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    北浜情報出版部・近刊

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    無依 2月23日 18:29

    >>5688

    冬の海     『吉野弘詩集』思潮社

    吹雪のなか 遠く 海を見た。
    海は荒れていた。
    そして 荒れているわけが 僕には
    すぐ わかった。

    海は 海であることを
    只 海でだけあることを
    なにものかに向って叫んでいた。

    あわれみや救いのやさしさに
    己を失うまいとして
    海は狂い
    海は走り
    それは一個の巨大な排他性であった。

    吹雪のなか 遠く 走っている海を見た。
    そして
    海の走っているわけが
    僕には わかりすぎるほどよく
    わかった。

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 冬の海     『吉野弘詩集』思潮社  吹雪のなか 遠く 海を見た。 海は荒れていた。 そして 荒れ

  • I was born     吉野弘
              『吉野弘詩集』思潮社

     確か 英語を習い始めて間もない頃だ。

     ある夏の宵。父と一緒に寺の境内を歩いてゆくと 青い夕靄の奥から浮き出るように 白い女がこちらにやってくる。物憂げに ゆっくりと。
     女は身重らしかった。父に気兼ねをしながらも僕は女の腹から目を離さなかった。頭を下にした胎児の 柔軟なうごめきを 腹のあたりに連想し それがやがて 世に生まれ出ることの不思議さに打たれていた。

     女はゆき過ぎた。

     少年の思いは飛躍しやすい。その時 僕は<生まれる>ということが まさしく<受身>である訳を ふと諒解した。僕は興奮して父に話しかけた。
    ――やっぱり I was bornなんだねーー
    父は怪訝そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。
    ――I was bornさ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだねーー
     その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。僕の表情が単に無邪気として父の眼にうつり得たか。それを察するには 僕はまだ余りに幼なかった。僕にとってこの事は文法上の単純な発見に過ぎなかったのだから。

     父は無言で暫く歩いた後 思いがけない話をした。
    ――蜉蝣(かげろう)という虫はね。生まれてから二、三日で死ぬんだそうだが それなら一体 何の為に世の中へ出てくるのかと そんな事がひどく気になった頃があってねーー
     僕は父を見た。父は続けた。
    ――友人にその話をしたら 或日 これが蜉蝣の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。説明によると 口は全く退化して食物を摂るに適しない。胃の腑を開いても 入っているのは空気ばかり。見ると その通りなんだ。ところが 卵だけは腹の中にぎっしり充満していて ほっそりした胸の方にまで及んでいる。それはまるで 目まぐるしく繰り返される生き死にの悲しみが 咽喉もとまで こみあげているように見えるのだ。淋しい 光の粒々だったね。私が友人の方を振り向いて<卵>というと 彼も肯いて答えた。<せつなげだね>。そんなことがあってから間もなくのことだったんだよ、お母さんがお前を生み落としてすぐに死なれたのは――。

     父の話のそれからあとは もう覚えていない。ただひとつ痛みのように切なく 僕の脳裡に灼きついたものがあった。
    ――ほっそりした母の 胸の方まで 息苦しくふさいでいた白い僕の肉体――。


        註 終りから十一行目、<淋しい 光の粒々だったね>は、「幻・方法」に再録のとき、<つめたい光の粒々だったね>に改めました。

  • >>5686

    『遺愛集』島秋人・東京美術

    昭和三十六年

    たどりきて寝返りうちぬ死刑囚の憶ひの内に母の死があり

    老い父に刑死の後のかなしみを詫びつつ冴えし虫の音聴きゐる

    仲秋の月を見たくて獄窓の曇ガラスを濡らし拭きたり

    死刑囚となりて思へばいくらでも生きる職業あると悟(し)りにき

    わが罪に貧しく父は老いたまひ久しき文の切手さかさなる
                            (個人的に一番の歌と思う^^)

    わが罪を証人台に泣きたまひ泣きたまひつつ詫びくれし老父(ちち)

    過ぎし日の老父(ちち)の姿をまねてゐぬ冬の日向に死 囚となりて

    久々にあくびなど出づ白き息いつまで吐ける死刑囚われに

    握手さへはばむ金網(あみ)目に師が妻の手のひら添へばわれも押し添ふ

    新しき年迎へ得て死刑囚のわれも友もみな顔輝けり
                       S36年10首その2(おわり)

  • >>5685

    >                   S36年10首その1

    短歌はたくさんある中でS36は私が20首選んだ、という意味です。(その2まであり^^)

