのだ。
    もう此処までくれば二人の仲は本物だ。
       
    最愛の恋人、浅田美代にしばしの別れを告げてアキラは旅支度をしていた。
    最初に南は四国まで北は東北北海道へ、大ざっぱだが車で日本国内を周った。
    でも日本だって広い日本海の方はまだ行っていない。
    念入りに各地を見るとなると大変な月日が掛かるのだが。
    今回の予定は、まず長野、新潟から日本海を南へ石川から能登半島、福井へと山陰、山陽を周って、あわよくば瀬戸内海を渡り福岡から九州に入ろうかと決めていた。ただ途中で変わるかもしれない。
    其処はアキラ流であり、その時次第と言う事らしい。
    アキラは松の木旅館に電話を入れて、また旅に出る事を告げてアキラの子分? いや将来アキラの右腕になるであろう山崎恭介にも、なんの為の旅か説明した。
    恭介は今、松の木旅館の為に働くが将来は何があってもアキラに着いて行くと、くどい程に何度も聞かされている。
    今度ばかりはアキラも責任を多いに感じている。
    勿論、自分の為でもあるが恭介にも夢を与えたい。
    そして恋人、浅田美代との将来設計も含めてアキラを後押ししてくれる人の為にも、期待に応えてアキラは男を上げたかった。
    そして朝から旅の準備に追われていた。

    その時、アキラの部屋のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう?
    忙しいのにと、やや不機嫌な声で応答した。
    「ハイ、どちらさんでしょう」
    「こんにちは美代です」
    なんと予想もしなかった。浅田美代の訪問だった。
    「美代ちゃん~~あれ~どうしたの? びっくりしたなぁでも嬉しいよ」
    あの不機嫌は何処へやらアキラは、なんともデレ~とした顔で部屋に招き入れた。
    「ごめんなさい。なにか手伝う事ないかなあと思って来たのよ」
    なんと思いもよらない美代の訪問にアキラは嬉しくなった。
    「実は何を揃えようかと考えていたんですけど、さっぱり分からなくて最高の助っ人だよ。本当にあり難いなぁ」
    二人は顔を会わせて、ニンマリと笑った顔が幸せに満ちていた。
    「それなら今から旅に必要な物、買いに行きません?」
    「あっそれはいい。では早速行きましょう」
    女性でなければ気が付かない旅に必要な物を次々と美代は選んでくれた。
    例えば医薬品や着替えや日用品など、そして最後に進めてくれたのはノートパソコンだ。
    アキラも大学中退とは言えパソコンは使える。勿論今時パソコンを使えなかったら仕事にも就けないが今はパソコンを使うのは最低条件だろう。
    昔はソロバンさえ習えば就職に有利とされた時代ではない。
    世の中は大きく変わって行く。今の時代、無線回線を利用すれば全国どこからでもインターネットに接続出来るのだが。バッテリーは車からでも供給出来るので問題がない。アキラも其処までは考えてなかったが、それにより美代とはいつでもメール交換が可能で、デジカメで取り込んだ写真を即送れる。
    なんとも便利な時代になったものだ。
    携帯も沢山の機能は付いて居るが(この時代スマホはまだ先の話)、やはりパソコンが使えるならベストだろう。この時代まだ携帯電話は一人一台まで到ってなかった。拠ってノートパソコンを外でネットに繋ぐ場所は限られていた。
    アキラの自慢は車を改良してキャンピングカーとは云わないが寝泊りが出来、テーブル付いて、家庭用の電源も車から供給出来る動くオフェスだなのだ。
    アキラと美代は買い物も揃えて終えて、一段落して美代が入れてくれた珈琲を二人で飲んだ。これまで美代とのデートはレストランで食事する事が殆んどだったが、こうして日用品など一緒に買うのは初めてだった。
    まるで新婚さんが、これから家庭で使う日用品を揃えるような気分でを味わった。近い将来こんな日が来れば酔いとアキラはデレ~と想像していた。
    それは良いが、これから暫らく逢えない。二人はマンションに戻り一息した。
    二人の目がなんとなく合った。黙って見つめる。それは無言の言葉だった。
    自然の成り行きか二人は熱いキスを交わし、しばしの別れを惜しんだ。

    つづく

  • >>2243

    第5章  夢の始まり 7

     そこで東京に戻り、真田小次郎に相談に乗ってもらう為にやって来た。
     ここは池袋の東口、デパート横の路地。夕暮れ時は占い師や易者の稼ぎ時、真田小次郎は会社帰りのOLなどを相手に手相を見ている。
    「ほう、お嬢さんいい手相をしてなさる。これは占い冥利に尽きるね。今週は運がありそうだ。ホレッこの線が延びているでしょう」
    とっ真田は若いOLに説明していた。そのOLは言った。
    「おじさん良い事ばかり並べて本当なの? まっいいわ、信じるわよ」
    OLはご機嫌で夜の街の中に消えて行った。

    「すみません。俺のも見てくれるかい事業に成功するように占ってくれよ」
    ヌーっと大きな手が真田の前に置かれた。
    「お客さん、この手の大きさだと料金が三倍になりますが」
    まさにア・ウンの呼吸で二人は冗談を交えていた。
    「とっつあん相変わらず若い娘には調子いいんだからハッハハハ。あとで、ちっともいい事なかったわよ。なんて事ないのかい」
    いつものアキラ流の毒舌で再会し、その夜また二人は居酒屋と消えた。
    アキラは各地の温泉で感じたことを真田に語った。
    「でっアキラ。旅館経営でも始めたいと思っているのか」
    「いや始めたいと言うよりも、始める場所も資金がないよ」
    「アキラが本当に旅館業を考えているなら応援するぞ。あの相田さんも、きっと応援してくれると思うよ。おまえの事を余程気にいってるらしいから」
    「それは有難いなぁ、俺みたいなのに気に掛けてくれて」
    アキラは不思議でならなかった。あの西部警備には少ししか居なかったのに、どうして其処まで気遣ってくれるのか。

