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  • その1
    田口ランディ『ニルヴァーナ』
     この中編小説を絶賛するのでは決して無い。ただ、著者が真摯にオウム真理教事件に向き合っている。この点は評価したい。一方、村上春樹『1Q84』ありゃ何だ?の感が否めない。新興宗教団体さきがけが不気味な影を落とすが、結局あやふやで終わってしまう。
     新聞奨学生、確かにきつかろう。朝夕刊配達して大学通ってというのはハンパない。おまけに集金まで担うというのは無理がある。結局きちんと大学を卒業出来ないままで終わる者も多かろう。恵まれた学生をうらやましく思う。ついつい世の中を斜めに見てしまいがちになってもおかしくない。この辺から切り込む著者の着眼は良い。
     もう一点。主人公Sのキャラ作りが良い。前述の新聞奨学生であることに加え、生来の生真面目さがあり、その上負けて当然という選択をし続けていること。グーを出して負けると分かっていればグーを出す奴、という表現が良い。
     しかし、惜しむらくは「私」を評して「君とSは似ている」としたセリフが全く活きていない。まじめに大学に通うSと、通うのをあきらめた「私」との共通点を見いだすのが困難だ。「私」はそれなりの人生を送り、Sはサリン入りのビニル袋を裂いた死刑囚。僅かの差しかなかった、というのは無理がある。
     新聞奨学生の仲間で、東大生で「ア新聞」に就職したK。その就職祝いの席で、このままでは新聞社、専売所、全部がダメになってしまうだろうと予言する。言ってしまえば、朝日新聞批判なのであるが、ちょっと盛り込みすぎではないか?まあ物語を盛り上げる存在でもあるので、相殺というべきか。
     田口は純文学雑誌、エンターテイメント雑誌双方登場する。事実なのかフィクションなのか、伝聞なのか目撃したのか、そういうマージナルな世界を作るのが実に上手い。オウムはぴったりの題材であることは間違いない。


    以上、原稿用紙2枚相当。長くもなく、短くもなく、800乃至は2000字程度でまとめる。急ぐことなく100番勝負賭けていく所存です。初回ということで、軽いものを扱いました。

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