  • >>5650

    『遺愛集』島秋人・東京美術

    昭和三十六年

    うす赤き冬の夕日が壁をはふ死刑に耐へて一日生きたり

    亡き母に呼ばれし呼び名が師の妻の便りにありてなつかしく読む

    世のためになりて死にたし死刑囚の眼はもらひ手もなきかも知れぬ

    たまはりし花をかざりて被害者の命日の夜を深く詫びたり

    同囚の祈りむなしく幼児持つ友の死刑は確定となる

    二階より死刑囚われ見てをりぬパンを食(は)み食ふ七羽の雀

    息たゆる苦しき夢ゆのがれむとあがきてゐたり眠りの中に

    濯ぎ終わる流しの底に獄灯が月の如くに映りてゐたり

    昏れ方の虫の音ききつつ老い父のひと日の疲れ獄におもふ

    金網に触るる位置までより添ひて受くる秋陽はまみにまぶしき

                       S36年10首その1

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 『遺愛集』島秋人・東京美術  昭和三十六年  うす赤き冬の夕日が壁をはふ死刑に耐へて一日生きたり

  • さまざまな詩人の詩を読んでいると、やはり、
    理解に苦しむ詩もたくさんあります^^;

    でも、本物の詩は、本来の訴えたいことが、
    迫力に満ちて迫って来る感じもあります^^
    それは言葉の選択が異様に見えても、
    羅針盤のように本来の表現したいことを
    言葉がさし示すような構造によるものかと思う・・・。

    逆に偽物の詩は言葉の本来の意味と表現したいことの
    乖離があるのではないかと思います・・・。
    もちろんそれは、言葉を耳障りの良さみたいなもので選択し、
    本来の言いたいことは、私の詩は行けてるでしょ、
    みたいなので言葉を選択しているのではないかと思う^^

    変な解説は、このくらいにして(笑)

    ~~~~~~~

    『石原吉郎詩集』現代詩文庫26

    詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から

    やぽんすきい・ぼおぐ
    日本の神

    日本の神は
    小さな陰 茎を持つ
    小さな陰 茎の日本の神は
    おなじくその手に
    小さな斧を持つ
    鬼のような夕焼けのなかで
    その小さな斧が
    信ずるものは何だ
    小さな斧が立ちむかう
    白くかぼそい
    ものは何だ
    郷愁を不意につきおとし
    革命を立ちどまらせ
    鶏のような白樺を打ちたおす
    シベリヤはだれの
    領土でもない
        よしんばその空に塔があっても
        納得はしない
        よしんばその空に塔がなくても
        納得はしない
        塔がある日の理不尽な悲しみを
        塔がない日へおしかぶせて
        おれは その空を
        知らぬといえ 塔のない空を
        見たことがないといえ
    夕焼けが棲む髭のなかの
    その小さな目が拒むものは
    夕焼けのなかへ
    返してやれ
    怒りの酒槽(さかぶね)を踏みぬくように
    小さな神がふみぬいたものは
    かさねて これを
    踏みぬいてはならぬ
    落日のなかに蹴爪を染め
    系列となって羽ばたくやつを
    落日のなかへ
    追いかえすな
           注:「日本の神」「小さな陰 茎」とは、日本の捕虜が、
             そう呼ばれていた。愛称であるらしい。

  • 「きみはねこのともだちですか」 長田 弘

    一ぴきのねこと
    友だちになれたら
    ちがってくる 何かが
    もっと優しくなれるかもしれない
    ねこは何もいわずに語る
    はげしく愛して
    ゆっくり眠る
    きみはねこの友だちですか?


    胸のドアを開けなくちゃ
    ねこが きみの
    こころにはいれるように
    胸のドアを開けなくちゃ
    きみはねこの友だちですか
    一ぴきのねこと
    友だちになれたら
    ちがってくる 何かが
    もっと自由になれるかもしれない
    ねこは生きたいように生きる
    ゆきたいところへ
    すばやく走る
    きみはねこの友だちですか?