    「旅館かぁ、今のこの不景気の中で商売を始めることは大変だぞ。しかし若いんだから夢は持たなくてはいけないしなぁ」
    「やっと自分がやって見たい事に気付いたようで、でもなぁ素人が無謀な挑戦かも知れないけど、もっと時間を掛けて考えて見るよ」
    「そうだよアキラ、時間はタップリとあるんだ。もっと勉強してもっと沢山の旅館を見て参考にするのもいいだろうよ」
    確かに松の木旅館を見て、そして他の旅館と比べても一長一短があった。
    福島の露天風呂とか、きれいな川が頭から離れないでいた。
    もし、これから本当に旅館業を始めたいのなら、もっと沢山の旅館を見て勉強しなくてはならない。
    そして資金繰りは別としてどんな場所が良いのか、お客さんに喜ばれるには、どうすれば良いのかまだまだ沢山の課題が残っていた。
    占い師で元教師の真田小次郎にヒントを貰ったアキラは、もっと全国の旅館を見て歩く事にした。
    海外も考えたけど、やはり日本の旅館形式の良さを頭に描いていたアキラだった。
    真田と別れたアキラは旅に出る前に、どうしても二人の女性に逢って、それから旅に出る事にした。ちょうどこの時刻だと母の居酒屋も閉店している頃だ。
    居酒屋が見えてきた。ちょうど母、秋子が店のノレンを片付けている所だ
    「かあさん。元気かい」 
    「あらっアキラ久し振りだねぇ」
    そんないつもの会話で始まった。久し振りの親子の再会だった。
    母には、自分がやってみたい夢を話した。
    「アキラ、目的があるならやってみればいいよ。若い内だよ。夢を持てるのは」
     そういってくれた母の言葉で決意した。最後にもう一度旅に出ようと。

    第5章  夢の始まり 終

  • >>2242

    第5章  夢の始まり 6

     一方、松の木旅館全体の空気が、凍りついたままになっていた。
    松の木旅館の予約表には(貸切、代表 坂本愛子様御一行)と記されていた。
    しかし松の木旅館の女将は一瞬、心の中でハテ何処かで聞いたような? 
    と感じたが勘違いとすぐに思い直して従業員達に笑顔で目配りした。
    従業員もハッと我に返りいつものように、その一行を出迎えた。
    女将は松の木旅館の玄関で改めて、その代表者に深々と頭を下げた。
    「本日は遠い所を大変お疲れさまでした。当、松の木旅館へようこそ、いらしゃいました。どうぞ旅の疲れを癒して下さいませ」
    と丁重に女将の挨拶が、その代表と団体に笑顔が振り注がれた。

    「女将さんですか? 今日はお世話になりますよ。驚かれたでしょう。どうも人相の悪い者達で申し訳ありません。まあそんな訳もありまして貸切でお願いしたのですのよ」
    「滅相も有りません。何か粗相がありましたら、お許しください」
    代表者の坂本愛子に丁重に挨拶されて、女将は心の中を見られた思いだった。
    その一行を向かえ入れて、松の木旅館は宴会の準備で慌ただしくなった。
    宮と女将は、あの女性の貫禄には驚いた。これが本物の貫禄というのだろうか。
    その筋の者達と思われる男達を束ねる女性。並の男だって出来はしない。

    竜馬隊一向が一風呂浴びて居る頃、その坂本愛子が女将の側にやってきた。
    「あのう女将さん、実はこちらの旅館を指名したのは訳がありまして」
    「はぁ? それと申しますのは」
    女将は訳があると言われて、またビックリ。まさか夫が他にも内緒で金を借りて大勢で押しかけて来たのではと少し頭をよぎったが。
    とは言っても、当の旦那の宮は、その側で一緒に坂本愛子の話を聞いていた。
    宮からも金を借りて怯えるような、また驚いた表情はしていない。
    なら松の木旅館と、この女性や団体となんら関わり合いがないのだが。
    そんな大騒動? いやまだなってはいないが、そこへアキラが帰って来た。
    「実は女将さん。こちらに山城旭さんが居ると伺っておりますが、今も元気で居りますか? 以前に私の友人が大変お世話になりまして、なにせ私どもはご覧の通りの渡世人ですので……山城さんが気にする事なく来て下さいと声を掛けて頂き山城さんの言葉を信じ、それではと今日になった次第ですのよ」
    「まぁアキラさんのお知り合いでしたか、あの方はすぐ人を魅力の虜にする所がありますから」
    「そうなのですよ。私の友人も彼に助けられ懐が大きくてね。私どもはこう云う家業で、何処にでも泊まれる訳でないので貸切なら他の客にも迷惑かかないし山城さんの紹介なら快く泊めてくれると思いましたね」
     アキラも今日は貸切の団体客が泊まるのは知っていたが、まさか坂本愛子が率いる「竜馬隊」とは知らなかった。
     アキラが松の木旅館に入ると、仲居達みんなが緊張した表情で、せっせっと夕飯などの準備に追われていた。

     一生懸命なのは分るが、それにしても緊張し過ぎているなぁと感じた。
    そんな時に泊り客が浴衣姿で、大浴場からあがって来た所に三人ほどの若い衆が談笑しながら歩いて来た。アキラはひと目で分かった。なるほど緊張する訳だと思った。その三人の若い衆はアキラと目があった。
    「いらっしゃいませ、どうぞごゆっくり」とアキラは客に挨拶した。
    その百九十八センチと長身の男を一度見たら忘れなれないアキラの風体。
    三人は、あっと驚きの声を発した。

    「あっ? あんさんは山城さんだったよねぇ隊長が逢いたがっていますよ」
    「えっ隊長……まさか高知の」
    「まぁ大きな声じゃ言えませんがね。竜馬隊です。へぇ」
    「そうかい、それは御丁寧に早速挨拶に伺わなければなぁ」
    みんな一風呂浴びてリラックスしたのか、旅の疲れも取れて笑顔だ。
    宴会場の準備も出来た。どこでもそうだが代表者の挨拶が始まり乾杯の音頭と共に宴会が始まるのが恒例だ。
    ここでは勿論、竜馬隊を牽きいる坂本愛子の挨拶から始まった。
    ただし無礼講はこの世界ではご法度である。上下関係は絶対である。

    アキラは早速、女将の所へ駆けつけた。さぞかし驚いているだろうと。
    そんな女将はアキラと会って、その話しで苦笑した。
    最初は身が凍りつく程、驚いたが自分の取り越し苦労と分って安心したと。
    冷静に考えてみれば、その竜馬隊は物静かで、なにひとつした訳でもなく、
    ましてや坂本愛子は、丁重な挨拶までして安心させている。
    女将は外見だけで判断した自分を恥じていた。
    「やぁ女将さん、僕もいま知って驚いてますよ。以前にある人を連れて行ったら其処(高知の竜馬隊)だったんですがね。なんでも明治時代から、あの坂本竜馬の末裔と言われて今では珍しい任侠の人達で義理と人情が売りの人達ですよ。来るなら言ってくれればいいのに」
    「私もビックリ怖そうな感じの方達なもので、でも坂本様は丁寧に挨拶されて私の方が逆に失礼したのじゃないかと」
    「なぁに女将さん気にする事は有りません。あの人も分っていますよ」
    宴会場では坂本愛子の挨拶も終り、宴で若い衆も盛り上がっていた。
    アキラは宴会場の襖を控え目に静かに開けたが、しかしその身体は控えめじゃなく、目立つ過ぎて皆がアキラの方を向いた。
    「失礼します。本日は遠路ご苦労様です。いつぞやはお世話になりました山城旭です。隊長始め皆さん、お懐かしゅう御座います」
    「いよ~~~山城さん逢いたかっぞ」
    大広間から誰となく歓声が起こった。
    アキラは大きな身体を控えめに隊長の坂本愛子の所へ挨拶に向った。
    「隊長さん、お久し振りです。ご苦労さんです。変りありませんか」
    「本当ねぇ、突然みんなで押し寄せて悪かったわねぇ。ほら昨年暮れに、こちらに遊びに来てと、年賀に書いてあったでしょう。丁度こちらの方で会合があったので、若い衆を慰安旅行に連れて来た訳なのよ。もちろん家の家業(テキヤ)でも一応、株式会社なのよ」

