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歓迎 小説掲載

歓迎 小説掲載

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    dream 2018年12月29日 18:32

    こんな夫婦喧嘩があったら凄いですね。

    さて今年もあと二日、そしてここもふと二日。
    まもなくお別れですね。

  • >>2374

    史上最大の夫婦喧嘩 2

    「よくもやってくれたわね!!」
     激怒した美咲は外に飛び出しとガレージに行き、啓太の愛車レクサスRX450のボンネットに飛び乗った。 
     愛車のボンネットがベコリと凹む。そして美咲は啓太を見てニヤリと笑う。
      「美咲、なんて事をしてくれるんだぁ。頭に来た。もう完全に切れたからな!」
      啓太は美咲の愛車である、フェアレディZ Version STに乗って外に飛び足した。
      「あっ何をするのよ。先月買ったばかりの新車を」
      美咲は夫の愛車レクサスで後を追った。啓太の乗ったZは首都高速に入った。美咲も首都高に入る。だがフェアレディZは猛スピードで他の車を追い越して行く。すでに時速百六十キロは出ている。
     しかし美咲も運転には自信がある。車だけではない戦車にも乗るしヘリコプターだって操縦出来る。それが特殊任務に就く者には当たり前の事であった。

      やがて首都高は二人のレース場と変わった。やがて疾走するZは中央自動車道に向かっている。 いくらレクサスが高級車と言え、スポーツ車のZには叶わない。どんどんその差が開く。美咲はチッと舌打ちすると、何を思ったか美咲はレクサスで立川駐屯地の中に入る。
      「おや? 石原二等陸尉殿、今日は休みじゃなかったのですか?」
     「ちょっとね。上官の命令で富士駐屯地まで飛ばさなくてはならないの。離陸許可を出して」
     美咲は嘘を言ってAH-1 コブラに乗り込んだ。多少時間をロスしたがこれなら追いつける。フェアレディZ にはレーダー発信機を取り付けてあり追跡捜査は簡単である。
      とんでもない物に乗り込んだ。コブラは最強戦闘攻撃機アパッチと並ぶ攻撃機ヘリコプターである。中央自動車道を疾走する赤いフェアレディZが見えた。美咲はニヤリとコブラの機上から微笑む。

     美咲はフェアレディZを目掛けて急降下した。そしてヘリから拡声器で叫ぶ。
      「啓太、次のサービスエリアに停車するのよ。でないと攻撃するわよ」
      啓太は甘くみていた。それにしても攻撃用アパッチとは、戦争の相手は俺なのかと驚く。
      「ば! ばかな夫を攻撃すると言うのか」
     勿論、美咲には聞こえるはずもなかった。やもえず啓太は車を蛇行される事で意思を示した。
     「その蛇行はなんなの嘲ているの? それとも降参? 降参ならサービスエリアに入りなさい」
      美咲の性格は知っている。任務中に気にくわない上官に発砲し、誤射でしたと開き直る始末。これ以上怒らせたら本当に機銃を打ち込むかも知れない。まもなく啓太はサーヒスエリアに入った。停車するとフェアレディZのライトが点灯したり消えたりし、それが繰り返された。それが何を意味するか美咲はすぐ分かった。モールス信号である。

      ロッポンギヒルズクラブデハナシアオウ
      そんな風に読み取れた。取り敢えず美咲は勝利した優越感に浸って約束の場所に行った。五十一階にあるクラブの前に行くと、ボーイであろうか声を掛けて来た。
      「石原様で御座いますね。お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」
     美咲は怪訝な表情を浮かべて中に入ると窓際の席で啓太が手を振っている。
      派手な喧嘩のあとで少し気まずいが、啓太の待つテーブルへと向う。
      クラブ内には静かなクラッシックの曲が流れていたが、何故か演歌のメロディに変わった。
      しかも(長良川演歌)周りの客は余りのギャップに驚いたが美咲は違った。
      美咲は大の演歌好きで、特にこの曲が一番好きだった。啓太の計らいだとすぐ分かった。
     ♪好きと言われた嬉しさに私は酔うて燃えのよ♪ この歌詞が特に好きらしく古風な面を持っている。

      夫の策略に完全に嵌められたのか? 美咲はメロディに酔ってしまった。
     甘いムードには極端に弱い美咲である。
      「あなた……まさか予約してあったの」
      「そうだよ。本当は知っていたんだが後で驚かそうと思ったら、その前に君が逆上しちゃって」
      「もう私ったら早合点しちゃって御免なさい」
      「いや、いいんだ。たまには二人共ストレスを発散させないとね」
      二人は眼下に煌めく夜景を眺めながらワインで乾杯した。
      「処で美咲、そんな攻撃ヘリコプーを出して、大丈夫なのか」
      「そうね。バレたら懲戒免職どころじないかも」
      「てっ事は嘘をついたのか?」
      「大丈夫よ。たまたま富士駐屯地にヘリを運ぶ予定だっらしく、れを私が代わってあげたのよ。担当パイロットも臨時出勤だったらし、感謝されたわよ」
      「本当かい、嘘みたいな話だが」   
      「あら、私だって情報のプロ。ちゃんと調べたから問題ないって」
      恐ろしい妻だ。夫婦喧嘩に攻撃ヘリを持つ出しなんて世界中探しても聞いた事がない。
      ともあれ、仲直りできた。果たして目出度しメデタシ……なのだろうか?

     了

  •  史上最大の夫婦喧嘩 1

      二人が結婚したのは一年前、勿論大恋愛の上に結婚した。
      夫の石原啓太は警視庁特殊部隊に所属するエリートであり、国家の危機に関する任務にも就く。一方の妻の美咲は陸上自衛隊特殊部隊、作戦部所属。
      それは並の男でも難しい訓練に合格した。ただ一人の女性自衛官である。
     二人の出会いは共に特殊な任務に、就く者同士の警視庁と自衛隊交流会で知り合い意気投合したのであった。

      夫婦喧嘩は結婚記念日の朝に、些細な事で起こった。
      この夫婦、職業柄、大喧嘩ともなれば、ただでは済まない気がするが?
      今日は二人とも休日。いつものように楽しく朝食をとる筈だった。
      「ねぇ啓太。予約してくれたでしょうね」
      「?? あれ何のことだけっけ」
      「…………」
      「なんだよーそんな不機嫌な顔をして」
      「まさか忘れた訳じゃないわよね」
      「えっ急に言われても……」
      「急にだって! 以前から頼んで置いたでしょう。まさか忘れたとは言わないでしょうね」
      「何をイラついてるんだ。ここんとこ日本でもデモ活動が活発になって緊急任務で忙しいんだ」
      「言ったわね。互いに仕事の事は家庭に持ち込まない約束じゃなかった。それを言うなら私だって最近、北の国のスパイが日本に侵入している噂があり、私だって大変なのよ」

      「なにも結婚記念日はレストランじゃなくて、家で祝ってもいいんじゃないか」
      「啓太! 二人の記念日をそんなに軽く考えてたの」
      結婚して一年、女にとっては、やはり大事にしたい一日なのだ。それなのに無頓着な夫に腹をたてた。美咲は怒ってキッチンにある皿を啓太に向かって投げつけた。
     「な! なんて事をするんだ。許さん」
     過酷な任務とは違い、家庭での妻は優しくお淑やかな女性だった。なのに物を投げるとは。啓太は腹癒せに朝食が載っているテーブルをひっくり返した。
      「よくも! 私が愛情込めて作った朝食を……自分が悪いくせに。開き治るつもり?」
      美咲は逆上してキッチンにあった包丁を投げつけた。
      並みの人間なら、太腿辺りに刺さって居たかも知れないが啓太は軽くかわす。
     しかし夫に包丁を投げるとは、なんたる事か。啓太の顔色が変わった。
      「なっ何をする! 俺を殺すつもりか」
     「啓太がテーブルをひっくり返しからよ。愛情込めて作った食事なのよ分かる!」
     「だからって包丁を投げる奴がいるかぁ」
      「特殊任務に就く啓太なら軽くかわせるでしょ。訓練だと思いなさい」
      「もう、俺はキレたぞ」
      怒った啓太は美咲が大事にしているドレッサーに拾った包丁を投げつけた。
      ドレッサーの鏡は粉々に砕け散った。今度は美咲の顔色が変わる。目はもう戦闘態勢に入っている。

