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  • 宝くじに当たった男

    第7章 浅田美代の正体 3

    「兄貴~~水臭いじゃないですか、どうして一声掛けてくれないですかあ」
    それはアキラが北海道までの旅の道中で面倒みてやった山崎恭介二十五歳だった。
    「おう恭介! 元気でやっているか、おお~なかなか板について来たじゃないか。
    そうだ美代さん紹介して置きますね。山崎恭介は板前の修業中です。それを松の木旅館に預けていたんですよ」
    そんな様子をみて美代はポカンとした。
    アキラを兄貴と呼ぶこの男は一体アキラさんの何なのだろうと、そんな知り合いが居るとは初耳だ。
    「ああ、美代さんにまだ言っていませんでしたか? この男は山崎恭介と言って松の木旅館で板前の見習いをしていて、旅の途中で拾って来たんです」
    白衣のまま立って話をしている恭介に女将の貞子は言った。
    「恭介くん、そんな所に立っていたら失礼でしょ。座ってお話しなさい」
    「あっすいません女将さん。つい兄貴いやアキラさんが帰って来たと聞いて慌てて飛んで来たんです。仕事が終わってからね兄貴」
    「まあ恭介くんたら、余程アキラさんが帰って来たのが嬉しいみたいね」
    女将は我が子を叱るように優しく恭介に注意したが、どうやら恭介は女将や主の寛一に気に入られているようだ。
    「まあまあ浅田さん遠い所、お疲れでしょうから少し休んでから、またゆっくりお話しましょう。先にお部屋にご案内しますね」
    「あっハイお世話になります。じゃアキラさんまた後でね」

    美代はアキラに微笑み、女将の後に続いた。
    部屋に残ったのは主の宮寛一とアキラの二人だけだ。
    「アキラさんも隅に置けないなあハッハハ、友人を連れて行くとは聞いて居たけど、女性だと一言も聞いていませんよ。しかも美人。それにしてもしっかりしたお嬢さんだ。アキラさんも人を見る目が高いねぇ」
    寛一はアキラの彼女と決め込んでいた。それも嬉しそうに。

    「宮さん茶化さないでくださいよ。でもこんなに歓迎してくれて美代さんもきっと喜んでくれると思います。ありがとう宮さん」
    「なにを言っているのアキラさん。私はね本当に嬉しいんだよ。弟と言っては失礼だが、家内も私もそう思ってるんですよ」
    「またまた宮さん。涙が出るような事を言わないで下さいよ」
    そこまで言われて、さすがのアキラも照れていた。
    「処でアキラさん。旅館経営計画の方はどうなっていますか?」
    「色々と周って来ましたが、旅館に必要な基礎的な事ですが、まず露天風呂ですか、飯坂温泉に良い所がありました。林の中に露天風呂があり自然と調和した感じが良かったですね。小鳥もさえずりも情緒がありましたね」

    「そうですか、うちの松の木旅館も露天風呂を考えなくてはいけないかな。何せ街の中だから露天風呂から眺める景色が隣のビルではねぇ」
    「いいえ素人の俺が言うのもなんですが、美代さんが言ってた外国人の斡旋を優先したらどうですか。外国人の人は共同風呂と言うのは慣れてないし、大半の人は室内風呂を利用すると考えられます。和室にもっと日本風の物を取り入れるとか、料理も外国人にも食べられる日本料理の工夫とか、浴衣も良いのですが、人に依っては抵抗もあるでしょう。ガウンとか何点か好きな物を選んで貰うとか」
    アキラは旅を続け、いろんな旅館で感じた事を外国人の立場に立って淡々と語った。
    宮寛一は「なるぼと」と何度も頷いた。
    「いやあアキラさん。色々と勉強していますねぇ流石ですよ」
    「とんでもないです素人がプロに向って偉そうに語って、ただ客の側から感じたままに言っただけです。外国人に関しては想像ですから」
     
    二人は熱く旅館の話をしている所へ、まもなく食事が出来るのでアキラに風呂に入ってからどうかと聞いてきた。アキラは大浴場に向かった。松の木の旅館の大浴場は二十人ほどが一度に入れる。このクラスの旅館にしては大きい方だった。
    夕食は美代と二人だけの食事となった。その美代の浴衣姿はなんとも女の色気を感じる。日本女性の見本のようだった。
    アキラは美代の浴衣姿に、ただただウットリするだけだった。

    「あら? なあにアキラさんジロジロ見て恥ずかしいわ」
    「あっいいえ、浴衣姿の美代さんが、あまりにも綺麗なもので」
    「まあ~~またお世辞ですかアキラさん」
    「いいえ、お世辞なんかじゃありませんよ。思った通りに言っただけです」
    そんなアキラの浴衣姿といったら、一番大きい浴衣を用意して貰ったのだがとても似合うと言う感じではなかった。特性で作って貰うしかないようだ。大抵の旅館ではMとLくらいしか用意していない。
    アキラのように百九十八センチともなると浴衣はおろか、蒲団でさえ足がはみ出てしまう。

    サービス業の割には特大サイズを用意していない旅館が多い。
    せめて蒲団、浴衣は四~五組用意して置けば足りると思うのだが。
    これは大きな外国人を対象にしていない事を意味する。
    熱海の繁盛期は日本のハワイをイメージした新しいタイプの温泉地だった。
    当時は新婚旅行候補一位となった熱海だが、今や古いタイプのリゾートは受け入れなれなくなった。そもそも熱海は外国人を対象にしていなかったのも経営圧迫に拍車をかけている。

    ともあれ、初めての旅館で一緒の食事。
    アキラに、おかわりのご飯を美代は、おひつから茶碗に入れてくれた。
    アキラは新婚さんの気分って、こんなものかなぁと至福の時間を堪能していた。
    それにしても優しく、そして上品なしぐさ本当に素晴らしい女性だと思った。こんな俺に夢ではないかと思う程に。
    「あの~~アキラさん」遠慮がちに美代が言う
    恍惚状態のアキラは美代に声を掛けられ我に返った。
    「あっハイ? なんでしょう」
    「とても大事な事で、本当は私……困っている事があるのです」
    美代は急に下を向いて、悲しげにアキラに助けを求めるように語る。
    「えっ美代さんが困っているのですか、その美代さん困らせる奴は誰ですか。場合によっては僕がそいつに言ってやりますよ」
    「本当ですか、本当に言ってくれるのですか?」
    「勿論です。美代さんの為なら命を掛けても守ってみせます」

    アキラは力強く美代にきっぱりと言った。
    本当の男として美代を守って見せる。胸を張って言ったのだった。
    しかしその相手とは、以外も以外アキラの一番、苦手な相手だった。
    「アキラさん……本当ですか? 間違いないですよね」
    美代がこんなに真剣に念を押して聞いてくる。どうして?
    「もっ勿論です。美代さんが困っているのに僕はほっておけないですよ。相手が例えヤクザだろうが」
    「それが……父なのです」
    「え~~~! おっお父さんですかあ?」
    確かに以外な相手だ。いくらアキラでも美代の父では相手が悪い。

    「そうなのです。実は父にお見合いを勧められて困っています」
    「え~~お見合いですかあ。美代さんのお見合いを止めて良いのですか」
    「アキラさん……じゃあ私がお見合いしても平気なの」
    それはそうだ。アキラしか止められない。この意味はアキラに分かるのか?
    つまりアキラが正式にプロポーズをするのを待っているのだ。
    アキラは、もはや確信へと変わった美代と結婚したい。
    「分かりました美代さん。僕は美代さんが好きです。美代さんさえ良ければ、こんな僕ですが僕と結婚して下さい」
    アキラは自分で言って体がカ~~と熱くなった。
    しかしもう言った以上は前に進むしかない。