    「いやぁ本当に嬉しいですよ。でっあの松野さんは元気でしょうか?」
    「早紀のことねぇ、早紀は旦那の所へ帰ったわよ。その旦那がね、私の所へ来て頭を下げ早紀を優しくするからと言って笑っちゃうわよ」 
    「そうですか安心しました。でも俺、悪役になったかなぁ」
    「そうねえ、その点では私も同じよ。でも遊びに来てと、貴方に言ってたわ」
    「とんでもない俺は旦那の子分を痛めつけたから敵役ですよ」
    「そんな事ないわよ。貴方は早紀の為にした事なのだから、それでも貴方を早紀の旦那が、逆恨みするなら仁義に反するじゃない。早紀もその点は分っているし、もしそうなら私が黙ってないわ」

    この竜馬隊は仁義を大事にして、これ迄やって来た。例え誰であろうと仁義に外れた事をしたら総力を挙げて戦う集団であった。
    さすがに女とは言え、度胸と貫禄を兼備えた坂本愛子だった。
    アキラは改めて坂本愛子の、その心意気が好きになった。
    それからアキラは、竜馬隊一向と共に飲み宴会を盛り上げた。
    しっかり意気投合した竜馬隊とアキラだった。
    翌日アキラはその一行の観光案内役を引き受けて伊豆の観光地を廻る事にした。
    なにせ竜馬隊一行は、ほとんどが関東地方は初めてらしく見るもの聞くもの珍しく子供のように喜び楽しんだ。
    しかし見るからにその外見は、どう見ても堅気には見えない。
    どんなに愛想を振舞いても偏見を持つなと言っても、これは仕方のない事だ。
    何はともあれ一行は伊豆の観光を堪能した。
    アキラも彼等とは意気投合して、その帰りに伊豆近海の伊勢海老などダンボール五箱分も彼らに、お土産として無理矢理持たせた。
    彼らもアキラの観光案内やら気配りに感激して必ず高知に来てくれと、中には泪さえ流してアキラとの別れを惜し者もいた。
    短期間の間に、それも怖いお兄さん達の心を掴んだアキラ。
    彼らはアキラを同類と見込んだのだろうか、それともアキラも、その道に憧れた訳じゃないのだろうか? その別れ際に坂本愛子は言った。
    「山城さん、貴方って人は凄い人だわ。人を惹き付ける力があるのね。若い者が本当にお世話になりました。私からもお願いするわ。かならず高知に遊びに来てくださいな、私に出来ることなら、いつでも相談に乗るわよ。楽しみにしていますよ。ありがとう」 
    坂本愛子から最大級の賛辞を送られ、竜馬隊一行は伊豆を後にした。
    これまでのアキラと人の出会いは、アキラの柄に合わない優しさに触れ当の本人は気が付いて居ないだろうが、確実にその輪を広げていった。
    アキラは高知の竜馬隊の人達と、ひと時の再会を喜び気分良くしていた。
    アキラはいま自由の身、特に松の木旅館から給料を貰っては居ないが、それでは申し訳ないと云うので小遣い程度を貰っている。
    そうする事により双方が気兼ねしなくて済むからと。
    あとは好意と勉強の為に手伝っていた。

    つづく

  • >>2241

    第5章  夢の始まり  5

     アキラは翌日の朝、赤羽のマンションに帰宅した。
    今はまだ先の事は良い。自分の心に閉まって置いて、その翌日に熱海に向かった。あの山崎恭介は頑張っているかな? 女将さんや宮さんに心配かけてないか? そんなことを考えながら熱海の松の木旅館に車を走らせていた。
    丁度この時刻は旅館がもっとも忙しい夕刻にアキラは到着した。

     なんとなんと思ったより泊まり客が沢山訪れて女将もアキラが帰って来たのに気が付かない程に忙しかった。アキラは挨拶を後回しにして早速、旅館の半纏を着て接客に勤めた。
    「お疲れ様でした。さぁさぁお客さん、こちらへどうぞ」
    その大きな体格で厳めしい顔を恵比寿様のような顔に変えて、せっせと客を案内するアキラ。
    「アラ? アキラさん。お帰りなさい」
    やっと女将はアキラに気付いた。それ程に忙しかったようだ。

    「やぁ女将さん、忙しそうで何よりですねぇ」
    久々の松の木旅館を手伝ってアキラは自分が家族の所に帰った気分だった。
    何せホテルや旅館業は夕刻から客が寝るまで忙しい。
    やっと夜の十一時、厨房も仲居さんも一段落した。
    しかし女将や主人の宮寛一は、何かとやる事が多いのだ。
    夜中の十二時近くにやっと全ての仕事が終った。
    そこに松の木旅館の主、宮が声を掛けてきた。
    「やぁアキラさん。いやぁ助かっていますよ。紹介してくれた山崎くん、正直驚いたよ。多少の腕は持っているかなと思ったけど、多少なんてもんじゃない。うちの板前もビックリしてますよ。流石はアキラさんが見込んだ人だ」
    「えっ恭介がですか、そんなに凄いんですか」

    「山崎くんの得意は和食より洋食だけど、これがまた凄い。つい山崎くんの得意料理を板長と相談したら快諾してくれてね。一品料理を夕食に出したんだ。これが評判良くてねぇ」
    「へぇ驚いたなぁ、恭介って凄いとこあるんだな。いや予想外だ。でっ恭介は皆さんに迷惑かけてないでしょうねぇ心配でね」
    「いやいや迷惑かける処か、若いのに礼儀をわきまえていて、ちゃんと自分の立場を分って働いているから評判も上々ですよ」
    「社長それは褒めすぎじゃないですか」

     確かに宮寛一は立派な旅館の社長だ。しかし宮寛一はどうしても意識する。なんたってアキラから五千万の融資がなかったら倒産していたかも知れないのだ。
    その点では今もアキラは宮寛一の大恩人に変りはないが、やはり此処は宮寛一の城、従業員から見れば立派な社長である。
    「アキラさん……どうしんだい急に社長だなんて呼んで」
    「いっいや俺はまだ人生経験少ない若造だしハッハハ」
    とアキラはつい、照れ笑いして誤魔化した。
    「あのさぁ、アキラさん気を使わないでくれよ。今まで通りの宮さんの方が、互いに気が楽で良いのだけどなぁ」
    宮は嬉しそうに話した。年が離れても宮は遠慮して欲しくなかった。
    そんな話をしている所へ、女将の貞子が入って来た。
    「あらっ? どうしたのアキラさん」
    丁度、照れ笑いしている所へ、女将が興味津々で問い掛けた。
    そんな話を宮寛一は笑いながら女将で妻である貞子に説明した。
    「あらっアキラさん今まで通りでいいのよ。アキラさんらしくね。そんなに気を使って貰ったら、こちらこそ大恩人に頭が上がらないわよ」