    つづく

  • サンタ伝説 サンタの贈り物

    今日は十二月二十日。クリスマス・イヴまであと四日。
    私と瑞紀と結婚して六年になる。
    二人の間には、五歳となる娘の瑠美が居る。ただ妻の瑞紀は体が弱く残念ながら、もう子供が産めないだろう、無理して産めば命に関わると医者に警告されている。それだけに一人娘の瑠美は可愛い。今年のクリスマスは特別だ。今年も瑠美のベッドにサンタがやってくる。
    昨年まではパパの私がサンタの役目だった。何故特別かというと来年のクリスマス・イヴに瑠美が居る保証はない。

    瑠美は重い病気に掛かっている。大事な一人娘なのに。しかも医者には余命半年と宣告されていた。もう子供は産めない。更に瑠美まで私達夫婦から奪うと言うのか。
    妻の瑞紀は、気が狂ったように泣き叫んだ。いろんな病院へ行き検査をして貰ったが、結果は同じだった。そして最後の願いは病院に許可を貰って、イヴの日と翌日は外泊が許され、家族みんなでクリマスを祝うことにした。

     瑠美の笑顔が見たい。出来るなら来年もその翌年もずっと、でも最後のクリスマスの夜になるかも知れない……私は祈った。
     もしサンタがクリスマスの贈り物をくれるなら瑠美の命を助けて欲しいと祈った。
     私は誰も居ない教会の十字架に祈りを捧げた。長くすがるような祈りを続ける私を見て、見かねたのだろうか、何故かサンタの衣装を着けた牧師が出て来て私に声をかけてくれた。

    「何か悩み事でも、おありですか?」
    「ええ……実は娘のことですが……」
     私は娘の病気を牧師に話した。
    「そうですか分かりました。それでは貴方に愛の力を差上げましょう」
    「愛の力ですか……?」
    「そうです。サンタから娘さんに素敵な贈り物があるでしょう」
    クリスマス・イヴの夜、三人だけのパーティが行われた。
     そのイヴの夜、瑠美は何も知らず楽しそうだ。でもこれが最後のイヴでも瑠美は知らされていない。瑠美はサンタが来るのを夢見て眠った。

    妻の瑞紀は瑠美の髪を撫でながら、また泣いた。
    私は瑞紀の肩を抱き、二人で飾ったツリーを見た。
    すると窓から、強烈な強い光が差し込んだ。
    「あなた!! 今の光はなに!?」
     「雷が鳴る季節でもないし、雷の音もしないし。なんだろう?」
     あわてて瑠美の部屋を開けると瑠美の体、全体が強烈な光を帯びていた。
    それは数秒だったろうか、俺と瑞希はただ立ち竦んだまま、不思議な感覚に捉われた。
    「なんなの? まさか瑠美をお迎えにきたのじゃないでしょうね」
     「瑞紀、縁起でもない馬鹿な事を言うな。これはきっと神様が瑠美に贈り物を届けに来たと思うよ」
     「貴方こそ何を言っているの。どうしてそう言い切れるの」
     「実は先日、協会に行って祈ったんだ。そしたら神父さんが出て来て、サンタから贈り物があると言ってくれたんだ」
    「ふーん。それはあの光だと言うの。でも瑞紀のベッドには何も置かれてないじゃない」
    「確かにそうだけど。あの光に意味があるんじゃないのかな」

     それから三日後、再び留美は病院で検査を受けていた。
     妻の瑞紀は担当の医師に呼ばれた。
     瑞紀は覚悟していた。「いよいよ駄目なのね」
     そう覚悟して先生の言葉を待った。すると担当医は笑顔でこう語った。
    「お母さん、奇跡ですよ! 何かの間違いかと他の医師から見て貰いましたが、娘さんの腫瘍がすべて消えています」
    「えっ……どう言うことですか?」
    「ですから、留美ちゃんは助かったのです。信じられませんが、まさに奇跡です」
    瑞紀は医師に、イヴの夜に瑠美が不思議な光を浴びた事を話した。
    「ほう、まるでお伽噺のような出来事ですね。しかし実際、娘さんの腫瘍が消えたから、そうなのかも知れませんね」
    私が仕事から帰って来ると奇跡が起きたと泣きながら抱き着いて来た。
    「おいおい一体どうしたんだ。何か良い事でもあったのか」
    妻が医師からの話を伝えた。
    「本当か、では牧師が言った事は本当だったんだな」
    「もしかして、あなた! あの光はサンタの贈り物?」
    「そうかも知れない。きっとサンタの贈り物だよ」
     
     クリスマスもサンタクロースもキリスト教から生まれた行事。いわゆる伝説みたいなものだ。
     しかし、神は世界で年に十人だけ願いを叶えてやる使命をサンタに代わり牧師に与えた。
     今回は、この家族が幸運にも選ばれたのだ。
     元旦を向かえて、家族三人は教会で楽しそうに賛美歌を唄っていた。
     牧師は私たち家族に視線を送り、微笑んだ。
     私と瑞紀は牧師に向かって深々と頭をさげた。


    皆様、メリークリスマス

  • 勝手に二本の長編小説載せたけど、この掲示板もあと三週間で終わり。
    このトピを立ち上げ、沢山の小説が生まれました。
    皆さん有難う御座いました。

    また何処か小説サイトで書き続けて行きます。
    またどこかでお会い出来る事を願っております。

  • >>2370

    最終章  君の為に 
    最終節  私の愛しき人よ 最終回

     小夜子はあたり構わず泣きじゃくる。松本は小夜子を支えてやる。
     橋本も森も男泣きしている。
    「健、お前は男だよ。立派な男だよ。だけどどうして一人で戦う。微力ながら俺達も居るじゃないか」
     心が疲れきった小夜子を、支えてやるのだが三人には慰める術もなく堪えても、堪えても涙が出てくるのだった。小夜子は完全に放心状態だ。痴呆症のような表情になっている。両親が死に最愛の人が今ここに天国へと旅たって行った。小夜子は寒空に光る星の輝きに空に向かって一人呟くのだった。

    「健、約束したじゃない。誓ったじゃない私を一人にしないと。あの約束はどうなるの? それは貴方の命を守る事なのよ。貴方は私に新しい命を残して逝く事だったの? 健の居ない世界なんて私は、もう何も希望を見え出せなくなるわ! でも、でも貴方は私に新しい命を残して逝ったわ。私に、この子と生きろ! と言うの!? 私は健! 貴方と一緒に生きて行きたかったの。それが全てだったのに……」
    「小夜子さん! 気をしっかり持って」 
     それを見て松本は首を横に振った。今は思いっきり泣くしかないと。ただ見守ってやるしかないと。松本達は小夜子が放心状態で呟く小夜子の姿が痛ましかった。それからまもなく、沖田と盛田は殺人罪で逮捕された。その他、小夜子の両親を殺した罪など罪の重さは極刑に与えする。

     警察の検視を終え健の身柄は旧正堂寺に運ばれた。知らせを聞いた沢山の知人友人が集まって来た。数日後健のお通やが遺体が旧正堂寺にで行われ翌日告別式が行われた。喪主は小夜子でその姿が痛ましかった。
     本来なら小夜子は白いウエデングドレスに包まれる筈だったのに親戚や友人達から、すすり泣きの声が聞こえてくる。
     シンガポール警察からも堀内健の為に弔問に訪れてくれた。
     本来なら健は、シンガポールで合気道を教えている筈だったのに。
     そして、ジミーサットンが眼を赤くして立っている姿が見えた。
     シンガポールで一緒に活躍した友人だった。健はさわやかな青年だった。
    明るくて……変わり果てた友人にジミーは声も出なかった。
     健の大学時代の友人達も大勢駆けつけた。
     厳めしい顔の男が三人顔をくしゃくしゃにして、在りし日の健を思い浮かべ健と別れを惜しんで男泣きしている。松本と橋本、そして森達だった。