    胸のドアを開けなくちゃ
    ねこが きみの
    こころにはいれるように
    胸のドアを開けなくちゃ

    <心の中にもっている問題>所収 晶文社

  • 『辻征夫詩集成』

    学校の思い出  





    木は
    最後まで木でなければいけない
    夢の中で幻想の水辺で
    いつも黒々と
    つめたくそびえていなければいけない
    木が木でなくなるとき
    葉が葉でなくなるときそれは
    天に向ってのびる
    一本の直線にもなってしまって
    はてしないその虚像に
    地上の生命(いのち)は胸しぼられるのだ

    いつまでも
    木は木でなければいけない
    海辺の風に星屑のぬれた賛歌に
    木はいつまでも木のままに
    梢ざわめかせときに落葉をふりまき
    いつまでも立っていなければいけない
    木がふとした無聊に
    さまざまな問の答となって
    ささくれた木肌をさらすとき
    人はすでに木のもとに憩い
    木の陰に語らうこともできないのだ

    木は
    いつまでも木でなければいけない
    とある少女の名を彫りつけられ
    朝まだき少年の唇の夢をうけとり
    木はいつまでも
    そうして木でなければいけないのだ

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 『辻征夫詩集成』  学校の思い出    Ⅰ  木  木は 最後まで木でなければいけない 夢の中で幻想

  • >>5679

    今日は荒川河川敷^^

    ネコちゃん達、食べ物何も持っていないんだ、ゴメン^^;

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 今日は荒川河川敷^^  ネコちゃん達、食べ物何も持っていないんだ、ゴメン^^;

  • 『石原吉郎詩集』現代詩文庫26

    詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から

    馬と暴動

    われらのうちを
    二頭の馬がはしるとき
    二頭の間隙を
    一頭の馬がはしる
    われらが暴動におもむくとき
    われらは その
    一頭の馬とともにはしる
    われらと暴動におもむくのは
    その一頭であって
    その両側の
    二頭の馬ではない
    ゆえにわれらがたちどまるとき
    われらをそとへ
    かけぬけるのは
    その一頭の馬であって
    その両側の
    二頭の馬ではない
    われらのうちを
    二人の盗賊がはしるとき
    二人の間隙を
    一人の盗賊がはしる
    われらのうちを
    ふたつの空洞がはしるとき
    ふたつの間隙がはしるとき
    われらと暴動におもむくのは
    その最後の盗賊と
    その最後の空洞である

  • >>5677

    石原吉郎の詩でも解かる通り、
    詩人の言葉は自由にのびのび書かれたものではなく、
    一言半句ゆるがせにしないで書かれたものが、ほとんどですね^^
    口からデマカセではもちろんありません。当然のことながら^^
    それに、心血を注いでいてて、言葉に力があるようですね。

    ここで今回は思想性を言葉に彫琢した田村隆一の
    代表的作品の「四千の日と夜」の一部をご紹介します^^
    楽をしてサイトのコピペです^^

    ~~~~~

    『田村隆一詩集』現代詩文庫

    詩集<四千の日と夜>

    立棺

    1

    わたしの屍体に手を触れるな
    おまえたちの手は
    「死」に触れることができない
    わたしの屍体は
    群衆のなかにまじえて
    雨にうたせよ
    われわれには手がない
    われわれには死に触れるべき手がない
    わたしは都会の窓を知っている
    わたしはあの誰もいない窓を知っている
    どの都市へ行ってみても
    おまえたちは部屋にいたためしがない
    結婚も仕事も
    情熱も眠りも そして死でさえも
    おまえたちの部屋から追い出されて
    おまえたちのように失業者になるのだ
    われわれには職がない
    われわれには死に触れるべき職がない
    わたしは都会の雨を知っている
    わたしはあの蝙蝠傘の群れを知っている
    どの都市へ行ってみても
    おまえたちは屋根の下にいたためしがない
    価値も信仰も
    革命も希望も また生でさえも
    おまえたちの屋根の下から追い出されて
    おまえたちのように失業者になるのだ
    われわれには職がない
    われわれには生に触れるべき職がない
    2

    わたしの屍体を地に寝かすな
    おまえたちの死は
    地に休むことができない
    わたしの屍体は
    立棺のなかにおさめて
    直立させよ
    地上にはわれわれの墓がない
    地上にはわれわれの屍体をいれる墓がない
    わたしは地上の死を知っている
    わたしは地上の死の意味を知っている
    どこの国へ行ってみても
    おまえたちの死が墓にいれられたためしがない
    河を流れて行く小娘の屍骸
    射殺された小鳥の血 そして虐殺された多くの声が
    おまえたちの地上から追い出されて
    おまえたちのように亡命者になるのだ
    地上にはわれわれの国がない
    地上にはわれわれの死に価いする国がない
    わたしは地上の価値を知っている
    わたしは地上の失われた価値を知っている
    どこの国へ行ってみても
    おまえたちの生が大いなるものに満たされたためしがない
    未来の時まで刈りとられた麦
    罠にかけられた獣たち またちいさな姉妹が
    おまえたちの生から追い出されて
    おまえたちのように亡命者になるのだ
    地上にはわれわれの国がない
    地上にはわれわれの生に価いする国がない
    3