    「女将さん。大恩人だなんて止してくださいよ。俺いや僕の方こそ、松の木旅館に帰って来た時、我が家に帰った気分になって、一人身の俺、いや僕には有難いと思ってるのに」
    だいたい年上の人に敬語を使うのは当り前だが、やはり同様に敬語なら「俺」より僕の方が正しいだろう。
    慣れない敬語にアキラは(俺)と(僕)で苦労していた。
    「アキラさんの気持ちは嬉しいわ。でも気を使わないで下さいね。その方が自然ですから 今まで通りで行きましょうよ。ねぇ貴方」
    と夫の寛一にも女将は同意を求めた。
    とにも、かくにもアキラは松の木旅館に完全に受け入れられていた。
    それからアキラは久し振りに恭介と話ことが出来た。
    「お帰りなさい。アキラさん」
    この恭介もまた、アキラの魅力に惚れ込んでいた一人だ。
    それ以前にチンピラに脅され多大な借金を背負わされ自殺しようとした所を助けられ、オマケにチンピラと戦い借金も返済出来た。今では兄のように慕っていた。
    「よう恭介、女将さんと社長が凄く褒めていたぞ。料理が美味いってな、何かの間違えじゃないのか」
    「またまたアキラさん。相変わらず口が悪いんだからハッハハ」
    「処で恭介は調理師免許持っているのか?」
    「勿論です。夢を叶えるには最低条件ですからね」
    「そうか大したものだ。見直したぜ」
    今宵は恭介、女将に寛一とアキラ。久し振りの笑いの耐えない夜だった。

    アキラは恭介の思いがけない料理の素質に驚いた。
    人は見た目だけでその人物の評価を決め付ける事が出来ないと改めて知らされたアキラであった。
    それなら俺だって、自分にさえ分からない能力を秘めているのじゃないかと。

    しかしアキラは今、心の中でその力が育っていると思い始めたのだった。
    それから約一ヶ月間、アキラは松の木旅館の手伝いをしていた。
    そんなある日の事だった。三十数名の団体客が入っていた。
    それも今日は旅館を貸切だと言うことだが、その日の夕刻その団体客が大型バスで松の木旅館の玄関に到着した。
    なんでも十日ほど前予約した高知からの団体客と言う事だったが。
    久振りに大勢の団体客とあって、宮や女将など総出で出向かいた。
    なんと! その団体はどこから見てもソレ(ヤクザ)と分る風体の人達だった。
    最初に三十名の男達がバスから降りると、大型バスの出口を挟んでキチンと整列して最後に出てくる人間を出迎えた。

    松の木旅館の人達はその様子を見てアッケに取られたのをよそ目に見事な大島紬かと思われる着物を流暢に着こなして、キリリとした眼差しで辺りを見回した。男どもが軽く頭をたれる中を颯爽と歩いた。
    その時、宮や女将は相手を確認しないで予約を入れた事を悔やんだ。
    松の木旅館の人達は、大変な事になったと身体が凍りついた。
    宮寛一と女将はその、脳裏に浮かんだのは?
    (こんな時、アキラさんが居てくれたら、どんなに心強いか)

    しかしなんと間の悪いことか、当のアキラは伊東の方へ視察に行っていた。
    アキラは幾らでも沢山の旅館、ホテルに泊まって見ておきたかった。
    毎日のように泊まり歩いたら大変な金額になるが今のアキラは多少の支出にしか過ぎない。なにせ成金様である。
    あの塩原温泉の名もない、小さな旅館の露天風呂そして、あの清流とで言うのか、きれいな小川が頭から離れない。
    熱海にあって、塩原にないもの?
    塩原にあって熱海ないもの、なら他所の地ならまだ何かあると他人から見れば、ただの浪費と思われる旅館の渡り泊まり。
    アキラは人がどう思うか気にしない。今またひとつ見え始めたのだ。

    つづく

  • >>2239

    (夢の始まりは6章ではなく5章でした)

    第5章  夢の始まり  4

    「アキラどうりで大判振る舞いしてくれると思ったが、悩みもあるように見えたよ。それであの熱海の旅館の主人と知り合った訳だな」
    「そうです。関西の温泉地で、ちょっとした事があって偶然にも東京の銀行に運転資金を借りに来て断られた処に出会ってね。どうやら旅館が資金繰りで追い詰められて途方にくれてたみたいで、つい五千万ほど貸してあげたんです。ついでに手伝いに旅館に行ってたんですよ」
    アキラの話を聞いて相田社長、真田、美代は目を丸くした。
    「アキラらしいなぁ、俺と出合った時は二~三万の金に苦労してたのに一、二度会った人間にポンと五千万も貸してやるなんて」

    「山城くんは、その金で商売をやって生かしたいと思っている訳だな。まぁそれなら、もっと社会勉強して何が自分に向いてるか見定めて、その時が来たらいつでも相談に乗ってやるから来なさい」
    「有難う御座います。社長にそう言って戴けるだけで幸せです。その時が来たら遠慮なく相談に伺います」
    「今日は山城くんと浅田さんに取っても目出度い日になったし近い将来二人三脚で頑張ってる姿が浮かぶようだ」
    相田社長と真田は若い二人の門出を心から喜んだ。