    いつかはアキラから、そんな言葉を言ってくれるのかと、あれ以来ずっと待っていたが美代も、お見合い話が出て少し焦っていたのだ。
    「嬉しいわアキラさん。わたし本当にうれしいです」
    美代はそれっきり下を向いて、止めどもなく流れる涙をハンカチ押さえ嬉しさに肩を震わせて泣き続けた。二人は手を取り合って泣いた。
    アキラのゴリラのように怖い顔からガラに合わない涙が止めどもなく出る。
    子供が泣きじゃくった時のように。

    ―――アキラ! 良かったね。人生で一番、嬉しい日になっただろう
        宝くじに当った時よりも、言っちゃあ悪いがアキラには
        勿体無い過ぎるぞ、それも君の人柄だよ。この幸せ者ーーー

    づつく

  • 宝くじに当たった男

    第7章 浅田美代の正体 2

    今日の美代は普段見慣れない服装をしていた。
    なんと初めて見るジーパン姿だ。
    清楚なお嬢様から何処にでも居る若い女の子に変身していた。
    アキラは相変わらずラフな服装だが長身にピッタリと似合う。
    着こなしも、なかなかのものだった。
    後から見たら均整のとれた男らしく逞しく感じるのだ。ただ後からだが?
    車は湘南バイパスを左に海を見ながら走る。
    アキラは滅多に高速道路は使わない。
    ゆっくり走るとその地方の景色を楽しみたいらしい。
    車の窓を開けると潮風が心地良い。
    六月にしては晴れていて夏を思わせる日差しが強い。
    「アキラさん気持いいわ。やっぱり海は最高ですわね」
    「あっあっそうですね美代さん」

    ーーーうんうん本当に嬉しそうなアキラ。ドジをするなよーーー

    「ねえアキラさん旅館を選ぶとしたら、どんな場所と思っているのですか」
    「そりゃあ海が良いですよ。ただ僕の予算からして廃業した旅館物件を探さないと無理ですかね。ただ廃業した旅館を手入れしてオープンしても以前の悪いイメージが残っているし、折角オープンしても繁栄するのか難しいですよね。かと言って条件の良い場所に新築なんて言ったら規模にもよりますが五億円いや十億円でも駄目でしょうね」

    「まあ、そんなにですか。銀行の融資ではそれなりの担保と実績がないと難しいと思いますわ。私の勤めている銀行も査定が厳しくなりましたから」
    美代は別に落胆するような事を言うつもりはないが、現職の銀行員だ。
    ここでお世辞を言って期待を持たせるような事は返って酷と思ったからだ。
    可愛い美代ちゃんも、融資の話が出た途端に一人の銀行員になっていた。
    「そうですよ。簡単に旅館をやりたいと言っても問題は山ほどありますから でもまだ若いですから一つ一つクリアして行けば楽しいですよ」
    「私もそう思います。例えは良くないですがゲームだと思って難問をクリアして行けば……私もそのゲームに参加出来ますか?」

     ーーー「参加出来ますか」と来たもんだ。その意味するものはナニーーー

    そのアキラの驚きは後にして、車はやがて熱海市内に入った。
    熱海の海岸添えから繁華街に入って坂道を登ると松の木旅館が見えて来た。
    「わあ! 素敵な旅館ですね。落着いた感じで老舗てっ感じがしますわ」
    時々、浅田美代の語尾が上流階級の言葉に聞こえて来るが何故だろう?
    今のアキラは上品な言葉を使う女性だなとしか受け取っていなかった。
    しかし美代自身は幼い時から、そんな言葉使いだったので特別、上品な言葉だとも思っては居なかったのだが。いずれ浅田美代がどんな環境の家で育ったか明らかにされるだろう。

    「さあ美代さん着きましたよ。いま女将さんに挨拶に行ってきます。ちょっと待っていて下さい」
    そう言ってアキラは旅館の裏口の方に入って行った。
    アキラと一緒にオーナーの宮寛一と女将の貞子が笑顔で出て来た。
    「まあ遠い所をお疲れ様です。アキラさんには本当に世話になっているのですよ。さあさあ中に入って下さい」
    女将が美代ににこやかに話かけた。宮寛一も同じくニコニコと話かける。
    「どうもどうもお疲れさまです。どうぞどうぞ中へ入って下さい」
    やっぱり似た者夫婦、言う事が同じだ。

    松の木旅館のオーナーと女将は、浅田美代を心より歓迎してくれている。
    アキラも美代もそれは充分に感じとれた。
    「紹介します。こちらは浅田美代さん東京の方で親しくさせて貰ってます」
    「初めまして浅田美代です。凄い素敵な旅館ですね。山城さんからはこちらの皆様のことを色々伺っております。外国の方ならきっと、こちらの旅館なら日本の文化に触れられる気分になるでしょうね」

    「えっ外国人ですか?」
    女将とオーナーの宮寛一は何か感じるものがあった。
    挨拶の返事も忘れて女将と寛一は顔を見合わせた。
    アキラもそれは同じだ。一瞬、場が静まったことに、美代は何かいけない事を言ったのかと。
    「あの~~私……何か失礼なことを申し上げたのでしょうか?」
    寛一が慌てて否定した。
    「あっいいえ申し訳ありません。我々が考えもしなかった事をお聞きして、正直ハッとしました。いやあ参考になります」
    美代が挨拶に合わせて思ったままの事を言ったのだが。

    アキラも其処までは考えが及ばなかった。それを没頭でズバリと言って退けた。
    美代は、失礼なことでは無さそうだと安堵したが自分の言ったことに、三人は明らかに様子が変わったことは確かだが。
    美代は怪訝な顔でアキラを見る、それにアキラは応えた。
    「美代さんは今、凄いヒントを与えてくれたんだよ。それに宮さんと女将が気づいたと思うよ。ねえ女将さん」
    「ええ、アキラさんの言う通りです。いま熱海は昔のようにお客さんが来てくれません。特に若い方は古い旅館は余り足を向けてくれませんし浅田さんが外国の人ならと言われて正直ドキとしました。そんな事は考えもしなかったわ。なんとかして東京方面のお客に来てもらおうと、日本人を対象にしか考えていませんでした。私達のような日本旅館なら年配の方が喜んでくれるとばかり考えていましたのよ」

    女将は途中で話を止めて、美代とアキラにお茶を勧めニコリと微笑む。
    「あらあ? 私本当に失礼な事を申し上げたのかと思いました。私は素人ですから、どうしても客の側から見てしまいますので」
    そこにオーナーの寛一が口を挟んだ。
    「いや一番大事な事は、お客様が何を望んでいるかと言うことです。私達は外国人なんて滅多に泊まってくれませんし、来ても英語か苦手で対応仕切れないから来なくてもと思っていました」
    アキラはその話を聞いていて相槌を打った。
    「美代さんの言った事は俺にもいや僕にもなる程と思ったよ。そうだ宮さん、これからは旅行社に外国の斡旋を頼みましょうよ。それにホームページを作って外国の人にアピールしたら受けるよ」

    「ホームページですか……どうも私たち夫婦は、そちらは苦手です」
    「あのう私で良かったら作ってみましょうか、ただある程度の資料などが必要ですけど。それと英語が苦手でも英語が得意な学生さんならバイトで充分対応出来ると思いますわ」
    初対面だと言うのに、もう美代は話題の中心人物になっていた。
    宮夫妻も、初対面と言うのも忘れて外国人の受け入れに夢中になっていた。
    「それは有り難いです。あっいやいや初対面の方にいきなり失礼ですよね」
    「いいえ、私もそういう事が好きですからお役に立てれば構いませんわ」
    浅田美代はアキラの友達は勿論だが、宮夫妻に気に入れられたようだ。
    そんな、いきさつから意気投合した四人の話が盛り上がった所へ一人の板前が慌てたように部屋に入って来た。