     「小夜子さんを残して逝くなんて」
     と呟く。人々は小夜子が務める喪主にそれ程までに愛し合った二人の別れに参列者は涙するのだった。嘗て(かつ)の正堂寺で合気道の門弟達、健の友人、沢山の人に見送られて霊柩車から別れのクラクションが悲しく響く。
     プアァ~~~~~~~~ン
     澄み切った青空に火葬場の煙突から白い煙が天に昇って行く。
     健が天に昇って行く……その健が笑っている。天国の階段で〔ありがとう小夜ちゃん、ありがとう皆さん〕そんなふうに聞こえた。

     小夜子の眼には、その青い空に二人の楽しかった日々が映し出される。三陸海岸浄土ケ浜で二人は、稽古しながら芽生えた恋だった。
     合気道で閃き小夜子の優しさに心を癒され、そして要山和尚夫妻の死。
     シンガポールまで敵を追いかけ、健は一時的に迷い小夜子が重症を負い入院。小夜子の為に生きると誓った健、自分を捨ててまでも、あだ討ちをした健。
     生きていれば小夜子と二人。いや生まれてくる子供と三人で。
     明るい未来があったものを。天高く登って逝った……健。
     素晴らしい青年、素晴らしい日本男児。健
     やすらかに堀内健。ここに二十七才の生涯を人々に惜しまれつつ閉じる。

     時は流れて、平成十四年十二月。
     能登半島は厳しい寒さの中で親子がたたずんでいた。
     海の見える丘に堀内健の墓地があった。赤い花に囲まれて。
     小夜子は住まいを健の実家に移していた。健の両親をここで健の子供を産んでくれと言われたのだ。
     健が子供の頃好きだった、海の見える小高い丘に健の墓は建っている。
     風に線香がなびく煙がその親子を包み、やがて日本海に流れて行く。
     母は厳冬の寒さも感じない程に、健の墓に語りかけていた。
     その時、少年が言った。
    「ママ! 本当にパパってカッコ良かったの!?」
     父の死を知らずに生まれて来た、この子は小夜子にとって健の生まれ変わりと思えた。そして二人を繋ぐ愛の子だった。
    「そうよ! 健一、パパは最高の人よ。最高の……」

     今日は天気が良いのか、遠くの島まで良く見える。
     二人の親子は、しっかりと手を握り合って遠い海を眺めた。
     この海もシンガポールに繋がっているのだなと小夜子は思った。
    「健、見て貴方の子よ、健一と言うの! 貴方にそっくりでしょ!?」
     その少年はもう小学生になっているらしい、
     そして今は母から合気道を習っているらしい。

  • >>2369

    最終章  君の為に 
    最終節  私の愛しき人よ 6

     それから数分して、けたたましいサイレンが闇に響く、それはパトカーのサイレンの音だった。此処を通った車の人が通報したのだろうか。
    「おい……サイレンの音が聞こえるぞ!?」松本が言った。
     小夜子の嫌な予感が的中した。数分して小夜子達の乗った車がその壮絶な争いの現場に到着した。かなりの数のパトカーに救急車も数台いた。松本、橋本、森そして小夜子が車ら降りて走った。
     救急隊員は担架で怪我人を運んでくる。二人目の担架に健の姿があった。
    「ケン!! ケ~~ン」小夜子の発狂したような声が暗闇に響き渡る……
     松本達も唖然として周りの光景を見わたした。パトカーなど警察車両からまるでナイター中継のようなサーチライトが現場を照らしていた。

     健の担架は血だらけになっている。健の顔が青ざめてきた。
     小夜子が縋りついた「どうして!? 一人で戦うの? どうして……」
     そんな声が聞いたのか、健の眼がうっすらと開いた。
    「さっ……小夜ちゃん……敵(かたき)は……敵(かたき)はとったよ…………」
    「健が死んだら意味がないよ!! そんなのイヤッ~~~~~~」
    「ごめんね、小夜ちゃん……でも敵はとったよ」健は小夜子に笑って言った。
    「イヤッ!! 死なないで健!! 私を残して死なないでケン」
    「小夜ちゃん……強く……生きてくれ約束守れなくてゴ…………
    「いやっあ!! 健、死んじゃイヤッ」
     小夜子は健の顔を抑えて 必死に叫ぶ小夜子の柔らかい手に包まれて健は安らぎを感じ始めた。そして……
    「駄目!! 死んじゃあ!! 健は、健は……お父さんになるのよ!」
     小夜子の口から思いがけない言葉が出た。
     健の表情が僅かに動いた。その言葉は健の脳裏に響いた。
    「ぼっ僕が? おとうさん……そうかありがとう……」
     健の青ざめた顔が少しだけ微笑んだ。
    「し・あ・わ・せ・だ……」
     やがて健の手が力を失ってコトリと小夜子の手から離れた。
    「イヤッ!! 健! ケン、起きて! 起きて!」小夜子は発狂寸前だった。
     救急車の救護要員が健の脈を採る。そして眼に光を当てたが……静かに救護要員が言った。「残念ですが御臨終です」と告げた。

    つづく

  • >>2368

    最終章  君の為に 
    最終節  私の愛しき人よ 5

    三十メーター離れた盛田が、闇の中で誰かに殴られたように倒れた。
     健の必殺波動拳が炸裂した瞬間だった。一方の盛田は何が起こったか分からず頭に手を当て、のた打ち回っていた。
    健は次の標的を探し始めた。さすがに撃ってこない。同士撃ちの恐れがあるからだろう。そして又一人、健の目の前に現れた敵も気が付いて「居たぞ~~」と叫び終わらないうちに健の手刀が首筋に炸裂して、あっと言う間に崩れ落ちた。しかし暗闇から銃声が響いて健の左腕を貫通した。「ウッ」健の左腕が燃えるように熱くそして血が噴出した。それでも健はその銃声の方向に走った。
    又、銃声が闇に鳴り響く。今度は当たらなかった健は飛んだ。
    その男を目掛けて、相手の顔面に炸裂した二メーターも吹っ飛んだ。

     更に健はその男を蹴りつけて拳銃を奪った。健は拳銃を使った事はないが引き金を引く事は出来る。健はいきなり拳銃を周りに居そうな敵に向かって立て続けに三発撃ちまくった。その弾に、まぐれとは言え一人の男が悲鳴を上げた。どうやら腿の辺りを抑えて転げ回っている。しかし健も出血が止まらず顔が痛みでゆがんでいた。
     その時だった、また銃声が鳴り響き健はもんどり打って倒れた……どこに当ったかは分からないが体中が熱くてたまらない。やがて意識が朦朧として来た。
    「オイ!やったぞ!」近くで声が上がった。
    現れたのは二人だった。いやもう敵も二人しか満足なのは居ないのだ。
    しかし健は動けない。一人の男が拳銃で健の頭を叩く、死んでいるか!? 確認の為だろう再度、健の頭を叩こうとしたその時だ!!
     意識が薄れ行く中で健はその男の足を渾身の力で引っ張ると男は倒れ込んだ。健は強烈なパンチを顔面に浴びせた。と、もう一人の男が健に再び拳銃を放った。だが健は必死で応戦する。すでに血が噴出して止まらない。それでも健はその銃声の方向に走った。引きずり倒して顔面に肘打ちを数発浴びせた敵は静かになった。

     健は必死で盛田が倒れている場所まで這って、何とか辿り着くや、いなや最後の力を振り絞って。
    「も……盛田!! 住職の無念を思い知れ!」
     健は盛田を数発殴りつけたが、それも力がなく執念とも言える動きだった。
     盛田は恐ろしい程の、健の形相と執念に失禁するほどに震え上がった。
     健は眠るようにその場に崩れ落ちた……その表情は満足そうだった。