    アキラも胸の痞えが取れて、そして最愛の恋人美代と愛を確認して今宵はアキラそして、美代は生涯忘れられない日となった。
    その夢のような日から三日後、アキラと占い師の真田小次郎は馴染みの居酒屋で飲んで居た。
    どうやらこの二人は、根っからの庶民派のようだ。
    なんと言っても格式に拘らず、肩肘張ることもなく飲める場所だ。
    それにしても真田小次郎なる人物、かなり顔が広いようだ。
    なのに何故、教師の椅子を捨ててまで、占い師を続けるのだろうか?
    真田は離婚暦があり現在は一人身、子供も居ないそうだ。
    離婚が原因で教師の椅子を捨てたのか、真田は多くを語らなかった。
    過去暦を見れば、アキラなど付き合う対象にならない人物。
    そんに身分を知っているアキラだが、おかまいなくコキ降ろす。ただ嫌悪感を感じさせない所がアキラの人柄のだろう。
    年齢差も倍も違うのに、何故こうも気が合うのだろうか。
    「とっつぁん、この間は驚いたなぁ、あの社長の知り合いとはなぁ」
    「そうか驚いたか、まだ序の口だ。次は総理大臣でも連れて来ようか」
    「とっつあん幾らなんでも其処まで言うかぁ、ヒャッハッハッ」
    「でも美代さんの事は感謝しているよ」
    「ありゃぁ? 今度は急に素直になったじゃないか」
    アキラは宝くじと、美代と言う最大のものを、ふたつ手に入れた。
    振り返ればアキラの人生、やや不幸の陰りが漂っていた日々だった。
    何故かこの真田小次郎との出会いから運命が変わり始めている。
    アキラは心に決めた。せっかく神が与えてくれた好運を離さないと。
    その為には、社会勉強を身に付けて、商いの心得を学ことだ。
    今のアキラの頭に残っているのは、ほんの少し学んだ旅館経営とことだけ。
    しかし、それは二~三億円の金ではどうにもならない。
    もし銀行が融資相談に乗ってくれるにしても信用度、経験、事業企画書にしても担保、保証人、何ひとつ借りられる材料が揃っていないのだ。
    ただ漠然と思っている今の段階なのだ。それでも夢だけは確実に広がって行くのだった。

    「アキラ、折角手にした大金だ。有効に使えよ」
    「あぁやっと胸の支えが取れたようなんだが、どうして良いやら」
    「今アキラがやって見たい仕事、または子供の時になりたかっ仕事を、あせらずに、じっくり世間を見渡して決めればいいよ」
    「そうなんだよなぁ、このままじゃ美代ちゃんと結婚も出来ないよ」
    「ほう、とうとう美代さんから、美代ちゃんになったか」
    「アレッ俺そんなこと言ったけっ」
    どうやら今のアキラは浅田美代の事で頭がいっぱいのようだ。
    その日は深夜まで飲んだアキラと真田だったが真田小次郎は別れ際にこう言った。
    「今は何も考えるな。遊べ、遊びの中からヒントを見つけろ。その時が来たら応援してやるから、但し一回につきビール一本だぞ」
    真田らしい教えにアキラは苦笑しながらマンションヘと帰って行った。
    アキラは真田に言われたことが、まだ頭に残っていた。
    遊べ、でも散々遊んで来たアキラだ。これ以上どんな遊びがあるのかと人間とは勝手な生き物だ。勉強しろと言われれば嫌になる。
    遊べ遊べと言われれば、これまた変に遊びにくいものだ。
    つまり人に命令されたり、束縛されたりするのが好まないのだ。
    しかし世の中の仕組みは、常にある意味では束縛されている。
    日本人なら、その日本国の法律に従って生きなければならない。
    いわゆる一種の束縛には変わりはないのだが。

    とかく人生は束縛と言うルールの下に生きて行かなければならない。
    ならばいかにその束縛という呪縛の中から己の人生を切り開きか、より良い人生を送れるかは自分次第だ。例え親がレールを敷いてくれても最終的には自分の力だけが幸福を手に出来るのだ。
    (遊びの中にヒントがある)真田小次郎がヒントを教えてくれた。
    今は占い師だが元教師の言葉だけに重みがあった。
    しかしアキラには何を遊んで学べと言うのか皆目、見当が付かなかった。
    結局アキラは一睡も出来ずに朝を迎えた。目が充血している
    真田小次郎の(遊べ)がアキラにはヒント処か重荷になってしまった。
         
    アキラは朝になって眠気が襲って来た。そのまま、また眠ってしまった。
    やがて眼が覚めたら、もう夕方になっていた。
    何故か今日は自分自身に腹を立てていた。
    自分に自問自答した。眠い時は眠り起きたい時に起きる。余りにも情けない生活している自分に腹を立てたのだった。
    先日は美代の前で偉そうな事を言ってたが、あれは何なんだ?
    しかし焦ってもこれと言った答えが出る訳でもないし。
    相田社長が料亭で言った言葉をアキラは思い出した。
    (もっと社会勉強して、何が自分に向いてるか見定めて)
    そんな事を言ってくれた相田社長だったが、見定めが難しいのだ。
    だが、そんなややっこしい事、アキラには難し過ぎた。

    つづく

  • 今日は一転して涼しい。
    何日ぶりかな最高気温27度なんて、久し振りにエアコンいらず
    やはり天然の涼しさは一番です。
    明日も涼しいようでこれで台風が接近しているおかげ?
    まさかお礼参りに災害はお断りです(笑)

  • 第6章  夢の始まり  3

     アキラと美代は思わず顔を見合わせた。二人には不似合いな高級旅程に心の動揺を隠せなかった。ここを利用する人々は諸名人、政界の人々が出入りする場所。
    二人にはジャングルの世界から大都会の真ん中に来たような気分だった。
    その料亭 華憐玄関には二人の仲居さんが迎えてくれた。
    「いらっしゃいませ。本日はご利用有難う御座います」
    「私、山城旭とこちら浅田美代さんです。相田社長のお招きで」
    「ハイ! 承っております。どうぞこちらへ」
    アキラはその格式に押されてカチンカチンの状態だった。
    赤い絨毯がいかにも高級料亭の威厳を漂わせている。
    その仲居が「お連れ様がお見えになりました」と声をかけた。
    仲居に即されて二人は部屋に入って驚いた。
    其処には相田社長の他に、見慣れた人物が座っていた。
    「ようアキラ! 久し振りじゃのう」
    なんと、その人物は占い師の真田小次郎ではないか。
    「あっ? と、とっつぁん……どうしてこんな所に」
    「山城君、久し振りじゃないか、それと浅田さん。まぁ入んなさい」
    アキラはキツネに摘まれたような顔で案内された席に座る。

    驚きは後にして、浅田美代と真田小次郎は初対面であり自己紹介された。
    「山城君、脅かして悪かったなぁ。実は真田さんは僕の大先輩にあたり大学時代の(占い研究会)で懇意させて貰っているんだよ」
    「まぁそう言う訳だ。アキラ本当はもっと前に話さなければいけなかったんだが、つい言いそびれてしまってな」
    「しかし驚いたなぁとっつぁん。いや真田さんと社長と知り合いとは」
    「ハッハッ先輩! 先輩も山城君の前では形無しだなぁ」
    「なぁに相田さん。アキラに、さん呼ばわりされたら気色悪いですよ」
    「済みません社長、いつもの癖が出てしまって先生をやっていた人だとは聞いていましたが、なんと呼べばいいでしょうかね」
    「アキラ今更 何言っているだ。とっつぁんで結構だよ。ハッハハ」
    そんな会話を美代きはキョトンとして聞いていた。
    まるで話が空中を飛んでいて美代には、なかなか内容が理解出来なかった。
    その辺を察して相田は美代に細かく説明してやった。
    すると美代は真田に向き直って。
    「あの~私、真田さんとは初対面ですが、いつぞや電話でアキラさんの消息をお聞きしました。その説はありがとう御座いました」
    「なんの、それにしてもこんな綺麗なお嬢さんがアキラと……」
    そう言われて美代はちょっと顔を赤くして下を向いた。
    「先輩、お嬢さん困っているじゃないですか。山城君の人柄でしょう」
    相田社長は困った美代を見て助け舟を出してくれた。
    美代は小さく相社長に頭を下げた。アキラはどん人でも息合うだなぁと関心した。親子ほど年の離れた二人が意気投合する処がアキラらしいと思った。