    つづく

  • 巨人は怪我人だらけの野戦病院
    一時はヤクルトが野戦病院を文字ってヤ戦病院と言われたけど
    坂本、吉川尚、マシソン、そして長野も体調悪いのかな更に岡本
    最近売り出し中のヤングマンまで骨折とは。
    今日はうっぷん晴らしの16安打11得点、まさか今日は逆転されないだろう

  • 巨人は怪我人だらけの野戦病院
    一時はヤクルトが野戦病院を文字ってヤ戦病院と言われたけど
    坂本、吉川尚、マシソン、そして長野も体調悪いのかな更に岡本
    最近売り出し中のヤングマンまで骨折とは。
    今日はうっぷん晴らしの16安打11得点、まさか今日は逆転されないだろう。

  • >>No. 2251

    宝くじに当たった男

    第7章 浅田美代の正体 1

     アキラは久し振りに東京のマンションに戻った。
    東京に戻って一番先にすること……それは男、山城旭決まってます。
    さっそく旅館探しを始めるのか 偉い! 
    ところがドッコイ、最初に電話を掛けたのは美代ちゃんだった。
    まあ当然と言えば当然だ。将来の夢へ絶対に欠かせない人だから。
    「もしもし美代ちゃん……ぼっ僕です。只今帰ってきましたあ~~」
    「……もしもし失礼ですが、お掛けお間違えじゃありませんか」
    「え? あの~~~山城ですが。浅田美代さんではないですか」
    アキラは一瞬、番号を間違えたかと思った。
    しかし携帯電話の番号は間違いなく記憶されている。
    確かに美代ちゃんの声だったような?

    「ハイわたし、浅田美代ですが。あの山城さんって方は存じ上げません」
    「え~~僕ですよ。忘れたのですか?」
    「ハイ忘れました。勝手に一人で旅に出て行った人なんか知りませんわ。ですから山城アキラさんなんて方は存じ上げません」
    「あっいや、別にそんなつもりではゴメン怒らないで」
    「いいえ許しません。私より大事なことがあるんでしょう」
    「いや私の一番大事な人は美代さんです。本当です。怒らないで下さい」
    「じゃあ本当かどうか、食事をご馳走してくれたら考えるわ」

    なんと言う事はない、美代に少し意地悪されただけだった。
    その日の夕方、二人は池袋の東口サンシャイン通りにあるイタリアン系のレストランで待ち合わせした。パスタが美味いと評判の店だ。
    アキラが約束の六時三十分より十分ほど前に窓際に席を取った。
    アキラは確かに旅の間、あまり連絡していなかった。
    考えてみれば、旅に出て居る間は新しく出来た仲間と盛り上がり美代の事はそっちのけ状態になっていた。美代の冗談の中にも本音が潜んでいたことは間違いない。
    さてどうして機嫌をとるか考えていた。

    そして数分して、益々清楚な服装が良く似合う美代が現れた
    「お久し振りアキラさん」
    電話の対応とはまったく違う態度だった。
    思わずアキラは立ち上がって美代の為に椅子を引いてくれた。
    うん? アキラもなかなか女性に対するのマナーも覚えて来たようだ。
    アキラが立ち上がると周りの人は、つい見てしまう。
    天井に頭がぶつかるのじゃないかと思うほどの長身は人の目を引く。
    周りの客達には、アキラ姿がまるで大富豪の令嬢専用ボディガードのように映った。確かにアキラの方は野獣的でボディガードには向いている。
    アキラの風貌をみたら誰も寄ってこない。ただ一見では怖い感じだ。
    しかし外見とは別に中身は素晴らしい好青年であるが他人は知る由もない。

    「ご無沙汰しました美代さん。本当にごめんなさい」
    「うっふふ冗談ですわ。アキラさんどんな顔するか見たかったのよ」
    「良かったぁ機嫌直してくれなかったら、どうしょうかと思いましたよ」
    「でも旅は良いとしても、ちっとも電話くれないですもの」
    「すいません。つい色々とありまして、でも沢山の収穫がありました」
    「その収穫って? アキラさん私には相談してくれないんですもの。聞いたわ。アキラさんの夢を真田さんから。私は聞いてないし淋しかったわ」
    「いや考えたんですけど、美代さんとのデートにそんな話が似合わないと思って、つい言いそびれてしまいました」
    「そんな妙なとこに気を使わないで下さい。恋人同士だったら相手の事をなんでも知りたいものでしょう。だから少し淋しく思ったの」

    アキラは頭の中を蹴られたような衝撃を感じた。
    なんでも話せる相談する。それが恋人と言うものなのか。
    女性との付き合いのないアキラは改めて女心を知った。
    ただ労わるだけじゃなく、自分の心を伝えてこそ本当の愛なのだ。
    やはり美代は素晴らしい人だ。
    「ごめん。これからは何でも相談するよ」
    「ハイその方が嬉しいです。早速ですけどアキラさん旅館をやってみたいのでょ。私も凄く興味があるわ。女性にしか出来ない事もあるでしょ」

    美代が初めて旅館に興味を抱いた。アキラもまさか美代そう思っていてくれるとは想像もして居なかっただけに嬉しかった。
    これでは将来、美代は女将さんになってくれるのかなと、ふっと思った。
    「あら何を考えていらしゃるの? 嬉しそうな顔をしているわ」
    「あっ、いいえ何も」とは言ったが綺麗な瞳に見つめられドキッとする。
    今、思った事を見抜かれたのかとアキラは苦笑いした。

    「美代さん。僕の旅も無駄じゃなかったような気がします。その旅でね、熱海で旅館を経営している人と知り合って、懇意にして貰っているんですよ。以前話した、その旅館は松の木旅館と言うのですが、そこの主人と親しくなりまして今ではその家族と旅館の従業員の人達も親しく付合いさせて貰い暫く旅館の手伝いをしていたんです。今度一緒に行って見ませんか」
    「もうアキラさん。その話は何度も聞きましたわよ。でもちっとも紹介して下さらないから行きそびれたでしょ。でも優しいから誰にでも好かれし人徳ですよねアキニさんは」
    「あれ~~そうでしたっけ? 今度は間違いなく紹介しますから」
    ―――アキラぁボケたかあーーー
     
    でも優しいと言った。たが知らない人はアキラの優しさを知らない。
    優しさを知るまでは、その怖い外見をクリアしないと誰も分からない。
    「えっ? 優しいんですか俺が、いや僕が」
    「ええ、とっても優しいわよ」
    「それは誉め過ぎですよ。あの~都合が良い時で結構ですけど」
    「熱海ですか、熱海は行った事はありませんが西伊豆なら何度も行っていますわ。アキラさんの都合は? 私は来週の土曜日なら宜しいですよ」
    「本当ですか。あっあの旅館の人達に紹介するだけですからハッハハ」
    アキラは思わず照れ笑いをした。
    二人で温泉に行こうなんて言えば誤解を招きかねない。

    その辺は美代も心得ていた。アキラなら紳士だと信じているからと。
    「でも私なんか行って、ご迷惑をかけないかしら」
    「とんでもないですよ。みんな歓迎してくれますよ」
    「ハイじゃあ楽しみにしていますわ。その松の木旅館さんでアキラさん評判を聞くのも楽しみだわ。ふふっ」
    「美代さん意地悪だなあ、でも少なくても子供には好かれていると思いますよ」
    「子供さんって? その旅館のお子さんですか」
    「ええ子供と言っても中学生で男の子と女の子なのですが、とても可愛いんですよ。そうだお土産を忘れないようにしないと、どんなの買って行こうかな」
    「あら子供さんのお土産? アキラさん今から一緒に買いに行きません」
    二人は食事を終えて、お土産を買うにデパートに繰り出した。
    その二人のうしろ姿は幸せに満ちていた。
    日曜日の朝、アキラの愛車ランドクルーザーに美代を乗せて熱海に出発した。