    つづく

  • >>2367

    最終章  君の為に 
    最終節  私の愛しき人よ 4

    「それにしても遅いですねぇ、いつもそうですか?」
     橋本は気になる事を小夜子に問い掛けた。いつもだと遅くても夜の八時頃には帰ってくるが。
    「ちょっと心配ですね。見に行ってきましょうか? 小夜子さん」
     松本が言うと、さすがの小夜子も心配になって来た。
    「折角来て下さったのに、宜しいですか?」
     時計は十時を過ぎていた。四人は松本達の乗って来た車で探しに出た。
     小夜子が心あたりのある方へと案内する事になった。
     小夜子の脳裏に嫌な予感がした。{健! 無理をしないでと言ったのに……}
     小夜子は暗闇の中を疾走する助手席で呟くのだった。

     そしてこちらは決着がついていた。沖田も完全に健の前に屈した。
    「悪かったと!?……どう悪かったのが聞かせてもらおうか!」
    「確かに、お寺の住職を狙ったのは俺達だ。しかし恨みがあった訳ではない許してくれ!」
     沖田は最初の勇ましさは何処かに飛んでいた。
    「ふざけるな!! 恨みがないのに人殺しが簡単に出来ると思うか」
    「頼まれたんだ。地元の有力者に……」
    「ハッキリ言えよ、それは盛田一政の事だろう?」
     沖田は言葉には出さないがコクリと頷いた。やっと白状させた。
     あとは盛田の数々の悪事を、どうやって立証させるかだ。
     その時だった暗闇から一筋の閃光が轟音とともに鳴り響いた。
     健の近くに銃弾が炸裂した。健は車の陰に沖田をそのままにして隠れた。健の正面にいつの間にか二台の車から六人ほど降りて来た。なんとその中に沖田と一緒だった。健が蹴り飛ばした男が居たのだ。沖田と戦っている最中に、逃げだして仲間を呼びに行ったのであろう。

     その中の五人が一斉に健を取り囲んだ。そして一人残った中年の男がその状況を見守っている。なんと! その男は盛田一政ではないか?
    「おのれ盛田!! やっと正体現したな」
     健が闇に向かって叫んだ。いきなり拳銃の銃弾が健に向かって放たれた。健は近くの林に逃げ込む。その間に数台の車が何事もないように通り抜けて行った。五人も林の中に入って来た。しかし暗闇だ。五人は、健が隠れている場所を探し始めた。健が確認した限りでは拳銃を持っているのは二人だ、いや正確にはまだ持っている奴がいるかも知れない。さすがの健と言え拳銃を前にしては戦えない。
     ガサ、ガサッ 健の近くに敵の一人が近寄ったが健が側に潜んでいるのに気付かない。健はその男の口を後ろから押さえ込んだ。途端にこめかみの、あたりを殴りつけて続けざまに強烈なボデーブローを浴びせた。その男は声も出せずにその場で失神した。
     次に遠くから状況を見守っている盛田に、健は大きく深呼吸して一気に全神経を集中させて手を合わせた。健は要山師匠の極意波動拳を放った。「ウッリャァー」闇の中で空気が裂けた。

    つづく

  • >>2365

    最終章  君の為に 
    最終節  私の愛しき人よ 3

     沖田がバランスを崩して膝から崩れた。次の瞬間、沖田の倒れながらのパンチが健のボデーに……しかし健は膝で、その攻撃をブロックした。
     二人は倒れた状態のままの応戦になった。それが沖田には最悪の状態になった。 キックボクサーは倒れての攻撃は手足が武器にならない。
     あっと言う間に、健がバックを取って右こめかみに健の手刀が炸裂した。
     続いて耳を狙っての手刀「ギャアァー」沖田は悲鳴を上げた。         しかし健の攻撃は容赦なく沖田を襲った肘打ちだ。

     ふらついて立ち上がった沖田へ右足の回し蹴りが決まる。
     そして沖田の右腕を地面に固定して、おもいっきり膝を落とした。
     ボキッと鈍い音と供に、骨が折れたような嫌な音が暗闇に響く……勝負はついた瞬間だった。沖田は右腕が折れて戦意喪失した。
     「なっ、なんなんだ!? お前は……」

     沖田は自分が負けた事に信じられないばかりか、この男の真意が読めず恐怖の眼で健を見る。と言っても薄暗く良く顔が見えないから尚さら恐怖を覚えた。
    「そんなに知りたいか沖田! お前が今までやった事を思いだせ!!」
     そう言われて沖田の思考回路が回転した。しかしこの男の事は沖田にはどうしても頭に浮かんで来ない。
    「お前の事は知らん何も……」
    「そうか、じゃ教えてやろう。お前と宮崎と浜田三人で和尚夫婦を殺害した。おまけに寺を燃やして逃げた。その縁の者と言えば分かるだろう」
     沖田はなっとくしたらしく、だが黙ったままだ。

     その頃小夜子の所に三人の客が訪れていた。
     松本、橋本、森の三人である。
    「久しぶりです。小夜子さん、松本です」
     相変わらずゴツイ顔だ。知らない人が見たら後ずさりするだろう。
    「あっ皆さん、こんな田舎まで良く訪ねてくれました、どうぞ入って」
     小夜子は三人を招き入れた。松本達は健の事を尋ねたが、もうすぐ帰ってくると小夜子の返事だった。それから二時間、時刻は夜の十時になろうとしていた。

    つづく

  • >>2365

    最終章  君の為に 
    最終節  私の愛しき人よ 2

     なっなんだ。お前は俺が何をしたって言うのだ。俺が……」と震え上がった。
    「別にあんたには恨みがないのだが、こうでもしないと協力してくれないと思ってね。沖田があの別荘にいるだろう?」
    「お、沖田さんがどうかしたのか!」
     男は痛みに耐えながら答えた。

    「その沖田は、あの盛田と別荘に今いるだろう?答えてもらおうか!」
    「知らん……知っていても言える訳がないじゃないか!」
     男はそう言いながらも、白状しているのと同じような事を言って喚いた。
    「そうか、言わなくても良いが次は左の方を外してあげようか?」
     と、いい終わらぬうちに健は、左腕を取って強く伸ばして一気に左肩を外し体制に入った。
    「ま! 待ってくれ。言う言うから待ってくれ」