    アキラも場所柄と相田社長を前にして、どうも硬くなっているらしい。
    アキラは改めて相田社長に挨拶した。
    「この度は僕のような者を気に掛けて戴き有難う御座います。社長の好意に背いて好き勝手な私には有り難過ぎて返す言葉も有りません」
    その丁重な挨拶に真田小次郎はアキラの新しい部分を見た。
    「ところで山城くん、最近は旅に出たり旅館を手伝ったりと色々やっている みたいだが、なんか金の羽振りも良いとか? それで真田先輩が君のことを心配してくれて今回、場を設けさせて貰った訳だよ」

    アキラは自分のような若者をそこまで心配してくれる二人に胸が熱くなった。
    そして今まで母にしか言ってない苦しい胸の内を話べきかと思った。
    「そうなんだ、アキラ。余計なお世話かも知れないけどなぁ、ちょっと儲けた とか言っていが、どうもその後の行動が無職の人間がどうしてそんな余裕があるのかと思ってなぁ信用はしているけど心配でな」
    それは事情を知らない人は誰でも不思議でならないだろう
    浅田美代でさえ、アキラは信頼しているが心配だったのだ。
    ここまで心配してくれる人を前に、もう本当の訳を言う時だと思った。
    金のない若者が突然と億万長者になった。例え若者でなくても同じだろうが

    予断だがこんな実話がある。
    宝くじの当選者が何処で宝くじが当ったのが知れたのか、そんな話が広まるのは早い。まず保険会社のターゲットにされた。沢山の保険会社が殺到した。
    勿論その話を聞きつけた不動産屋、株投資、自動車屋、などなど。
    そして、お決まりの遠い親戚、取り巻く知人など「金を貸してくれ」と、中には脅迫がまいの者まで現れて、とうとう夜逃げ同然に遠い所に転居してしまったと言う怖い話だ。気の弱い人だったらノイローゼに成りかねないのだ。

    アキラはいよいよ宝くじに当ったことを話つもりになった。
    しかしその前に話して置きたい事がある。浅田美代への愛の告白だ。
    彼女も話した後だと何かと気が引けるだろうから、そこでタイミング良く相田社長が助け舟を出してくれたのだ。
    「その前に、浅田さんと山城くんは、上手く言っているのかね? 僕は君達の仲を心から応援しているのだがね」
    突然そんな話を言われて美代は頬を赤く染めた。
    「……僕は不器用で人からは怖がられ、そんな僕に美代さんは優しく接してくれて、なんて言っていいのか」
    しばしアキラは次の言葉に詰まってしまった。
    「そっそんな、私の方こそアキラさんと居ると落ち着くのです」
    アキラは相田社長と、真田に軽く頭を下げて美代の方に顔を向けた。
    「突然こんな事を言うのもなんですが、僕は美代さんが好きです。そして僕が一人前と認められたら結婚したいと思っています。本当に突然こんな話を言い出して済みません」

    なんとぶっきら棒なアキラの突然の結婚宣言だ。
    美代は強い電流が体を流れて感電したような衝撃を受けた。
    相田社長と真田はニコリとして、静かに頭を縦に二回軽く振った。
    浅田美代は、アキラの突然の愛の告白どころか結婚宣言までしてしまったのだ。美代はもう心臓が飛び出しほどに驚き、そして止めどもなく澄んだ綺麗な瞳から泪がこぼれ落ちるのだった。
    そんな浅田美代の姿を見た相田社長と真田は、また先程と同じ様に納得したかのように、頷いた。美代は少し落ち着いてから静かにゆっくりと話し始めた。

    「……わたし男の人にそんな風に言われたの初めて……でもアキラさんの言葉、本当に嬉しいです・」
    そのまま美代は下を向いたまま黙ってしまった。
    そして暫らく、その部屋は甘い空気に覆われて庭から小鳥のさえずりがピピィ~~と二人を祝福するかのように響き渡った。
    その静けさを破るように、相田社長と真田が拍手を送った。
    「いやぁ良かった、良かった。いいねぇ先輩!若い人は」
    「アキラ、浅田さんに感謝しろよ。おまえは幸せものだ」
    美代はさすがに結婚の約束こそしなかったが、言葉のアヤは違うが美代の「嬉しいです”と、その表情で誰もが読み取れた。
    「みっ美代さん。ありがとう」
    なんとアキラは顔を真っ赤にして、目が潤んでいた
    きっとアキラにとって宝くじに当った時よりも何も、生まれて二十七年、今日が最良と日となったことは言うまでもない。

     やっと胸につかえていた物を吐き出したアキラは語り始めた。
    「実は……相田社長の会社にお世話になって嬉しくてそして感謝してました。なのに理由も言わず辞めてしまった事は申し訳なく思ってます。その訳は誰にも言えずに、挙句に母にまで誤解されて、それで数ヶ月前に母にやっと話しました、その事とは幸か不幸か宝くじが三億円当ってしまったんです」
    真田と美代は驚いた表情を浮かべたが、相田剛志は予想していたかのように、やはりそうかと言うような表情をしていた。
    金持ちは、そんな心理が読み取れるのだろうか?
    アキラの話は、ひとつひとつ苦しみから解放されるように更に話は続いた。
    「それでですね。暫らく社長の所で働いていたのですが、どうしても割り切れない疑問が浮かんで来たんですよ。生活する為に働き金を貯めて将来何かをやってみたいと思って、しかしその金が突然に出来てこのままでいいのかと思って、旅に出ることにより何かヒントになるような事に出会えるのじゃないかと思って、結局は旅に出たんです」
    「なるほど、若いのに礼儀正しい君がねぇ。どうも様子がおかしいと感じてたんだが、誰でも普通じゃいられないだろうな」
    相田社長は納得して、真田と美代に目を移した。

    つづく

  • >>2237

    第6章  夢の始まり  2

    「こちらこそ宜しくね。どうぞ中にお入りになって。いま主人を呼んできますから」
     恭介とアキラは応接間に通された。数分して宮寛一が応接間に入って来た。
    「やぁアキラさん久し振り。どうだったね、旅は」
    「いやこれと言った事はなかったんですがね。あっ彼ですよ」
    又 同じ様に宮に恭介を紹介した。
    「丁度良かった。板前がちょっと長期入院することになりそうで困ってた処だ。こちらこそ宜しくお願いします」
     丁度良かったは果たして恭介の実力次第だが、恭介は役に立つのか?
     松の木旅館で二~三日休養してからアキラは寂しがる恭介を残して東京に戻ることにした。そうなんだアキラは早く浅田美代に逢いたかった