    つづく

  • >>No. 2250

    宝くじに当たった男

    第6章  能登編 終

     彼ら釣り人達は明朝も釣りに行くと言う。アキラは毎日釣り三昧と言う訳にも行かず、今夜の宴会と言っても船宿ではイマイチ盛り上がらない。
    そこでアキラは近くのスナックでカラオケに行こうと誘い出した。
    前日からの付き合いで、意気投合した釣り仲間達は嫌と言う訳がない
    アキラを含めて六人は船宿からほど近いスナック「ビーナス」へ出向いた。
    夜の七時を過ぎていたが、スナックビーナスには客が居なかった。
    「いらぁしぁいま~~せぇ」と店のママがビーナスを思わせる美声で出迎えた。
    少し薄暗い店内から厚化粧で美人かそれとも、それなりか?
    やはり男にとってどうせ飲みに行くなら、美人がいいに決まっている。
    美人だから美人でないからと、飲み代の料金は変わらない筈なのだが。
    海の好きなものは女も好きだ。いや男なら誰でもだが。
    海の男達には遠洋に出ると半年以上も海の上で暮らし其処にあるのは大海原と太陽のみ、船の中は男の世界と仕事だけ。それだけに陸にあがった時の喜びはひとしおだろう。
    独身の男なら、それは陸でホステスなどに囲まれて飲む酒は旨いだろう。
    とまぁ、その海の男とはまったく違うが、釣り好きな男たちだ。
    ビーナスにはママともう一人の女性がいた。
    なにせ薄暗くて厚化粧だ。美人なのか年増なのかさえ分からない。

    やがてカラオケを宏が唄い始めていた。続いて繁さんの番だ。
    そこで隣にマイクを持ってママが一緒に唄い始めた。
    その甘い声は男心をそそる、スポットライトを浴びたビーナスその甘い声からさぞかし、と思いきや甘い声とは裏腹にかなり年配のママで、その化粧は外壁のような厚さで覆われていた。どこまでが本人の顔なのか見分けがつかない程だった。
    京都の舞妓さんならまだ分かるが、その外見から判断しても、はや七十歳過ぎていると思われそうで、途端にカラオケで盛り上がったのに愕然とする。
    ♪しらけ鳥~~~南の空へ~~~そんな古い歌を思い出すほどだ。
    しかし若いアキラ達と違って繁さん達はそれでも盛り上がった。
    そのビーナスで盛り上がり釣り宿に戻ったのは夜の十時だった。
    前田秀樹はアキラのことが気にいったらしい。
    どうせ自分も暇な身だとアキラに一緒に旅に連れて行ってくれと頼んだ。
    しかし今までのアキラの旅はいつも危険と隣り合わせ。そう簡単にOKは出せない。
    喧嘩好きならともかく、そうにも見えない。
    あの山崎恭介とは訳が違う。彼は不幸のどん底だったから助けた。
    それに男同士で旅をしても面白くない、とあのヤクザの妻、松野由紀を思い出した。浜松から四国までの珍道中が懐かしい。
    まぁそんな事言ったら、浅田美代に嫌われてしまうが。
    翌日朝早く、前田惣五郎達と別れてアキラも早朝に前田秀樹を乗せて能登半島の和倉温泉へと向かった。

    富山湾を右手に見て国道八号線を走る。
    まだ夜明け前の国道は車もまばらで気持ち良い快適なドライブだ。
    秀樹はアキラに東京の事を聞いて来た。
    「山城さんは東京生まれで東京育ちですよね。いいなぁ」
    「東京生まれがそんなにいいかい? 俺はなんにも良いことないよ。前田さんのように温泉があり海があって、こっちが羨ましいよ」
    隣の芝生は青いと云うが、まぁそんな物かも知れない。
    人間は自分ない物が他人には良く見えるのだ。
    無い物ねだりと言うのか、この欲望が無かったら人は無気力で物を作ろうとかしなかっただろう。
    それは良い事ばかりではないが、人の物が欲しくなると力で奪いたくなる。
    動物だって野生は逆肉強食だ。人間も所詮は野生動物かも知れない。
    詐欺、強盗、殺人やがては戦争だ。地球に生命が誕生してからこの繰り返しだ。それでも辛うじて理性が優先しているから人類は発展した。
    人間が人間の為の法律を作ったが、法律を守れれば平和な筈なのだが。
    またまた話は逸れたが、アキラの理論から言わせれば多少の揉め事はストレスの解消になると思っている節があるのだ。
    なんたって、アキラは野生的なゴリラそのものだからか。
    しかし、アキラは強いが大いなる夢と優しさも秘めていた。
    そして人を退屈させない何かを持っている。それがアキラの魅力だ。
    アキラは前田秀樹を乗せて一路、八尾市から和倉温泉をめざして走っていた。
    秀樹が言う自慢の露天風呂にアキラは興味を寄せていた。
    今はやはり小さな旅館をやるにしても露天風呂は絶対条件だ。

    「山城さんは将来、旅館を経営するんですか?」
    「経営なんてカッコいいもんじゃないけど夢はあるんだが、それでいろんな温泉宿いや温泉とは限らないが和風旅館をやってみたいんだ」
    その旅館に着いたアキラは、秀樹の経営する両親に紹介され早速その露天風呂に入った。流石は自慢するだけあって素晴らしい。
    なんと目の前が海だ。水平線が見える。夕暮れとあって太陽が水平線に吸い込まれて行く。アキラは思わず叫んだ「凄い最高だあ」
    日本海なら夕日、太平洋なら朝日、太陽と露天風呂? アキラは閃いた。
    「露天風呂に太陽かぁ、これだな」思わず呟く。
    アキラの旅は終わった。なんとなく旅館の構想が見えてきた
    果たして夢で終わるか、夢が花開くかは全てアキラの次第なのだ。
    「秀樹さん本当に良いものを見せて貰った。また更に旅館へ興味が増して来たよ。短い間に沢山の友人も出来たし今回は本当に良い旅になりましたよ。旅館経営の夢が覚めないうちに一旦東京に帰ろうかと思っています」
    「え~もう帰るのかね。せっかく知り合えたのに。じゃ何時の日か訊ねて行ってもいいですか。おまえ誰だ? なんて言わないで下さいよ」
    「そんな事する訳ないでしょう。僕は知り合った人を大事にするのが流儀です。だからいつでも来て下さいよ」
    翌日の早朝、またあの釣り宿に寄った。繁さん達が釣りに行くというのでアキラもそれに合わせて向った。
    時間ギリギリだが間に合った。みんな釣り道具を乗せて出航する寸前だった。
    「あれ山城さんじゃないですか。一緒に釣りに行くのかい」
    「いいえ、東京に帰るので皆さんにお別れの挨拶しょうと思ってね」
    「そうかい朝早いのに義理堅い人だ。淋しくなるが山城さんの夢を応援しますからね」
    「まだ先の話ですが、もし旅館を開く事になったら、いい魚を提供して下さいよ」
    「勿論だ。本当にアンタの夢が実現する事を祈ってるよ」
    アキラの釣り仲間と再会を約束し、能登を旅立ったアキラだった。