     男は必死に哀願するような目で健に屈服した。それ程までに強烈に痛い。また両肩を外されたら人形と同じで相手の思うがままだ。抵抗のすべもない。関節外しは健の上等手段だった。
     男はすっかり観念して話し始めた。その話によると健が想像した通り、盛田の用心棒だった沖田は時々、業者間のトラブルや取引相手によっては黙らせる。盛田の裏社会がここにあったのだ。
     そして要山和尚も、その悪の手に命を落とし結果になったのだった。
     健はその男の免許証から身元を確認した。そして男に命じた。
     電話で呼び出して(事故を起こしてヤクザ風の男と揉めている)と。
     男は近くの電話ボックスから沖田へ、事故を起こして地元のヤクザと揉めていると伝えた。盛田は地元のヤクザと関わりを持っていない。噂が広がれば地元では選挙に勝てないから、東京とか離れた所から呼び寄せる。新日本同盟などと、裏で深く繋がっていると思われる。
     沖田の返事は一喝した後、舎弟の為にどうやら出向いてくるらしい。果たして何人でくるかが問題だが仕掛けた罠はもう後戻りがきかない。健は今夜、沖田だけでもケリを付けたかった。健は間接を外した男を縛って車のトランクに押し込んだ。
    十五分経過した。ライトを上向きにした車が近づいて来た。
     健は車から三メーター程離れた松の木の後ろに身を隠した。
     沖田の乗った車が溝に落ちた車の後ろに急停車した。
     二人の男がドアを明けて出て来た。一人は大きい健よりも大きいかも知れない体格だ。多分それが沖田だろう、もう一人も大きいがその男よりは少し細身の体格をしている。健は(成る程、用心棒家業らしい)と思った。と同時にかなりの強敵か? その動きは武術を身に付けている身のこなしを感じた。
    「雅!!」暗闇に沖田の太い声が響く。二人の男は、まわりを見回しが誰も居ない、車の中を見ても誰も居なかった。
    「沖さん、まさか雅のヤツ……連れて行かれたかも知れません」
     予想通り体格の大きい方が沖田と判って健は静かに彼らの前に姿を現した。
    「な! なんだお前は!? 雅はどうした」沖田の弟分が叫ぶ。
    「やっと会えたな、お前が沖田か!?」
     凄みと憎しみのこもった健の声。
    「ナニッ誰だ! お前は……」
     沖田はまったく健に覚えはなかった。そうだろう。話は聞いているかも知れないが初対面だった。沖田もかなりの修羅場を潜って来た人間だろう腹がすわっている。しかし、暗闇でいきなり自分を知って怖がらず現れた相手に少し動揺が見えた、相当の自信がなければ、それも一人で。健は名前を言おうとしなかった。
    「誰でもいい! 覚悟を決めてもらう」
    「ナニッ? 俺を相手に偉そうな事を言ってくれるじゃないか」
     沖田も相当の自信を持っているのか? しかし目の前の相手は沖田を前にしても怯(ひる)む気配どころか不適な笑みで睨んでいる。
     健は相手が二人居る事が気になった。その舎弟が逃げて応援を頼みに行くのじゃないかと、健は沖田との間合いを計りながらいきなり跳躍した。その瞬発力と高さは人とは思えぬ程の早業だ。沖田の斜め後方に居た男の右肩を蹴り更に後方に着地した。男はもんどり打って健の前に仰向けに転がった。
     と、次の瞬間に健の右の正拳が、男の腹に叩き込まれて
     男は(く)の字に身体を折り曲げて転げまわった。その間一~二秒沖田が振り返った時には、舎弟は転げ回り戦力外になっていた。
    さすがの沖田も、表情は暗くて顔が見えないが青ざめているだろう。
    「おのれっ!!」
     しかしそれ以上の叫びは無かった。呼吸ひとつの仕方でも<乱したらやられると思ったのだろうか。沖田は健と間合いを取りながら上着を素早く脱いだ。
    いよいよ本腰を入れる相手と悟ったたようだ。その距離二メートル沖田は摺り足で間合いを計っている、そして一歩前に踏み込んだとたんに跳躍した。身体を斜めにして右足が飛んで来た。次の瞬間には沖田が着地する寸前、バックフックが再び健の後頭部に飛ぶ。健は思わず、しゃがんで交わすがバランスが崩れた。すかさず続けざまに、右キックが健の太ももの辺りに炸裂した。
     うっさすがの健を少し応えた。(なんだ……奴はキックボクサーか?)
     考える間もなく矢次に繰り出す。続けてざまに左キックが飛んでくる。

     健は身体を後二回転した。その反動で三メーター先に着地して体制を立直す。沖田はこの好機を逃すものかと健にすかさず詰め寄ると右ストレート、左フック、身体を低くして下からのアッパート繰り出す。健も必死でかわすが防戦一方の状況だ。かわされても、かわされても沖田は攻撃の手を緩めない。ボクサーで言う、ラッシュ攻撃だ。そして次の右ストレートが健の顔面を狙って飛ぶ、健の左手が垂直に立てて肘で交わすと思った瞬間その左手が沖田の腕に絡みつくように、押さえ込むと同時に沖田の右肩を引き寄せて健の前膝蹴りが沖田の顔面に炸裂した。          
     右腕を引き寄せての、その膝蹴りは受身のしようがない。
     沖田の鼻から血が飛び散った。それでも沖田は反撃して来た。
     普通の人間なら鼻を押さえてうずくまる処だが沖田は違った。
     体制を立て直すと今度は足の攻撃に切替えて足蹴りが飛んでくる。しかし、先ほどよりスピードが落ちた感じがする。 
     沖田が息もつく暇もなく仕掛けてから三分程経っている。       
     ボクシングで言えばランド終了のゴングが鳴る頃だ。
     しかしこれは試合ではない。ルール無用の死闘だ。負ければ只では済まない。
     健は呼吸一つ乱れてはいなかった。合気道は本来、攻撃型の柔術ではない。
     相手の攻撃に応じて対処する。相手の力を吸収して逆に技を仕掛ける。
     だから思った程に体力は消耗しない。健は合気道だけじゃなく空手も有段者であり両方を兼ね備えている。受身と攻撃の両方が出来る。健は軽くステップバックして間合いを計る。沖田もズリズリと迫ってくる。沖田も相手が合気道だと見抜いたようだ。先ほどの攻撃とは、あきらかに違う攻撃だ。離れて突き刺しようなジャブ攻撃、軽いステップでリズムをとる。これでは健も捕まえにくい。やっかいな相手だ。               
     沖田は作戦が成功したかのようにリジムカルに動くが打っては離れ打っては離れ、徐々にペースを掴みつつある。
    「どうした? かかって来い!」
     沖田は健を挑発する。と、健は無防備で沖田との間合いをススーと詰めた。   その健の動きに驚いた沖田は、矢次にパンチを繰り出す。だが当たらない。焦った沖田が健を捕まえて倒そうと腕に力を込めて襲い掛かって来た。       だが、それはワナだった健は身体を沈めて沖田の足を払った。

    つづく

  • 最終章  君の為に 
    最終節  私の愛しき人よ 1

     見慣れぬ男達は再び車に乗って動き出した。
     健は喫茶店の近くに止めてあった自分の車で、その車を尾行した。
     小一時間ほどして着いたその先はゴルフ場だった。
     三人ともサングラスを掛けていたが、その風体はいかにも普通の人間とは違っていた。三人はゴルフ場のクラブハウスに入って行った。
     どう見てもプレーする様子には見えなかった。やがて秘書らしき人物を連れて盛田一政が現れた。(やはり奴のボディガードか?)健は呟いた。
     盛田の顔を健は遠く離れたロビーから見ていて、あの脂ぎった顔、人の不幸を肥やしに、のし上がった奴を健は、今飛び出して行って袋たたきにして土下座でもさせてやりたい衝動に駆られた。

     健はそれを制御するに、必死に身体を震わせて耐えたのだった。
     やがて盛田とその護衛達は、二台の車に分乗してクラブハウスを後にした。
     再び健はその車を百メーター程離れて尾行を続けた。
     その車が行った先は健には懐かしい、あの浄土ヶ浜だった。
     ここで健は心の修行と小夜子との交流が始まった場所でもある。
     その車が別荘らしき場所で止まった。
    「そうか! 此処が盛田の別荘か」
     盛田の新しい居場所を見つけて健は又一つ近づいた感じがした。
     健は別荘を一気に奇襲しょうかと考えた。しかし其れでは只の押し込みだ。
     ならば一人でも誘い出す方法が得策と思ったが、その術がない。
     健は車で別荘から五十メートル程離れた森で待機する事にした。
     時刻は夜の八時頃になろうとしていた。その時、別荘から一人の男が出て来て車に乗った。健はチャンスと見てその車の後を追った。
     どうやら海岸通りにその車は出た。健はこの辺りの地理は知り尽くしていた。