    わたしの屍体を火で焼くな
    おまえたちの死は
    火で焼くことができない
    わたしの屍体は
    文明のなかに吊るして
    腐らせよ
    われわれには火がない
    われわれには屍体を焼くべき火がない

    わたしはおまえたちの文明を知っている
    わたしは愛も死もないおまえたちの文明を知っている
    どの家へ行ってみても
    おまえたちは家族とともにいたためしがない
    父の一滴の涙も
    母の子を産む痛ましい歓びも そして心の問題さえも
    おまえたちの家から追い出されて
    おまえたちのように病める者になるのだ
    われわれには愛がない
    われわれには病める者の愛だけしかない
    わたしはおまえたちの病室を知っている
    わたしはベッドからベッドヘつづくおまえたちの夢を知っている
    どの病室へ行ってみても
    おまえたちはほんとうに眠っていたためしがない
    ベッドから垂れさがる手
    大いなるものに見ひらかれた眼 また渇いた心が
    おまえたちの病室から追い出されて
    おまえたちのように病める者になるのだ
    われわれには毒がない
    われわれにはわれわれを癒すべき毒がない

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 石原吉郎の詩でも解かる通り、 詩人の言葉は自由にのびのび書かれたものではなく、 一言半句ゆるがせにし

  • >>5675

    『石原吉郎詩集』現代詩文庫26

    詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から

    位置

    しずかな肩には
    声だけがならぶのでない
    声よりも近く
    敵がならぶのだ
    勇敢な男たちが目指す位置は
    その右でも おそらく
    その左でもない
    無防備な空がついに撓(たわ)み
    正午の弓となる位置で
    君は呼吸し
    かつ挨拶せよ
    君の位置からの それが
    最もすぐれた姿勢である

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 『石原吉郎詩集』現代詩文庫26  詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から  位置  しずかな肩には 声だ

  • >>5674

    『続・石原吉郎詩集』現代詩文庫120

    疲労について

    この疲労を重いと見るのは
    きみの自由だが
    むしろ疲労は
    私にあって軽いのだ
    すでに死体をかるがるとおろした
    絞索のように
    私に軽いのだ
    すべての朝は
    私には重い時刻であり
    夜は私にあって
    むしろ軽い
    夜にあって私は
    浮きあがる闇へ
    かるがるとねむる
    そのとき私は
    すでに疲労そのものである
    霧が髭を洗い ぬらす
    私はすでに
    死体として軽い
    おもい復活の朝が来るまでは





    死はそれほどにも出発である
    死はすべての主題の始まりであり
    生は私には逆向きにしか始まらない
    死を<背後>にするとき
    生ははじめて私にはじまる
    死を背後にすることによって
    死ははじめて
    生き生きと死になるのだ

  • >>5673

    『石原吉郎詩集』現代詩文庫26

    詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から

    事実

    そこにあるものは
    そこにそうして
    あるものだ
    見ろ
    手がある
    足がある
    うすらわらいさえしている
    見たものは
    見たといえ
    けたたましく
    コップを踏みつぶし
    ドアをおしあけては
    足ばやに消えて行く 無数の
    屈辱の背なかのうえへ
    ぴったりおかれた
    厚い手のひら
    どこへ逃げて行くのだ
    やつらが ひとりのこらず
    消えてなくなっても
    そこにある
    そこにそうしてある
    罰を忘れられた罪人のように
    見ろ
    足がある
    手がある
    そうして
    うすらわらいまでしている

  • >>5672

    『石原吉郎詩集』現代詩文庫26

    詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から

    葬式列車

    なんという駅を出発して来たのか
    もう誰もおぼえていない
    ただ いつも右側は真昼で
    左側は真夜中のふしぎな国を
    汽車ははしりつづけている
    駅に着くごとに かならず
    赤いランプが窓をのぞき
    よごれた義足やぼろ靴といっしょに
    まっ黒なかたまりが
    投げこまれる
    そいつはみんな生きており
    汽車が走っているときでも
    みんなずっと生きているのだが
    それでいて汽車のなかは
    どこでも屍臭がたちこめている
    そこにはたしかに俺もいる
    誰でも半分はもう亡霊になって
    もたれあったり
    からだをすりよせたりしながら
    まだすこしずつは
    飲んだり食ったりしているが
    もう尻のあたりがすきとおって
    消えかけている奴さえいる
    ああそこにはたしかに俺もいる
    うらめしげに窓によりかかりながら
    ときどきどっちかが
    くさった林檎をかじり出す
    俺だの 俺の亡霊だの
    俺たちはそうしてしょっちゅう
    自分の亡霊とかさなりあったり
    はなれたりしながら
    やりきれない遠い未来に
    汽車が着くのを待っている
    誰が機関車にいるのだ
    巨きな黒い鉄橋をわたるたびに
    どろどろと橋桁が鳴り
    たくさんの亡霊がひょっと
    食う手をやすめる
    思いだそうとしているのだ
    なんという駅を出発して来たのかを