     東京に帰った翌日に浅田美代と逢う約束を取り付けてあった。
    久し振りの再会だ。またあのレストランで逢うことになっている。
    夕刻の六時少し前にアキラはレストランに入った。
    もう何度も利用している店だ。そして二人の思い出の場所でもある。
    水色のワンピースに少し長めの髪、なんとも爽やかな姿で美代が現れた。
    今時は珍しい控えめな彼女、爽やかな美代にアキラはウットリとする。
    「お久し振りです。アキラさん元気でしたか」
    「美代さんも元気そうで、本当に久し振りで」
    なんとなく二人はギコチない感じがした。アキラは柄にもなく浅田美代みたいな清楚な女性には、どうしても気を使いすぎるようだ。
    それを程、大事な女性なのだ。彼女の前では紳士でいたかったアキラ。
    そんなアキラを美代は好きだった。、逞しくて男らしくて純なアキラが。
    このままだと互いに、純すぎて愛の告白なんか出来そうにもない
    誰かが後押ししてくれなくては、いつまでもこのままかも知れない。
    「美代さんにお土産があるんだけど」
     
    「えっ本当ですか? 私の事を忘れないで居てくれたのね」
    「忘れるなんて、とんでもないす。気に言ってくれると良いのですが」
    アキラが照れくさそうに美代に手渡した。
    浅田美代はニッコリ笑って嬉しそうにアキラに断って土産を開けた。
    それはオパールのネックレスとブローチのセットだった。
    そのオパールの淡い輝きは清楚な美代に良く似合っていた。
    美代のキラキラ光った瞳が、熱い涙に埋もれて その瞳から雫がこぼれた。

    「ありがとう、アキラさん嬉しいわ。本当にありかどう」
     美代はアキラの心のこもった贈り物に感動した。
     そんなアキラはどんな思いで買ったのだろうか、そのゴツイ体で、さぞかし顔にいっぱいの汗を浮かべて買ったではないだろうか。
    美代も多分、アキラは照れながら買った姿を想像して自分の為に買ってくれたアキラ。勿論プレゼントの品は気に入ったが、それ以上にアキラの気持が嬉しかったのだ。
    「いやぁ良かった。気に入って貰えて、あんまりこんなの買った事ないので」
    あんまりとは言ったが、あんまりどころか初めてだった。
    「それで北海道の方はどうでしたか」
    「ええまぁ、一人旅ですからね、何か参考になればと行ってみたのですが。それがね、ヒョンなことで一人の若い男を松の木旅館に紹介したんです」
    「あの松の木旅館ってアキラさんが働いてしていた所でしょ」
    「そうです。丁度 板前さんが入院することになって」
    そんな会話の中で、美代はアキラに伝えることがあった。
    「あっそうそう西部警備の社長、相田さんが心配していましたよ」
    「そう言えば、あれ以来ご無沙汰だなぁ僕のことを気に掛けてくれて今度、挨拶に行って来ますよ」
    「そうね、きっと喜ぶと思います」

     二人はレストランを出てネオン街を歩き出した。
    その身長の差はなんと三十二センチもあったが、美代も決して小さくない百六十三センチあるがアキラが大き過ぎるのだ。
    その美代がさりげなくアキラの手に自分の手を絡ませた。
    少し驚いたアキラは急に胸が熱くなって鼓動がドクンドクンと波打つ。
    この年になって女性と手を繋ぐなんて夢のような。
    アキラは今、甘い夢の世界をさ迷っている。
    きっと二人の恋は熱く熱く育って行くことだろう。アキラさえドジをしなければ。

    翌日に西部警備株式会、社長 相田剛志に電話を入れた。
    その翌日の夜に料亭に浅田美代と共に招待された。
    さすがは一流企業と社長、都内でも有数の名の通った料亭だった。
    しかし相田社長は、なんの取り得もない若者を気に掛けてくれるのかアキラは不思議でならなかった。しかしそれは予想外の人物が絡んでいた。
    アキラと浅田美代はタクシーで料亭に行った。
    タクシーがその料亭の中庭まで入った行った。広い庭園になっている。
    ここは赤坂でも有名な(料亭 華憐)政治家でもよく使う高級料亭だ。
    まさに都会のオアシスだ。池には蓮の花が咲いて鯉が優雅に泳いでいた。

    つづく

  • 宝くじに当たった男
    第6章  夢の始まり  1

     山城旭 ニックネーム ゴリラ。普段は優しいが一旦怒るとゴリラの如く暴れる廻る。今では死語になりつつあるが強きを挫き弱きを助ける。
    外見は百九十五センチの長身、空手の心得もあり、まさに正義のゴリラだ。
    アキラを知る人は言う怒った時の、そのパワーはゴリラにも匹敵すると言う。
    決して二枚目とは言えないが、男臭さは天下一品の極上男である。
    昨年は南へ、今年の春は北へとのんびり旅行の筈が南から北へと人助けの大暴れ、その結果は数人の人を救ってやった。
    今回の戦利品は? いやいや男アキラに惚れ込んだ山崎恭介二十五才だった。
    苫小牧を出たカーフェリーは東京までの二日間の船の旅だ。
    青く澄み切った太平洋の海原はどこまで真っ青な空と、青と言うよりも黒に近い冷たい海流と深い海の色だった。もう季節は梅雨時から初夏へと向かっていた。

    「アキラさん俺、東京は学生の時一回しか行ったことないんだ。なんかワクワクするなぁ」
    「そうかぁ俺は生まれたときから東京の下町だけどワクワクしねぇぜぇ」
    「ハッハハハそりゃあアキラさん自分が生まれ育った所でワクワクする訳ないじゃないですか。俺だって旭川では何にも感じないすっよ」
    「まぁなそりゃあそうだ。ヒャハッハハ」
    「これからの予定だけど俺のアパートで暫くのんびりしてから恭介の就職先に案内するからな。昨日先方の旅館に話してOK取ったから恭介の目指していた料理職人の夢があるんだろ」
    「そりゃあ有り難いですけど、アキラさんは一緒じゃないの」
    「なに言ってやがる。お前だってガキじゃないんだから我慢しろ。俺も旅館の様子見てから決めるけど……どうしてるかなぁ」
    旅館とはアキラが出資援助した熱海の松の木旅館のことだ。
    アキラが松の木旅館を離れて三ヶ月、そう簡単に状況は変わらないだろうが。