    第6章  能登編  終

  • 宝くじに当たった男

    第6章  能登編  4

    そして記念すべき人生初めての釣り揚げた魚はクロダイだ。
    網に入れて舟に引き上げたクロダイはピンピンと勢い良く弾む。
    あの悪夢の船酔いから一転して、大黒様にでもなったような気分だ。
    アキラは貴重な体験をする事が出来た喜びで又ひとつ楽しみが増えた。
    再び船宿に戻って来たアキラと釣り仲間達。
    早速アキラが釣った記念すべき第一号を魚拓にしてプレゼントされた。
    それから刺身にして宿の方で出してくれた。
    なんと言っても自分で釣った魚だ。不味い筈がない。
    とっ盛り上がった所で誰かが言った。
    「そう言えば、兄さんの名前聞いてなかったなぁ、もっともこっちも釣りや、なんやかんやで自己紹介もしてないがな」
    「おうそうそう俺は佐伯繁って言うんだ。昨夜は世話になったが元々は漁師でな、今は長男に任せて小さいけど魚屋もやっている。俺のとこの魚は新鮮で評判は最高だ。兄さんならいつでも分けてやるぜ」
    「俺は前田総五郎で釣り暦三十年だ。宜しく」
    「俺は亀田孝之アンタの仲裁で繁さんとも、わだかまりなくて助かったよ」
    「俺は前田宏で惣五郎とはいとこだ。宜しく」
    「俺は前田秀樹だが、同じ前田でも親戚ないが幼馴染です」
    次々と自己紹介されてはアキラも挨拶しない訳に行かない。
    「これは皆さん。ご丁寧に今日は思わぬ体験が出来てありがとう御座います。生まれは東京で山城旭です。今は訳があって仕事していませんが車での一人旅の途中です。こうして皆さんと出会えて又これからも、このような出会いと沢山の旅館を見て勉強中の旅です」
    旅館の勉強と聞いて前田惣五郎はアキラに聞いた。
    「ほう山城さんは、旅館の若旦那か何かで修行中と言う事ですか?」
    「いや別にそんな大層な身分じゃ有りませんよ。ちょっと知り合いが熱海で旅館をしていて、今そこで時々手伝いをしています。もし出来るなら旅館業が出来るならと思っての勉強中ですがね」

    「それは、お若いのに大きな夢を持っていて羨ましいですなぁ」
    「いやいや夢だけは持っていますが資金も全く足りまん。ただ僕に色々と面倒見てくれる人の援護が受けられればの話ですが」
    「それなら山城さん、旅館には新鮮な魚が絶対条件だ。あんたが新鮮な魚が欲しいと言ったら、いつでも送ってやるぜ。市場より安く新鮮な奴を」
    「へえ~そりゃあ有り難いな。その時は是非ともお願いしますよ」
    互いに儀礼的な会話だったが、これが後に現実となるのだった。
    アキラは援護と言ったが、確約が取れるかどうかも夢の中だ。
    でも頭に浮かぶのは西部警備の社長 相田剛志や松の木旅館の宮寛一、真田小次郎など普段深く交流している人達のことであった。
    アキラの旅は無駄の連続のように思えたが、しかしその出会いの芽は着実にアキラの人柄に惚れ、近い将来に多大な力となって行くのだった。
    アキラの旅館経営の夢は絶対成功出来ると言うシナリオでなければならない。
    そして銀行から融資して貰うにも、融資して貰える資料を揃えなければならない。
    その時に西部警備の社長、相田剛志に保証人として後ろ盾になって貰わなければならない。だが保証人に心配させられない。ましや経営失敗なんて絶対に赦されない一発勝負なのだ。
    勿論、その経営計画の資料を見せて相田社長や真田小次郎に太鼓判を押して貰えるだけの物でなければならない。
    相田社長とて、いくらアキラに目を掛けてやっても金をドブに捨てるような保証人にはならないだろう。それが今日まで警備会社を一流企業までのし上げた経営者の目だろう。

    佐伯繁が言った「秀樹の親父さんは和倉温泉で旅館やってるんだよなぁ」
    「旅館やっていると言っても俺は次男だし兄貴が後を継ぐから」
    「でもよう親父さんももう年だし、秀樹の兄貴は身体が弱いから継ぐの難しいじゃないか」
    控えめな秀樹に前田宏が言った。
    「まあその時は兄貴を助けてやればいいんじゃないか」
    「ほう秀樹さん所は旅館やっているんですか一度泊まらせて貰おうかな」
    「あっ是非とも泊まって行って下さい。海が目の前で眺めはいいですよ」
    「和倉温泉って言うと、どの辺になるのかなぁ能登半島」
    「ええ能登の七尾市の和倉ですが、露天風呂もありますよ」
    「露天風呂かぁ、海が見えて露天風呂かなぁ」
    「そうです。旅館は小さくて古いけど風呂と眺めと魚が自慢ですから」
    「いや俺には有り難いことで、その露天風呂に是非入ってみたいですよ」

    つづく

  • 高校野球のタイブレークは必要か。
    好試合に水を差すようなタイブレーク
    ノーアウトランナー1塁、2塁から始める。
    しかも延長13回からだから疲れ切っている投手には地獄

    タイブレークを導入しないといつまでも続くし
    だからと言って無理やり決着付けさせるのも酷なこと。

  • >>No. 16676

    お盆ですね。皆さんはお出かけですか。
    私は家に閉じこもり昼は高校野球、夜はプロ野球と野球三昧

    田口に代わり今井投手は救世主か?
    一年以上もマツダ球場で勝てなかった。
    それは菅野も山口もメルセデスも止められなかった。それを今井が止めた。
    前回登板では中日に完封勝ち、その前は広島に勝って居る。
    気が付けば8月の防御率0.86と安定。広島キラーとなれるか。

  • 今年の巨人は、いや今年もABクラス争っているようでは駄目。
    もはや広島を止められるチームは居ない。
    巨人は今年と来年は若手育成期間として戦うしかない。

    三年後の主役は坂本を先頭に岡本、吉川尚、重信、大城、田中俊
    ベテランの亀井、長野は代打専門、阿部はコーチか監督。
    投手陣では菅野、山口俊、今井、ヤングマン、メルセデス、アメダス
    今年は故障でダメだったけど畠に期待しましょう。

  • 今村投手、前回中日に完封勝ちしたのはフロックじゃなかった
    菅野のも山口もメルセデスも止められなかった連敗記録を止められそうだ。
    今日勝てなかったら今年はマツダでは来年までひきずる所だった。

    今村は田口に代わりこれからはローテ入り間違いなし。

  • >>No. 2248

    宝くじに当たった男

    第6章  能登編  3

     玄関の入り口には旅館の主人やら板前、他の泊まり客七~八名が何事かと、その喧嘩した相手や仲間達、アキラを含めた六人を遠巻きに心配そうに見ていた。アキラは旅館の主人に言った。
    「なぁに心配しないで下さい。すぐ仲直りさせますから」と囁いた。
    釣り宿とあって玄関を出れば目の前が海だ。小さな釣り舟が並べられている。
    ちょうど良くその隣には空地があった。アキラがまたまた言った。
    だんだんとアキラのペースになって来た。もっとも楽しんでいるのはアキラだけだが。
    「おい、この空地なら迷惑にならないなぁ、どうだ。此処で」
    なにか力士が土俵に上がるのを楽しむかのようにアキラは案内した。
    どうぞ、どうぞとばかりアキラは手を空地に向けてニコニコしている。
    刃物を持って眼が血走った男が、横綱の土表入りでもするかのようにアキラの前を横切ろうとした。
    その時だった。アキラはニコニコ顔から一転、野獣の目になるやいなや、刃物を持った男の手の甲を手刀で思いっきり下に叩きつけた。
    その刃物が地面に落ちた次の瞬間、アキラは足で刃物を遠くに蹴り飛ばした。