     この先に道は二股に分かれて、右が海岸へと続き左が国道へと続く国道に出られては車が多く人目につきやすい、海岸方面なら松林が続き、この時間なら殆んど車は通らないが、健は賭けた国道なら奇襲は止めようと、しかし幸か不幸かその車は海岸方面へと向かった。一気にそのチャンスが訪れた。健の身体からアドレナリンが噴出した。
     その松林に近づいた健は急に車の速度をあげて、その前の車を斜め前に進み急ブレーキを賭けた。 相手の車は咄嗟の判断にあわててハンドルを左に切って避けたが、道路の側面の溝に前車輪が落ちて急停車した。
     運転席から降りて来た男が、ドアを勢いよく開けて飛び出して来た。
     相当に興奮している状態だ「なんて運転しやがる!」健は静かに車から降りてワザと頭に手を上げて、誤るような仕草をした。
     しかしその男は怒りが収まらないのか、いきなり右パンチが繰り出して来た。
     健にはそれがスローモーションのように遅く感じた。なんなくその腕を抱え込むように軽くひねって体を沈めた。男は駒の用に一回転して路面に叩きつけられた。 次の瞬間! 健はその右腕を伸ばして膝に当てて強く引いた。鈍い音がゴキッと鳴った。それは右肩の間接が外れた音だった。
     これは想像以上に痛い、大の男でも悲鳴を上げて脂汗が滲み出る。
     当然にその男も大きな悲鳴を上げて、目が散り上がってわめいた。
     ほんの数分の間に自分に何が起きたか分からないまま健を見た。
     その男はその時始めて悟ったのだ自分が襲われた事に。
    「ちょっと聞きたいのだけどね?」おだやかな調子で尋ねた。
     男は思った。聞きたいのだったら最初から丁寧に聞いてくれと。

    つづく

  • 最終章  君の為に
    第2説 日本帰国 3

     むろん今でも違う訳だか、彼等に取っても強い者への憧れか?
     ただ言えるのは男の世界、気にいったらトコトン着いて来る。
     逆に屈辱でも味わったらメンツに掛けてトコトン仕返しをするだろう。
     しかし彼等は彼等として健は、当面の目標が達成されない限り小夜子と健の心は晴れる事はないのだ。
     翌日も盛田の事務所を見張った。盛田は今日も来て居ないが見慣れない人物が三人現れた健はピンとくるものがあった。
     もしかしたら、あの中に沖田が居るのではないかと感じた。
     健は強攻策に出るしかない。このままでは一向に進展ない
     健も随分長く見張っていて、苛立ち始めていた。
     あの三人は何処から来たのだろう?健は沖田の顔は知らない。
     こうなったら強引に、三人の前に立ちはだかって戦うしかない
     小夜子が側に居たらきっと止めるだろうが、健には、そんな心の余裕は、もう残っていなかった。

    つづく

  • 最終章  君の為に
    第2説 日本帰国 2

    「僕も人相まで知らないが、盛田の側にくっついていたと聞きましたが」
    「でも盛田は一応、県会議員だから余程の証拠がないと……」
     まぁ、その師匠を殺した奴らと関係が分かれば殺人供与になるから佐田は師匠の為なら、なんでも協力すると言ってくれた。要山和尚の人柄が、師弟達にも深く心頭していた。
     健は佐田にお礼を述べて、その足で盛田開発の事務所の周辺にある、喫茶店に入った。もちろん珈琲を飲みたかった訳じゃない。近くで見張っていれば何か得られるかも知れないと感じたからだ。

     健は窓辺に座っていると、静かに喫茶店内のスピーカーから静かに懐かしいメロディが流れてくる。ひと時の安らぎを覚えた。
     健は改めて日本にいるのだと感じた、シンガポールでは味わえない日本独特の雰囲気に〔やっぱり日本はいい〕そんなふうに思った。
     香ばしい香りの珈琲が運ばれて来た。シンガポール、マレーシアなど何故か物凄く甘い珈琲もあるが。やはり飲みなれた珈琲がいい日本の珈琲は風味と渋味が良くて美味かった。
     外は曇り空の下で、冷たい風が落葉を吹き流して晩秋を思わせた。
     小夜子は家で掃除とか、荒れた庭や池の手入れをしながらまだ完全に回復したとは言えない、身体の回復に努めていた。健と小夜子はシンガポールの、あの日約束した。これから一緒に君と生きて行くと二人だけの婚約だった、まだ誰にも話してはいないが。シンガポールと日本では、二人を取り囲む知人友人は当然、結婚するものと思っている。あとはいつになるか、だけの事。そして二人を心から祝福したいと思っている友人達だ。

     小夜子も早く一緒に生活がしたい、しかしどうしても最後にやり遂げなければ、ならない事がある。それは宿命と健と小夜子は思っている。
     健の暗い過去、忘れられない友人の死、自分の為より友人の為にも生きなければ、そして償わなければと生きて来た。
     健の心を立ち直らせ、生きる事の意味を教えてくれた要山和尚。
     そして小夜子の存在がなかったら、今の健は無かったと。その為の最後の戦いに臨む健と小夜子であった。そんな日々が一週間ほど続いたその夕刻だった。
     黒塗りのベンツが盛田開発の事務所の前に停まった。
     健は喫茶店の窓際から、そのベンツを見てハッとした。
     何度か見たあの顔だ。その盛田一政が車から出て来た。
     浅黒く眼光がするどい、議員と言うよりも暗黒の世界が合っている。
     事務所から何人か社員が出向かえに出て来た。
     盛田は悠然と車を降りて周りを見渡した。それからおもむろに事務所の中に入って行った。
     健は(今に見ていろ! 必ず制裁を加えてやると)その姿を脳裏に焼き付けた。
     今すぐにでも胸倉を掴んで殴りつけたい衝動に駆られたが今そんな事をしたら、ただの暴漢にしかならない。健は自分の心を制御する事に必死だった。
     正面からでは難しい何か方法はないかと思案する。
     ここはひとまず引き上げざるを得ない。何の為の一週間だったのか標的を目の前にして何も出来ず健は身体を震わせて耐えた。
     その夜、小夜子に盛田一政が現れたことを告げた。
    〔今すぐにでも仇を〕それはきっと小夜子も同じ気持ちに違いない
     小夜子から意外な言葉が出た「あのね健、松本さん達が来るって!!」
    「えっ又どうしてまた?こんな田舎まで……そうなんだぁ」
     と、言いながら顔がほころんだ。
    「あの人達とは縁が切れそうにないな」
     最初は住む世界が違う人間だからと思っていたが。

    つづく

  • 最終章  君の為に
    第2説 日本帰国 1

     翼の下に富士山が見えてきた。久し振りの祖国、日本の景色。日本の象徴とも言うべき富士山は、やはり心温まる。やがて機は成田空港の滑走路に轟音を響かせて着陸した。健と小夜子は、東京駅から列車を乗り換えて故郷岩手に向かった。東北新幹線やまびこは滑るように盛岡駅ホームに到着した。故郷の景色はすっかり晩秋を迎えていた。正堂寺の面影を残した門が見えて来た。今は主を失った別棟の小夜子の生家に、何年振りかの明かりが灯る。
     二人は部屋中の窓を開けて、森の空気を部屋に入れた。
     そして小夜子が両親の位牌を見て仏壇にロウソクを灯す。
    「お父さん、お母さん長い間留守にして御免なさい。健と私はシンガポールに行って来ました、そして健のお陰で犯人を警察に引渡す事が出来ました。もう少しです、どうか其の間、見守っていて下さいね」
    小夜子は両親の笑みが瞼に浮かんだ。続いて健が仏壇に向かって手を合わせた。線香の煙が漂う。「師匠、ご無沙汰しております。小夜ちゃんと力を合わせてこれからも生きて行きます、間もなく良い報告が出来ると思います」
     二人は簡単なしかし心のこもった報告を終えて縁側に座った。
     健が始めて訪れた時の正堂寺は、師弟達で活気が溢れていた。
     今は池も寂しく周りの樹木も晩秋の寒さに落ち葉も池に散って在りし日の光景が、二人の脳裏に浮かんだのだった。
     しばし沈黙のあと健がポチリと小夜子に言った。
    「小夜ちゃん!俺、盛田開発の周辺を探ってみようと思うのだが?」
    「じゃ私も行くわ!」小夜子の眼は早くも退院当時の表情は消えて
     あの機敏で合気道の有段者の顔に変っていた。
    「まだ小夜ちゃん。体調が戻ってないし第一、危険だから」
    「私は大丈夫よ! 健の気持ちは嬉しいけど私だって健にまかせてジッとして心配ばかりしているのが耐えられないわ」
    「……しかし」健も返答に困った。
     その時、二羽のキジが池の後ろの森からバタバタと飛び立っていった。 
     健は翌日に要山和尚の以前、門弟のひとりだった佐田義則を訪ねた。
     佐田はバイク屋〔佐田モーター〕の若主人だ。
    「こんにちはー」と、店内に入っていった、奥にツナギを来た佐田が油まみれでバイクの修理をしている姿が見えた。
    「こんにちは、お久しぶりで堀内です……」