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 『石原吉郎詩集』現代詩文庫26  詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から  葬式列車  なんという駅を出

  • 『石原吉郎詩集』現代詩文庫26

    詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から

    自転車にのるクラリモンド

    自転車にのるクラリモンドよ
    目をつぶれ
    自転車にのるクラリモンドの
    肩にのる白い記憶よ
    目をつぶれ
    クラリモンドの肩のうえの
    記憶のなかのクラリモンドよ
    目をつぶれ

     目をつぶれ
     シャワーのような
     記憶のなかの
     赤とみどりの
     とんぼがえり
     顔には耳が
     手には指が
     町には記憶が
     ママレードには愛が

    そうして目をつぶった
    ものがたりがはじまった

     自転車にのるクラリモンドの
     自転車のうえのクラリモンド
     幸福なクラリモンドの
     幸福のなかのクラリモンド

    そうして目をつぶった
    ものがたりがはじまった

     町には空が
     空にはリボンが
     リボンの下には
     クラリモンドが

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 『石原吉郎詩集』現代詩文庫26  詩集<サンチョ・パンサの帰郷>から  自転車にのるクラリモンド

  • >>5670

    >吉岡実や萩原朔太郎などの解りにくい詩も、

    萩原朔太郎自身も、ある詩論で、
    解からない詩なんてものは世の中にない、と断言しますね。
    本気で作った詩なら、どんな支離滅裂なうわ言のようなものでも、
    主観の本心が現れるものだ、と言っていて、
    イギリス?詩人のポウが新聞記者の時代、どんな難問でも
    かるがると解き、軍事機密の暗号解読もやってみせたといっています。
    それは何故かというと、伝えたい意味があれば言葉があり、
    言葉があれば文法がある、その特殊な文法を発見すれば、どんな暗号も必ず解かる、
    詩と暗号は違うが、詩の作者の特有の方法(鍵)が解れば、詩は必ず解かるものであり、
    「難解」という詩はあっても、「不可解」な詩というものは有るはずがない、と言っている。

    というわけで不可解な詩があるとすれば、意味が無い出鱈目な詩ということになるのだろう^^
    文章作成が幼稚な所為で、読みずらかったのは勘弁してください^^
    ひょっとして、私の文章は意味はあるが暗号的なのかもしれません(爆


    付録


    我を愛する歌      『啄木歌集』岩波文庫


    東海の小島の磯の白砂に
    われ泣きぬれて
    蟹とたはむる



    砂山の砂に腹這ひ
    初恋の
    いたみを遠くおもひ出づる日



    いのちなき砂のかなしさよ
    さらさらと
    握れば指のあひだより落つ



    たはむれに母を背負ひて
    そのあまり軽きに泣きて
    三歩あゆまず



    わが泣くを少女等(おとめら)きかば
    病犬の
    月に吠ゆるに似たりといふらむ

  • >>5574

    以前にも難解の詩人・吉岡実の有名な「僧侶」を紹介しました^^
    でも、吉岡実や萩原朔太郎などの解りにくい詩も、
    ただのデマカセや自分のゲロはどうよ、と言った自慢でなくて、
    詩が生まれるところの詩情や熱情、心を詩人がしっかりもっていれば、
    読者は何度も読んだりすれば、おのずと味わって楽しめる作品に
    なるのだと思う・・・。

    つまり詩を理解するには、それなりの教養も必要だが、
    本物は言葉一つ一つに確固とした詩情を持っているので、
    それを味わうことが肝要かと愚考します^^

    吉岡実「僧侶」再掲載です^^

    ~~~~~~~

    >吉岡実の詩も難解だけど、面白い・・・
    >形而上学みたいな感じ^^

    ~~~~~~

    僧侶     吉岡実

        1

    四人の僧侶
    庭園をそぞろ歩き
    ときに黒い布を巻きあげる
    棒の形
    憎しみもなしに
    若い女を叩く
    こうもりが叫ぶまで
    一人は食事をつくる
    一人は罪人を探しにゆく
    一人は自瀆
    一人は女に殺される