    「な! 何をしやがる」
    と驚いた男は怒鳴った。
    「なんだと! 喧嘩に刃物だぁ? どう言う神経してんだぁ~」
    逆にアキラが怒鳴った。
    その男も体格がいい。見たところ身長百八十の体重九十キロ近い巨漢だ。
    普通なら相手は度肝を抜かれたかも知れないが、しかし上には上が居るものでアキラは百九十八センチ、百五キロもある。その釣り仲間達が唖然として見ていた。
    「あんたは釣りに来たんじゃないのか? それも仲間と。なのになんで刃物まで出さなきゃあならないのか、俺には分からんがねぇ」
    刃物を失っても体力には自信があった男だが、目の前に現れた百九十八センチの大男。百キロを超えるゴリラの化身のような大男に一括されて男は怯んだ。
    「繁さん……酒の上の事じゃないか、もういいだろうが」
    他の三人の仲間が遠慮気味に、その繁さんなる男に声を掛けた。
    酔いが冷めて来たのかアキラに水を刺された事も幸いしてか、やっと大人しくなった。喧嘩相手や仲間にペコリと頭を下げたのだった。
    しかし、そう簡単に収まったのじゃアキラが困るのだ。
    いや、それは分からないが次のアキラの行動は奇怪な動きをみせた。
    なんとその繁さんなる男を、いきなりアキラは引っ叩いてしまった。
    パシッと頬を張った。その乾いた音が響く。
    やっと収まったと思ったのにアキラ一体どうしたのだ?
    「なっ何をするんだ!」
    いきなり叩かれて繁さんなる男が怒鳴った。
    他の仲間や喧嘩相手の男も、アキラをポカンと口を開けて見守った。
    「何をするんだ、だと! アンタはが刃物を振り回した責任が残っているだろうが! 物の弾みで殺しましたでは遅いんだよ。たとえなぁ、冗談のつもりでも刃物を向けられた相手は必死だ。殺さなければ殺されると思えば相手も必死で余裕がないんだ。ハイ私が悪う御座いましたでチョンという訳に行かないんだよ。それと相手の気持ちはどうなるんだ。俺が収めたからきれいさっぱり忘れられるだろうか。このままじゃシコリが残ってしまうだろうが」
    アキラはこう言う時の理屈が凄い。また言い分にも非はない。
    頭に血が昇った連中は精神安定の注射を打たれたような気分になる。

    しかしアキラの話は尚つづく、しつこく本当にしつこい。
    傍から見ればおかしな光景だ。説教するのは二十代の若者で、説教されているのは中年のおじさん達なのだから。
    「万が一だ。ちょっとでも怪我でもさせようものならアンタ、刃物で相手を傷つければ傷害罪ヘタすれば殺人未遂事件だ。それだけじゃないアンタの仲間とはもう修復出来ない溝が出来るんだ。オマケに奥さんや子供、親族から信頼を失う。そうなったらアンタの人生は、お先真っ暗だぜ。だから俺が目を覚ましてやったんだ。分かるかぁアァ~~~」
    と、まあ延々とアキラの説教が続くが、なにせ言っている事が、見事に当て嵌まっている。誰一人として不服を言い出す持つ者がいない。

     繁さんなる男はアキラに、見事に自分の愚かさを指摘されて下を向いたまま腕を震わせて身体がワナワナの震えているではないか。
    突然その繁さんが喧嘩相手と釣仲間の前に土下座した。
    「すっすまん。この人の言う通りだ。亀さん俺が悪かった許してくれ。決してアンタを刺すとかなんて気持ちがないんだ。つい勢いで刃物を出しなんて本当申し訳ない。皆も許してくれ」
    そんな姿を見て、亀さんと言われた男が繁さんの前に座って言った。
    「繁さん、もういいよ。顔を上げてくれ。俺だって悪いんだから」

    それを見た他の釣り仲間が二人を労わってやった。
    その釣り仲間が誰となく言った。
    「いやあ中途半端な仲裁だと後々にシコリが残って気まずいが兄さんが見事な仲裁を入れてくれたんだ。だから繁さんも亀さんも後腐れなく仲直り出来るんじゃないか、なぁみんな」
    (おう~久々に見事なアキラの大岡裁きではないか)

    それからと言うもの、いつものお決まりコースになるのは自然の法則?
    その釣り宿の夜は飲めや歌えの大宴会と相成った。
    釣りと言えば朝が早いのが当たり前だ。
    なんと言っても今回の事件の功労者アキラをほって置く訳がない。
    釣り人は釣りの心得が備わっていて酒を身体に残さないのが鉄則だ。

    翌朝になって昨日の釣り人にアキラは誘われた。お礼に釣りの楽しさを教えるという。なんとまぁ、アキラが釣り舟に乗る事になったのだ。
    釣りなんてアキラは、このかた一度もやったことがない。
    子供の頃、両親に連れられて縁日の金魚すくいぐらいのものだった。
    釣り宿の主人が勿論この舟の船長だ。昨日の釣り仲間五人はアキラにお礼にと、釣りに借り出されるとは夢にも思わなかった。
     お礼は有り難いのだが、アキラの嫌な予感が的中したのは沖に出てまもなくの事だった。それは経験した事のない恐ろしいものだった。
    桃太郎ではないが舟はドンブラコ、ドンブラコと上に下に横へと揺れる。
    アキラにして見ればもう天と地が逆さまになったような気分だ。
    まもななくアキラはオェ~~と吐き出した。
    アキラは釣りどころか、地獄の底に居るような気分だ。
    苦しみながらアキラは考えた。
    お礼と言いながら、あの繁さんは、やたらに釣りに誘ったが、あれはお礼の名の元に酔うのを知っていての仕返しではないかとアキラは思ったが証拠は何もない。

    その復讐男? 繁さんがアキラの側に依って来た。
    あぁ~なんと言うことか。みんなに逆恨みされて海に放り込まれていたら流石のアキラも一貫の終わりだ。もはやアキラの運命もこれまでか。
    そこまで考えたかは定かではないが繁さんが言った。
    「いゃあ兄さん申し訳ない。俺達は釣りに馴れしているので誘ったがどうやら船酔いさせてしまったらしい。いゃあ~すまない本当は酔う波ではないんだがねぇ、この薬と一緒に飲んで見てくれよ。ひょっとしたら気分が良くなるかも知れないからさ」
    そう言って、なにやら妙に濁った酒を飲ませてくれた。
    それと黒い飴玉のような薬をくれた。毒??
    アキラはまさかと思ったが人間そこまで悪くないと信じて飲んだ。
    アキラも酒は強い方だが なんと飲んだ瞬間に頭から突き抜けるような強烈に強い酒だった。やっぱりアキラは嵌められたかと思ったが飴玉のような薬も飲んだ。
    なんとなんとアキラは、今にでも死ぬのではないかと言うほど船酔いしていたが、またたくまに目が輝きだしたではないか

    その舟の揺れは地獄のような苦しみだったのに、今は回転木馬に乗っているような気分だった。しっかり元気を取り戻したアキラは生まれて初めて体験する海釣りをする事になった。
    繁さんはじめ皆が餌をつけてくれ何から何まで教えてくれた。
    そして嬉しい体験をする事になった。急に竿が重くなった。
    竿が海に引き込まれてそうだ慌ててアキラはリールを巻くなんと言っても初めてだ。この引きはなんだ? なんとも言えない手に伝わる。その引きは今までにない感動を覚えた。一緒に舟に乗った仲間達が手取り足取り教えてくれる。

    つづく

  • 宝くじに当たった男

    第6章  能登編  2

     翌日の早朝、アキラは関越自動車道を走っていた。
    今回は高速と気が向いたら一般道を走るもりだ。夕刻までには宿を取りたいので午後四時には日本海を走っていた。
    枕崎を過ぎて糸魚川市に入って来た。JR線が海側を走っている。
    その糸魚川の先に青海町がある。そこには変った地名があった。
    親不知、子不知(親知らず、子知らず)と読むらしい。
    その親不知の海岸を通り過ぎて時間を見たら もう旅館の予約を取らないと夕食にあり付けなくなると適当な駐車場を見つけて停車した。
    こんな時になって、浅田美代の顔を思い浮かべて有難いと思った。
    幸いバーガーショップでネット回線が繋がるようだ。
    さっそくノートパソコンを取り出してネットに繋いで、適当な旅館を調べて携帯電話で予約を取る事が出来た。場所は富山県の魚津市付近。特に宿の質に拘る事もない。予約した旅館は海の側の民宿旅館らしい。