    「おー堀内くん、いやぁ本当に久しぶりだなぁ」
    かつての佐田は要山師匠の高弟だった、最初の頃は健も指導してくれる程の腕前だったが、その後は健の上達がめざましく佐田でさえ、歯がたたない程になった健に一目おいていた。健と佐田は居間に席を移して、昔のなつかしい話を語っていた。
    「たしか、お嬢さんもシンガポールに行ったんだよね。そうか帰って来たのか、それで結婚はしたのかね?」

    「いや、まだですが、ちょっと頼み事があって来たのです」
    「そうか、あの盛田開発の事だな、相変わらず評判が悪いけど……」
    「僕はどうして師匠の無念を晴らしたく、で何か情報を得られれば」
    「知っている事ならなんでも協力するよ。で、どんな事だい」
    「あの師匠夫妻を射殺した一人、沖田勝男と盛田一政の二人」
    「沖田と言うのは? 盛田のなんだい? 用心棒かなにか、そう言えば前に盛田の側でサングラス掛けていたけど気味悪いのが居たような」

    つづく

  • >>2360

    君の為に
    第1節 愛の形 2


    千九百九十五年秋
     小夜子は特に後遺症もなく、無事に退院する事が出来た。
     健、小夜子、松本、橋本それに健の同僚のジミーサットンの五人でリゾートホテルの中庭で沈み行く夕日を見ながら小夜子の快気を祝って、宴が静かに進んでいた。
    「みなさん本当にありがとう、今夜は最高に嬉しいわ」
     健は心から喜んだ、本当に本当に最高の宴だった。リゾートホテルの一室で、健と小夜子は暗くなった浜辺をホテルの窓から眺め、小夜子の肩をそっと引き寄せる。
    「小夜ちゃん……」
    「なぁに? ケン……」
     暮れ行くシンガポールの夜景を見ていた二人が、ホンの少し声を掛けた。
     健は、やさしく小夜子の頬を包むように両手で触れた。
     その小夜子の瞳がキラリと光って雫が頬をすべり落ちて行く。
     健はその濡れた瞼に、そっと唇をあてた。
     小夜子は健の大きな背中に両手を回した手が震えていた。
     やがて健の唇は小夜子の引き締まった薄い唇に触れた。
     健は窓辺のカーテン閉め、小夜子を抱きしめ更に強く引き寄せた。
     長い時間に感じた、健と小夜子の永く熱いキスが終わり唇から離れた。
     それでも二人の眼は、互いを潤んだ瞳で見つめあって離さない。
     恥らうように小夜子は、ブラウスのボタンを外して行く……それは眩しい程の均整のとれた白く美しい裸身の姿だった。
    「ケン、私のわがままを聞いてくれる? 私が健に必要な女ならこの身をこの心を全て奉げるわ。そしてケン愛しているわ」

     小夜子の潤んだ瞳が健を捉えて真剣な愛の告白であった。
    「ありがとう、僕は……オレは小夜子ちゃん君の為に生涯を掛けて君を守り君を愛で包んで生きて行く。そして幸せを約束するよ」
     健は小夜子を強く抱きしめ、小夜子もそれに従って健に包まれて行く。
     健と小夜子の記念すべき、愛のメロディは心地よく流れていった。
     シンガポールの夜は今日も暑く、そして熱く二人を包み込んでいった。
     それから間もなく健はT.T探偵事務所を退職した。
     小夜子も又、旅行会社を退職した。世話になった人たちとも別れの挨拶を済ませて二人は機上の人となっていた。
     なんと!? 空港に見送りに来たのはジミーサットンの他にあのマイケル、ワン警部まで来ていたのだった。健は苦笑しながらも其れほどまで自分を必要としてくれるのが嬉しかった。
    「健! あのマイケルと言う人はどんな人なの?」
    健は小夜子の体調や精神的に負担を掛けたくないために
    浜口の件やシンガポール警察から合気道の指導の話はしていない。
    「話そうと思っていたのだが、小夜ちゃんの体調が回復してからと、君が入院している間に、何度も頼まれてね。警察で合気道を教えてくれと、最終的には君と一緒に決めようと思っていたのだが」
    「えっ! どうしてそんな事になった訳?」「ホラ、あのハイジャク事件の時に、誰かが見たんじゃないの?」
     それより師匠の技を広く伝えたいんだ。それが弟子の務めだとね」

    つづく

  • >>2359

    最終章  君の為に
    第一節 愛の形

     健はシンガポール警察本部の応接室に座っていた。マイケルが健に労をねぎらう。
    「先日は本当に有難うございます。それに今日また、お願い事の為に、わざわざ御足労戴きまして恐縮です。以前に警視が堀内さんを、お尋ね致した時は事情も知らずに大変失礼を致しました。幸い今は大切な方も回復に向かっておられると聞きまして再度お願い致したわけです」

     その頃ちょうど警視が尋ねて来た時は、小夜子が生死の境に居た訳で健はその時は冷静さを失っており考える余裕さえなかった。
    「いいえ折角来てくれたのに警視には、こちらこそ失礼致しました。お陰様で彼女も大分回復して来ましたので早速駆けつけました。余り長くお待たせ致してはと、思いましてね」
    「ありがとう御座います。今回のお話は警視が、率先して進められており堀内さんの、武道に惚れ込みまして、我がシンガポール警察も新たに取り入れて見ようと言う事になりまして是非とも、堀内さんに御指導願えればと、思った次第です」
     それはあのハイジャク事件の時に見た何人かの人間があの凄い活躍の二人を見て(使える)と思ったのだった。
    あの時の活躍は驚きを隠せず、また搭乗員の人に取って命の恩人でもあった。
    警察が事情徴収した時、その神秘なる不思議な武術か手品を見たと警視は聞いて興味をもった訳だった。
    「僕みたいな若造が警察の方々に教えると言っても」
     健は合気道など人に教えるなど考えた事もなかった。
     合気道は自分自身の精神と身体を鍛える為のものだった。
    「いやいや御謙遜を、なにせハミルトン警視が、しっかりその気になっておられますから、私が良い返事を届けねばなりませんので」
    もはや健には断る理由がなく今後の詳細について今度はハミルトン警視を交えて日を改めて進める事にした。健はまさか自分が人に合気道の指導をするなんて夢にも思わなかった。フーと頭の中をよぎるのは、在りし日の要山和尚の姿だった。心の中で要山和尚に語りかけた。
    『要山師匠……師匠の合気道は今、シンガポールの地に新たに受け継がれて行く事を喜んでくれますか?』
     健はそっと、胸に手を当てて呟くのだった。堀 内健。あれから何年になるだろう……二十七歳を過ぎていた。
    マイケル、ワンへは一応分かりましたと言ったが数ヶ月の猶予をもらい、一度日本に帰国したいと伝えた。もちろん小夜子の回復を待って、最後の(後片付け)をする為だ。そして小夜子が退院する日が来た。松本と橋本はシンガポールに残って、小夜子が退院するまで帰らないと組長に頼み込んでいた。
    組長も大層喜んで、健と小夜子に出来るだけの事をして来いと言われたそうだ。なんだか? 矢崎組の客員扱いみたいな存在だった。