        2

    四人の僧侶
    めいめいの務めにはげむ
    聖人形をおろし
    磔に牝牛を掲げ
    一人が一人の頭髪を剃り
    死んだ一人が祈祷し
    他の一人が棺をつくるとき
    深夜の人里から押しよせる分娩の洪水
    四人がいっせいに立ちあがる
    不具の四つのアンブレラ
    美しい壁と天井張り
    そこに穴があらわれ
    雨がふりだす

        3

    四人の僧侶
    夕べの食卓につく
    手のながい一人がフォークを配る
    いぼのある一人の手が酒を注ぐ
    他の二人は手を見せず
    今日の猫と
    未来の女にさわりながら
    同時に両方のボデーを具えた
    毛深い像を二人の手が造り上げる
    肉は骨を緊めるもの
    肉は皿に晒されるもの
    二人は飽食のため肥り
    二人は創造のためやせほそり

        4

    四人の僧侶
    朝の苦行に出かける
    一人は森へ鳥の姿でかりうどを迎えにゆく
    一人は川へ魚の姿で女中の股をのぞきにゆく
    一人は街から馬の姿で殺戮の器具を積んでくる
    一人は死んでいるので鐘をうつ
    四人一緒にかつて哄笑しない

        5

    四人の僧侶
    畑で種子を播く
    中の一人が誤って
    子供の臀に燕を供える

    驚愕した陶器の顔の母親の口が
    褚い泥の太陽を沈めた
    非常に高いブランコに乗り
    三人が合唱している
    死んだ一人は
    巣のからすの深い咽喉の中で声を出す

        6

    四人の僧侶
    井戸のまわりにかがむ
    洗濯物は山羊の陰嚢
    洗いきれぬ月経帯
    三人がかりでしぼりだす
    気球の大きさのジープ
    死んだ一人がかついで干しにゆく
    雨のなかの塔の上に

        7

    四人の僧侶
    一人は寺院の由来と四人の来歴を書く
    一人は世界の花の女王達の生活を書く
    一人は死んでいるので
    他の者にかくれて
    三人の記録をつぎつぎに焚く

        8

    四人の僧侶
    一人は枯木の地に千人のかくし児を産んだ
    一人は塩と月のない海に千人のかくし児を死なせた
    一人は蛇とぶどうの絡まる秤の上で
    死せる者千人の足生ける者千人の眼の衡量の等しいのに驚く
    一人は死んでいてなお病気
    石塀の向うで咳をする

        9

    四人の僧侶
    固い胸当のとりでを出る
    生涯収穫がないので
    世界より一段高い所で
    首をつり共に嗤う
    されば
    四人の骨は冬の木の太さのまま
    縄のきれる時代まで死んでいる

    金持ちを明日から貧乏人にする経済学 以前にも難解の詩人・吉岡実の有名な「僧侶」を紹介しました^^ でも、吉岡実や萩原朔太郎などの解りにく

  • >>5668

     過去     吉岡実
            『現代詩の鑑賞101』大岡信編

    その男はまずほそいくびから料理衣を垂らす
    その男には意志がないように過去もない
    鋭利な刃物を片手にさげて歩き出す
    その男のみひらかれた眼の隅へ走りすぎる蟻の一列
    刃物の両面で照らされては床の塵の類はざわざわしはじめる
    もし料理されるものが
    一個の便器であっても恐らく
    その物体は絶叫するだろう
    ただちに窓から太陽へ血をながすだろう
    いまその男をしずかに待ちうけるもの
    その男に欠けた
    過去を与えるもの
    台のうえにうごかぬ赤えいが置かれて在る
    斑のある大きなぬるぬるの背中
    尾は深く地階へまで垂れているようだ
    その向うは冬の雨の屋根ばかり
    その男はすばやく料理衣のうでをまくり
    赤えいの生身の腹へ刃物を突き入れる
    手応えがない
    殺戮において
    反応のないことは
    手がよごれないということは恐ろしいことなのだ
    だがその男は少しずつ力を入れて膜のような空間をひき裂いてゆく
    吐きだされるもののない暗い深度
    ときどき現われてはうすれてゆく星
    仕事が終わるとその男はかべから帽子をはずし
    戸口から出る
    今まで帽子でかくされた部分
    恐怖からまもられた釘の個所
    そこから充分な時の重さと円みをもった血がおもむろにながれだす

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