     富山湾には、もう日が落ちかけて海面が夕日で赤くそして黒く染まりつつある。その民宿は海が目の前にあった。民宿の玄関は一般の家庭のようなそんな感じで、宿主は元漁師が経営していると言った雰囲気だ。年は五十後半と言った処か、いかにも漁師を思わせる感じの男が応対した。
    「お疲れさんです。え~と予約のお客さんですか」と尋ねた。
    「ハイ、先ほど電話を入れた山城と言う者だけど」
    「あぁ、それはどうもお疲れさんです。どうぞ二階の方に部屋を準備させて頂きます。お客さんは釣り客? じゃなさそうですね」
    どうやら此処は釣り宿のようだ。多分民宿で用意した釣舟で富山湾に朝早く出るのではないかとアキラは思った。
    「いや生憎ですが、車で旅を続けている者なんです」
    「あっそれは失礼、ウチは釣に来る人が殆んどなものでねぇ、お客さん東京から? それにして大きな方ですなぁ、いやいや余計なことを失礼しました」
    その大きいは、もうアキラは耳にタコが出来る程聞いた言葉だ。
    初めて会った人からは挨拶代わりに言われる。
    勿論、逆に背の低い人なら「小さい方ですねぇ」とは言わない。
    アキラも分かっている。誉め言葉と受け止めて置こうと。
    小学生六年生の時には百七十五センチの身長があった。
    母も百七十センチの長身だ。その血が受け継がれている。
    小学生の頃から大きいと呼ばれて来ているのから慣れっこだった。

    案内された部屋は、なんと六畳とかなり狭かったが仕方がない。
    ある程度は予想していた事だ。一泊二食付きで五千円だ。
    アキラが板橋で借りていたアパートと殆んど変わらないが外には海が見えるだけマシと言うものだ。
    船宿には泊まった事はないが食事は海の幸を豪勢に出してくれるので安いくらいかも知れない。
    両隣の部屋からは、釣仲間達だろうか釣談義が聞こえてくる。
    アキラは多少うるさく感じたが盛り上がっている所へ水を射すつもりはない。
    ところが盛り上がり過ぎたのか罵声が聞こえて来た。
    どうやら数人で酒を飲みながら釣の自慢大会となったのか?
    酒の勢いか? 勢い余って口論なのか何やらドスンドスン、バシッっと厳しい罵声と一緒にアキラの部屋まで振動が伝わって来た。
    こう言う時のアキラは敏感だ(ほう~始まったな)とニヤリと微笑んだ。
    どうやらアキラが現れると何か騒動が起きる。またまたアキラの大岡越前なみの裁きが今回も始まるのか。 
    持って生まれた巡り合わせと言うのかアキラの運命かアキラの人生に欠かせない揉め事騒動は、大好きな御馳走なのである。
    その御馳走が? 今アキラの据膳にどうぞ、とばかり出されようとしていた。
    いよいよ激しくなって更にアキラの部屋に音と振動が響き罵声が凄くなった。
    アキラも折角のご馳走だ。主役は出番のタイミングが重要だ。
    ここぞっと、ばかりアキラの登場と相成った。
    もう毎度馴染みのパターンである。

    アキラは隣の部屋をノックすると同時に、その襖を開けた。
    その部屋には五人が居た。みんな釣り仲間なのだろうか。
    なんと喧嘩をしている二人のうち一人は刃物を持って殺気が漲っていた。
    他の三人はなんとか止めようとしているが、刃物を持っていて近づけない。
    一方の喧嘩相手は、刃物まで持ち出しとは思わなかったのかオロオロと相手の出方を伺っている所だった。
    その三人は部屋に大男が入ってきて少し驚いて『なんとかしてくれ』とアキラを見る。その眼が刃物を持っている男の方へ視線を送った。
    アキラはあの時の事が頭に過ぎった。それは銀行の警備員をしている時の事だった。
    あの時は、アキラは動揺して醜態を晒したが今回は違う。経験を積んだから?
    何よりも経験は人を成長させる。それにその失敗を繰り返さない為に空手道場に通って、護身術やら刃物を持った相手対処する方法も習っていた。
    だからと言って絶対的な自信を持って居る訳ではないが取り敢えず以前に比べれば余裕があった。そう失敗経験者である。
    「オイオイ! 刃物を持つとは穏やかじゃないなぁ、それに旅館や他の客に迷惑なるじゃないの、外でやったらどうだ」
    なんとアキラは止めろとは言わなかった。それとも止められたら困るのか。
    「なっなんだ。オメィは勝手に人の部屋に入ってゴチャゴチャと」
    その刃物を持った男は完全に理性を無くしているのか威勢よく吠えた。
    「ほう、そりゃあ悪かったなぁ。でもよ、あっちこっち壊したら後で弁償が大変だぜ。それに営業妨害となれば百万はくだらないなぁ、いや待てよ、死人でも出れば、もう商売は出来ないから五千万いや億単位の弁償かもなぁ、いや刃物で相手を刺したとあっては傷害罪、軽くて一年、重症また死んだら三十年は務所暮らしかもな」
    それを聞いた男はギョッとなった。務所暮らしとか弁償代が五千万とか億と聞いて、気になったらしい。
    「よ~~し外でカタを付けてやる来い」
    喧嘩相手に威勢よく呼びかけた。渋々相手の男や他の仲間も外に出た。

    つづく

  • 巨人引き分けに持ち込んだのがやっと。
    野球になってない試合ばかり。
    誰が広島を止められるか誰も居ない(笑)

  • >>No. 16672

    >杉内選手は
    >「巨人ブランド」ですよ。

    杉内は巨人ごく潰し選手です(笑)
    もう三年も無駄飯喰っていては困ります。

  • おはようございます!

    お盆休みに入り帰省に旅行に正月に続き民族大移動といったところですか。
    えっ? こういうとはジッと我慢して動きません。
    民族大移動が収まった頃、のそのそと出かけたいものです。

    暑い夏にちょっと涼しい風景を。

  • >>No. 2245

    宝くじに当たった男

    これまでのあらすじ

    山城旭(やましろ あきら)26歳
    身長198センチ 体重98センチ (105キロ)
    巨漢であり見た目は少し怖い、しかし温厚な性格。
    ただ怒ると性格は一変しゴリラのように変貌する。

    大手企業で働いていたがリストラにあって無職になる。
    仕事もなく暇を持て余し競艇場に行くが舟券の買い方も知らない。
    運試し3枚を購入も果たして当たったのかも分からず傍に居たおじさんに聞く
    そのおじさん眞田小次郎(占い師)と知り合い意気投合。生涯の友にとなる。
    もしかしたらまだ運があるのかも知れないと儲けた金でジャンボ宝くじを購入、なんとこれが3億円が当たった。その金で親孝行しようとお袋に大金を渡したが悪い事をして得た金と誤解され、親にまで信用されないとキレてしまい、せっかく勤めていた警備会社も辞め自分探しの旅に出る。