     決して景気がいい訳じゃない。宮夫妻や子供の暗い顔は見たくなかった。
    アキラなりに松の木旅館を建て直しに協力したが所詮は素人、大した約には立たなかったが、そんなアキラを松の木旅館の人達は快く受け入れてくれた。
    それだけにアキラ心配だった。今アキラの自由になる金は一億二千万となった。
    実際には母に一億、松の木旅館の宮寛一に五千万の出資してある。
    しかしアキラは自分から言い出したのだ。なっかた事になんて出来ない。
    自分の為に使った金は三千万だけなのだが。
    三千万だけとは三億円当った人の言葉であって、一般庶民には、ちょっとした建売住宅が一軒建つ金額だ。
    普通のサラリーマンは親の援助なしで庭付き住宅を持ちには一生に一度出来るかどうかの大仕事なのだ。
    子育てや人並みの行楽や付き合いの中から生み出し金額は大変だ。
    正に運と言うのだろうか、真面目に働いても金が残らない人がほとんどだ。
    アキラのようにリストラされて、お先真っ暗な時に神から選ばれた者? 
    運が強かったと言う事になる。さてさてその強運の持ち主はその運を更に
    広げられるか。または元の木阿弥で貧乏生活に戻るかなのだが。
    アキラの性格からして、大金持ちとして勝ち組みに入るか失敗して更に貧困の貧乏生活を送るかと言うことになるのだが。
    人間は持って生まれた性格は簡単には変わるものではない。
    コツコツと安全な道も選ぶも由、人生はすべて掛けと勝負するも由その人の性格で使い道は千差万別、もっとも三億円あっての話だが。
    なんと言ってもアキラの人生は、常に波瀾万丈が好きなようで見る側から見れば、これほどに面白い男は居ない。
    その面白い男は久々に自宅は東京、赤羽のマンションに帰ってきた。
    驚いたのは今やアキラの弟分の山崎恭介だった。
    アキラは金持ちだと聞いてなかった。その仕事さえ分からなかった。
    只、分かっているのは生活には不自由していない事だけだったが、なんとアキラが入って行った場所はアパートと言っていたが二十回建ての高層マンションだった。玄関にはカードと暗証番号を入力しないとロビーから先は入れないのだ。いわゆるカードキーだ。

     大理石の敷き詰めたロビー、床はピカピカと光輝いている。
    恭介のアパートと来たら、階段はギシギシと隣の音どころか、その隣の音まで聞こえて来そうな。風呂なしの兎の檻では雲伝の差だった。
    開いた口を閉じることさえ忘れてアキラの後ろから着いてくる。
    アキラはドアをカードキーでピット開けた。
    恭介はアゴでも外れたように、口はアングリと開けたままだ。
    「恭介まぁ入れよ。大した家具もないけど広いのだけが取り得だ」
    「はぁ? これアキラさんの部屋ですか」
    「人の部屋に黙って入ってどうすんだよ。まぁゆっくりしょうぜ」
    「アキラさんって凄い金持ちなんだなぁ驚きましたよ」
    「金持ちなんかじゃないよ。まぁそんな事いいじゃないか」
    アキラは宝くじに当たった事を言わずに誤魔化した。
    「で今日はゆっくりして明日、熱海に行って其処で働く事になるのだが、ちゃんと気持の整理は付いてるだろうな」
    「うん、それは大丈夫なんだけどコックになるの夢だったから。でもアキラさんは、これからどうするの」
    アキラもそう言われて返事に困った。人の面倒見はいいけど自分の事となると
    全く考えてなかった。いつまでも松の木旅館で手伝っても意味がない。
    その場その場で決めて行くアキラ流? つまり計画性がないだけだ。
    翌日アキラと恭介は熱海の松の木旅館へと向った。
    「あっアキラお兄ちゃん」
    宮寛一の娘がアキラを見つけて飛んで来た。
    「よう舞ちゃん。元気にしていたか。お父さん、お母さん元気かい」
    宮夫妻の娘 舞子はアキラには懐いていた。
    アキラは子供が好きだが、馴れないと子供の方はアキラを見て警戒するか逃げるだろう。しかしアキラを良く知っている子はアキラの優しさを知っている。
    「あのね、今日は板前さんが病気で休んでいるの、それでお父さんが今日は板前さんの代わりにね、厨房に入るんだって」
    「そうか、じゃ丁度いいや」
    アキラは恭介を見た。恭介は頷いた。いきなりの出番である。
    「恭介はどの位の経験あるんだ? 俺詳しいこと聞いてなかったが」
    「えっ言ってなかったすか。見習い含めて五年やったんですよ」
    「へぇ~そんなにやっていたのか、俺さぁ女将さんに見習いで頼んであるんだ」
    「まぁ暫らくやってないから、まだ一人前にはほど遠いすけど」
    アキラは舞子に手を引かれて旅館の裏にある宮家の玄関に向った
    ちょうど其処に宮寛一の妻、松の木旅館の女将が出て来た。
    「あらっアキラさんお帰りなさい。どうでしたか旅の方は」
    「あっどうも久し振りです。大した収穫はなかったけど一人厄介者ですが頼みますよ。この男は山崎恭介です」
    「初めまして、ちょっとした事でアキラさんと知り合って、こちらを紹介されました。宜しくお願いします」 
    恭介は女将に深々と挨拶した。

    つづく

  • >>2235

    ありゃあパソコンの故障ですか、パソコンは急に故障するから困りますね。
    特にデーターが消えたら大変、一応私の場合はバックアップ取ってはいるんですがね
    エクセルに各種のID.パスワードを記録はしているのですが。
    それでも本体が故障したらパー。其処で外付けのHDやUSBに保存してます。

    >涼しいのではなく寒くなったのです。

    えー信じられない。こちら常にエアコンつけっぱなしです。
    なにせ二階なんか部屋の温度は昼で35度、夜でも30度あります。
    猛暑というよりも酷暑ですね。今年の夏は異常ですよ。

  •  あ、それともう一つ。皆さんの方は依然として猛暑が続いているようで、大変ですね。私の方も数日前までは暑かったのですが、昨日からいきなり「寒く」なりました。涼しいのではなく寒くなったのです。今朝は思わず暖房をつけようかと思ったほどです。今は長袖のポロシャツの上にジャージを着ています。
     信じられないと思いますが本当です。おそらく皆さんの方とは15℃以上の差があるようで、おかげでプールには人影もありません。早く夏の暑さが戻って欲しいものです。
     こんな小さな日本でこんなにも違うものですね…・…

  •  しばらく顔を出さないですみませんでした。
     実はパソコンが云うことを聞かなくなり、しばらく入院させていました。こんなに長くなるなら買い替えた方が良かった……
     何とか退院してきたと思ったら、いろいろなことが起きて大変でした。いろいろというのは嬉しいこともうれしくないこともいろいろで、そのうち小説にしたいと思ったくらいでした。
     ところでどこまで進んでいるのかちょっと混乱しています。
     船長さんが「怪人」というお題を出されたようですが、それから再入場してもよろしいでしょうか。

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