    つづく

  • >>2358

    君の為に 最終章
    第一節  夕映え 3

     健はマイケルとの極秘除法交換に成功した喜びをいまか、いまかと、待っている、松本達のアパートへ一報を入れた。
     松本達は予想外の健からの連絡に、喜んでいる姿が浮かぶようだった。
    健からの証拠書類を手に入れた。その後のマイケル警部の行動は素早かった。
     なんと百名からなる武装警官がパトカーと装甲車に乗り込んで夕暮れ時の街の中から埠頭へ向かって行った。
     そして健はパトカーに乗って、松本達のアパートへと向かった。
     もちろん浜口を逮捕する為で。松本、橋本、安田は協力者である事は健とマイケル警部の約束事である。しかし松本はやはりヤクザ警察と聞けば気持ちの良いものじゃないだろう。
     やがてパトカーがアパートに到着した。橋本が表で待っていた。
    「堀内君……大丈夫だろうな?」心配顔で、健の顔を覗き込む。
    「橋本さん大丈夫、もし手錠でも出したら僕が警官を、叩きのめして橋本さん達を逃がしますよ。約束を破ったら警官でも許せないでしょうが」

     橋本はその言葉で硬い表情が崩れた。そして健の友情の現れに強く惹かれる橋本であった。警官相手でも健は橋本達の為に戦う強い意志を示したくれた。任侠に生きる者は、こういう事には弱い橋本は警官達を旅館の番頭のようにニコニコ顔で案内していた。
     アパートの中で松本と安田が待っていた。警官たちに浜口と、もう一人を引渡しさえに、警官が松本達にお礼を述べ健にも笑顔で囁いた。
    「どうですか? 彼等に特別報奨金でも出しましょうか」と

     健は松本に日本語で伝えた。すると松本は手を横に振って
    「とんでもない、礼を言われただけでいい。警察署に入るだけでゾッとするよ」
     健には松本の冗談とはとれない言葉に声を出して笑った。
    あ とは警察の仕事、松本等も組の仕事を見事に成し得た訳だ。
     大威張りで帰国出来るだろう、そして四人は翌日、盛大に飲み歩いた。
     松本はキチンと健の為に、浜口から沖田の居場所を吐かせていた。
     要山和尚夫妻、つまり小夜子の両親殺害犯の宮崎と浜口は片付いた。残りは沖田と黒幕の盛田だけだ。そして今また、沖田の所在が明かされようとしていた。
     松本の話では、どうやら日本に帰っていて、盛田のボディガードとか、もっとも表には顔は出さず、影のようにガードに張り付いているらしい。
     松本に、どんな手を使って浜口を吐かせたのかと聴いたら注射器を買って来て、怪しげな白い液体を浜口に注射したらしい。驚いた浜口は当然自分が麻薬を扱っているから、てっきり麻薬を打たれたと思い込み、このまま注射を続けられたら廃人にされると思った。
     麻薬の恐ろしさを自分が一番知っているから、効果適面だったと。今宵は松本、 健達に最高の宴になった事は言うまでもない。

    つづく

  • 君の為に 最終章
    第一節  夕映え 2

    「良く訪ねて来てくれました。警視も貴方に、お願いがあるらしくてずいぶん気にかけて降りましたよ。申し送れました私は」
    と名詞を差し出した。本来、名詞は日本人が考え出した自己紹介用のものだったが外国人には、そういう名詞と言うものを、見せられて何かと思ったらしい。今の日本の経済発展に役立ったのは、この名詞と軍手だと言われている。
     軍手とは名の通り、旧日本軍が考え出したものだが外国にはなかった。作業をする上で、非常に安くて応用が出来る上であらゆる作業に対応が出来る。地味だが経済発展に欠かせないものだった。
     その名詞には〔警部 マイケル、ワン〕と印刷されてあった。
    「実は……重要な、お話なのですが、聞いて頂けませんか?」
     健は話し始めた。最初に切り出したのは、松本達の罪を不問にして欲しいと健は順を追って、マイケルに説明していった。
     マイケルは話を聞いている内に、刑事のするどい眼光に変わっていった。
     健は、賭けた。多分かなりの情報と犯人を引き渡し条件に、松本達の罪を問わないと言う、言わば司法取引だった。果たしてマイケルの反応は?
     マイケルは厳しい表情から、興奮した表情で健に語りかけた。
    「堀内さん驚きました。もしこれが本当なら、我々の半年分の仕事に相当する捕り物になります、堀内さんの友人なら大丈夫です。それにその人達の罪なんて、これだけの組織を潰せるなら逆に表彰したいくらいですよ」
     マイケルは思いがけない朗報に、まさに棚からボタ餅みたいものだった。
    「えっ本当ですか? 本当に信じて良いですか?」

     健は予想以上のマイケルの言葉に、嬉しさが込みあげて来た。
    「勿論です。我々こそハイジャクの件と言え、堀内さんに感謝です」
     健は決定的な切り札ともなる、松本が新日本同盟の事務所から探し出した麻薬密輸取引の書類をマイケルに提供した。
    「これは、その人達が命がけで、持って来た証拠書類です」と
     マイケルはその書類を見て表情が一段と興奮状態になった。
    「堀内さん、ありがとうございます。ハイジャク事件から今回の事件まで貴方には感謝します。きっと警視も喜ばれるでしょう、早速行動しましょう。この証拠書類があれば、すぐにでも逮捕状がとれますよ」

    つづく

  • 君の為に 最終章
    第一節  夕映え 1

    「俺たちはヤクザだぜ! 方法はいくらでもあるさ」
    確かに警察と違って、持久戦とか法律上の問題もあり時間がかかる。
    しかし法律は松本達に言わせれば、破る為にあると心得ている。
    もし健が、浜口の口を割らせるには、どんな話しをしても無駄だろう。
    やはり暴力に頼るしかないだろうか、かと言って殺し訳にも行かない。
     「分かった! 松本さんに頼むよ、僕が聞きたいのは、沖田勝男の行方だけだ」
    「よし引き受けた。今日はあんたの手柄だよ。ゆっくり休んでくれ」
     橋本と安田も、松本の言葉に大きくうなずいた。
    「気持ちは嬉しいけど、新日本同盟の連中は必死に探しているのじゃないか?」
    「その事だけど、浜口の口を割らせたら、俺たちは日本に帰るぜ」
    「もう新日本同盟の麻薬密輸の証拠書類は、持っているし奴等は浜口を探すよりも、逃げる方が先かも知れんなぁ」
     堀内健はひらめいた以前逢ったシンガポール警察の人に事情を話せばその書類を預かって警察に持って行く事にした。
     もちろん浜口に白状させてから警察に引き渡して、松本達には罪が及ばない条件を持ちかけてみる事にした。日本の警察ならそんな事は許される訳はないが、外国の警察はその点は合法的な所がある。
     健は書類を持って帰る事にした。浜口が白状次第連絡がくる事になった。

     健は小夜子の病院に行くのを今日はためらった。このまま行ったらきっと自分の態度に、異変を思うかもしれないと思ったからだ。合気道とは人の動作、心理を読む事に長けているから。
     翌日の夕方松本から電話が入った。白状したらしい。どんな手を使ったのだろうと、そして沖田が日本に居る事が分かった。健は早速、麻薬密輸の証拠書類を持って、シンガポール警察に向かった。
     シンガポール警察の外事課担当本部長と言う、ジョイ・ハミルトン以前、小夜子が入院した時に病院であった事がある人物だ。

     あいにくハミルトンは出かけて署内にはいなかった。仕方なく出直そうと思った時、あのハイジャク事件の折、顔見知りの警官が声を掛けて来た。
    「やぁ貴方は堀内さんでしょ? 驚いたなあどうした?」

     健も急に声を掛けられて、頭の記憶回路がめまぐるしく回転した。
    「ど……どうも久しぶりです。実はハミルトン警視を訪ねて来たのですが?」
     その警官が当時の英雄の登場に笑顔で応接室に案内してくれた。
    「そうですか、警視は今日、居りませんが私でよければ珈琲でも飲みながら」
     二人は応接室に入って行った。間もなく香りの良い珈琲が運ばれて来た。

    つづく

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