    その警備会社に勤めていた時に拾ってくれたのが相田社長。
    いずれ何かと面倒くれる不思議な人物。その警備会社に勤めていた時に銀行強盗と遭遇、その時に体を張って助けたのが、のちの恋人、浅田美代。
    旅に出たのは良いが途中怪しげな女とと知り合い珍道中が始まる。その女を狙う謎の集団はなんとヤクザ。そのヤクザの妾と知るが謎の女を助け高知まで行き、坂本竜馬の末裔というテキヤ集団を束ねる。女とも知り合う。
    その途中で有馬温泉街で飲みに出かけると中で喧嘩の真っ最中にも関わらず中に入りママに頼まれ喧嘩を収める。その時に名刺を貰ったのが熱海で旅館を経営する宮寛一だった。この男とは縁があるようで銀行に融資に来た所で再会。ところが融資を断られ、このままだと倒産すると宮は途方にくれる。顏は怖いが人情に厚い、なんと会うのが二度目だというのにポンと5千万円も貸してしまう。
    仕事がないアキラはその旅館を手伝っているうちに旅館の面白さに気付く。

    そして二度目の旅は東北一周のつもりが途中で自殺しようとした男を助ける。
    名は山嵜恭介、アキラより二歳年下だった。事情を聞くと旭川で板前をしていたが美人局にあい脅され2百万を脅しとられ更に金を要求され逃げて来た。事情を知ったアキラはまたまたま人助けと旭川に乗り込み脅したチンピラ集団を蹴散らし金を奪い返した。アキラを兄貴と慕う恭介は東京まで着いて来た。そこで宮寛一経営する熱海の松の木旅館で働けるように手配した。
    いまではすっかり恋人同士となった浅田美代とデートを重ねて行く。

    とこが旅の面白さを知ったのか旅館の視察と称して今度は能登方面に向う。

  • 第6章  能登編  1

    その翌日に正真正銘の恋人、浅田美代子と逢っていた。
    なぜ正真証明かと言えば、あの料亭での愛の告白までアキラは「友達でいましょう」なんて言われる懸念があったからだ。
    だが浅田美代はアキラの想像の域を超えた返事をくれた。
    真田と相田社長公認で将来を誓いあった仲なのである。
    いわば婚約者に近い。いまや最愛の人、浅田美代だ。
    そんなアキラの顔は、厳めしい顔と巨大な体格に似合わない笑顔で美代と談笑していた。
    「え~~? アキラさんまた旅に出るのぉ」
    「ゴメンどうしても沢山の旅館や施設や環境など見ておきたいんだ」 
    美代は少し拗ねた顔をして言った。
    「アキラさん、私はどうなるの置いて行くきなのね」
    「いや、あの~~出来れば一緒に……でも美代ちゃん会社もあるし、それに美代ちゃんが両親になんて説明するのかと考えたら誘いにくいし」
    アキラは美代に迫られて焦ったが、こんな宛てのない旅に美代を誘えない。
    「冗談よ。アキラさんらしいわ。真面目なのね。普通の男の人だったら相手の都合より自分の都合に合せたがるのに、そんな処が好きよ」
    「なっなんだぁビックリしたなぁ怒ったかと思ったよ」
    「え、私が怒ると怖いの?」
    「そりゃあ怖いよ。美代ちゃんが怒るのが、この世で一番怖いよ」
    「でもアキラさん。私もう子供じゃないわ。会社をどうするかや両親を心配させないくらいの行動は心得ているわよ」
    アキラは、これからの計画と夢を美代に熱く語った。
    この旅が終わったら、その夢を実現の為に美代に協力して欲しいと、つまり将来は美代に旅館の女将になって欲しいと告げたのだった。
    美代も心得ていた。それほどアキラの心が読めるようになったのだ。
    もう此処までくれば二人の仲は本物だ。
       
    最愛の恋人、浅田美代にしばしの別れを告げてアキラは旅支度をしていた。
    最初に南は四国まで北は東北北海道へ、大ざっぱだが車で日本国内を周った。
    でも日本だって広い日本海の方はまだ行っていない。
    念入りに各地を見るとなると大変な月日が掛かるのだが。
    今回の予定は、まず長野、新潟から日本海を南へ石川から能登半島、福井へと山陰、山陽を周って、あわよくば瀬戸内海を渡り福岡から九州に入ろうかと決めていた。ただ途中で変わるかもしれない。
    其処はアキラ流であり、その時次第と言う事らしい。
    アキラは松の木旅館に電話を入れて、また旅に出る事を告げてアキラの子分? いや将来アキラの右腕になるであろう山崎恭介にも、なんの為の旅か説明した。
    恭介は今、松の木旅館の為に働くが将来は何があってもアキラに着いて行くと、くどい程に何度も聞かされている。
    今度ばかりはアキラも責任を多いに感じている。
    勿論、自分の為でもあるが恭介にも夢を与えたい。
    そして恋人、浅田美代との将来設計も含めてアキラを後押ししてくれる人の為にも、期待に応えてアキラは男を上げたかった。
    そして朝から旅の準備に追われていた。

    その時、アキラの部屋のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろう?
    忙しいのにと、やや不機嫌な声で応答した。
    「ハイ、どちらさんでしょう」
    「こんにちは美代です」
    なんと予想もしなかった。浅田美代の訪問だった。
    「美代ちゃん~~あれ~どうしたの? びっくりしたなぁでも嬉しいよ」
    あの不機嫌は何処へやらアキラは、なんともデレ~とした顔で部屋に招き入れた。
    「ごめんなさい。なにか手伝う事ないかなあと思って来たのよ」
    なんと思いもよらない美代の訪問にアキラは嬉しくなった。
    「実は何を揃えようかと考えていたんですけど、さっぱり分からなくて最高の助っ人だよ。本当にあり難いなぁ」
    二人は顔を会わせて、ニンマリと笑った顔が幸せに満ちていた。
    「それなら今から旅に必要な物、買いに行きません?」
    「あっそれはいい。では早速行きましょう」
    女性でなければ気が付かない旅に必要な物を次々と美代は選んでくれた。
    例えば医薬品や着替えや日用品など、そして最後に進めてくれたのはノートパソコンだ。
    アキラも大学中退とは言えパソコンは使える。勿論今時パソコンを使えなかったら仕事にも就けないが今はパソコンを使うのは最低条件だろう。
    昔はソロバンさえ習えば就職に有利とされた時代ではない。
    世の中は大きく変わって行く。今の時代、無線回線を利用すれば全国どこからでもインターネットに接続出来るのだが。バッテリーは車からでも供給出来るので問題がない。アキラも其処までは考えてなかったが、それにより美代とはいつでもメール交換が可能で、デジカメで取り込んだ写真を即送れる。
    なんとも便利な時代になったものだ。
    携帯も沢山の機能は付いて居るが(この時代スマホはまだ先の話)、やはりパソコンが使えるならベストだろう。この時代まだ携帯電話は一人一台まで到ってなかった。拠ってノートパソコンを外でネットに繋ぐ場所は限られていた。
    アキラの自慢は車を改良してキャンピングカーとは云わないが寝泊りが出来、テーブル付いて、家庭用の電源も車から供給出来る動くオフェスだなのだ。
    アキラと美代は買い物も揃えて終えて、一段落して美代が入れてくれた珈琲を二人で飲んだ。これまで美代とのデートはレストランで食事する事が殆んどだったが、こうして日用品など一緒に買うのは初めてだった。
    まるで新婚さんが、これから家庭で使う日用品を揃えるような気分でを味わった。近い将来こんな日が来れば酔いとアキラはデレ~と想像していた。
    それは良いが、これから暫らく逢えない。二人はマンションに戻り一息した。
    二人の目がなんとなく合った。黙って見つめる。それは無言の言葉だった。
    自然の成り行きか二人は熱いキスを交わし、しばしの別れを惜しんだ。

    つづく

  • この調子だと広島5連覇まで行くかも。
    巨人はただいま若手の育成中。
    あと2年掛けて育てよう。

  • >>No. 3048

    > マツダで、メルセデスからスズキがホームラン‼

    こうなれば世界のトヨタしかいない。

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